近代文学×古典を題材に、“声の表現
”である朗読の可能性を探る1日限り
の公演『ROD ー今昔物語ー』が名古屋
で上演

演出家で演劇プロデューサーの加藤智宏が主宰し、毎回プロデュース形式の公演を行っているperky pat presentsが、朗読とダンスを主とした舞台『ROD ー今昔物語ー』をまもなく「愛知県芸術劇場小ホール」で上演する。
【あいちトリエンナーレ2019 舞台芸術公募プログラム】の参加作品として10月5日(土)の1日限り、昼夜2公演のみ行われる本作は、言葉(朗読)と身体(ダンス)を軸に、視覚(美術)と聴覚(音楽)を交えた作品として、朗読者11名&ダンサー7名が出演。タイトルの『ROD』は、朗読のR、オブジェクトのO、ダンスのDの頭文字から成り、朗読は紫堂恵、ダンスは服部哲郎とそれぞれプロを迎えて演者を指導し、構成・演出の加藤智宏が全体をまとめ上げるという。
perky pat presentsでは、これまで〈ROHDOKU camp〉と題した朗読レッスン&試演会や朗読会をたびたび行ってきたが、今回の公演はその経験を踏まえつつ、新たな表現方法を模索した実験的要素も含んだ作品として提示。その題材として、平安時代末期の説話集「今昔物語」と、それを元に芥川龍之介が書いた小説「羅生門」「鼻」「藪の中」を取り上げることで古から現代までを縦断し、“ヒトに宿るエゴ”をテーマとして展開するという。
加藤の朗読に対する思いや今回の企画意図、本作で目指すもの、などについて話を伺った。
perky pat presents『ROD ー今昔物語ー』チラシ表 イラスト/ヨコヤマ茂未
── 今作は【あいちトリエンナーレ2019 舞台芸術公募プログラム】の参加作品になるわけですが、朗読劇という表現形態を選んだ理由から教えてください。
朗読に関しては、2015年から〈ROHDOKU camp〉というのをやっていて、これまで6回ぐらい開催しているんです。ずいぶん前にタナカアリフミさん監修の〈カラダ学講座〉というワークショップにたまたま音響のオペで参加したことがあって、そこで紫堂恵さんの朗読を初めて聞いて、「この声はすごく気持ち良いな」と。僕はそれまであまり朗読には関心がなかったんだけど、声だけで状況を見せたりするというのはなかなかテクニカルなことなんだろうな、と思ったんです。
それで、perky pat presentsの公演に出ていただいている俳優さんたちは、“声の力”というものに対してどこまで関心があるのかな? ということであるとか、どれほどのスキルを持っているんだろう? ということを考えていきました。芝居の場合はどうしても身体も一緒に出てくるから声だけに特化するわけではないんだけれども、それにしてもセリフを発している割には、意外に「セリフを吐く、出す」ということや、「声だけによるパフォーマンス」というものに対しては関心がない俳優が多いのかなと。
ワークショップを見ても、身体的なものであるとか距離感であるとかについてのものがほとんどで、ダンスのWSも行ったりするんだけど、声だけのことって何をやってるんだろう? と思ったら、発声練習しかやってませんかね、という感じで。いや、そうじゃなくて、「語る、話すということによって、その状況を相手に伝える」ということを俳優の人たちに知ってほしい、と思ったのが〈ROHDOKU camp〉を始めるきっかけだったんです。
実際にやってみると、ものすごく技術的なものが必要だということがわかってきて、それだけテクニカルなのにも関わらず、朗読というものの表現というかアートとしての地位というのか、そうしたものがあまり評価されずに来ているなと。それはちょっとおかしい、と思って、じゃあ「声だけでどこまで勝負できるんだろうか」ということで始めたのが今回の企画で、それをちょっと面白くやれないかな、と。
── 朗読に技術的なものが必要だと思われたのは、具体的にどういったところですか?
例えば、ただ声を大きく出せばいいということじゃなくて、空間に合わせて2m先の人に投げかける時の声であるとか、劇場によって違ってくるわけですよね。そういったものもあるし、声をいかに響かせるか、ということだったり。
── それらを訓練をすることで、俳優の声の出し方がかなり変わってくる?
変わってきます。僕はほとんど指導していなくて、〈ROHDOKU camp〉については紫堂さんにほぼお任せしていますが。
── 紫堂さんのレッスンをご覧になってきて、納得された点が多いわけですね。
やっぱり、いかに軸を持つか、ということですね。レッスンを見ていると、結構体育会系なんですよ。スクワットをやったり。
── インナーマッスルを鍛えて体幹を整える、と。
まさしくそうで、汗をかきます。それで軸が決まってくると、声の響き方や発声の仕方が変わってくる。
── 人間の身体って、すごいですね。
そう、面白いですよ。
稽古風景より
── 「今昔物語」と芥川龍之介の作品を題材にされたのは?
僕は最初、夏目漱石の「夢十夜」をやりたかったんです。それを10人ぐらいでやったらどうかな? と思ったんだけど、紫堂さんから「「今昔物語」はどうですか」と提案があって。彼女はずっと、「源氏物語」とかの古典を原文のまま読む、ということをやっているんですよ。それで、「今昔物語」は芥川龍之介もそれを元にしながら幾つかの作品も作っているので、じゃあ「今昔物語」にしようかと。
── 「今昔物語」と、芥川作品の「羅生門」「鼻」「藪の中」はどういった形で読まれるのでしょうか。
構成としては、まず近代の芥川作品を何人かでひとつの作品を読み上げていく形をとっていて、そこから元の方に遡っていきます。“生命の進化の樹”みたいなものがあるとして、そのワサワサっと葉が生い茂っているところが近代から現代だとすると、そこから徐々に集約して幹である古典の方に持っていって、最終的に「今昔物語」を読む、という構造です。
現代はいろいろなものが複雑に入り組んだ、ワサワサしたような状況がありますよね。そうした情報のカオスみたいなものになっているのかもしれないんだけれども、元を辿っていくと何かひとつの根源的なものがあるんじゃないのかな、と思って、そこへ遡っていくような構成を考えながら創っています。
── 観客は、現代文からだんだん耳が慣れていって、その流れで古文を聞くということですね。
そうそう。古典をいきなり聞いても意味がわからないので(笑)。そこをどうするのか、という構成について、紫堂さんと服部さんと僕とで去年の夏からずっと話し合ってきたんです。それで3人だけで話していても埒があかないのと、実際に喋っている様子を我々が聞いて考えたいこともあって、あらかじめ何人か選抜した演者にも参加してもらって、あとのメンバーはオーディションで決めました。
── 今回は、〈ROHDOKU camp〉の一旦の集大成みたいなものになるわけですか?
〈ROHDOKU camp〉は本当に朗読だけでやっているから、それとはまたちょっと違います。あくまでもこの公演は、「表現として、朗読というものがどういう可能性を持っているか」ということの、僕からすると実験的な要素もあるかな。「声」というのは聴覚に訴えてくるものなので、視覚的なものも必要なのかなと。ただ言葉を聞いていたい、という思いもあって、視覚的なものは要らないという考えもあると思うんだけど、そこに例えばダンスやオブジェがあった時に、それをどう感じるのか、と。むしろ視覚的な情報が入ってきた時に、聴覚で聞いている言葉のイメージに何かプラスしていけるような作業ができていればいいかな、と思っているんだけど、その辺りを演出しながらずっと試行錯誤しているところですね。
稽古風景より
── 服部さんからも、提案やアイデアが出てきたりしたのですか?
それはいっぱいあります。古典の方に至っては、要するに言葉の意味がわからないわけなので、音楽に振付けるダンスと同じように、「言葉を音楽だと思って創る」と言って。
── それは面白そうですね。
僕が想定していた以上に、君は大変なことをやり始めちゃったね、と思ってるけど(笑)。本人もしまった! と思ってるかもしれないけど、面白いものにはなっていると思いますよ。
── 美術と衣装は美術家のヨコヤマ茂未さんが担当されますが、どのような感じに?
美術もいろいろと試行錯誤していて、芥川作品を3作、「今昔物語」も3作読むわけなので、彼女は最初、その1本1本に合わせた美術を作ろうかとも言っていたんですけど、最終的にはひとつの空間造形みたいなものになりましたね。
── それは大掛かりな感じですか?
だんだんそうなっていきましたね。
── ヨコヤマさんはご自身の個展でも、大掛かりな立体作品も創られていますものね。
そうそう、美術をどうしようかと思っていた時にたまたま個展を見に行って、「こういう公演を考えているんだけど」と言ったら、「いま私、平安とか室町時代のことにすごく興味があって」と言っていたので、あぁこういうのは縁だな、と思って。
── 小野浩輝さんが担当される音楽については?
小野君に僕の公演へ参加してもらうのは、『霊長類、南へ』(【あいちトリエンナーレ2016 舞台芸術公募プログラム】として上演)に続いて2回目で、今回もオリジナル曲を創ってもらっています。
── どんな感じでオーダーを?
気配みたいな感じなのを創って、とか、ここはもうちょっと近代的な感じで、とか。音楽の比重も高くなってきていますね。
稽古風景より
── 劇場はどのように使うのでしょうか。
エンドステージです。最初はセンタステージにしようかなと思ったんですけど、やっぱり朗読は言葉が一方向にしか進んでいかないので、観客に背中を向けるとちょっと厳しいですよね。演劇だったら振り返ったりするようなこともあって、たまには背中を向けることもあるかもしれないんだけども、朗読の場合は立ったらもうその方向を向き続けるので。
── 各作品を読むキャスティングについては、どんな感じで決められたのですか?
声の性質であるとか、ここは2人で読ませようとか、3人でいこうか、というところも何回となく変えながら決めていきました。複数で読む場合は相性みたいなものもあるし、作品の内容によって男性が多い方がいいのか、女性だけでも可能かとか、そういうことも考えながら決めていきました。
── ダンスのキャスティングは、服部さんにお任せで?
そうです。コンテンポラリーの経験が3年以上ある、というのがオーディションの条件でしたけど、そこまで経験がなくてもやる気のある人はどうぞ、ということで一定以上のクオリティーがある人たちが集まったので、ダンスも見応えがあると思いますよ。
取材・文=望月勝美

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