土岐麻子、街とそこに生きる人への愛
を込めた『PASSION BLUE』
Photography_Kiruke
Interview&Text_Osamu Onuma
Edit_Miwo Tsuji
街の中で生きる人のための音楽でありた
い
もともと『PINK』は「現代版シティポップってなんだろう?」というテーマを先に掲げて、私なりに答えを出そうとして作ったアルバムです。1年近くかけてライフワークのように制作に取り組んでいたので、レコーディングが終わったあとも、曲のアイデアが次々に湧き出てきました。『SAFARI』はその延長でできた1枚です。
『SAFARI』を制作していた2018年は、オリンピックに向けて街じゅうで工事が行われていた頃。東京の風景は日々変わるものだけど、これまでで一番「途中の風景だな」って思ったんです。街のあちこちで建物が壊されては新しく造られて、エネルギーが渦巻いている感じ。でも、そういう途中の風景って忘れてしまうから、写真を撮るような気持ちでアルバムを作りました。
『PASSION BLUE』もこの2作に引き続き、街の中で生きる人のための音楽でありたいと思っていました。だから街の描写や、生活の中で感じる孤独にフォーカスしながら制作していきました。
――タイトルにはどんな思いが込められているのでしょうか。
土岐 : 1曲目に収録されている「Passion Blue」という曲ができて、そこから取りました。最初は音に合わせて何となく当てた言葉で、特に意味はなかったんです。でも、エネルギッシュな“Passion”と静かな“Blue”という相反するものが共存しているって、すごく街っぽいなあと感じて。都市のエネルギーと、そこで暮らす人のぽつんとした孤独が浮かび上がってくる、ぴったりのタイトルになったと思います。
100年後、「美しさ」はどう変わってい
るんだろう
土岐 : 「お互いに前作2枚を気にせず、今やりたいことができたらいいよね」と話していたんです。あと、『PINK』『SAFARI』は詞を先に書いた曲が多かったのですが、今作はトオミさんから「挑戦してみたいサウンドがあるから、サウンド先行でいきたい」と提案がありました。だから歌詞は深く考えず、サウンドに乗せて気持ちよく言葉がはまることを優先しようと思っていましたね。
――サウンド優先で歌詞を書かれたとは意外でした。リード曲となっている「美しい顔」をはじめ、今作はこれまで以上にメッセージ性が強いように感じます。
土岐 : 結果的にはそうなりましたね。実際に書いてみると普段自分が考えている事がどんどん出てきて、「孤独」というテーマが強く浮かび上がる内容になったと思います。
「美しい顔」は最初、「パーティだから外に出よう」みたいな歌詞を書いたんです。でも、トオミさんから「違う気がする」と珍しく駄目出しをもらって(笑)。どうしようかなと考えていたら、「誰もあなたの美しさはかれない」というサビのフレーズが浮かんできました。常日頃自分が思っている言葉が出てきたぞと思い、腹をくくって書きました。
今の時代に限った話ではないけれど、美しさの定義はすごく繊細。この曲は2019年を生きた女性が整形をして、100年後に女性の孫その事実を知るという歌詞です。
この歌は、顔を変えることを否定しているわけではないです。どんなことでも、やってみたいことはやれる時代であるべきだと思う。ただ「自分は他人から見て醜いんじゃないか」と、他人のものさしで自分を測っていることが動機であるなら、それは生きづらいと思うんです。その苦しさは私も昔から感じていることなので、このテーマで書きました。
――整形に限らず、ダイエットや服装、化粧など、外見にまつわることで世間の目を気にして苦しんでいる人は多そうです。
土岐 : その苦しさは女性なら誰しも経験があると思います。もっと言えば、外見の美しさだけじゃなくて女性らしさや男性らしさ、年齢や人種など、色んなことが強迫観念になり得ますよね。
だけど今はその価値観が日に日に更新されて、他人に侵害されてはいけない領域が確立されていっています。SNSですぐ広まるから、コンセンサスがとれるのも速い。
この勢いで価値観が変わっていけば、100年後の美しさの価値観って本当に想像がつかないです。一匹一匹違う猫の毛柄をどれも綺麗だと感じるみたいに、人間の肌の色や顔立ちをいいねって自然に思えているかもしれない。きれいごとじゃなくて、そうなったらすごくいいなって思います。
土岐麻子、街とそこに生きる人への愛を込めた『PASSION BLUE』はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
ミーティア
「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。