特別展『きもの KIMONO』報道発表会
レポート 戦国ファン、古典芸能ファ
ンも必見、空前絶後のきもの展

ふだんから和装に親しまれている方はもちろん、古典芸能ファン、戦国時代ファン、現在進行形の服飾デザインに興味がある人も見逃せない展覧会が、来春、東京国立博物館で開催される。それが特別展『きもの KIMONO』だ。
同館が所有する世界随一の着物コレクションより、室町時代の装束から信長の陣羽織、篤姫の着物、岡本太郎原案の着物、そして存命の人間国宝による着物などを全5章の構成で紹介するという。17日に開催された報道発表会より、見どころと概要をレポートする。
過去最大規模『きもの KINOMO』の展覧会
同館副館長の井上洋一氏は挨拶の中で、オリンピック・パラリンピックにより海外からの注目が高まる2020年に、どのような展示がふさわしいか議論を重ねたことを明かした。そして「日本の美意識を象徴した展覧会」を目指し、特別展『きもの KIMONO』に決定したのだそう。男性にとってだけでなく女性にとっても、着物が非日常的なものになりつつある現状ではあるが、それでも「今なお、着物は800年以上生き抜き、ファッションシーンを率いている。展覧会を観ていただければ、それを分かっていただけるものと信じている」と力強く語った。
スーツ姿で登壇した井上副館長。「私も今日くらいは着物でと思いましたが、写真だけで」と断りをいれ、和装の写真を披露!
次に担当学芸員の小山弓弦葉氏は、本展が「日本文化の象徴として世界で知られる着物が、身分を問わず日本人の表着となった室町時代から現代までの変遷を、伝統工芸としての『歴史』とファッションとしての『文化』の両方」の切り口から、絵画や美人画もまじえた展示になると説明した。
特別展『きもの KIMONO』学芸員の小山弓弦葉氏は着物で登場!
特別展「きもの」が特別な理由
同館では1973年にも染物の特別展を開催した。今回はそれを上回る、過去にない大規模な展覧会になるという。着物は日本文化の象徴的なものでありながら、42年もの間、大きな展覧会は開かれることがなかった理由の一つは、染色文化財の保存の難しさが影響しているという。井上氏も小山氏も「劣化や退色があるため、保存や展示が難しい」と語っていた。
今回の展覧会は「奇跡的に形が残った染色文化財」を、日本国内だけでなく海外からの協力も得て、集めることができたことで実現する。きものを通し、古くは室町時代から現代までを通覧する貴重な機会となる。
重要文化財 小袖 白綾地秋草模様 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵
室町時代から江戸へ、そして現代から未来へ
報道発表会の後半は、学芸員の小山氏が、展示内容とともに、おおまかな「きもの」の歴史を解説した。以下、抜粋して紹介する。
序章は、室町時代の極めて珍しい衣装からはじまる。現在「着物」と呼ばれているものは、江戸時代まで「小袖」と呼ばれていた。そして小袖は、もともと上流階級の装束の下着として着られていたものだという。この展覧会では、現存する中で最古の小袖が展示される。
やがて下着だった小袖に装飾が施され、表着として着られるようになる。この時期の小袖を紹介するのが、1章「モードの誕生」。重要文化財の『縫箔(ぬいはく)白練緯地四季草花(しろねりぬきじしきくさばな)四替模様(よつがわりもよう)』には、上下左右で異なる柄を組み合わせたデザインが施されている。このデザインは「四替」と呼ばれ、安土桃山時代の流行の一つだったという。その後、秀吉の時代から徳川の時代に変わるにつれ、シックでモダンな柄が好まれるようになった。
重要文化財 縫箔 白練緯地四季草花四替模様 安土桃山時代・16世紀  前期展示4月14日(火)~5月10日(日) 京都国立博物館蔵
2章は、「京モード、江戸モード」と題し、江戸時代の流行の変遷を追う。上流階級だけでなく、財力をつけた商人など、市民にも小袖が行き渡るようになった。16世紀ごろ(江戸時代初期)に流行ったデザインの一つに、「地無(じなし)」と呼ばれるものがある。細かな装飾で、布地が見えないほどに埋めつくすデザインだ。当時、ファッショニスタ的役割を果たしていたのが、遊女たちだ。そんな遊女が、流行の衣装を着た姿を描いた屏風絵も紹介される。
国宝 婦女遊楽図屛風(松浦屛風) 江戸時代・17世紀 展示期間5月19日(火)~ 6月7日(日) 奈良・大和文華館蔵
元禄期にはデザイン革命が起き、地無は姿を消す。それに替わり「腰の部分に広く空間をあけ、弓なりに大胆に柄をあしらった革新的なデザイン」が流行したのだそう。
重要文化財 小袖 黒綸子地波鴛鴦模様 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
報道発表会の会場では、スライドが変わり個性の異なる小袖が登場するたびに、その美しさや面白味が、来場者のため息を誘った。中でも、貞享年間に始まったという『友禅染』は、迫力のある華やかさ。さらに、その拡大図が紹介されると、まるで筆で書いたような細やかさに、驚きの声が上がった。本展は、小袖のデザイン性だけでなく、染色技術にも興味をもたせる機会となるだろう。
重要文化財 振袖 紅紋縮緬地束熨斗模様 江戸時代・18世紀 前期展示4月14日(火)~5月10日(日)京都・友禅史会蔵
江戸時代中期には、あっさりとした洒脱なデザインが一般的となる。尾形光琳にちなんだ「光琳模様」と呼ばれる対象を抽象化し、シックな色でまとめたデザインも流行する。江戸時代後期になると女性の着物のデザインは、より地味でシックなものとなっていく。遠目には地味な着物だが、よく見ると小紋が染められていたりする。このさりげないお洒落が「江戸の粋」だったそう。
門外不出のコレクションにも注目!
3章『男の美学』は、男性のファッションがテーマとなる。同館の門外不出のコレクションである織田信長と豊臣秀吉、それぞれの陣羽織に加え、徳川家康の胴服(安土桃山時代の武将のお洒落着)は、並べて展示される予定。「それぞれの武将の好みを楽しんでほしい」と小山氏は語った。
陣羽織 黒鳥毛揚羽蝶模様 織田信長所用 安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵
3章では、火消しの半纏も展示される。「火事と喧嘩は江戸の華という言葉もありますが」と小山氏が紹介したのは、一見地味な火消半纏。江戸で火事が起きると、鳶職の人々が、藍色の半纏で現場に駆け付け活動する。火事を食い止めた後は、半纏を裏返す。すると勇ましい武者絵の半纏に早替り。「活躍したぞ!」というアピールもあり、帰り道は、派手で格好いい姿を見せたのだそう。さらには若衆が着ていたとされる振袖も、この章で展示される。
重要文化財 振袖 白縮緬地衝立梅樹鷹模様 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵
さらに4章では、明治、大正、昭和初期までを紹介。女性は、戦前まで着物を着る人が多かった。大量生産の技術が生まれたことで、庶民層の着物の模様にも変化が訪れたという。そして5章では、存命の人間国宝が制作するきものや、現在進行形でグラフィックデザインやアートとしても展開するきものの現在を紹介する。
TAROきもの 岡本太郎原案 昭和49年頃(1974頃) 東京・岡本太郎記念館蔵 撮影:堤 勝雄
2020年4月、空前絶後の「きもの」展
小山氏はこの展覧会を通し、「文化財とか伝統衣装ではなく、いまでもアップデートをつづけるファッションととらえていただき、さまざまな層に、楽しんでいただけるような思いを抱いていただければ」と思いを語った。
国宝4件、重要文化財十数点を含む約200点の展示の中には、ここで紹介した以外にも、菱川師宣の『見返り美人図』(通期)、天璋院篤姫の衣装や小物、メトロポリタン美術館より初めて里帰りする作品、喜多川歌麿の浮世絵『夏衣裳當世美人』シリーズ7点が揃うなど、見どころは多岐にわたる。
見返り美人図 菱川師宣筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
染物を歴史的資料として紹介するだけにとどまらず、「きもの」を軸に、時代を超える美意識や当時の文化に触れる特別展。会期は2020年4月14日(火)より6月7日(日)まで。

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