大阪交響楽団「感動の第九」が実質的
な正指揮者お披露目公演となる指揮者
太田弦に聞く!

10月も後半に入り、朝夕の気温がぐっと低くなって来た。クラシック音楽の世界で、この時期話題となるのが、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」、いわゆる「第九」のこと。
ベートーヴェン生誕250年を翌年に控え、そのキックオフ的な意味合いを持つ今年の第九が自身にとって特別な演奏会となる指揮者 太田弦。
大阪交響楽団の特別演奏会「感動の第九」は、 彼の正指揮者就任披露演奏会的な意味合いを持つ公演となる。全国のプロフェッショナルオーケストラでポジションを持つ指揮者としては、最も若い25歳の太田弦。前回取材したのは、昨年11月の正指揮者就任発表の直後なので、約1年前のこと(その時のインタビュー記事は、spice.eplus.jp/articles/218134 )。プライベートでは6月に結婚もし、公私ともに充実の一途を辿っている若きマエストロに、あんなコトやこんなコトを聞いてみた。
プロのオーケストラでポジションを持つ指揮者としては、最年少25歳の太田弦 (c)ai ueda
ーーいよいよ待ちに待った「感動の第九」ですね。
太田弦 ありがとうございます。ただ、12月のトップシーズンの中での第九なので、リハーサルに充てる時間はあまりありません。その中で最大限にこだわって演奏したいと思い、今もライブラリアンさんにお願いしてパート譜を持ってきて貰い、見ていたところです。オーケストラのパート譜には色々な指揮者の書き込みがあり、自分のやり方と違うものも多く、短時間でリハーサルするには効率が悪いのです。どうしても書き込んである指示の通りに先ず弾いてしまう。真っ白なパート譜に、やりたいことをあらかじめ書き込んで渡しておきたい気分です。先々の事を考えても、第九のパート譜はこの先何度も使うと思うので、新たに買おうか考えているところなんです。
ーー第九は版の問題というか、解釈にかなりの差があるようですね。
太田 第九はもちろん凄い作品なんですが、スコアを見ていると未完成というか、随分間違いが有ります。第1楽章ではベートーヴェン自身、かなり迷ったんじゃないでしょうか、最初は4分音符=120と書いていたのに、途中で108になり、最終的には88になっています(笑)。また、第4楽章では、時間が無かったのか、パートによって同じ音型なのに、アーティキュレーション(演奏技法において、音型を整えたり、音と音の繋がりに表情付けをすること)などの指示が書かれていたり、なかったり。明らかに耳が聴こえてなかったのでしょうね、バランスの悪いところもいっぱいあり、その上に編集者の書き間違いなんかもあります。
ちょっと専門的な話になりますが、今ではすっかりスタンダードになりつつあるベーレンライター版とは別に、ヘンレ版の楽譜が「ベートーヴェン新全集版」としてブライトコプフ社から、交響曲第6番「田園」まで現在出版されています。なかなかよく出来ているので、11月の新日本フィルの演奏会ではこの版で交響曲第5番「運命」をやるつもりです。この版の「第九」もまもなく出るらしいと聞いていますので、今はそれを楽しみに待っているところです。買うならこっちでしょうね。
嬉しそうに弦楽器のパート譜を眺める太田弦 (c)h.isojima
ーー太田さんのスコアの読み込みの深さには定評があります。師匠の尾高忠明さんも「彼は勉強の虫だから、何でも暗譜で振れるようにしてしまう。」と仰っていますね。
太田 ありがとうございます。でも今は、暗譜禁止期間中なんです(笑)。「第九」は直筆譜をファクシミリで購入し、しっかり読み込んだことで、自分なりのやり方は固まって来ました。例えば、(ヴァイオリンのパート譜を見ながら)この音なんかはピチカート(弦を指で弾く奏法)になっていますが、本当はここからアルコ(弓を使って演奏すること)だと思います。また、この楽譜の、ココとココにffの指示が有りますが、このffの賞味期限はどこまで続くのか!といったことを明確にオーケストラのメンバーに伝えたいのです。
パート譜の問題点を丁寧に説明する太田弦 (c)h.isojima
ーー「第九」はオーケストラだけでなく、合唱団にも指示を出さないといけないので大変ですね。
太田 オーケストラと合わせる前段階の合唱練習が大切です。私はドイツ語の発音にはさほどこだわっていません。発音に神経質になって、音楽に集中出来なくなるのが問題だと思っています。大事なポイントをしっかり出して、それ以外はあまり出さないと云ったメリハリが大切だと思います。合唱指揮者との連携が重要です。
ーー実質、「第九」が正指揮者のお披露目みたいな感じですが、2月の「名曲コンサート」ではメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」をメインで取り上げられます。

太田 大好きな曲なんですが、メンデルスゾーンは勉強すればするほど嫌いになる作曲家です(笑)。きっと楽譜の細かいところまで興味がなかったのではないでしょうか。スラーの位置やデュナーミク(強弱法)なんか同じ音型でもバラバラです。古い楽譜は、ブライトコプフの編集者が気を利かして揃えていたのですが、今の楽譜はオリジナルのままなのでなかなか手ごわいです。まだ時間が有るので、もう少しスコアを研究したいと思っています。
オーケストラから瑞々しい音楽を引き出す、正指揮者 太田弦 (c)Takafumi Ueno

ーー大阪交響楽団のミュージック・アドバイザー外山雄三さんは現在88歳。太田さんか外山さんの年齢になるまで63年あります。63年後、どんな指揮者になっているか、イメージ出来ますか。
太田 いやー、63年後ですからね。意外とベーレンライターに就職していて、ベートーヴェンの新しい楽譜を出版してるかもしれませんね(笑)。あっ、でもそれじゃ実演出来ないから、やっぱり指揮者がいいかな。
ーー本当に楽譜が好きなんですね(笑)。4月の正指揮者就任から満を持して臨む「第九」。読者の皆さまにメッセージをお願いします。
太田 4月のシーズン開幕から、0歳児のためのコンサートや映画音楽のコンサートなどを大阪交響楽団の皆さんと一緒にやらせて頂き、顔と名前が一致するようになり、だいぶん分かり合えて来たと思います。おかげさまで他のオーケストラを指揮する機会も増えてきましたが、12月の「感動の第九」では、私と大阪交響楽団だから出来る「第九」を皆さまにお聴きいただきたいです。ぜひ、ザ・シンフォニーホールにお越しください。
皆さまのお越しをコンサート会場でお待ちしております! (c)h.isojima
取材・文=磯島浩彰

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着