欧州屈指の貴族が愛した名宝に“名家
育ち”の小泉孝太郎も感動! 「リヒ
テンシュタイン 侯爵家の至宝展」鑑
賞レビュー

10月12日に東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで「建国300年 ヨーロッパの宝石箱リヒテンシュタイン 侯爵家の至宝展」が開幕した。「ヨーロッパの宝石箱」をキャッチコピーに12月23日まで開催される本展は、中央ヨーロッパに位置するリヒテンシュタイン侯国の建国300年を記念した特別展。長きに渡ってハプスブルク家に仕え、一国を築くほどの財と権力を成したリヒテンシュタイン家の美術コレクションの中から約130点が来日し、貴族が愛した銘品が楽しめる展示となっている。開幕前日にはプレス内覧会が開かれ、音声ガイドのナビゲーターを担当した俳優の小泉孝太郎も来場。また、本国からリヒテンシュタイン侯爵家コレクションのディレクターを招いてギャラリートークも行われた。ここではそれらの情報を交えながら本展の見どころをお伝えする。
「ヨーロッパの宝石箱」リヒテンシュタインから約130点が来日
リヒテンシュタイン侯国(以下、リヒテンシュタイン)はスイスとヨーロッパの間に位置する国土面積160㎢の世界で6番目に小さな国だ。人口3万8千人ほどの小国ながら金融業が盛んで経済的にも豊かな国として知られている。
会場入り口
国名は建国者であるリヒテンシュタイン家に由来。12世紀から記録の残るリヒテンシュタイン家は、神聖ローマ帝国の君主として東西ヨーロッパを広く版図に納めたハプスブルク家に長く仕えた貴族家だ。1608年、当時の当主だったカール1世が世襲侯爵位を獲得し、オーストリア国内にシェレンベルクとファドゥーツという2つの領地を獲得。その後、今から300年前の1719年に神聖ローマ皇帝の承認を受けてリヒテンシュタイン侯国が誕生した。
リヒテンシュタイン侯国の地図(会場展示より)
1919年にハプスブルク家の王朝が終焉を迎え、リヒテンシュタイン家がウィーンからファドゥーツに居を移したのは1938年のこと。その間、カール1世の時代から数百年にわたって優れた芸術品が集められ、現在のリヒテンシュタイン侯爵家コレクションが形作られていった。
会場風景
ジャンル別の7章立てで展開される本展の特徴は、宗教画、神話画、肖像画、風俗画、静物画と西洋絵画における主要カテゴリーがひとつの展覧会で見られることにある。東西の磁器の銘品も見どころで、それらを欧州屈指の名家が収集した上質なコレクションを通じて味わうことができる、まさに「ヨーロッパの宝石箱」と呼ぶべきラインナップだ。
小泉孝太郎が「最も印象に残った一枚」とは?
開幕前日には本展で音声ガイドのナビゲーターを務めた俳優の小泉孝太郎も来場。資料を読み込んだ上で収録に臨んだという小泉は「写真で見ていた絵画や磁器の本物を目にして贅沢な時間を過ごすことができました」とコメント。
本展の音声ガイドでナビゲーターを担当した俳優の小泉孝太郎
また、本展の目玉展示のひとつであるフェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラーの《磁器の花瓶の花、燭台、銀器》について感想を求められると、「ヴァルトミュラーの作品では風景画の方に注目していましたが、本物を見て印象に残ったのはこちらの作品でしたね」と新たな発見もあった様子。そして「宝石箱に包まれるような感覚になれるので、ぜひ、そうした贅沢な時間を多くの方に味わってもらいたいです」と本展をPRした。
フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー《磁器の花瓶の花、燭台、銀器》 1839年、油彩・紙 所蔵:リヒテンシュタイン 侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン (c) LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
かわいい&イケメンも! 歴代の「肖像」が伝える名家の歴史
第1章「リヒテンシュタイン侯爵家の歴史と貴族の生活」は、リヒテンシュタイン家という名家を知る上でイントロダクション的な役割をなす。ここで押さえておきたいのが、本展の最初に肖像メダルが展示されているヨハン・アダム・アンドレアス1世だ。侯爵家コレクションの創始者であるカール1世の孫にあたり、1684年に即位した彼は、歴代の当主の中で最も芸術に財を投じて世界中の芸術品を買い集めた人物として知られている。
フランチェスコ・ソリメーナに帰属《リヒテンシュタイン侯ヨーゼフ・ヴェンツェル1世》 1725年、油彩・キャンヴァス 所蔵:リヒテンシュタイン 侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン (c) LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
ギャラリートークを行ったリヒテンシュタイン侯爵家コレクション・ディレクターのヨハン・クレフトナー氏は、アンドレアス1世について「建築にも力を入れた彼はウィーンに2つの宮殿を建て、社交界におけるリヒテンシュタイン家の存在を確かなものにした。その2つの宮殿は今も残っていて、リヒテンシュタイン侯爵家コレクションの常設展が行われている」と解説する。
フリードリヒ・フォン・アマーリング《リヒテンシュタイン侯女ゾフィー、1歳半の肖像》 1838年、油彩・キャンヴァス 所蔵:リヒテンシュタイン 侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン (c) LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
肖像には貴族の威厳あふれるものが多いが、例えば《リヒテンシュタイン侯女ゾフィー、1歳半の肖像》などに描かれた少女像は愛らしく、一方で《リヒテンシュタイン侯フランツ1世、8歳の肖像》は少年ながらどこか中性的なイケメン。その溌剌とした表情からは当時の栄華と幸福を窺い知ることができる。
侯爵家コレクションの多様性を表す多彩な絵画
第2章「宗教画」、第3章「神話画・歴史画」は、いずれも中世の西洋美術ヒエラルキーで上位に置かれたジャンル。第2章の展示室にはクラーナハ(父)の《聖バルバラ》など北方芸術の作品のほか、イタリア・ルネサンスやバロック時代の宗教画が展示されている。
ルーカス・クラーナハ(父)《聖バルバラ》 1520年以降、油彩・板 所蔵:リヒテンシュタイン 侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン (c) LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
第3章の展示は、侯爵家が世界屈指のコレクションを有するルーベンスの作品が中心。《和平を結ぶ機会を捉えるアンリ4世》《クートラで勝利するアンリ4世》という板絵の大作のほか、《ペルセウスとアンドロメダ》含め計3点のルーベンス作品が展示されている。また、ウィーン窯製作の陶板の上にルーベンスの作品を複製した《陶板「占いの結果を問うデキウス・ムス」》も併せて展示され、次章のテーマへ続いていく。
ペーテル・パウル・ルーベンスと工房《ペルセウスとアンドロメダ》 1622年以降、油彩・キャンヴァス 所蔵:リヒテンシュタイン 侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン (c) LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
貴族の栄華を反映した東洋と西洋の磁器
第4章「磁器ー西洋と東洋の出会い」と第5章「ウィーンの磁器製作所」には東西の磁器が展示。15世紀からの大航海時代にヨーロッパへ渡った東洋の磁器は、オーストリアのウィーン窯など欧州における最初期の磁器製品の手本になった。そして価値の高い磁器を持つことは貴族にとってステータスのひとつになっていた。
ギャラリートークで解説に立ったリヒテンシュタイン侯爵家コレクション・ディレクターのヨハン・クレフトナー氏
ここには中国の景徳鎮窯や日本の有田釜の磁器などが展示されている。その中で目を引くのは、金属で西洋風に装飾された東洋磁器の数々だ。西洋では東洋の陶磁器に金具を取り付け、装飾品にする文化が発達した。クレフトナー氏によれば割れやヒビの補修のために金具が付けられたものもあるというが、本展には選り抜きのものが来日している。無垢な白に眩い輝きが加わった陶器は、この時代の東西の文化の融合を表している。
有田窯《青磁色絵鳳凰文金具付蓋物》 金属装飾:イグナーツ・ヨーゼフ・ヴュルト  磁器:上絵付1690-1710年、金属装飾:鍍金されたブロンズ 1775/1785年、人物像:後補 所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン (c) LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
一方、1718年に設立されたウィーン窯は、20世紀初頭まで約200年間に渡ってリヒテンシュタイン家の夏の離宮の隣に工房を構えていた。そのため、初期のデュ・パキエ時代から侯爵家も多くの食器を注文し、それらが東洋の陶磁器とともにパーティーの席に使われた。《アラベスク文カップと受皿》のような優美なものもあれば、《トランプ文カップと受皿》のような奇抜なものもあり、時代ごと様々な絵付の磁器が楽しめる。
ウィーン窯(デュ・パキエ時代)《戦闘文カップと受皿(トランブルーズ)》 1730年頃、硬質磁器、黒彩、金彩 所蔵:リヒテンシュタイン 侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン (c) LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
百花繚乱の美しさに圧倒される「花の展示室」
終盤の展示は第6章「風景画」、第7章「花の静物画」へと続く。第6章には、この分野で先駆的だった17世紀オランダ絵画と18世紀から19世紀初頭のオーストリアで発展したビーダーマイヤー期の絵画や磁器を展示。クレフトナー氏は両時代の風景画を比較して「オランダ絵画では山の上から見下ろした風景が多く描かれているが、オーストリアの風景画は平面的な構図で空が低く描かれているのが特徴だ」と述べた。

(左)ルーカス・ファン・ファルケンボルフ《滝と水車のある山岳風景》1595年、油彩・キャンヴァス (右)ヤン・ブリューゲル(父)《市場への道》 1604年、油彩・銅板 所蔵:リヒテンシュタイン 侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン (c) LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
そして、この2章を語る上で重要な作家が、先にも紹介したフェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラーだ。19世紀前半のドイツとオーストリアで起こったビーダーマイヤー期の代表画家であるヴァルトミュラーは、戸外の美しい風景を数多く描き残した。また、風景画家としてだけではなく肖像画家や静物画家としても優秀で《磁器の花瓶の花、燭台、銀器》のような花の絵画も残している。

フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー 《イシュル近くのヒュッテンエック高原からのハルシュタット湖の眺望》 1840年、油彩・板 所蔵:リヒテンシュタイン 侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン (c) LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
最後の展示室は、百花繚乱の「花の静物画」に囲まれた空間だ。ヤン・ファン・ハイスムの《花の静物》など、花瓶や銀器の中にバランスよく咲き誇る花々だが、実際には咲く地域も季節も異なる植物だという。それらをいつでも美しく見られるよう絵画にして屋敷に飾ったのも、美しいものを求め、贅沢を謳歌した貴族のこだわりだろう。
ヤン・ファン・ハイスム《花の静物》 18世紀前半、油彩・キャンヴァス 所蔵:リヒテンシュタイン 侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン (c) LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
なお、本展は第7章に限って撮影可能。フォトジェニックな花の絵をスマホに収めて持ち帰るのもOK。「建国300年 ヨーロッパの宝石箱リヒテンシュタイン 侯爵家の至宝展」は、12月23日まで東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催中。ヨーロッパの宝石箱から来た名品の数々を目いっぱい堪能しよう。

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