銀座九劇アカデミアでアングラの世界
が蘇る? 鄭義信ワークショップレポ
ート!

2019年6月に浅草九劇で上演された舞台『エダニク』。iakuの横山拓也による戯曲で、2009年の初演以降、数多のカンパニーで上演されている。浅草九劇では鄭義信が演出を手掛け、稲葉友、大鶴佐助、中山祐一朗と実力派が揃った。これまでの横山作品を知っている人からすれば、想像を超える演出手法が際立っていた。ミニマムな空間で濃密に展開する会話劇をダイナミックなテクスチャーに刷新し、舞台は大きな話題を呼んだ。
鄭義信の舞台作品におけるダイナミズムは、自身がアングラ演劇の現場でキャリアを積んだことが大きく影響しているのだろう。過日、銀座九劇アカデミアでおこなわれたワークショップ「わくわくする稽古がしたい!」の現場で、そんなことを再確認したのだった。
鄭義信(中央)
■俳優たちが芝居を通じてコミュニケートする
長塚圭史、ベッド&メイキングス、三浦大輔、蓬莱竜太など、銀座九劇アカデミアでは一線級の演劇人たちによるワークショップが多数開催されてきた。2019年秋の目玉は、鄭義信による「わくわくする稽古がしたい!」だ。平日の土日で各クラス20名程度、計80名超の俳優が、鄭の現場を体感すべく集まった。
筆者は土日クラスの夜の部の最終日に訪れ、“ワクワクする”稽古の様子を見学する機会に恵まれた。
17時00分。参加者が揃い、ウォーミングアップが始まる。音楽に合わせて歩行しながら、すれ違った人とあいさつ、ハイタッチ、握手、ハグなどをしながら身体を温めていく。いわゆるシアターゲームの一環だ。
今回のワークショップで使用されたテキストは『二十世紀少年少女読本2018』。『焼肉ドラゴン』のプロトタイプともいうべき作品で、2001年初演『二十世紀少年少女読本』のリメイクバージョン。昨年、鄭の出身地である兵庫県姫路市の姫路キャスパホールで上演された。
「ワークショップの直前まで、テキストは決めていませんでした。全員に役が振り当てられるものにするため、僕の戯曲から選んで決めました。お芝居をしてもらうことよりも、俳優たちが芝居を通じてコミュニケートすることが主眼です」
と語る鄭だが、稽古で気になるところを発見すると細かく止めて指示を出す。「アジアで二番目にしつこい演出家」の定説は健在だった。
『二十世紀少年少女読本2018』の一場面
■デコボコなままで見せる面白さ
とある場面の稽古を通し、俳優たちにダメ出しする。といっても、鄭の語り口はやわらかい。ここで話したのは「書かれたことをキチンとしゃべる」「台詞を流して言わず、言葉を立てて、客席に伝える」ということ。シンプルだけど、極めて本質的だ。
最終日の今日は、『二十世紀少年少女読本2018』の1場から4場までを通す。休憩を挟み、本番さながらの緊張感で挑む俳優たち。それらしい衣装を身につけている人もいる。参加俳優のタイプはさまざまだ。普段は映像分野が主戦場の人もいれば、小劇場中心の人も。なかには作・演出家志向でで鄭から学びたくて門を叩いたという人もいる。
タイプやスタイルが違えば、芝居の全体像にバラつきが生じる。しかし、それすらも新鮮な発見だったと、鄭は話す。
「経験も演技スタイルもそれぞれ違うから、デコボコになる感じはありました。でも、デコボコなままで見せるのもなかなか面白いですね。今回のワークショップはひとつのメソッドに沿って演じることは目的でなく、俳優たちがお互いを見て、何か感じることがあればいいと思います」
鄭義信(中央)
■出演者全員を素敵に描きたい
通し稽古が終わった。短期間の稽古とは思えない、味わいのある『二十世紀少年少女読本2018』になっていたように思う。かつて『焼肉ドラゴン』や『パーマ屋スミレ』、『エダニク』で感じたエネルギーいっぱいの演技だった。
残りの時間で鄭も含めて全員が車座となり、ワークショップを終えた雑感を語り合う。参加者による鄭への「質問タイム」となったのは予定外だったようだが、「出演者全員を素敵に描きたい」という鄭に対し、多くの俳優が感激した様子だ。
「映画の『焼肉ドラゴン』が大好きで、参加しました。終わってほしくないと思うほど楽しかったです。役者のいいところを拾って、鄭さんのこだわりもあって、お互いのいい面を探していく繊細な稽古でした。演出してもらえることが今日で終わってしまうのが、少しさみしいです」(参加者の都倉有加さん)
舞台の稽古では毎晩のように飲みに出かける鄭だが、今回のワークショップでも俳優たちと杯を傾けていた。
「僕は『飲みにケーション』が好きだから、どの現場でも飲み会をやりたくなるんですね。昼の部の人たちとはそんなに行けなかったので、このあと打ち上げが待っています(笑)」
撮影・取材・文/田中大介

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着