10回目の『六甲ミーツ・アート 芸術
散歩2019』開幕、SPICE編集部が選ぶ
オススメ作品10選

秋の六甲山を舞台に、現代アートと非日常を味わうことのできるイベントとして、2010年より毎年開催されている『六甲ミーツ・アート 芸術散歩 2019』が、9月13日(金)からスタートした。記念すべき10回目となる今回は、全11会場で招待・公募あわせて過去最多の42組のアーティストが出展。一般公開に先がけて9月11日(水)に行われたプレスプレビューでは、多くの関係者が詰めかけた。展示会場ではアーティストが滞在し、自ら作品解説やパフォーマンスを行ってくれた。その中からSPICE編集部が独断と偏見で選んだ、是非これは見てほしい! と感じた、オススメの作品10点を紹介しよう。
池の横に落として溶けた巨大ソフトクリーム(六甲山カンツリーハウスエリア/ボート池)
六甲山カンツリーハウス内ボート池のほとりにそびえ立つのは、松蔭中学校・高等学校美術部による『ハッピー・ソフトクリーム!』。今回で3回目の出展となる。
松蔭中学校・高等学校美術部『ハッピー・ソフトクリーム!』
ペダルボートの屋根の上にもソフトクリームが
巨大なソフトクリームが逆さまになって溶けている。これは生徒たちの「ソフトクリームをこぼしてしまった、でも、そこからのハッピーってないかな?」という発想から生まれた作品。コーンの部分はポリエチレンの廃棄物を使っており、ドライヤーで生地をあたため、四角い板を1つ1つ押し込んで作られたそう。会期中は美術部員と一緒に「泡ソフト」を作れるパフォーマンスも行われる予定なので、公式HPをチェックしよう。
会期中、美術部員によるパフォーマンスも
表現者・浅野忠信の頭の中を覗き込む(六甲山カンツリーハウスエリア/グリル室内)
六甲山カンツリーハウスには、招待アーティストとして注目を集める浅野忠信の『浅野忠信3634展』が、2部屋にわたり展示されている。漫画原稿用紙やコピー用紙にペンで描かれた数々のドローイング。ストーリーがあるような、ないような、とりとめのない印象を受ける。
浅野忠信『浅野忠信3634展』
浅野忠信『浅野忠信3634展』
浅野は、人に見せるために絵を描くのではなく、撮影や移動の合間に自分の脳内世界を自由に描くという。今回、浅野を招待アーティストに選定した理由について、総合ディレクター兼キュレーターの高見澤清隆氏は、「俳優という職業で自分の存在自体が流通する立場にいる人が、何の制限もなく自由に描きまくるところに興味を持った。これまで『六甲ミーツ・アート 芸術散歩』では人に見せるために制作された表現を展示してきたが、今回は精神の発露として描かれたものをそのまま展示している」と述べた。ぜひ家に帰ったら、ペンと紙を持ってみて「自由に絵を描く」ということにチャレンジしてほしい。
霧の向こうに見えるもの(六甲高山植物園エリア/映像館内)
大野公士『in the mist』
六甲高山植物園内の映像館に展示されるのは、オランダ・アムステルダム在住の作家、大野公士の『in the mist』。真っ暗な部屋の中に入り手探りで進むと、足元に結界があることに気づく。六甲山は霧が多発することに着目して、ブロッケン現象(=太陽などの光が雲や霧によって散乱され、影の周りに虹色の光の輪が現われる現象)を題材に作られた作品。木彫像を人に見立て、直径0.2mmの絹糸で霧を表す。霧の中、先が見えない中でどう生きるかを考え、感じてほしいと作者は語る。また、結界から一歩前に身を乗り出すと、絹糸に囲まれて見える景色が一気に変わる。物を注意深く見る行為を促してくれる作品でもある。
駅舎内にひっそりとたたずむ繊細な植物たち(六甲ケーブルエリア/六甲山上駅)
岩谷雪子『ここにいるよ』 公募大賞・グランプリ受賞作品
六甲山の玄関口、六甲ケーブル六甲山上駅の駅舎内には、公募大賞・グランプリを受賞した、岩谷雪子の『ここにいるよ』が展示されている。六甲高山植物園を中心に、六甲に生育する植物を採集・乾燥させて作られた、非常に繊細な立体造形。その数、計16点。駅舎内に点在するそれらは1つ1つ計算され、ひっそりと、だがしっかりと景観に馴染んでいる。その小ささとたおやかさに思わず見惚れてしまう。しかし、さりげなさすぎて目を凝らさないと気づかない作品もあるので要注意だ。会場に設置された案内図を見ながら、全ての作品を探してみてほしい。
駅舎の壁のひび割れを利用しての展示
大パノラマを望む、創造の場(六甲ガーデンテラスエリア/見晴らしのテラス)
六甲ガーデンテラス、見晴らしのテラスに展示されるのは今年のメインビジュアルにも使われている、植松琢麿の『world tree II』。自然科学や数学、哲学に興味を持つ作者は、そのエッセンスを含んだエレメントをコラージュ的に積み上げて1本の「木」を制作。それぞれのエレメントに意味や物語を持たせている。
植松琢麿氏と『world tree II』
実は本展では、彼の作品は2点出展されている。ケーブルエリア・TENRAN CAFEに『Palette-big horn sheep』。2作品とも「創造の場」をテーマに作られた作品だが、こちらは鑑賞者が水彩絵の具を使って壁面に自由に絵を描くことができる。作品自体をプラットホームにして、前の人が描いたものにインスピレーションを受け、何かを創造する場になれば、という作家の願いが込められている。ぜひどちらも訪れてほしい。
赤い地面から生まれる「わたし」(六甲ガーデンテラスエリア/砂利駐車場)
六甲ガーデンテラスの砂利駐車場にふと目をやると、突然地面に赤い割れ目が現れる。今年結成されたYOSHIHIRO MIKAMI + HAJIME YOSHIDAによる『私が生まれました』だ。
YOSHIHIRO MIKAMI + HAJIME YOSHIDA『私が生まれました』
アーティスト滞在時は中に入ることもできる
自然の地形を活かして綿密に計算された、真っ赤な菱形。一度地面を掘り、板をはめ込み作品を造形、再び埋めて痕跡を消す。アーティスト滞在時には作品の中に入ることもできる。滞在日程を公式HPにて告知しているのでぜひチェックして、大地の割れ目から生まれたような写真をおさめてみてはいかがだろうか。
可愛い動物たちとオフィシャルショップ(六甲ガーデンテラスエリア/リトルホルティ)
六甲ガーデンテラス内のリトルホルティには、オフィシャルアートショップがある。本年度のオフィシャルグッズはもちろん、過去の『六甲ミーツ・アート 芸術散歩』の歴代グッズや、digmeoutキュレーションアーティストのグッズなどが販売されている。
オフィシャルグッズショップ リトルホルティ
本年度のグッズ
過去のグッズも販売されている

招待アーティスト・宇野亞喜良氏のグッズも充実

また、ショップの入り口や店内には、出展アーティスト・鈴木なるみの『山の上での楽しい日々』が飾られている。メインビジュアルにも登場する彼女のイラストは、思わず顔がほころんでしまうような、ゆるりとした優しいタッチ。本作品は、ひつじ、うさぎ、りすなどが六甲山で暮らしたら、という想像からうまれたイラスト。少しデフォルメされた人間味のある動物たちに癒されること間違いなし。彼女の世界観につつまれてほしい。
鈴木なるみ『山の上での楽しい日々』
ショップ入り口にも鈴木なるみ氏のオブジェが
六甲山を見下ろす錦鯉(記念碑台エリア/芝生部分)
記念碑台(六甲山ビジターセンター)に展示されているのは、公募大賞・準グランプリを受賞した葭村太一の『錦鯉ヘッド』。『六甲ミーツ・アート 芸術散歩』10回目の開催を祝して、おめでたい錦鯉がモチーフになったそう。
葭村太一『錦鯉ヘッド』 公募大賞・準グランプリ受賞作品
材木市場で購入した高さ4m、直径2m弱、重さ約4tのクスノキの巨木を、半分まで荒削りした上で作業場に運び、約2ヶ月に渡って制作が行われた。直彫りで巨木に真正面から立ち向かった、作家の熱のこもった作品となっている。なお、作品の内側にはハシゴが架けられており、登ると鯉の口から頭を出すことができる。
中に入るとクスノキの香りにつつまれる
六甲山の伝説をもとに生まれた、黄金のニワトリ(六甲オルゴールミュージアムエリア/新池)
木々に囲まれる池の中央に鎮座する黄金のニワトリ。オルゴールエリアの新池には若田勇輔の『The Cock』が展示されている。「六甲山には神功皇后が埋めた金のニワトリがあり、村に災いが起きた時しか掘り出してはならない」という伝説をもとに制作。手で折ったプラスチック製の花びらを集積させて、古代の伝説への畏怖の念と、現代における伝説の儚さを表現しつつ、空間全体を活かして六甲山の魅力を引き出している。
若田勇輔『The Cock』
陽が当たるとキラキラとニワトリが光る様子が美しいが、10月下旬から開催される『ザ・ナイトミュージアム~夜の芸術散歩~』でも鑑賞できるので、昼夜の見え方を楽しむのも良いだろう。
宇野亞喜良が描くシンデレラ(六甲オルゴールエリア/ミュージアム館内)
オルゴールミュージアム館内では、日本を代表するイラストレーター・宇野亞喜良が描いた絵本『シンデレラ』が映像作品で上演される。上演時間は毎時30分(各回約15分)。宇野氏のイラストをスクリーンで投影、場面に合わせてオルゴールなどの自動演奏楽器の音色や朗読が流れる。
中庭には一緒に記念撮影できるパネルがある
リトルホルティで販売中の宇野亞喜良氏のグッズ
館内にあるシュトラウス・カフェでは特別展コラボレーションメニューが登場。また、このオルゴールミュージアムでしか購入できない、宇野亞喜良コラボレーション神戸オルゴールも販売される。さらに、『ROKKOアートマーケット2019』として、館内で約20名のアーティストの作品を展示販売するイベントが同時開催される。その中に特別出展作品として宇野亞喜良の新作1点も展示販売されるため、ファンの方は見逃さないようにしよう。
風の教会で目にするものは?(風の教会エリア/教会内)
昨年の『六甲ミーツ・アート 芸術散歩2018』では3万人の来場者を記録したという風の教会。安藤忠雄の設計で、大阪府の「光の教会」、北海道の「水の教会」とあわせて「教会三部作」と呼ばれている。今年は現代美術作家、榎忠による『End Tab(エンドタブ)』が展示されている。
榎忠『End Tab(エンドタブ)』
建築廃材を磨き上げて作品に
十字架の下にズラリと並んだ重厚な鉄のオブジェは、東京スカイツリーが建設された際の建築廃材「エンドタブ」を使用したもの。会場が教会であることから、マリア像にも、キャンドルにも、お地蔵さんのようにも見える。美術館で見たらきっと彫刻にも見えるだろう。静謐な森の中の教会で眺める、不必要になった廃材。鑑賞者の心持ちで様々な解釈ができる作品だが、あなたは何を思うだろうか。普段は閉館されていて教会内部を見ることができないので、ぜひこの機会に訪れて、空間とともにアーティストの作品を堪能してほしい。
公募大賞グランプリは岩谷雪子『ここにいるよ』
プレスプレビューの後には、公募大賞や各賞の授賞式が行われた。公募大賞グランプリは、岩谷雪子氏の『ここにいるよ』が選ばれた。
公募大賞でグランプリを獲得した岩谷雪子さん
今回の出展作品には、六甲山の歴史や伝統文化、そして地元との結びつきを連想させるものが多く見られた。総合ディレクターの高見澤氏は「アーティストには六甲山の自然や文化を織り込んだ作品をお願いしている。公募作品も審査がかなり難航した。我々が10年を振り返り、今後の10年に向かってどのように進んでいくかを審査の結果で表現できるか、議論をしながら選定した。バラエティ豊かな力作が揃っている」と、述べていた。

招待アーティストの皆さん
公募アーティストの皆さん
『六甲ミーツ・アート 芸術散歩2019』は、11月24日(日)までの約2ヶ月展示される。初のオフィシャルツアーや、作家によるワークショップ、パフォーマンス、10月18日からは『ザ・ナイトミュージアム〜夜の芸術散歩〜』も開催され、ますます盛り上がりが期待される。秋から冬に刻々とめぐる季節と環境の中で徐々に変化していく作品の様子を観察するのも楽しみ方のひとつ。どうか1日たっぷり時間をとって、「歩く、出会う、刺激をうける。」と掲げられたキャッチコピー通り、六甲山をすみずみまで歩いて多くの作品に出会い、心と体にたくさんのインスピレーションを受けてほしい。そして帰り道で、「私はこの作品は面白かったけど、これはよくわからなかった」などと、家族や友人、恋人同士で意見を交換してみてほしい。

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