そらる「続けてきてよかった」――葛
藤しながらも歌い続けてきた先に見え
たものとは アルバム発売記念&バー
スデーライブをレポート

SORARU Birthday Live 2019-ワンダフルワンダラス-

2019.11.3 幕張メッセ 国際展示場4~6ホール
そらるが、11月3日と4日の2日間、幕張メッセ 国際展示場4~6ホールにて『SORARU Birthday Live 2019-ワンダフルワンダラス-』と題し、アルバム『ワンダー』発売記念&バースデーライブを開催。色鮮やかな表現とそれを際立たせる演出でとことん魅せ、誕生日当日ならではのサプライズも飛び出した11月3日の模様をここではお伝えする。
ギターのアルペジオをきっかけにオープニング映像が映されていた紗幕がゆっくりと上がると、ナポレオンジャケットを纏うそらるの姿があらわとなり、その背後にはなんとオーケストラが! 晴れの日の幕開けを飾るのは、「銀の祈誓」だ。セクションごとにがらりと声の表情が変わる、ただでさえドラマティックな楽曲である。なんて贅沢な始まりなのだろうか。
続けざま、「最高の1日にしよう!」と呼びかけ、スタンドからとったマイクを手に歌うのは「幻日」。その姿は、赤色よりも高い熱をたたえた青い炎を想起させる。
そらる
ソールドアウトとなったこの日の動員は、1万人以上。そらるのイメージカラーであるブルーを灯したペンライトが数多揺れる客席を眺め、「最高の景色だよ」と感嘆の声を漏らし、「群青のムジカ」では横に広いステージいっぱいまで動くそらる。“君”に向けた彼の歌・言葉は、一筋の救いだ。
「今回はみっちりばっちりアルバム曲をやって、ついでにみなさんに誕生日を祝ってもらおうかなと思います」
お茶目さが漂う言葉から、「アイフェイクミー」へ。大胆なエフェクトボイスやドキっとさせるささやき声、突き刺すようなハイトーンボイスと目まぐるしい展開が、赤をメインにした派手なライティングに映える。かと思うと、「教えて神様」ではどこか切ない歌声を響かせたり。活動10周年という節目にリリースされた、4年ぶり3枚目のアルバム『ワンダー』のナンバーは、いつだって心動かされてしまうそらるのライブをより彩り豊かなものにしていく。
「7月に出したアルバムが、オリコンチャートで2位、ビルボードチャートで1位を獲得と、光栄な結果をいただくことができました。みなさんのおかげです、ありがとうございます。アルバムの歌を全部歌うのは、おそらく今日が最初で最後。余すことなく楽しんでもらえるように歌います」
疾走感のあるエモーショナルな「アイソレイト」に続く「文学少年の憂鬱」では、空虚感に満ちた歌い出しから徐々に感情をあらわし、そのドラマ性はオーケストラとのコラボレーションによってますます鮮烈なものに。
そらる
バンドセッションをはさみ、きれいなライトブルーのコートを羽織って現れたそらる。オーケストラを従えての「それは永遠のような」と「海中の月を掬う」、それから「ありふれた魔法」は、『ワンダー』でそらるが作詞だけでなく、作曲も手がけたナンバーだ。それぞれに個性が宿る曲たちに、ソングライターとしてのさらなる開花を感じずにはいられない。なかでも、ステージを覆う紗幕に楽曲とシンクロする映像が映し出された「海中の月を掬う」は、幻想感の中で揺れる心情をゆだねた繊細な歌声、サビのロングトーンがあまりに美しすぎる。
一転、「うしろに行くよ!」と明るい声でトロッコに乗り、アリーナ通路を進んだのは「ありふれた魔法」。フロアに向けて笑顔で手を振る姿はもちろん、<さあこの手を握りしめて> <君が信じてくれる限り この音楽は鳴りやまない>という言葉を直に受け取れるのだから、オーディエンスもいっそう高まってしまう。
アリーナ中央のミニステージへと到着して迎えたのは、活動初期からそらるを音楽面でサポートし、『ワンダー』の制作にもがっつり関わっている事務員G。そらるが「年齢を下げたいんです!」と言い出すと、事務員Gが「概念になればいい」とまさかの提言をしたり、長きに渡ってプライベートでも密な交流のある2人のとりとめもない自然体なトークは、聴いていても心地がいい。そらるにとってよき理解者でもある事務員Gが「僕が初めてそらるくんの伴奏をしたときはお客さんが40人でしたよね」と振り返れば、感慨深くもある。
「今回は『ワンダー』の楽曲、その作曲者にゆかりのある曲を軸に構成しているんですけど、ここでGさんとカバー曲を」というそらるの言葉から、「命に嫌われている。」へ。前回のライブでファンから募ったリクエスト曲の中から選んだ「それがあなたの幸せとしても」も然り、2人で時折アイコンタクトをしながら絡ませる歌声とピアノの音色には、少しも混じり気がない。
再びトロッコに乗り込み、メインステージへと向かいながら歌ったのは「アンサー」。<何もない僕を君が認めてくれた>というフレーズはじめ、ファンへの愛と感謝がとめどなくあふれていく。イルミネーションが瞬いた「ゆきどけ」、桜色の照明が優しく照らした「長い坂道」と、そらるお気に入りのシングルカップリング曲。「夕溜まりのしおり」(アルバム『夕溜まりのしおり』に収録)のアンサーソングでもあるそらる作曲の「オレンジの約束」では、ステージが橙色に染まり、オーディエンスもペンライトにオレンジを灯して振ったが、1曲1曲の色模様や表情に合わせた演出もまた素晴らしい。
そらる
「『ワンダー』は10周年の節目に出すアルバムだけに、いろんなことを思い出しながら作ったし、今日も歌いながらいろんなことを思い出しました。お客さん40人から始まって、1万人以上も集まってもらえるようになって……ただの趣味で始めたことが、こんなことになるなんて思っていなかったです。続けてきてよかった。うまくまとまらないけど、みんな来てくれてありがとう。すげぇ最高な人生だと思います。これからも一緒に楽しんでいきたいなと思うので、よろしくお願いします」
本編ラストは、オーケストラと共に届けた「ユーリカ」。包んでくれたのは、とても大きくて温かな幸福感だった。
アンコール1曲目は、そらると事務員Gの2人による「10」。傷つき、迷いながらも歩んできた10年があってこそ、生まれた曲である。その後、バンドメンバーがそらるのマスコットキャラクター“はんぺん”が描かれたケーキを手に登場し、オーディエンスがロウソクの火に見立てたオレンジ色のペンライトをバースデーソングに合わせて振るという嬉しいおもてなしに、驚きながら笑顔を見せるそらる。本当に素敵で特別な夜だ。
「普段はあまり言わないけど、『ワンダー』の中にみんなへの気持ちを込めました。いろんな音楽を好きになるのって素敵なことだから、どんどんたくさんの音楽にも触れてほしい。でも、俺の歌も聴いてください。こうして祝ってくれて、ありがとう。本当にラッキーな人生だと思っています」
最後に届けてくれたのは、『ワンダー』の表題曲「ワンダー」だ。オーケストラとバンドが融合した壮大な奏で。平坦ではなかったこれまでの歩みを辿り、<奇跡>と<意味>をくれた<君>への想いと、<響かせ続けていこう この歌を>という決意を込めた歌詞。会場のあちらこちらで噴き上がるカラフルな花吹雪。彼が名付けた「ワンダー」は、“wander=さまよう”であり、“wonder=驚き、奇跡”。10年、時に迷い葛藤しながらも歌い続けてきた彼が見出したもの、そして彼の音楽へ触れる者に抱かせたのは、希望だったのである。
そらるの生み出す“wonder”な音楽・歌声は、これからもリスナーの人生にそっと寄り添い、照らし続けていくことだろう。

文=杉江優花 撮影=小松陽祐(ODDJOB)、加藤千絵(CAPS)、堀卓朗(ELENORE)

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