元宝塚歌劇団トップスター・北翔海莉
にインタビュー 初の母親役&男役、
異なる2役に「全然違う”北翔海莉”
を見てほしい」

東京・天空劇場では、2019年10月22日(火)~25日(金)まで音楽劇『ハムレット』が、11月13日(水)~15日(金)まで『海の上のピアニスト』が上演される。
シェイクスピア4大悲劇のひとつであり有名な復讐譚でもある『ハムレット』では、デンマーク王子ハムレット役をCROSS GENEのKIM YONGSEOK(キム・ヨンソク)が演じる。また、『海の上のピアニスト』は昨年に引き続いて再演となった人気の演目で、同名イタリア映画が原作となっている。北翔海莉と大井健(ピアノ)が2人1役で、豪華客船の上で生まれ一生を過ごすピアニスト・ノヴェチェントを演じ好評を得た作品だ。今回は京都、博多の地方公演も決定しており、北翔・大井のほか、ノヴェチェントを見守る唯一の友としてWキャストで喜多村緑郎と音楽監督を務める中村匡宏が出演する。同役は、東京公演は喜多村が、地方公演は中村が演じることになっている。
この2つの演目に続けて出演するのが、元宝塚歌劇団星組トップスター・北翔海莉だ。『ハムレット』では、ハムレットの母・ガートルード役で女優人生初の母親役を、『海の上のピアニスト』では主役・ノヴェチェントという男性ピアニストの役を。10月~11月という短い期間に、異なる2つの役柄を演じる北翔に、それぞれの演目について話を聞いた。
■女性が持つやさしさや強さ、ぶれない気持ちを表現できたら
ーーシェイクスピア劇は宝塚時代の『暁のローマ』以来かと思うのですが、4大悲劇でもある『ハムレット』への出演です。
そうですね。ここまでがっつりシェイクスピアっていうのは、卒業してからもなかったので、正直にとても嬉しいです。『ハムレット』の作品名を伺って、「私だったらガートルードをやりたいな」って思っていました。作品によっては、2番目の役が意外と濃い役というか、今回でいうなら「悪女」として表現するのか、「本当は何も知らなかった」という方にやるのかは、脚本が出きて、演出の藤間先生の表現の仕方で変わっていくかと思うんですけど。実は藤間先生とのお仕事は今年は6回目なんです。
ーーすごいですね、今まだ9月ですもんね。
そうなんですよ、”月刊藤間”ってくらいお仕事させていただているんです。今回和物・お着物・三味線でもなく、”洋物”を”和”の藤間先生が演出されるっていうのが、一番魅力を感じるところです。
北翔海莉
ーー本日チラシの撮影をされたと伺っています。
はい。本番は少し違うとは思いますが、なんといっても初めてお母さん役になります。なんだかこう、衣装着て化粧して……赤い口紅を塗ったときに、私の演じたいガートルードの強さみたいなのを感じたんですが、撮影の時には「もうちょっと息子を思う母親みたいな表情で」と言われたので「きつすぎたのかな?」と思ったんですけどね(笑)。シェイクスピアは、見事にオフィーリアとガートルードに対比した女性の生き様を描いていると感じています。女性が持つやさしさ、そしてその半面の強さだったり、信念、ぶれない気持ちみたいなものを表現できたらと思います。
和物じゃないけど鳴り物はなるとか、どうなるのかなぁ。今回は、それぞれ歌わせていただく部分もあるので、ガートルードの歌もあるそうです。そういう意味ではミュージカルのような、新しい「令和ならではのシェイクスピア」になるんじゃないかなって思います。
ーー初の母親役ということですね。
そうですね、お父さん役はたくさんあるんですけど。すごく嬉しい話です。
ーーキャスティングを聞いた時点でどう感じられましたか?
これから顔合わせですが、ハムレットを演じるキム・ヨンソクさんについては、イケメンと聞いています(笑)。息子をあんまり溺愛する部分が出てはいけないとは思いますけど……、どんな感じになるんでしょうかね、本当にまだ想像がつかないです、母親役というものは。

北翔海莉

■演奏と感情がひとつになって流れている、不思議な空間
ーー一方の『海の上のピアニスト』は再演ですが、再演決定を伺った時のお気持ちをお伺いできますか?
自分にとっても、この作品から学んだことが非常に多かったので、またあの世界観を演じられるのはありがたかったですし、お客様からも「また見たい!」って声が大変多かったので、お客様の夢がかなってよかったなという想いがあります(笑)。
また、再演にあたり、喜多村さんと中村さんで相手役がWキャストなんですね。再演だからこそ演出も変わるんでしょうけど、そういう部分と、相手役が変わると見え方が変わってくるので、相手役さんによって引き出されるものも違いますし、各場所でやるものが違う、そこでしか出せないノヴェチェットができるんじゃないかなって楽しみがあります。
ーー今回は京都、博多公演と地方公演もありますね。
それぞれが全く違うと思いますよ! 本人も分かっていないと思うんですけど、喜多村さんと中村さんって本当に全っ然違うんで、私も想像できないです(笑)。
喜多村さんは新派の世界とか歌舞伎とかでどういう役者さんか皆さんイメージできるかなって思うんですが、中村さんは音楽を作る際の表現力は役者よりもすごいパフォーマンスをされる方なので、そういう部分では感情豊かに演じるんだろうなって思う部分もありますし。中村さんは誰よりも台本を読み込んでいた人だから、誰よりも私のノヴェチェントの感情を知っていて、それを音楽で全部表現するので。そういう意味では、中村さんが舞台のすべてを知っている人なので、すごく面白い演技をなさると思います。
ですので、場所は遠くはなってしまうんですけど、2つのバージョンを見ないと損をするなと思いますね。
ピアノ対決もどうなるのか楽しみです。今までは喜多村さんの部分も大井さんが弾いていたピアノを、中村さんが弾くので。そういう場面は、私がぽかんと口を開けてみている形になると思います、「すごいーこうなるんだー」って。是非両方見てください!

北翔海莉

ーー昨年の『海の上のピアニスト』のもっとこうしたかったな! ということなどはありましたか?
大井さんのピアノとの2人1役なので、少しだけ一緒にピアノに参加したんですけど。もっと私が上手だったら、違っただろうなあと思ったので、今年は再演バージョンのコラボが出来たらいいなあって思っています。
ーーピアノのお稽古とかをされている形ですか?
いいえ、そういう表現じゃなくて……なんていうのか、ジャズに近いような。爆発的な演奏なので。作曲の中村さんと相談して、前回とは違うピアノを出来たらいいなと思います。
ーー2人1役に挑戦されて、いかがでしたか?
役替わりのWキャストとかはよくありますが、ひとつの役をふたりで舞台上で演じることはなかったので、どうなるのかとはじめは思っていました。でも不思議なことに舞台上でずーっと大井さんが演奏されているんですけど、ふたりでひとつの演技になっていたし、私のセリフの感情がピアノでも表現されていました。しゃべらない時の感情や、海の波の激しさや穏やかさをすべて、大井さんのピアノが表現されていたんですよね。本当に不思議な空間で、3人しか舞台にいないんですけど、大勢いるような、けれどもひとりぼっちのような……あれはなんと表現したら……。映像では伝わらない、あの空間にいないと伝わらない何かがありました。うまく表現できないんですよ……まるでお客様もみんな船に乗っているようであり、みんなが人生を見ていたり、乗客だったり、なんだか不思議な作品でした、ふふ。
映像には映らない、音楽と空間で、本当に海が見えるんです。嵐になったり、夕日が沈むころになったり、朝日が昇る雰囲気だったり……ノヴェチェントが生まれてからこの世を去るまで、そのすべてのものがそこに入っているという感じですね。

北翔海莉

ーー実際にクルーズのお仕事などされていましたけれど、ノヴェチェントへ共感する部分などはありましたか?
クルーズのお仕事をしてからの『海の上のピアニスト』だったので、すごく理解しやすかったです。船の中の生活感だったり、豪華客船だからこその華やかな舞台の裏の従業員の方たちがどんな風に、どんな形で生活しているか、裏の部分も見ることが出来ていたので、波の衝撃の受け方も違いました。それこそ、ドレスコードがあるようなエリアに自分がパフォーマーとして立っていた部分もあるので、たったひとつの船の中でも、様々な場所を見ることが出来てあの舞台に立つことが出来、あの世界観に入りやすかったです。
ただ、ひとつ。「陸に降りたことのない」ノヴェチェントの心には、葛藤だったり恐怖心だったり、陸に降りた時の夢とかもあったわけですね。でも、実際に階段を下りて一歩陸に踏み出そうとした時の恐怖心とか、それがね、とても未知の世界でした。それが、不思議と大井さんのピアノですべて感情を導いていただいた感じがありました。
ーーノヴェチェントで一番好きなシーンはどこでしたか?
ダイナマイトの箱に座るところですね。船の上のすべての部分を見ていくんですよ、自分の人生の走馬灯のように。すべてが詰まっているシーンでそこが一番好きです。
■どちらも役への共感や、お客様の心に寄り添うことを大切にしていきたい
ーー『ハムレット』も『海の上のピアニスト』も愛が大きなテーマになっている作品だと思うんですけれど、北翔さんが『愛を演じる』時の心がけていることはありますか?
そうですね……。作品の役によって、愛が憎しみに変わることもあるし、思えば思うほど憎さ百倍になったり、愛が男女の愛だけではなくて、男の友情だったり、親の子の愛だったりもそうですし、色んな表現がありますよね。
第一に自分がその作品の中で表現することよりも、それを見ているお客さんの心に寄り添うことがテーマなんじゃないかなって思っています。どんな役であろうとも、誰しも人間が持っている感情の中で「もしかしたら、自分もああなっていたのかもしれない」とか「そういう心が無きにしも非ずだな」とか、そういう共感する部分、お客様の心に寄り添うということを、いつも心のどこかに置きながら挑んでいます。
北翔海莉
ーー『海の上のピアニスト』を演じた時には、どういったところに寄り添おうと感じられていましたか?
両親の顔を見たことがないですとか、育ててくれた人への愛だったり、はじめて友達ができる喜びだったり……それが人じゃなく海だったり、鳥だったり……『海の上のピアニスト』にとっては、そういう日常のすべての場面が共感していただけると思います。
ーー男性役と女性を演じる上で、何か違うことはありますか?
全く変わらないです。ただ、着ている服が違うくらい。男性でも女性的な感情を持つときもあるし、女性でも侍のような心を持つことがありますから、男女関係ないなと考えています。それぞれの役を表現する上で、あんまりそういう部分を意識していないです。
ノヴェチェントは、海の上で生まれて死ぬまで船の上で過ごす人物なんですね。世の中の嫌な部分とかをそこまで体験せずに育っていくので、いかに純粋に、人を疑うことなく来たかというところを表現しなくてはいけないので、男性とか女性だからとかじゃない、どこか妖精的な、心の汚れていない部分を出すのが大変かと思います。
ーー最後に、2つのステージを楽しみにしている方にメッセージを。
私のお客様に関しては全然違う作品を月をまたいでやるので、金太郎飴じゃなくて、全然違う北翔海莉が出てきたなって思っていただけると思いますし、違う世界観を楽しんでいただきたいです。
『ハムレット』やシェイクスピア作品に興味を持たれた方は、和の藤間先生で『ハムレット』のお芝居っていうことを是非楽しみにしていただきたいです。
『海の上のピアニスト』については、新しいキャストとグレードアップしたとことを楽しみにしていただきたいです。
北翔海莉
取材・文=森きいこ 撮影=岩間辰徳

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