Youtubeチャンネル登録者数8万人を突
破 クラシックの枠を超えジャンルレ
スに展開する新時代ピアニスト・角野
隼斗(Cateen)

「天は二物を与えず」というが、三物も四物もの資質を備えた人たちがいる。ピアニスト・角野隼斗は間違いなくその一人だ。エリート校である開成中学・高校で学び、大学は東大へ。工学部計数工学科数理コースというバリバリの理系。大学院での研究生活を送る一方、昨年2018年夏には、国内最大級の規模を誇るピアノコンクール、ピティナ・ピアノコンペティション 特級で、並み居る音大生たちを抜いてグランプリに輝いた。コンサート活動を展開する一方、YouTubeからジャズやアニメやゲーム音楽を超絶技巧的なアレンジで配信。現在チャンネル登録者数は8万人超えという人気ぶり。そんな角野の多様な活動について話を聞いた。
サロンで、ストリートピアノで〜パリジャンたちを興奮させた角野のピアノ
——昨年2018年にピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリを受賞されてから、約一年が経ちました。受賞後すぐに半年間フランスに留学されましたね。
東大大学院の交換留学の扱いで、フランス国立音響音楽研究所(IRCAM)という所で研究をしてきました。ここは作曲家やアーティスト寄りの人たちと、エンジニア寄りの人たちがいるのですが、僕はエンジニア側で、AIを用いた音楽創造の研究チームに入りました。研究の内容を簡単に言いますと、AIによる自動採譜やアレンジの技術研究です。たとえば、ピアノ曲をオーケストラ用にアレンジする際、強弱の違いを表現するために、別の評価軸を加えていく……というような研究です。

角野隼斗

——その一方で、パリでコンサートを開く機会があったとか!
そうなんです。あちらは若い奏者に演奏の機会を与えようという文化が息づいていて。いろんな方から応援していただき、有難いことに、留学中の半年間で9回ほどサロンでのコンサートを開かせていただきました。雰囲気はとても良くて、かしこまらない空間。お客さんは演奏にアクティブに反応してくれます。ラヴェルやドビュッシーなどのフランスもののほか、アンコールではジャズや自作曲なども入れました。ファジル・サイ編曲の「トルコ行進曲」を弾いたときなんかは、めちゃくちゃ盛り上がってくれましたね。
——コンサートを聴きにいくこともしましたか?
週に2、3回は行ってました。若者は10ユーロ(※1ユーロ=約118円/2019年10月現在)くらいで、日本よりリーズナブルですから、「今日はなんかあるかな」みたいな気楽な気分で。クラシックだけじゃなく、ジャズバーにも行きました。ジャムセッションという、お客もセッションに参加できるものがあって、僕も弾いてきました。その場で初めて出会った人とセッションできて、楽しかったですね。
大きな駅にはストリートピアノがありました。日本にも今少しずつ置かれているみたいですが、向こうは全然雰囲気が違って、人がたくさん集まって全員で歌ったりするんです。ツイッターにその時の動画を載せているんですが、僕も弾きながら、道ゆく人たちと一緒に歌いましたよ。ラーララーラーラー……って(♪Don’ t Stop me now/Queen)。
——楽しそうですね! どんなジャンルの曲も即興的にアレンジができて弾けてしまう角野さんだからこそ、こんなにみんなを盛り上げることができるんでしょうね。ところで、研究や音楽以外でも、刺激的だったことはありますか?
刺激……なんでしょうね。悪い人もいましたよ(苦笑)。レストランで、パスポート、携帯電話、マックブック、現金などがはいったバッグを盗まれたことがありました。近距離にあったのに、ちょっと目を離したスキに。パソコンは二台持ってきていたし、携帯もスペアで二個持っていたんです。盗まれると思って。
角野隼斗
——思ってたんですか(笑)。
データはすべてクラウドに保存しているから大丈夫。問題なかった。パスポートの再発行が面倒でしたね。
——ピアノのレッスンもしっかりと受けてこられたそうですね。
はい、クレール・デゼール先生とジャン=マルク・ルイサダ先生にレッスンを受けることができました。ピアノのレッスンではあるけれど、デゼール先生は頻繁に「このパッセージはオーケストラでは何の楽器か」といった質問をされました。これはまさに自分の研究分野とも繋がることです。弓で弦をこするヴァイオリンと、ハンマーで弦を打つピアノとでは、音の立ち上がり方がまったく違いますが、ヴァイオリンのようなアタックをピアノで出そうとするならば、タッチを工夫しなければなりません。多様な楽器をイメージしながら音色を追求することで、音の幅を増やしていくことができました。
ルイサダ先生は映画がお好きで、学生をご自宅に呼んで上映会を開いていました。僕も2回くらい参加しました。映画のタイトルは忘れてしまったけれど、第2次世界大戦直後の香港におけるイギリス人の恋愛ストーリーだったと思います。15人くらい、学生とその友人が集っていましたね。
角野隼斗
YouTubeフォロワー数8万人超え! 角野ワールドが目指すもの
——さて、帰国されてからは、ますます精力的に演奏活動をスタートされました。
今年2019年3月には、コンクールグランプリとして関連のコンサートがありましたし、この半年間で20回ほどコンサートがありました。
——一方で、ツイッターやYouTubeから配信される動画が大きな話題を呼んでいます。クラシックの演奏のみならず、映像とのコラボレーションや、和太鼓とのセッション、多ジャンルのアレンジなどは、角野さんならではのコンテンツですね。
日本はまだ音楽関係者でプロとして活動しながらYouTubeを積極的にやっている人はさほど多くないのではと思います。海外はもう少し多いし、他のジャンルでも多い。日本でもこれから増えてくるとは思います。僕ももっと伸ばしていきたいですね。トーク動画とは違い、音楽の動画は言語に縛られるものではないから、海外の人に映像を見て楽しんでもらえるのは素晴らしいことだと思います。
ピアノの蓋に映像が写し出される動画は、友人と組んで作っているものです。映像系に強い友達とコラボレーションできる場としては、まさにYouTubeはうってつけです。​
【Super Mario Odyssey】Jump Up, Super Star! 【Piano Cover】スーパーマリオ オデッセイ メインテーマ [かてぃん]
——1時間ほどのYouTubeライブ配信も面白いですね。角野さんがゆったりとした雰囲気で、即興的にさまざまなアレンジで演奏し、視聴者がリアルタイムでどんどんコメントを書き込む。リアルな演奏会場ではなかなか難しいですから。
たしかに、生演奏のコンサートにはない楽しさがありますね。しっかりプログラムを組まず、しゃべりながら、アドリブをまぜて。何の準備もいらないんです(笑)。今後も続けていきたいです。
——現在YouTubeチャンネルのフォロワー数は8万人を超えています。目標値はありますか?
そうですね、年内に10万人くらいはいきたいし、最終的には100万人に到達できたら嬉しいです。
——そのチャンネルを拝見していて思いますが、角野さんはクラシックもジャズもポップスも、ジャンルに垣根なく自在に弾けることが大きな強みですよね。
クラシックで学んだことは、あらゆるジャンルのアレンジに生かせるところがあります。クラシックがきちんとベースになければいけないと思っているんです。その上でアドリブやアレンジを広げたいし、将来的には作曲もするかもしれない。オーディエンスに対しても、そうした僕の姿勢がしっかりと伝わるように活動していきたいですね。
角野隼斗
——12月には札幌・福岡・大阪・東京・名古屋でのコンサート・ツアーが予定されていますね。
プログラムはラフマニノフがメインです。ソナタ 第2番と、交響曲 第2番 第3楽章を自分でピアノ独奏用にアレンジしたものを披露します。この曲にはピアノ協奏曲版があるのですが、ピアノ単体でいけないかなという挑戦です。ほかにも、ラフマニノフに影響を受けているゲーム音楽や、自分がリスペクトする作品のアレンジものも加える予定です。
——春には修士論文を完成させて東大修了ということになりますね。
論文のテーマはフランスでの研究を土台に厚みを持たせた内容にしたいと思っています。修了後は、演奏家としても研究者としても、充実した活動をしたいですね。音楽的には、来年はクラシックのインプットに集中したいと思っています。コンクールを受けたり、場合によっては、海外で勉強するかもしれない。
秋からは、機械学習の研究開発等に強い企業に所属する予定です。今はまだ詳しくは言えませんが、音楽✕AIでインパクトのあるものを世に出していきたいと思っています。音楽的な経験は研究にも活きると、音楽活動に深い理解を示してくださっているので、音楽家の視点で研究プロジェクトに関われればな、と思っています。​
角野隼斗
取材・文=飯田有抄 撮影=安西美樹

2019年10月19日(土)には、eplus リビングルームカフェ&ダイニングにて『【Living Live】角野 隼斗 ~Cateen’ s Piano Live Vol.6~』が開催される。今回のライブは、角野のYoutubeチャンネルにてライブ配信され、これまでのYoutubeライブ配信と同様のスタイルをとるという。すなわち、セットリストは用意されておらず、リアルタイムでコメントされる楽曲のリクエストに応え、アレンジを加えて演奏を披露していく。自宅を飛び出し、eplus リビングルームカフェ&ダイニングにてYoutubeライブを行うというスタイルだ。12月の全国ツアーも完売となっている角野の演奏を聴くことができるチャンス。当日の席はすでに完売しているが、Youtubeにてライブ配信をぜひチェックしてみてほしい。
Cateen's Piano Live Vol.6 (at LIVING ROOM CAFE & DINING) [8万人記念]

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