JUJUが確かな歌唱力で示した
邦楽カバーアルバムの
大傑作『Request』

初のアルバムチャート1位獲得作

前置きが大分長くなったので、早速『Request』の中身を見て行こう。以下、全曲をザっと解説してみた。

1.「Hello, Again 〜昔からある場所〜 (Straight Cover)」
【原曲】My Little Lover の3rdシングル(1995年)。
オリジナルのAKKOの声はどこか寄る辺ない感じがあるが、JUJUは声のトーンが落ち着いているからか、そのイメージはなく、原曲にもあるノスタルジックさをやや強調した印象。彼女の声に独特のゆらぎがあることも分かる。当曲は『Request』に先んじたJUJUの14thシングルでもある。

2.「つつみ込むように…」
【原曲】MISIAの1stシングル(1998年)。
イントロでホイッスルボイスは聴けないものの、当然のことながらJUJUのハイトーンもいいことがしっかり分かる。アウトロのスキャットはオリジナルを忠実になぞっている感じで、それができるのも確かな力量があってこそだろう。クラブっぽいサウンドにも原曲へのリスペクトが感じられる。

3.「Time goes by」
【原曲】Every Little Thingの8thシングル(1998年)。
持田香織に比べれば大人っぽい声ではあるが、Bメロの後半からサビにかけて、それに劣らない(?)甘い声を聴くことができる。サウンドアレンジもおもしろい。フワフワした感じがずっと続いていくのは楽曲の世界観の解釈からであろうか。ベースが派手なのは亀田誠治ならでは?

4.「ギブス」
【原曲】椎名林檎の5thシングル(2000年)。
 バンドサウンドだがオルタナというよりもサイケな音作りのせいか、ボーカルも原曲にあるダイナミズム、スリリングさは薄い。それはおそらく意識的にやっているのだろう。サビやCメロはその証左。パロディやコピーにならない程度にエキセントリックな雰囲気をまとっている。

5.「There will be love there -愛のある場所-」
【原曲】the brilliant greenの3rdシングル(1998年)。
全体的に可愛らしく歌っている印象で、“JUJUはこういう歌い方もできるのか”という発見があった。明らかに川瀬智子の声質とは違うし、サウンドもオルタナっぽくなく、アコギも入ったりして若干フォーキーな感じだけど、それ故に逆に原曲を思い起こさせるところがおもしろい。

6.「Don't wanna cry」
【原曲】安室奈美恵の5thシングル(1996年)。
コーラスワークも原曲に忠実で、最初は、楽器アレンジの数カ所を除いて素直なカバーかと思って聴いていたのだが、実際に聴き比べてみると随分違っていた。だが、JUJU版も突飛なリアレンジの印象はなく、その意味ではオリジナルのエキスを上手く抽出したと言えるのかもしれない。

7.「LOVER SOUL」
【原曲】JUDY AND MARYの13thシングル(1997年)。
オリジナルのグランジっぽさは残しつつも、リズムをニューオーリンズ風に変えてあり、原曲と雰囲気が異なるナンバーだと思う。これもまた編曲は亀田誠治である。一方、歌はプレーンに歌っている印象。当然サウンドよりも歌が前面に出ていて、ジュディマリ版よりも万人向けと言えるかも。

8.「WHITE LOVE」
【原曲】SPEEDの5thシングル(1997年)。
本作中、最も原曲からリアレンジされた楽曲だと言えると思う。ストリングスを加えて落ち着いたサウンドにしているのもそうだが、素人が聴いても明らかにコードが違う箇所もチラホラ。歌声も全然違うが、オリジナルを歌っているのは10代半ばのお嬢さんたち。こればかりはいかんともしがたい。

9.「すき」
【原曲】DREAMS COME TRUEの16thシングル(1994年)。
ピアノ中心のサウンド。ゴスペルチックなコーラスワーク。そしてソウルフルな歌唱と、ドリカム版へオマージュを捧げたような、とても素直なカバー。独自のフェイクといったものはほとんど見受けられず、元のメロディの抑揚を正確になぞるボーカリゼーションには生真面目さすら感じる。

10.「WILL」
【原曲】中島美嘉の5thシングル(2002年)。
中島美嘉とJUJUとの声質は誰がどう聴いても異なっており、原曲に寄せるとパロディになってしまうわけで、これもまたあえて寄せてない感じではある。ただ、メロディに因るところか、歌詞の効果か、どことなく少女っぽい印象はある。ピアノとストリングスを配しているのはオリジナル同様。

11.「Last Kiss」
【原曲】BONNIE PINKの18thシングル(2004年)。
寸分違わないとは言わないまでも、その歌い方に大きな差異がないことに逆に驚かされた。バンドサウンドにストリングスという構成も、その容姿だけ見れば原曲と大きく変わりはない(原曲は若干サイケ)。こちらの楽曲は12thシングルの1曲として2010年2月に発表されている。

12.「First Love」
【原曲】宇多田ヒカルの3rdシングル(1999年)。
オリジナルは和製R&Bの代表曲だが、JUJU版はそれをジャジーにアレンジした印象。原曲の宇多田の歌唱には独特の揺れがあってそれもどこか寄る辺ない感じだが、こちらはやはり大人な感じ。どこまで意識的か分からないけれど、M11「Last Kiss」からM12「First Love」という流れが心憎い。

本当にザっと聴いた限りでも、M6~M8のサウンドが原曲とわりと異なる感じではあるものの、全体には素直というかプレーンというか、突飛な印象のないカバー集である。歌声もオリジナルの歌い手に寄せていないだけでなく、フェイクを多用したりすることもなく、(言い方がそれで合っているかどうか分からないけれど)極めて真っ当に歌っている。過不足ない…と言ってもいいだろうか。過度に独自の解釈を入れることもなければ、歌詞、メロディの改変がないのはもちろんのこと、原曲の持つ雰囲気や匂いを大きく損ねることなくカバーしている。冒険していない…という捉え方もできるかもしれないが、そうではないと思う。ここまでプレーンだとこれは意図的だろう。突飛なことをする必要がないと判断したのだと思われる。彼女は歌手である。ひとりのボーカリストとして、先人とその楽曲に徹底したリスペクトを込めつつ、真っ当に歌に向き合った結果、『Request』はこういう作品になったのだと思う。ただ、冒頭の話に戻れば、これは自身のボーカルに相当な自信、自負がなければ容易にできることではない。派手さはないが、JUJUのその凄みもじわじわと感じるアルバムである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Request』2010年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.Hello, Again 〜昔からある場所〜 (Straight Cover)
    • 2.つつみ込むように…
    • 3.Time goes by
    • 4.ギブス
    • 5.There will be love there -愛のある場所-
    • 6.Don't wanna cry
    • 7.LOVER SOUL
    • 8.WHITE LOVE
    • 9.すき
    • 10.WILL
    • 11.Last Kiss
    • 12.First Love
『Request』(’10)/JUJU

OKMusic編集部

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