「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」ティザービジュアル

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【数土直志の「月刊アニメビジネス」
】ゴールデンタイムから「ドラえもん
」「しんちゃん」が消えた理由

「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」ティザービジュアル(c) 臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2020 長年テレビシリーズが続く人気アニメ「ドラえもん」と「クレヨンしんちゃん」の放送時間が、2019年10月から変更になる。これがちょっとした話題になっている。

 現在は「ドラえもん」が毎週金曜日午後7時半から、「クレヨンしんちゃん」が同じく午後7時から、いずれも全国テレビ朝日系で放送されている。テレビ朝日は10月より土曜日午後4時半から5時半の1時間を「アニメタイム」とブランディングした新たなアニメ枠として、ここに「ドラえもん」(5時~)と「クレヨンしんちゃん」(4時半~)とが移ってくる。
 テレビ朝日では放送時間変更を“お引越し”と銘打って、記念スペシャル企画も実施するお祭りムードで盛り上げる。しかしアニメ関係者には、「いよいよ来るべきもの来た」とやや気落ちした空気も漂う。両番組の移動で、地上波キー局の「ゴールデンタイム」からアニメ番組が消えるからだ。これは1964年1月からの「鉄腕アトム」以来、実に55年ぶりになる。
 「ゴールデンタイム」とは、午後7時から11時の4時間の放送を指したものだ。テレビの前に多くの視聴者がいて、高い視聴率がとれる人気番組が集まる時間帯である。高い視聴率は高額のスポンサー料につながるから、ビジネス面からも重要となっている。
 「ゴールデンタイム」からアニメが消えるのは、つまりその時間帯に必要な視聴率をアニメがとれなくなっていることを意味する。もちろん今は視聴率全体が漸減傾向にあるが、なかでもアニメは目立つのだ。
 テレビ朝日の資料によると18年12月から19年6月までの同局のゴールデンタイムの平均視聴率は10.7%。これに対して19年の9月第2週までの「クレヨンしんちゃん」の平均視聴率は7.3%(最高視聴率8.9%)、「ドラえもん」は平均視聴率6.8%(最高視聴率8.7%)だ。(いずれも特番を含む) 10、20年前は軽く2桁の視聴率だったことも考えれば落ち込みはきつい。
 これはゴールデンタイムだけでなく、夕方帯や週末朝帯といった全日帯に放送されるファミリー・キッズ向け作品に共通する特徴である。
 アニメ視聴率低下には理由がある。視聴者の主力は小学生以下の子どもだが、日本では子ども人口が減少し、人口に占める割合も減っている。さらにテレビ離れもある。若年層ほど地上波テレビを観る時間が減っており、こうした傾向はさらに強まる。
 ではアニメの放送を止めるという選択はないのだろうか。テレビ朝日には、アニメ放送から撤退できない理由がある。「ドラえもん」と「クレヨンしんちゃん」のアニメーション制作はテレビ朝日の子会社シンエイ動画が担当し、さらに作品からのライセンス収入が大きい。テレビ放送以上にキャラクターから生まれる利益が無視できない。さらに番組やキャラクターの認知度を上げるには、視聴者の多い時間でのテレビ放送が欠かせない。
 劇場映画との連携もある。テレビ視聴率の漸減とは逆に、毎年公開される両作品の劇場映画の興行収入は近年大きく伸びている。これも大きな収入だ。しかし映画もテレビシリーズを通じた認知度があってこそだ。
 とはいえ放送局にとって、視聴率は営業の生命線である。ゴールデンタイム全体の平均視聴率が下がると、CM枠の単価が下がる。これは避けたい。そこで妥協の産物として、視聴率に合った放送時間として土曜日の夕方との結論がでたのかもしれない。
 今回はテレビ朝日だが、この問題は多かれ少なかれ他の地上波放送局に共通する。ゴールデンタイムこそないが、テレビ東京や日本テレビ、フジテレビは午後5時から7時までの夕方帯や土・日の朝帯にアニメ放送枠を持つ。視聴率と番組から生まれる二次展開のビジネスのバランスに頭を悩ましているに違いない。
 放送局それぞれの経営も重要だが、全日帯でのアニメ放送の減少はアニメ業界全体にとって大きな問題だ。ファミリー・キッズ作品は、ヒットすれば国内だけでなく世界から大きな売上げをもたらす。
 もちろん日常系からギャグ、SF、ファンタジー、ラブロマンス、アイドル系まで、多様性に溢れるコアファンに向けの深夜アニメも重要だ。しかし長く続き、大きな収入をもたらす可能性がより大きいのはファミリー・キッズだ。ここが弱くなれば、2つの柱のひとつがなくなる。
 すでに問題は表れはじめている。全日帯の放送枠減少で、ファミリー・キッズ向けの大型作品が生まれ難くなっている。今このジャンルで人気が高いのは、「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」「名探偵コナン」「ワンピース」「ポケットモンスター」、さらに「サザエさん」「ちびまる子ちゃん」、いずれも20年から50年もの長い歴史を持つ。比較的新しく感じる「NARUTO」シリーズすら、テレビアニメスタートから18年目だ。このラインに新しく加わるのは至難の業だ。
 「ドラえもん」と「クレヨンしんちゃん」の放送時間移動は、日本のアニメが置かれた厳しい状況も垣間見える出来事なのだ。

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