odolが雨パレ&ものんくるを招いた11
度目の『O/g』に見る、新体制のライ
ブとアティチュード

odol LIVE 2019 “O/g-11” 2019.10.16 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
面白くて良質な音楽を発見したい――odolがシンパシーを感じるバンド/アーティストを招いて開催する『O/g』も回を重ねて11回目。雨のパレードは日本のシーンに於いて、バンドでありつつ通常のバンドフォーマットに縛られない編成やサウンド・プロダクションという意味では盟友もしくは先輩と呼べる存在で、これまでも他のイベントでは共演も重ねてきた。さらには日本の新世代ジャズの一翼を担う、ものんくるの出演は『O/g』ならではのユニークなアティチュードと言えるだろう。純粋に音楽に対峙したいオーディエンスが集う場として評価の高まりも感じる。さらに、odolとしては初のホール公演、椅子席のライブで、かつ9月のライブをもって早川知輝(Gt)が脱退、元の5人とはまた違うアンサンブルを組み上げて臨むという意味合いでも、バンド初のチャレンジが多い『O/g』となった。
のんくる 撮影=小田部伶
一番手のものんくるは、ジャズのコード進行やリズムパターンに、ロックやダンスミュージックとはまた違うスリルを感じ、迫真の演奏がフィニッシュするたびにオーディエンスから弾けるような拍手が起こる。先日の台風で中止になったライブの分もエネルギーが暴発寸前だといういう吉田沙良(Vo)の、繊細さと大胆さを兼ね備えた歌と呼応するバンド・アンサンブルに冒頭から会場が温まる。
ものんくる 撮影=小田部伶
雨のパレード 撮影=小田部伶
odolとは対談や共演でかねてより親交のある雨のパレード。福永浩平(Vo)は、自由にリアクションして欲しいからと、オーディエンスを立ち上がらせる。odolのミゾベリョウ(Vo/Gt)と森山公稀(Pf/Syn)とは同じ九州から上京して音楽活動を続ける先輩にあたる彼ら。1曲目に「Tokyo」をセットしたのはさりげないメッセージのように思える。ツアーやフェスを経て、3人体制でのライブにはより一体感が伺え、新章を象徴する「Ahead Ahead」は『O/g』のオーディエンスにも浸透していた。
雨のパレード 撮影=小田部伶
odol 撮影=小田部伶
開場してからずっと森山が選曲したアブストラクトなBGMが流れていたのだが、いよいよodolのステージが始まる頃には金物と弦を擦るような音のサンプリングがビートを作り、それがそのまま「眺め」のイントロだったことに気づく。森山のピアノにミゾベの声が重なり、ライブがスタートしたというより、いつの間にかその空間に自分がいたことに気づく――そんなフィクショナルな世界観が立ち上がっていた。常にライブ表現も更新し続けるodolだが、このオープニングは自然すぎて見事だった。また、毎回、光の演出にオリジナリティを見せる彼らだが、今回は膨大な機材の隙間にポールを配置し、そこに付けられた小さなライトが星や蛍のように明滅する照明が美しい。都市的な灯というより、もっと抽象的で、感覚に訴える照明だ。
odol 撮影=小田部伶
「眺め」に続いて立て続けに演奏された「POSE」では、Shaikh Sofian(Ba)の重心の低いベースも井上拓哉(Gt)のギターも森山のキーボードも異なる音色で反復し、押し寄せる波に揉まれる感覚に陥る。それでいて音の隙間があり、ミゾベの平熱のボーカルがしっかり届く。ライブ・アレンジは音源以上に研ぎ澄まされている印象で、演奏が終わり短く「ありがとう」と発するミゾベの声に自信が伺えた。歌の持つ力が発揮されているのは、この体制になったことで、シューゲイズ的な音の壁が構築されていたこれまでの曲がリアレンジされていたことも一つの理由かもしれない。「愛している」のイントロは従来のギターの印象より、海に漕ぎ出していくような森山のピアノが前面に出ていたし、その波のような体感は冒頭の「眺め」から、音色を変えながらも続いていたことに気づく。波に押されるか、かき分けて進んでいくか――巨大なプールの中か海中にいるように、気がついたらうねりに身を任せていた。
odol 撮影=小田部伶
音を途切れさせることなく、縦のグリッドが揃った4つ打ちの「four eyes」に移行していくライブアレンジも見事だ。息苦しいようなリフレインを続けるミゾベが解放されると同時に流れてくる森山のピアノのフレーズとバッキングのコード感にジャズ的なものを感じて、よりこの曲のユニークさを再認識した部分もあった。どの曲も音圧は以前より減少しているが、その分、一音の意味が増してすっきりと耳と身体に入ってくる。ライブでのリアレンジに前向きなバンドなのは以前から証明済みのodol。もちろん同じアレンジでもライブによって二つとして同じ演奏はないが、よりロジカルに毎回異なる体験を提供しようとする彼らの姿勢が、異なるライブアレンジに表出しているのだと思う。
odol 撮影=小田部伶
最近になって彼らがアプローチしていることの一つに、既発曲のRearrange音源を配信リリースするというものがある。第一弾は『視線』に収録された「狭い部屋」。これがライブでも披露されたのだが、アブストラクトなSEが長目に鳴らされたことで、「four eyes」で集中し、混沌した自身の感情がフラットになっていくのが感じられる。だが、「狭い部屋」はオリジナルより格段にパースペクティブの広がった音場の中に移行していた。音数が少なく、パッと聴くと素朴ゆえに歌詞やタイトルにもある通りの“狭さ”が感じられるオリジナルとは、パラレルワールドにいるような「狭い部屋」とでも言えばいいだろうか。歌詞の意味合いや温度も違って感じられるのが非常に面白い。演出面でも、背後で回転する走馬灯のようなライトが、ホールの中に回転する光と影を生み出して、曲のイメージを拡張していたのもユニークだった。
odol 撮影=小田部伶
後半はおなじみの「夜を抜ければ」、「退屈」と続いていくのだが、ロジカルにリアレンジを捉えなくても、音像の変化に“脱皮”というワードが自然と浮かぶようになっていた。そう言うと大げさかもしれないが、過去の自分から今の自分へ、表面の細胞が死滅して新しい細胞が現れるように、odolのライブは変化していく。ラストは垣守翔真(Dr)のマーチングドラムが輝かしい「光の中へ」。近作である『往来するもの』から早くも1年の歳月が流れたことが、ライブでの安定した演奏で実感できた。
odol 撮影=小田部伶
アンコールでは、恒例になりつつある年末のワンマンライブを、今年は大阪でも開催することを発表。その後、アース製薬『温泡』のTVCMでもショートバージョンが公開されている「身体」を披露してくれた。本編の緊張感とはベクトルの違う穏やかで心身をほぐされるようなメロディと音色、これもまた自然とodolから湧き上がる個性なのだと感じ、今後のリリースが楽しみだ。

取材・文=石角友香 撮影=小田部伶
odol 撮影=小田部伶

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