中山優馬主演でおくる、正義の在り方
を問うエンターテインメント 鴻上尚
史作・演出『地球防衛軍 苦情処理係
』初日レポート

2019年11月2日(土)、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、KOKAMI@network vol.17『地球防衛軍苦情処理係』が開幕した。
中山優馬を主演に迎えて鴻上尚史が書き下ろした本作は、地球を守るために戦う地球防衛軍に対して寄せられた苦情を処理する“苦情処理係”を中心に繰り広げられるエンターテインメント作品だ。
『地球防衛軍 苦情処理係』舞台写真
舞台は近未来。なぜか出現するようになった怪獣の襲撃から地球を守るために、地球防衛軍は日々戦いを繰り広げているが、その裏では戦いによって犠牲になった人々や、家を壊された人々がいた。それらの苦情の窓口になっている苦情処理係は、その業務の辛さから辞めてしまう人が多い部署だが、深町航(中山)はボスの瀬田(大高洋夫)の下、先輩の竹村(矢柴俊博)、同期の遠藤(原嘉孝)、新人の日菜子(駒井蓮)と共に職務に励んでいた。そんなある日、怪獣と戦うハイパーマンが人々の前に現れるのだが……。
『地球防衛軍 苦情処理係』舞台写真
様々なクレームに対応しなければならない苦情処理係を描く中に、鴻上は現代社会の様々な問題を浮かび上がらせる。クレーマーの描写は、SNSの出現により個人がより自己主張をしやすくなったことの表れでもある。組織を守るためという大義名分を掲げて、下の部署に責任を押し付けたり問題を隠蔽したりする様は、社会的にも様々な場面で目にしてきた光景だ。正義のために戦う地球防衛軍やハイパーマンが、守っているつもりの地球人たちから敵視されてしまう下りは、“正義の味方”が“大衆の敵”になるという皮肉が利いており、“正義”の存り方を改めて考えさせられる。そして、“多数”を救うために“少数”が犠牲になるのは仕方がない、という理論は果たして正しいのか、という疑問が鋭く突き付けられる。
『地球防衛軍 苦情処理係』舞台写真
また、苦情処理係のメンバーはそれぞれが心に何かしらの闇や秘密を持っている。一見理解できない彼らの行動の理由は、その心の内に隠されていることが後にわかるのだが、表面的なことだけで他者を判断して切り捨てることの危うさを提示しているように感じられた。
『地球防衛軍 苦情処理係』舞台写真
鴻上らしさに満ちた、コメディとシリアスの絶妙なバランスで物語は緩急をつけて進んでいく。鴻上とは第三舞台時代からの盟友である大高が、その世界観を持ち前の自在さで支えている。近年は映像での活躍が主となっている矢柴は、元々は演劇の舞台で演技力を培っていた本領を発揮して、多彩な顔をのぞかせる。今回が舞台出演2回目となる駒井は、柔軟な演技で熱くまっすぐな心を持った日菜子を生き生きと表現する。深町に対抗心を燃やす遠藤役の原は、おおらかでのびのびとした存在感を示して舞台に良いアクセントを加えている。中山は純粋さと正義に満ちあふれる深町を繊細な演技で見せる。時折飛び出すコミカルさが、深町のキャラクターをより愛すべきものにしている。
『地球防衛軍 苦情処理係』囲み会見より
虚実をないまぜにするような遊び心に満ちた鴻上の演出は、舞台ならではのユニークさに加えて温かみも感じられ、川崎悦子によるダイナミズム溢れる振付が舞台に躍動感を与えている。
取材・文=久田絢子 写真=オフィシャル提供

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