フロアジャグリング「頭と口」の渡邉
尚と人気フレンチジャグラー「Defra
cto」のギヨーム・マルティネがタッ
グ!~『妖怪ケマメ』で久々の日本公

「ジャグリング」といっても大道芸などで見るようなタイプのものとは違う。球を床に置いたり、口でくわえたり、足でキャッチしたり。軟体芸やアクロバットなどを駆使し、全身を自在に使う独自のスタイルで業界に波紋と驚きを巻き起こした、ジャグリングカンパニー「頭と口」主宰の渡邉尚。2016年11月のKAAT神奈川芸術劇場での『WHITEST』を最後に海外を中心に活動していた渡邉がKAATで凱旋公演を行う。今回の相棒はフランスサーカス界のトップカンパニー「Defracto」のギヨーム・マルティネ。現在拠点とする沖縄で渡邉をキャッチ! 新作『妖怪ケマメ −L’ esprit des haricots poilus−』の裏話やそれにつながるライフスタイルのことを聞いた。
パリに移って早々にギヨームと出会った幸運
――まずは前回のKAAT公演以降の活動について教えてください。
渡邉 2016年末から今までずっとパフォーマンスの仕事でいろんな国を転々としていました。初めはツテもお金もない状態でフランスに飛び込み、友達に紹介してもらった人の家や公園で会った人の家に泊まったり、野宿をしたりして旅していました。それから2カ月くらい経って、業界関係者が集まる大きなフェスに出演する機会があり、そこで話題になったおかげでたくさんの人に興味を持ってもらえました。口コミが続いて今もいろいろな国に呼んでもらっています。
――『妖怪ケマメ』で共演するギヨームもそんな流れで出会ったのですか?
渡邉 最初はトゥールーズという街に入ったんですけど、パリに行く際にフランス人の友達に「誰か泊めてくれる人いない?」と相談したらギヨームを紹介されたんです。彼の家に滞在するうちに意気投合し一緒にやることになりました。
 ギヨームはジャグリング界の有名人。前からYouTubeで見知っていて、フランスに行ったら会ってみたいなと思っていたんですよ。ラッキーですね。ギヨームは立った状態で行う普通のジャグリングに飽きたと言っていたし、僕はギヨームの独特な身体性と共演することに興味があった。お互い新しいことに挑戦しながらコラボできる、またとない機会でした。
――いつごろから『妖怪ケマメ』の作品づくりを始めたんですか?
渡邉 本格的に開始したのは一年半くらい前。お互い時間をつくって少しずつ進めているので時間がかかっているんですけど、そのお陰でたくさん話し、さまざまなことを交換しました。僕は一番興味があることしかできない性分なんです。ヨーロッパで見つけたジャグラーで一番気になったのがギヨームなので彼を口説き落とした。今のところは彼以上に気になるジャグラーはいないですね。
儀保桜子(上)と渡邉(左)とギヨーム
ジャグラーは内部にどんな妖怪を飼っている?
――どんな作品になりそうですか?
渡邉 コンセプトは人間の体の中にある妖怪性です。よく街を行く人びとを見て、妖怪みたいだなって思うんですよ。あのおばあちゃんもうすぐシッポが生えてきそうだなとか、あの人は前世が鳥系だなとか。そういうギリギリで人間社会から漏れ出てしまったところが面白い。じゃあジャグラーはどういう妖怪を飼っているんだろうとギヨームと話をして、自分たちに宿る妖怪性を探す作品をつくってみようということになりました。
 ギヨームのカンパニー「Defracto」はスタイリッシュでエンタメ的なものが得意なので、老若男女楽しめる作品になってると思います。僕一人では決してつくれなかったものですね。
――お互いの中にどんなものを発見しましたか?
渡邉 僕とギヨームは身体が全然違うんです。ギヨームは身長が高くてひょろ長くて節足動物のナナフシや、操り人形みたいな感じ。それに対して僕はアメーバーとかカエルとか、水生生物系。二人で同じ動きを研究していても全然違う印象になる。
『妖怪ケマメ』は国境を越えたコラボレーション
――スタッフもフランスの人たちとのコラボになるそうですね。
渡邉 そうなんです。音楽、照明、衣装、ドラマトゥルク、制作などフランスのメンバーが8人も参加しています。特に日仏コラボしているのが音楽。日本からは野村誠さん、フランスからはシルヴァン・ケモンさん、素晴らしいお二人にコラボレーションしてもらいました。シルヴァンさんがプログラミングで瓦や竹を叩く演奏ロボットをつくってくれて、野村さんがそれに合わせて即興で演奏して曲ができていく。物が妖怪的に勝手に動いてくれたらいいなと伝えたら、シルヴァンがこのロボットのアイデアを出してくれたんです。KAAT公演では野村さんが生演奏もしてくれます。瓦を使うアイデアは野村さんの以前の作品から着想を得ました。
――野村誠さんというと、老人ホームでお年寄りと音楽をつくっていらっしゃる方ですか?
渡邉 そうです、そうです。僕が大好きだからお願いしました。野村さんは今回の作品になくてはならない妖怪っぽさというか、湿度みたいなものを持ってきてくれました。
――衣装やジャグリングボールもコラボだとか?
渡邉 はい。衣装はエヴ・ラゴンさんにつくってもらいました。ジャグリングボールは儀保桜子さんが一つ一つ手編みでつくっています。ボールが大事に使われすぎた結果、毛が生えてきたり突起が出てきたり扱いづらい形になってしまったという設定。今回の作品は、全部それぞれ自作したものが使われています。用意された技術や製品を使わず、自分に合ったものを自分でつくる。『妖怪ケマメ』の裏テーマでもありますね。この裏テーマは実は僕の生活のテーマでもあるんですよ。
沖縄にて
ジャグリングを“生活”に
――生活のテーマというのはどういうことですか?
渡邉 『妖怪ケマメ』をつくる前から考えていたことなんですが、自分のジャグリング・スタイルを見つけたいと思ったら自分のライフスタイルを見つけないといけないと思うんです。なぜかというと、トレーニングは生活には勝てないからです。例えば、僕は今沖縄に住んでいますが、沖縄の人ってサバイバル能力がめちゃくちゃ高くて、普通のおじいおばあがめっちゃ貝に詳しかったり、潜りが上手かったり、野草のことを知っていたりする。メキシコには、マラソンの世界大会であっさり優勝していくくらいに走れる少数民族がいる。それは彼らの生活の中に技術があるからなんですよ。
――たしかに、生活の中の技術など目を見張るものがありますね?
渡邉 だから僕もジャグリングやダンス、生き方そのものさえも生活に落とし込んでいかなければ意味がないんじゃないかと。最近は移動は全部徒歩でしてみたり、素潜りして貝を採って食べたりしています。自分は本来仕事とかなければどういう生活をするのか確かめるために100日間予定を入れない実験もしました。あと旅が多いこともあり家なし生活なんです。もうまる3年は家や宿に一円も払っていません。家がないので荷物も持ち運べる分くらいしか持っていないんです。生き方を変えれば自ずと身の回りの物が変わる。そういったことが全部つながっているんです。ジャグラーは物とかかわることの専門家です。それは芸のための道具だけじゃなく、生活にかかわるすべての物が対象です。
 僕は今過渡期の真っ只中にいます。興味が舞台やジャグリングに収まらない範囲になってきているので、そのうち新たな活動スタンスになっていくと思います。今はその変化を楽しんでいますね。
(c)️Pierre Morel
取材・文:いまいこういち

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