圧倒的な名演を収録した
『クリームの素晴らしき世界』は、
70’sロックへの道標となった
本作『素晴らしき世界』について
そして、68年にリリースされたのが、3rdアルバムとなる2枚組の大作『クリームの素晴らしき世界』である。1枚がスタジオ録音、もう1枚がライヴ録音という変則仕様であったが、クリームとしては初の全米1位を獲得、全英チャートでも3位まで上昇するという最高の結果となった。
スタジオ盤のほうには「ホワイト・ルーム」「政治家」「荒れ果てた街」など、「サンシャイン・ラブ」と並ぶクリームの代表曲が収められている。また、プロデューサー兼ミュージシャンとしてフェリックス・パパラルディが参加し、さまざまな楽器を駆使することでこれまでにない奥行きあるサウンドを生み出している。エンジニアはトム・ダウドが担当しているせいか、ライヴ感のある明瞭なミキシングがなされている。特に、ベイカーのドラムの音がクリアーで、臨場感にあふれたサウンドが特徴的だ。
ライヴ盤については言うまでもなく怒涛の名演が聴ける。数多いロックのライヴの中でも、最も有名な演奏のひとつが本作の「クロスロード」ではないだろうか。3人が3人とも好き勝手に演奏しているのだが、ロックでしか味わえない鬼気迫る緊迫したドライブ感がここにある。僕の場合は50年近く繰り返し聴いているが、何度聴いてもゾクゾクするのだから、やはり名演である。17分近い「スプーンフル」も丁々発止の白熱した名演奏で、後のハードロックやサザンロックに大きな影響を与えたことが分かる。ジャック・ブルースのハーモニカがメインの「トレインタイム」に続いて始まるのがデビュー作に収められていた「トード」。スタジオ盤と比べると3倍以上の長さになっている。ベイカーはダブルバスドラムを駆使して、ジャズ的なフレーズというよりはポリリズムっぽいリズムを叩き出しており、クリーム解散後に彼はアフリカっぽいグループ(ジンジャー・ベイカーズ・エアフォース)を結成するのだが、ここでの演奏は正にその前哨戦だ。
本作は、ジンジャー・ベイカーのドラムソロで幕を閉じるわけだが、これを聴くと、ジョン・ボーナム(ツェッペリン)、イアン・ペイス(ディープ・パープル)、スチュワート・コープランド(ポリス)、キース・ムーン(ザ・フー)、ビル・ブルフォード(イエス)などなど、イギリスのドラマーはみんなジンジャー・ベイカーの影響を受けていることがよく分かる。対照的に、アメリカでは手数の少ないロジャー・ホーキンス(マスルショールズのスタジオミュージシャン)やケニー・バットレー(エリアコード615)に注目が集まるのだから、お国柄ってすごいなと改めて思う。
というわけで、今回は10月6日に逝去したジンジャー・ベイカーの追悼の意を込めて『クリームの素晴らしき世界』を取り上げた。
TEXT:河崎直人