【つるうちはな インタビュー】
大人になるのが楽しみな
アルバムにしたくて
今日より明日がほんの少しでも
良くなるようにと願いを込めて
リード曲の「おまじないを君に」は友達を救いたいという想いからできた曲だそうですね。
友達が本当に大ピンチの時があって、電話をもらった時に“これは放っておいたらもしかして…”と自分も追い詰められたんです。で、電話を切ったあとに“どうしてあげたらいいんだろう”とベランダでうんうん考えていたら、この歌詞とメロディーが降りてきて…それも最後までズルッと。それを歌詞に起こして、メロディーを付けて、2時間後ぐらいに“これを聴いて! さぁ、生きろ!”と友達に送ったんです。とにかくその友達を救うという一心で作っていましたね。その後、彼女が泣きながら電話を掛けてきたから、“あっ、もう大丈夫だな”って思いました。自分が“生きている価値がない”と思っている時は、“あなたのことをこれだけの熱量で思っている奴がいるんだ”ということを心にぶち込むしかない…ぶん投げて、分からせるしかないんですよ。だから、ライヴでもそういう気持ちで歌っています。
そういう意味では、ご自身の体験をもとに曲を作っている感じですか?
必ず自分の中に種があって、それをもとにして自分の気持ちを書いていますね。楽曲提供もいっぱいやっていますが、必ず相手と自分の中の共通項を探るんですよ。その人のインタビューを読んだりして、人間を探るというか。“この子が言いたいこと、この子が言いたくないことは何だろう”って考えたり。なので、つながるポイントを探す作業はやりますけど、ストーリーを作るという感じではないですね。
そんな中、「あの子の裸を見たくない」は憧れの女の子の裸を見たくないという男の子の気持ちを歌った曲なのかなと思ったのですが。
そういうふうに聴こえますよね(笑)。実は私の話なんです。AV女優ですごく有名な方がいらっしゃって、たまたまTwitter でその方の画像を見た時に“めっちゃタイプ!”と思って、出演されているAV作品のサンプル動画をちょっとだけ再生してみたんですよ。私、女の人がとても好きなんですけど、どこか聖域みたいに見ているところがあるんですね。だから、“すごくきれいなんだけど、見たくなかった”というのが正直な気持ちだったんです。そのことをTwitterに書いたら“はなさんの、そういった男子っぽいところを曲にしたらいいんじゃない?”って友達が言ってくれて。例えば大好きなアイドルが脱ぐことになった時の見たいけど見たくないっていう気持ちは、男の子ならあるんじゃないかと思って、その気持ちにリンクさせて作った曲なんです。
なるほど。ご自身の種をうまくつなげられるから、きっとおじさんの歌も大丈夫ですね。
歌えると思います。強烈に人間愛があるというか…私、すぐ人を好きになっちゃうんですよ。“人間としてどんな人なんだ?”という興味が常にあるから、誰に対しても“この人は嫌な奴だから話したくない”や“こいつは悪だ”とかいう感覚があまりないんです。すごく嫌な奴だと思ったとしても“何でこの人はこうなったんだ? その背景が知りたい!”と思うんです。そうやって知ることで、自分との共通項を探しているんだと思いますね。
ラストの「やさしい魔神」は、まさにつるうちさんのその気持ちを軸に据えた曲ですね。
この曲を最後にしたのも意味があって。例えば今ってTwitterとかで簡単に正義を振りかざせるようになったから、悪い人が出てくると、みんなで吊るし上げるみたいな風潮になってるじゃないですか。気持ちは分かるけど、みんな“自分の中にそういう悪い心は本当にないのか”ということについて考えるのを放棄しているんじゃないかと感じていて。悪い人だからって排除するのは簡単だけど、その人がそうなった原因のひとつに、私たちが生きている社会だったり、いろいろなシステムとかが関わっていると思うんです。もちろん悪いことはいけないことですよ。盗んじゃいけないし、暴力もふるってはいけない。でも、なぜその人はそれをやったのかと想像することで、きっと自分の心も育つから、イマジンを働かせるならやさしいほうに働かせたいという想いがあるんです。
ちなみに、なぜ“イマジン”ではなく、“魔神”としたのでしょうか?
もともと“やさしいイマジン”というタイトルで作っていたんです。でも、初めてライヴハウスで“「やさしいイマジン」です”と演奏した時に、花とポップスのNakanoまるというシンガーソングライターの子が“はなさん、あれは魔神ピッピさんの曲ですよね! 最高でした”と言ってきて、“それ、いいな!”って…実は私の夫が“魔神ピッピ”という名前でソロ活動をしているんですよ(笑)。ギリギリまで“やさしいイマジン”のほうが分かりやすいと思ってたんですけど、最後に引っ掛けがあるし、魔神って一般的に怖いイメージがあるけど、それが小さな花を踏まないように歩いているようなイメージにも思えて、面白いなと。あと、うちの夫は最高の男なので、夫への愛を込めています(笑)。
そういうことも含めて、丸ごと抱きしめたくなるようなアルバムになっていますね。
ライヴでもいつも思うんですよ、しかめっ面だったおじさんが赤ちゃんみたいに笑っていたりとか、顔を整えてきた女の子がぐちゃぐちゃに化粧を落として泣いていたりするのを観ていると、“いいぞいいぞ、いけいけ、原始に戻れ!”って。そういう感覚がありますね。“たまにはおじさんもおばさんも、みんな赤ちゃんみたいな顔をすればいいのに”と思っているので。
このアルバムですが、どんなふうに伝わったらいいなと思いますか?
“今日より明日がほんの少しでも良くなりますように”という願いを込めて届けたいです。あと、大人になるのが楽しみになるアルバムにしたかったというのもあります。若い子が聴いて“大人になっても、こんなに楽しくてキラキラした気持ちで生きることができるんだ!”と感じてもらえることは、私が生きる上でのテーマでもあるんです。
取材:キャベトンコ