【ライブレポート】the HIATUS、10周
年記念公演「夢の中にいるみたいでし
た」

the HIATUSが10月1日、東京・国際フォーラム ホールAにて結成10周年を記念した一夜限りのスペシャル公演<the HIATUS 10th Anniversary Show at Tokyo International Forum>を開催した。同公演のオフィシャルレポートをお届けしたい。
the HIATUSの10周年記念、初の東京国際フォーラム公演。今までやってきたこと、手にしてきたものすべてを網羅するセットリストの中、後半はチェリストの徳澤青弦が招かれる。彼とthe HIATUSの共演は7年ぶり。伊澤一葉を除くメンバーはいったん退場し、チェロとピアノ、あとは細美武士の歌だけでファースト収録の「Little Odyssey」が始まっていく。

今さらだが、それは圧倒的な名曲だった。竜巻のように舞い上がり、天から降り注いでくるようなメロディ。この曲に関してはロック云々をさておき、珠玉のバラード、と言い切っていいだろう。柔らかな生楽器の音が、細美の生声の強さを凛と引き立てている。そしてふと思う。なぜこの人はソロアーティストの道を選ばなかったのだろう。ELLEGARDENの活動休止から1年、2009年にスタートしたthe HIATUSは、最初からバンドを名乗っていたわけではない。細美がいちシンガーとしての作業に集中したければ、その道も十分にあり得たはずだ。
ファーストの1曲目「Ghost In The Rain」から始まったライヴ。2曲目もファーストから「The Flare」、次がセカンドの1曲目「The Ivy」なのだから、10周年総括のテーマははっきりと伝わってくる。冒頭に書いたような特別セッションはまだお預けで、まずはダイナミズムの確認が先だ。シンプルなパンクではない。重たい暗雲が押し寄せ、分厚く垂れ込めたその中からとつぜん稲妻が光るように、メロディが、ギターソロが、スネアの連打が放たれる。自然の激しさと厳しさによく似た美しさ。ぶつかりあい、火花散らしながら有機的な命を生み出していく5つの音には、ひと呼吸つく余地があまりない。凄まじい集中力。それを積み重ねることで、彼らは次第にひとつの塊になっていったのだ。

4、5曲目に新曲「Hunger」と「Servant」。ハンドマイクで歌う細美の表情は柔らかくなり、masasucks、ウエノコウジもふっと笑顔を見せる。ライト、と書くのは違うけれど、最新作『Our Secret Spot』の楽曲にあるのは確かな平穏だ。激しく火花を散らさなくても、すでに消えない灯火があるというムード。互いにぶつかりあうアレンジがなく、空間の心地よさが最優先されている。これこそが、10年かけてthe HIATUSが手にした境地なのだろう。
観客の包容力もバンドを後押ししたはずだ。軽やかなアコギから始まりつつ、後半からポストロックの迷宮に入っていく「Deerhounds」、伊澤一葉の指使いに見惚れてしまう究極のマスロックナンバー「Bonfire」。中盤の楽曲はどれも一筋縄ではいかないが、置いてきぼりになることはない。むしろ5000人の観客が終始笑顔を浮かべ、ときには手拍子で一体感を作っているのが印象的だった。特定のジャンルに収まらないものでOK、常に進化していくこのアンサンブルが好きだ。そんなふうにバンドをまるごと受け入れているよう。そのあと「スペシャルゲスト……いや、現the HIATUS」という触れ込みで一瀬正和が登場し、柏倉隆史とのツインドラムで久々の「Antibiotic」が披露されたのも見せ場のひとつ。常にフレキシブルに変われるスタイルは、いまやthe HIATUSの武器なのだ。
一瀬と共に柏倉、ウエノ、masasucksが退出。ここからが冒頭に書いた徳澤青弦とのセッションだ。最初に凄まじい歌唱力を見せつけた細美は、次にメンバーを呼び戻し、ストリングス導入バージョンで数曲を披露。そこで「Regrets」が流れた瞬間、あぁ、とはっきり思った。これはロックバンドで鳴らしてこそ魅力的な楽曲だ。柏倉の優しいビートとウエノの安定した低音に包まれることで、歌声はより柔和に響く。また楽しそうに楽器を鳴らすmasasucksらと目を合わせることで、場の空気もより温かいものになる。メンバーがここにいる、その認識がグルーヴが完成させるのだ。ソロでも十分に通用する喉を持ったシンガー細美は、「Little Odyssey」のような名曲を書きながらも、ただ美声で周りを圧倒させたいわけではなかった。まず、ここが居場所だと言えるホームが欲しかった。だから5人とバンドになりたかった。そんな10年前の願いがしっかり叶えられていることを、「Regrets」のグルーヴが伝えてくれる。もともと国際フォーラムの天井はかなり高いけれど、歌声はさらに遠くへ、さらに高い夜空へと、小気味よく飛んでいくようだった。
バンドを求めていたのは細美ひとりではない。「the HIATUSは僕の大事な居場所になりました」と柏倉が語り、「ここにいたら間違いないな、曲がっていかないなと思う」と伊澤が素直に告白。「the HIATUS 11年目、始まります」とmasasucksが宣言すれば、「10年後に我々がどんな音を鳴らしているのか、すごく楽しみ」とウエノが気の早い話をする。「Storm Racers」や「紺碧の夜に」など大合唱ナンバーで締めくくられた本編。細美は「夢の中にいるみたいでした」と語ったが、消えてしまう儚さ、という意味ではないだろう。ずっと夢見ていたバンドの呼吸。渇望していた心の交換。その実感が確かにあったという意味で、まさに夢が具現化している一夜だ。10周年おめでとう。二度目のアンコールで鳴り響いた「Moon Light」は、自らに捧げる賛美歌のように美しかった。

取材・文◎石井恵梨子
撮影◎三吉ツカサ (Showcase)

■<the HIATUS 10th Anniversary Show at Tokyo International Forum>2019年10月1日(火)@東京国際フォーラム ホールA SETLIST

01. Ghost In the Rain
02. The Flare
03. The Ivy
04. Hunger
05. Servant
06. Thirst
07. Unhurt
08. Deerhounds
09. Horse Riding
10. Bonfire
11. Time is Running Out
12. 西門の昧爽
13. Antibiotic
14. Waiting for the sun
15. Little Odyssey
16. Tree Rings
17. Regrets
18. Insomnia
19. Storm Racers
20. Lone Train Running
21. 紺碧の夜に
encore
22. Twisted Maple Trees
23. Firefly / Life In Technicolor
W.encore
24.Moon Light

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