劇団子供鉅人『不発する惑星』作・演
出の益山貴司が語る~「令和という新
時代に向けた、反抗みたいなものが見
えたら」

六畳一間の密室劇から、広大な空間を生かした野外劇まで。あるいは叙情性にあふれたハートフルな会話劇から、にぎやかな生演奏に合わせて不埒な世界を展開する音楽劇まで。様々なスタイルの演劇を、関西人ならではのユーモアとサービス精神てんこ盛りで見せていく「劇団子供鉅人(こどもきょじん)」。次から次へと違うスタイルの演劇に挑戦する「演劇のデパート」状態の彼らだが、次回作『不発する惑星』は「演劇の原点に戻る」と宣言する。オリンピックムードに浮かれる東京で、その波に乗り切れない人々を描いたブラック・コメディになるという新作について、劇団主宰で作・演出の益山貴司に話を聞いた。

■「何をやりたいか」より「何をやらないか」が重要なのでは。
──いつも「次の一手」が読めない子供鉅人ですが、今回はどんなスタイルで攻めようと考えていますか?
昨年は水上舞台で100人規模のシェイクススピア芝居をして、今年の春は普通の家でSF作品を上演してと、借景を使う公演が続いたんで、劇場空間でめっちゃ「演劇」っていうことがしたくなりました。最近考えるんですけど、劇場でするのが一番難しいと思うんです、演劇って。何もない所に役者が存在するというのは、やっぱりすごく大変なことだなあと。今回はそういう、原始的な意味での演劇の難しさと面白さに挑戦したいです。
──空間を自分の意向で簡単には動かせない、劇場以外の場所の方が芝居作りは難しいんじゃないかと思いきや、益山さんはそうではないんですね。
たとえば家でやる時は、まず「家を舞台にする」という前提があるだけで、一個手数が減るんですよね。何もない空っぽの空間に、何かを立ち上げるというのは、完全にゼロからスタートだし、より発想力を問われることになると思います。それでいうと今回は、プロレスとか能舞台みたいな美術にしたいなと。舞台上にリングみたいな場所があって、そこに役者が上がったら芝居が始まるという、シンプルな舞台にする予定です。小道具もあまり使わず、できるだけ無対象にして。最近ねえ、何をやりたいかっていうよりも「何をやらないか」ということの方が重要じゃないか……と思い始めまして。役者たちが何もない空間で、台詞と身体でぶつかり合う演劇ができたらと思っています。ちなみに(内容は)コメディです。ブラック・コメディ。
劇団子供鉅人『真夜中の虹(再演)』(2018年)。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)
──来年の東京オリンピックが、一つのモチーフになるそうですが。
それを物語にどこまで反映するかは、まだわからないんですけどね。オリンピックで日本が明るい未来に向かっていくのは、すごくステキなことやと思うんですけど、僕は天邪鬼やから、時代の進化についていけない人間の方を考えてしまうんですよ。そこには物語がある、という気がするので。もう一つモチーフになるのが、不発弾。みんな自分の心に、不発弾を持ってるんじゃないかと思うんです。達成することができなかった夢とか「あの時こうしていれば、もっといい状況になってた」という後悔って、誰にでもあるじゃないですか? もしそれが爆発したら、人間ってどうなるんやろう、と。オリンピックとか万博とかで、日本は新しい未来に進んでいってるけど、その中で多分いろんな不発弾が溜まっていくんやろうな……というのに、興味があるという感じです。
──その中心となるのが、エロ漫画を描く男だそうですが、彼を主人公にしたのは?
まず「エロ漫画」って響きが面白いっていう、単純な思いつきですね(笑)。あと偏見かもしれないですけど、エロ漫画家って人の欲望のために描いてるという点で、普通の漫画家より純粋な人じゃないかなあと思うんです。そんな純粋な人が、隣の家の主婦と不倫の関係を繰り広げます。何かね、無様なロマンスが描きたかったんです。ドロドロでもなくて、ただただカッコ悪い。カッコ悪い時に、人間の価値って見えるじゃないですか? それを描けたらなあと思いました。
益山貴司(劇団子供鉅人)。
■取り残されてしまうことの恐怖と快感が、自分の中にはある。
──音楽も子供鉅人の重要な要素ですけど、今回のイメージは?
今ミュージシャン(oono yuuki)の人に稽古を見てもらいながら、音を探っている所ですけど、意外とロックな音楽をイメージしてます。最近気持ちがちょっと、ベタな方向に振ってきてるんです。悲しかったら悲しい曲が流れて、勇ましい時は勇ましい曲が流れてもいいんじゃないか? って。役者が登場する時には出囃子を入れるとか、そういうわかりやすい曲の使い方に、逆に挑戦してみようかなと。
──ということは、芝居自体もわかりやすいものになるのでしょうか。
お話としてはわかりやすくしようと思ってますけど、登場人物の持ってる気持ちはわかりにくいかもしれないですね。ひたすら無様な人たちが、無様な戦いを繰り広げる舞台を作りたいという感じです。
──令和初の本公演となりますが、やはりどこかで意識していますか?
僕は昭和の終わりですけど、劇団員たちは平成生まれが多くて。だから平成生まれって聞いたら「新しいなあ! ネクストジェネレーションやなあ!」って思ってたんですよ。でも令和が始まった瞬間、平成が一つ古くなったじゃないですか? 結構自分の中では、それが衝撃的だったんです。やっぱり人って年取んねんな、だからこそその時にできる輝くことってあるなあと。だからうちの劇団員のように、平成という時代に青春をすごした人たちの、令和という新時代に向けた反抗みたいなものが、この舞台から見えたらいいなあと思いますね。そして昭和生まれの僕は、さらに反抗するという。これぞロックスピリットです(笑)。
パルテノン多摩×子供鉅人特別公演 100人シェイクスピア『夏の夜の夢』(2018年) [撮影]佐藤祐紀
──令和に物申す的な?
物申すというよりも……新しい時代に期待もしてるし、ワクワクもしてるんですよ。でもやっぱり自分の性分として、人の気持ちとか思いも含めて、取り残されたものの方に物語を感じるんで、そこをクローズアップしていきたい。時代からズレててもいいし、無様でもいいから、個人的な欲望に溺れてる人たちを描きたいんです。
──私が知る限りですけど、時代に置いてけぼりにされた人や、取り残された風景みたいな所の方にシンパシーを感じるという、益山さんのような劇作家は結構多いですね。
僕は大阪にいた時に、自宅をバーにしていたので、結構毎晩ドンチャン騒ぎだったんです。で、僕は家主やからそこに残るけど、皆は帰っていくじゃないですか? その大騒ぎの後に残った空気を、一人で吸い込む時間が、すごく好きだったんですよ。そこには「楽しかったなあ」というノスタルジーもあれば「もっとこうしたらよかった」という後悔もあったりして。楽しんでいる最中には気づかなかった何かが、後から見えてくるのは、すごく劇的です。
──その空気感は、子供鉅人の芝居を作る上で大きな影響があったのでしょうか?
多分ありますよね。だからもしかしたら、「渦中」にいると脚本が書けないのかもしれないです、僕は。やっぱりみんなから取り残されて、そこで起こったことを引いた場所から見ているという感覚が欲しい。後は何て言うのかな? 取り残されてしまうことの恐怖と快感が、自分の中にはありますね。「ああ、ここには自分しかいない。なんて淋しいんだろう」という感覚って、確かに哀しくはあるけど、ちょっとナルシシズムと優越感があるんですよ、正直。それが快感なんだと思います。
益山貴司(劇団子供鉅人)。
■生きること自体がサバイバルみたいな状況って、観てて面白い。
──子供鉅人の芝居は「何でもあり」なイメージが強いですが、常に何か一つ共通の芯が通っている印象があります。その「芯」は何だと思いますか?
うちは本当に何でもやりますけど、結果として演劇をやってるつもりなんですよ。だから芯があるとしたら「演劇をしている」ということです。たとえば昨年、パフォーマンス系のコンペに参加した時に、僕らは「お化け屋敷」をやったんです。それは一見荒唐無稽なパフォーマンスに見えますけど、役者が「お化けをやる」という演技はちゃんとしているわけで。やっぱり演劇をしていないことは、一回もない。パフォーマンスに見えても、根本は演劇をやってるつもりなんです、僕らとしては。
──演劇とパフォーマンスの、益山さんなりの線引きというのは?
人が人を演じるかどうかですね。パフォーマンスは本人が素で出ることもあるし、芝居しなくて踊るだけでもOKなわけなんで。自分じゃない何かを演じるということが、やっぱり演劇の大原則だから、それをしているかどうかだと思います。とは言いつつ「自分じゃない」ということは、絶対にないとも思うんですね。たとえばみんな一度ぐらいは「人を殺したい」「お姫様になりたい」とか、思ったりするじゃないですか? だから殺人鬼の役にしても、お姫様の役にしても、自分の何かの引き出しを開けるだけで、結局は自分でしかない。でも演劇というのは、状況設定が与えられるわけで。そこに対しての反応の仕方は、「自分じゃない」反応の仕方をするってことはあると思います。
──「演技」というレイヤーが入ってなければ、子供鉅人ではなくなると。
そうですね。あと、見世物になってないと、エンタメになっていないとイヤっていうのもあります。やっぱりお金を払った分はちゃんと楽しませないと、って気持ちがあるんですよ。水商売気質なんで(笑)。
劇団子供鉅人 家公演『SF家族』(2019年) [撮影]中島花子
──それと以前「恋愛は不可欠」という話もされていた記憶があるのですが。
「すべての物語は、恋愛についての物語である」という格言みたいなのがあって、僕はそれに激しく同意するんですよ。恋愛って抽象的やし、不条理やないですか?「え、あの人のそこが好きなん?」とか。それって誰にも理解できない理屈かもしれないけど、同時に誰もが理解できる感情でもあるという、すごく不思議な題材なんですよね。誰かを好きになったことがない人なんていないという意味でも、激しく共感できるものだったりするし。
──益山さんはたまにクレイジーな恋愛ものを書くことがありますが、今はそのターンに入ったということでしょうか?
そうですねえ。やっぱり題材として面白いってことやと思います、恋愛が。この前映画で近松門左衛門の『冥途の飛脚』観て、めっちゃ面白かったんですけど、近松が描いてるのって、恋愛も含めた義理人情の中であがく、人々の生きざまじゃないですか? 現代の我々からしたら「そこまでして生きたいか?」って、ちょっと思うような。でもそういう、生きること自体がサバイバルみたいな状況って、観てて楽しいんですよね。今は「別に無理して生きなくていい」みたいな選択肢もいっぱいあるけど、人として生まれた瞬間に、激しく生きなきゃいけないという宿命があるって、何か面白いなあと。
──そう言われると恋愛って、一番「不発」の要素が多い題材かもしれません。
かもしれないですね。そういう欲望が解放されるのが、いいことか悪いことかどうかはわかんないですけど、少なくとも劇的ではあるだろうなあと。だからまあ、激しい舞台にしたいですよね。最近しっとりした作品が多かったのもあって、すごく自分の中で何かが荒ぶってるのかもしれないです、今(笑)。
益山貴司(劇団子供鉅人)。
取材・文=吉永美和子

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