中川晃教がずっと歌い続ける理由ーー
7年目を迎えるコンサート『I Sing 〜
Soul Beat〜』によせて

シンガーソングライターでミュージカル俳優などとしても活躍の幅を広げる中川晃教のコンサート『I Sing 〜Soul Beat〜』が2019年11月3日(日)に東京・日本青年館ホールで開催される。2013年から続く『I Sing』シリーズだが、いま、中川は何を思い、何を表現しようとしているのか。話を聞いた。
変わらない『I Sing』と、今の僕の『Soul Beat』
−−2013年から続く『I Sing』コンサートですが、今回はどのようなコンサートになるのでしょうか?
 
『I Sing』 というタイトルのコンサートは長くやらせていただいています。僕は、ミュージカルナンバーを歌ったり、洋楽をカバーしたり、テレビ番組などでもいろいろな音楽を歌わせていただいていますが、その中で自分自身が歌うことにすごく重きを置いたコンサートを年に1回はやっていこうということで始めたのが、この『I Sing』というタイトルのコンサートです。
『I Sing』という部分に、”変わらずに歌に向き合う中川晃教”の思いを込めていて、同時に毎回つけている副題のようなタイトルには”今の自分”を込めているんです。今回は副題に『Soul Beat』とつけました。音楽や歌って、例えば僕がデビューした「I WILL GET YOUR KISS」一つとっても、その歌そのものは変わらないのですが、でも確実変わっていくんです。まるで生きているように、赤ちゃんが大人へ成長していくように、本当に変化していく。そこに、Soul Beat、自分が生きていること、目に見えない魂という部分で生きている・生かされていることを感じています。
ミュージカルにトライすることで歌える歌があるように、また、もしミュージカルと出会っていなかったらそこには生まれなかった歌があるかもしれない。そういう風に、自分が生きてきた時間みたいなものも全て包み込めるような、Soul Beatを感じるような『I Sing』にしたいと思っています。
......そういう意味で、今回選んだ楽曲は、とても心地よいビート感が絶えずありつつも、その中で緩急や喜怒哀楽が表現されている楽曲だと思います。聴きにきてくれたお客様が日常生活の中で、例えば、朝起きて聴きたい音楽、眠る前に聴きたい音楽、忙しい時に自分を鼓舞するために聴きたい音楽など、いろいろなシチュエーションによって選べる音楽になると思います。
中川晃教
−−セットリストは毎回かなり練られると思うのですが、どのように決めているのですか?
そうですね、毎回直前まで練りますね。ある程度大きいナンバーは決まっていて、編成もドラム・ベース・キーボード・ギターの4リズムの編成なので、ナンバーをどのように聴かせていこうか、今は考えているところです。
実は今年、コンサートツアーを初めてやらせていただいたんですね。思えば僕が2001年にデビューしてから全国を津々浦々回らせていただける機会は初めてでした。ミュージカルではね、大きい都市を回ることはあったのですが、それでも回ることのできない場所はどうしてもあった。劇場のスペックの問題やそもそもミュージカルというものの需要が低いなどの理由で。
でも音楽ってすごいなと思って!初めて中川晃教を知ってくださる方も、もちろん中川晃教が来ることを楽しみにしてくださっている方も、テレビやラジオのスポットやチラシなどちょっとした情報でコンサートを聴きにきてくださる。初めましての場所で、自分自身が歌ひとつ、音楽ひとつで勝負するという経験を初めてさせていただいたんですよ。その時の編成は、ピアノ・クラリネット・チェロ、そして僕というカルテットで、アコースティックな音楽性が今年の大半を占めていました。
なので、今年の『I Sing』のコンサートでは、4リズムでなければ表現できない、僕自身の音楽、それはすごくロックな要素もあればR&Bの要素もあるし、ジャジーな要素もある。リズム感がひとつ変わるだけで、言葉の聞こえ方や響き方は変わってくると思うので、そういうことも含めて、今の自分自身のSoul Beatを刻みながら、新しい僕の音楽性も模索できたらいいなと思っています。
−−今回歌われる楽曲はほとんどオリジナル曲ですか?
そうですね、オリジナル曲が柱です。もちろんミュージカルの楽曲もお届けする予定です。全曲を通じて、中川晃教の世界観というものを知ってもらえたらいいなと思っています。
中川晃教という一つの「ジャンル」へ 
−−これまで『I Sing』を始めシンガーとしての中川さんを応援されてきたファンの方も、ミュージカルなどで新しく中川さんを知ったファンも楽しめるようなコンサートになりそうですね。
そうなれば嬉しいです。何年歌ってきても思うことなんですけど、やはりステージに立った時、そこには全く中川晃教を知らない人たちがいるんだと感じます。初めまして、という気持ちと同時に、「これが中川晃教です」と、自分を過大評価せずに、1回1回初めて聴きにきてくださる方にどう届けるか。それは永遠に考えていくことなんだろうなと思います。
それは、由紀さおりさんなど長く歌手をされてこられた方々を目の前にみて、皆様の歌を聴いて、改めて気づかされることでした。ライブという場で生きていく、ライブという場で生かされている。その感覚はきっとミュージカルだけをやっていたら得られない感覚だと思うんですよ。
よく、ライブとミュージカルの違いを聞かれるのですが、僕はお客様だと思ったんです。それぞれに来るお客さんが全然違う。いや、もちろん両方重なっています。ミュージカルもみて、ライブも見る。でも、明らかにライブが好きなお客様というのがいるんです。そのお客様によって、自分の歌はこういう歌なんだというのが浸透していくというか、固まっていくというか、出来上がっていくんだろうなと思うんです。
だからライブはやり続けていかないと育っていかないのだということを強く強く感じています。自分自身のコンサートというと、どこか気負ってしまうものですが、生で歌声を体感してもらうこと。それが僕にとってのスタートで。自分の音楽に固執するのではなくて、ミュージカルのナンバーも歌謡曲のナンバーも洋楽のナンバーも、いろいろなナンバーを歌わせていただく機会に参加して、そこで初めて僕を知ってくれた人が、このコンサートに来てもらえたらいいな。それが自分が思い描いている理想なんです。
だから中川晃教という一つの音楽が、ライブの中でお客様に届けられたらいいなと本気で思っています。そのためにミュージカルをはじめ、いろいろなことにチャレンジしている。一つの集大成といえば集大成だし、また、中川晃教という扉を開いていただくスタートになったらと思っています。
−−いま、お話を聞いて、今まで中川さんはシンガーとして核でやっていらっしゃって、でもミュージカルなどにも挑戦していく方だなと思っていたのですが、今は一人の表現者として、ある意味、ジャンルの垣根はなく考えていらっしゃるんだなと感じました。ご自身もそういう感覚でいらっしゃいますか?
うん、そうなったんですよね。前は仰る通り、シンガーとしての核があって、その核をどうやって貫き通せるのかを考えていました。今でもそこはぶれていないんですけれど、ただ求められることに対して応えられる自分であり続けるためには、やはりミュージカルの中で得た経験も、歌で呼んでいただいた経験も、そのどちらもが自分を構成しているものだと考えるようになって。
僕の歌声の、例えばパフォーマンス、高音、複雑さ、難易度の高い歌をどう歌うのか。何でもいいのだけれど、中川にチャレンジさせたいといろいろな形で求めてもらえるようになったんですよ。
なんというか、よりシンプルに音楽と向き合えるように今はなってきているんだなと思う。それはこの『I Sing』というコンサートのお陰。やはり歌い続けていくというところに僕のぶれない情熱みたいなもの、消えない炎があるんです。垣根のないところで、自分が歌い続けていく、それが最後は一つのジャンルになればいいなと思うのですが、一つのジャンルになるためには、いろいろな人たちの支持がなければ出来ない。そこが今、僕の中で、チャレンジする気持ちの原動力になっています。
中川晃教
−−改めて伺いますが、中川さんにとって『I Sing』コンサートはどういう存在なのですか?
 
躊躇せずに自分がそこにいられる場所だと思うんですね。
ミュージカルをやっているときは、演出家・プロデューサー・作品から俳優に求められている答えを導き出して、それを毎回こなしてやっていく。どこまで自分が自信を持っても、それは自分ではないわけですよ。求められていることなんですよ。求められていることの中で「正解はこれだよね」というものを毎回保って、渡していく。自分の役割を全うする。
でも、このコンサートの場合は誰からもその役割を与えられているわけではなくて、僕自身の中での僕自身が今その瞬間、どういう歌を歌うのか。バンドメンバーと作るのか。そういうことだと思うんですよね。それは躊躇があっては生まれないと思っています。
それは『I Sing』というコンサートのタイトルの中にも息づいていることだと思うけれど、自分が自信を持てるもの、場所、時間、全てがこのコンサートなんだと思います。全く違うミュージカルというフィールドや全く違う音楽というフィールドの上に立った時に、今までやってきた表現とは違うものが生まれる。そこに躊躇なく毎回挑み続ける、向かい続ける。それを聴きにきていただくお客様に感じていただく。「今回の『I Sing』はこうだったね、次の『I Sing』はどうなるんだろう」と続いていく。僕が歌い続けていく理由が、このコンサートなのかなと思います。
取材・文・撮影=五月女菜穂

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