【インタビュー】レルエ、初フルAL『
Alice』完成「ファンタジックなもの
を求めている」

3ピースバンド「レルエ」が、初のフルアルバム『Alice』をリリースする。ギター&ボーカル、ドラム、ヴァイオリン&シンセという変則的な編成から生み出される、スケールの大きなメロディとダンサブルなビート、そして、どこか幻想的な世界観をはらんだ歌詞世界── EDMの快楽性と覚醒感、そして、ジャパニーズロックの内省とダイナミズムが闇鍋のなかでグツグツと煮込まれたようなサウンドは、一見「王道」のようでありながら、その実、「コロンブスの卵」的発想によって生み出された、奇天烈かつ魅惑的な色香を放っている。アルバム『Alice』は、そんなレルエの音楽的野心が大胆に花開いた1枚だが、本作のなによりも素晴らしいところは、「これがレルエの完成形だ」とは決して思わせない、未来への予感と可能性に満ちた1作に仕上がっているところだろう。この無邪気に色彩を放つ原石がこの先どう化けるのか、見てみたい── そう思わせるだけの野心と「未知」そのものが、本作の大きなチャームになっている。

本作のリリースを祝して、櫻井健太郎、エンドウリョウ、sayaの3人に話を聞いた。話を聞いて、彼らはこの時代に、この音楽を鳴らす必然性を、しっかりと抱えている音楽家たちだと感じさせられた。
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■ とにかく「綺麗なもの」……星だったり、夜空だったり

── アルバム『Alice』は、非常に大きなメロディが鳴っていると同時に、歌詞の世界観にはどこか一貫した物語を感じさせる部分もあって。総じて、とてもロマンチックな作品として聴かせていただきました。今作が初のフルアルバムとなりますけど、ご自身たちとしては、どんな作品を作ろうとしたんですか?

櫻井健太郎(Vo&Gt):世界観としては、去年出した『UNITE』の世界をさらに広げるようなものを作りたいと事前に考えていました。『UNITE』には「夜」っていうテーマがあったんですけど、その世界観を壊さないようにしながら、今の自分たちがやれることをやったのが『Alice』っていう感じです。

── では振り返ると、『UNITE』のときに「夜」というテーマが出てきたのは、どうしてだったのですか?

櫻井:それは結構ナチュラルに出てきたものだったんですよね。僕は細かいコンセプトを考える方ではないんですけど、とにかく「綺麗なもの」……それは星だったり、夜空だったり。そういうものに近いイメージの音楽を作りたいっていう気持ちが、漠然とありました。

──なるほど。

櫻井:聴いた人の中にスッと入ってくるような、そんな綺麗な音楽を作ろうとしたんですよね。
── 櫻井さんは、音楽にそういうものを一貫して求めている人なんですか?

櫻井:音楽以外でも、映像だったり、アニメや漫画だったり、芸術全般にそういうものを求めている感じはありますね。とはいっても、極端なものも好きなんですけどね。グロテスクなものとか、カオスなものとか……。でも、自分が作る音楽に関しては「ポップであること」「キャッチーであること」が大前提なので。あまり難解な表現をやりたくないっていう気持ちがあるんです。そういう部分が、「綺麗なものを作りたい」っていう部分につながっているのかなって思うんですけど。

── レルエの作詞作曲は基本的に櫻井さんが行っているわけですけど、sayaさんとエンドウさんから見て、櫻井さんが作る音楽の世界観には、どんな魅力がありますか?

エンドウリョウ(Ba):全体を「歌もの」としてまとめつつ、どこかファンタジックな要素はいつも感じられると思います。そういう曲を毎回持ってきてくれるので、いつも曲が上がってくるのは楽しみではありますね。

saya(Violin&Syn&Cho):(櫻井は)歌詞だけを書くというよりは、サウンドと一緒に歌詞を作るので、サウンドのイメージと歌詞が一体化しているんですよね。でも、歌の中に単なる言葉の響きだけじゃない「なにか」があるというか……毎回必ず引っ掛かるようなフックがあると思うんです。そのフックが、聴いている人のなにかしらをすくい上げてくれるというか、昇華してくれるような感じがします。情景をなぞるだけじゃなくて、聴いている人を突き離さず、なにかの言葉をかけてくれる。独り言を言っているだけじゃなくて、必ず語りかけてくれるというか。

── なるほど。

saya:今回の『Alice』も、どこか切なさがありつつも、ファンタジックで不思議な雰囲気が散りばめられたアルバムになっているのかなって思うんです。『Alice』っていうタイトル自体、この音楽の中にあるファンタジックな要素を言葉にできないかなと思って、そのタイトルを付けました。でも、こういうファンタジックな要素も、単純に「暗い」とか、そういうことでは終わらないんですよね。どこかに「光を見ていたい」っていう感覚があるような気が、私はしていて。この感じは、バンドを始めた最初の頃からずっとあるような気がします。そのくらい、きっと彼(櫻井)の中に本質的にある感性なんじゃないかな。


▲アルバム『Alice』初回限定盤

── 今sayaさんが言ってくださった、サウンドと歌詞が一体化しているというのは、櫻井さんの中で一貫している部分ですか?

櫻井:そうですね。耳に聴こえがいいものを重視しているので、そうしないとポップなものにはならないなって思うんですよね。

── やはり「ポップであること」は櫻井さんの中で強く求められる要素なんですね。

櫻井:そうですね、難解なアイディアは自分のなかで完結させておきたいというか……そもそも、難解な音楽で人に伝える方法が、自分にはよくわからないんですよね。僕のなかでとれる手段は、ポップなものだっていう感覚があります。あまり時代に求められていないものはやりたくないし、ニッチな分野には行きたくないなって思う。

── レルエの音楽って、非常に「踊れる」音楽だと思うんですけど、「聴き手を踊らせたい」という意識はどのくらい持っているものなんですか?

櫻井:わざわざ「踊ってくれ」っていう提示はしないですけど、音楽自体はナチュラルに体が揺れるものであってほしいなっていますね。僕はよく海外のフェスの広いステージを想像しながら曲を書くんです。海外のフェスで、みんなお酒を飲みながら各々が体を揺らしながら楽しんでいる……そんなイメージが強いですね。
◆インタビュー(2)へ
■ 音楽って情報戦だなぁって思うんです

── 音楽的なルーツとしても、海外の音楽からの影響が強いんですか?

櫻井:「身体を揺らす」という点に関してはEDMとかの影響が強いと思いますし、基本的には洋楽のインディ界隈を中心に聴いてきました。でも、歌に関しては「日本語でどれだけ届けられるか?」っていうことが、この国のシーンでやっていくうえでは大事だと思うので、宇多田ヒカルさんとかYUKIさんも好きだったりしますね。

── スケールの大きなサウンド、日本語の歌、それぞれの面で優れた人たちからの影響を受けてきたんですね。

櫻井:言い方は変ですけど、僕は、サウンドに関しては情報戦だと思っているんですよ。どれだけインプットしたかが、その作品に出ると思っていて。

── 「情報戦」という言葉は、バンドマンから初めて聞きました(笑)。

櫻井:そうですよね(笑)。でもやっぱり、引き出しが少ないと、ポップな音楽は作ることができないと思う。「難解な音楽をどれだけポップにできるか?」は、どれだけ引き出しの量があるかにかかっているなって思います。僕は、曲作りをする時は、家でDTMとかを使ってミニマムに作るんですけど、その段階で、どれだけ聴いている人を想定したディレクションできるかによって、その音楽のポップさは決まってくると思うんです。ターゲティングというか、「この曲はどういった層にはまるかな?」とか、曲を作りながらすごく考えるんですよ。そのためには、たくさんの音楽を聴いていないと、考えることすらできないんですよね。だからやっぱり、音楽って情報戦だなぁって思うんです。

── なるほど……非常に現代的な考え方なのかもしれないですね。

saya:今の音楽って、ちょっとした音の違いで「今っぽい」とか「そうじゃない」とかが現れてきますよね。アレンジが同じでも、音の違いで感じ方が違ってきたりする。だからってもちろん、流行に合わせればいいっていうわけでもなくて。そういう意味でも、「自分たちは、なにを取捨選択するか?」っていうことはすごく大事な部分だし、根本的に情報を持っていないと、選ぶことすらできない。なので、ちゃんと情報を集めつつ、「自分たちはなにを選ぶのか?」っていうことをちゃんと判断していきたいなって思うんですよね。

── そこに、自分たちの個性や美意識、あるいは知性が色濃く反映されますもんね。


▲アルバム『Alice』通常盤

saya:それこそ、今の時代はツールがあるから、簡単にある程度のラインの音楽はみんな作れるし、それをYouTubeに上げることだって簡単にできる時代ですよね。変な言い方をすると、プロフェッショナルが作った洗練された作品と、誰でも作れるような作品が並列に並べられてしまう。でも、初めて音楽を聴く人は、その作品がどういったレベルのものか判断できない可能性だってあるじゃないですか。そういう意味で、今はすごくカオスな状況だし、そのカオスさゆえに優れた作品もあるかもしれない……でも、プロとして音楽を作る私たちとしては、自分たちが「間違いない」と思えるものを作って、それをより広く知ってほしいんですよね。「誰でもできる」ことが悪いことだとは思わないけど、これだけモノに溢れていると、プロが作る洗練された作品を知らないままで、人生を終えていく人だっているかもしれないわけで。

── そうですね。

saya:そういう意味でも、「文化を残していきたい」っていう気持ちが、私は強いです。これまでいろんな人たちが受け継いできたものが途切れてしまわないように、積み上げられたものを、ちゃんと後世につなげていきたいなって思うんですよね。

── よくわかります。ただ、それこそ櫻井さんが「情報戦」というように、これだけ情報の多い世の中だからこそ、自分たちが鳴らしたい音、作りたい音楽にそれ相応の芯がないと、情報の波に埋もれてしまう可能性だってある。今のレルエには、「自分たちがなにを選ぶのか?」という問いに対しての選択基準は、明確にありますか?

櫻井:そうですね。言葉にすると難しいですけど、そこで問われるのが「センス」なんだろうと思います。「自分たちが、なにをかっこいいと思うのか?」っていうことがわかっていなければ、いい音楽を作ることはできないから。

── そのレルエの「センス」の部分を、ぜひ言語化したいです。

櫻井:う~ん……音を言葉にするのは難しいですよね(笑)。

saya:全部をトータルして、なにか1個のポイントを追い求めているというよりは、曲によってはダイナミクスを追い求めていたりもするし、他の曲では「BGMのように聴いてもらえればいいね」っていうのもあるし……それぞれの曲に、それぞれのポイントがあるような気がします。裏を返すと、どの曲にも、他の曲にない「ここがかっこいい!」って思える部分があるかどうかが大事、というか。そういう曲だったら、聴いていても飽きないし、聴くのがしんどいなって思わないと思うんですよ。

── 聴き手としてレルエの音楽に一貫していると思うポイントを言うと、それは最初にも言った「ロマンチシズム」という部分が大きいのかなって思うんです。歌詞の幻想性もそうだし、メロディもビートも、非常にスケールの大きなものが、大胆なくらいに堂々と鳴っていますよね。これは、音楽に対して「自分」の存在を超えるようなロマンを求めていないと、作れないものだと思うんですよ。

櫻井:そうですね……等身大な音楽や、聴いている人と距離が近い音楽も多いとは思うんですけど、僕はもっと幻想的な、ファンタジックなものを求めているな、とは思いますね。

saya:曲を聴いて、違う世界に入っていけるようなものがいいよね?

櫻井:そう、現実的なものというよりは、非現実的なものがいいなって思う。テーマパークのアトラクションのような、エンターテイメント性は大事な部分だなって思っていますね。今回のアルバムも、曲ごとにいろんな世界感があるし、いろんなイメージを渡り歩くような感覚があると思うんですよ。

◆インタビュー(3)へ
■ 現実とは違うところに行くために音楽をやっている

── たしかに歌詞を読んでも、今いる場所から別の世界に入っていくような世界観が描かれているなって思ったんですけど、何故、そういう世界観を求めるのだと思いますか?

櫻井:マラソンランナーが自分の気を高めるために激しい音楽やポジティブな音楽を聴くのと同じような感覚で、非現実的な要素のある音楽を聴くことで、辛いことを忘れられる場合もあるじゃないですか。現実から場面を切り替えて、違う場所に行ける。そのきっかけになるような音楽がいいなって思うし、そういうふうに聴いてくれる場面を想像して曲を作ってはいますね。

saya:私たち自身が、現実と地続きというよりは、違うところに行くために音楽をやっている部分があるから。なので、サウンドも別次元に向かっていくような方向性になるのかなって思います。

── 「別の場所に行ってしまいたい」と思うくらいに、現実が嫌いなんですかね? ある種のエスケーピズムを音楽に求めている?

櫻井:いや、そこまで極端なことでもないんですけどね(笑)。現実にはちゃんと生きているつもりではあるんですけど……どちらかというと、二面性を持っている感じ、というか。
── エンドウさんから見て、この音楽を作る櫻井さんという存在は、人間的にどんな人ですか。

エンドウ:曲にも出ていますけど、「そこ、そんなに大胆に行く?」みたいなことを平気でやれたりするんですよね。本人が「これ!」と決めたら、強くそっちに突き進んでいくタイプだと思います。音楽にはそれがいい方向に出ていると思うので、僕からはなにも言わないようにしています(笑)。

── sayaさんから見て、櫻井さんはどんな人ですか?

saya:繊細で感受性が強いので、普通の人がなんとも思わないことでも、なにかを感じとっていたりする人だと思います。そういう部分が曲に反映されているんだろうなって思いますね。

── そもそも櫻井さんが曲作りを始めたのは、何故だったんですか?

櫻井:う~ん……なんか、できそうだったから(笑)。

── ははははは(笑)。

櫻井:プロの人が作っているように、自分もMacを買ったら作れそうだったんで。それでギターも買って、いろんなソフトも入れて、作ってみたんですよね。そうしたら意外とできたんです(笑)。

── 面白いなぁ。根本的に「モノを作る」ということが好きなんですかね。

櫻井:それはありますね。限定はされますけど、クリエイティブなことは好きです。もともとは、絵を描くのが好きだったんですよ。絵を描きはじめたときも、漫画を見て「これ描けそうだな」って思ったものを描いてみたら、意外と描けたんですよね。それと同じように、中学生の頃に、音楽を聴いて「こういう音楽を作ってみればいいじゃん」と思って作り始めてみたら、作れたんです。音楽的なクオリティが高かったわけではないんですけど、そういうところから、音楽を作る面白さに目覚めていったような気がします。

── 最後に、今、レルエは着実にその認知を広げている段階だと思うんですけど、聴き手はレルエの音楽になにを求めているのか。ライブの現場などで感じられることはありますか?

saya:嬉しいのは、私たちのライブはお客さんの男女比が半々くらいなんですよ。年齢も幅広くって、高校生くらいの子たちもいれば、もっと大人の音楽マニアな人たちも来てくれていて。それに、やっぱりライブってCDを大音量で再生する場所ではないので。人間が生でやることの独特の感覚……本当に「生きている」感覚が伝わればいいなって思うんですよね。ライブではドラムも生なので、「いい意味で、ライブと音源が違ってびっくりした」って言われることも多いし。

櫻井:そうだね、ライブと音源では、ベクトルは違うよね。そうじゃないと、ライブをやっている意味もないし。ライブはむしろ、お客さんとの距離感が近くなるかもしれない。

── 音源には音源の、ライブにはライブの距離感があるんですね。

saya:そうですね。でも、距離が近くなるといっても、それは単純なギターロックっぽくなる、みたいな話でもなくて。「生」だけのダイナミクスは感じられる現場だと思うので、なによりも音楽を「体感」してほしいなって思います。

取材・文=天野史彬

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■1st Album『Alice』

2019年9月18日(水)リリース

初回限定盤(CD+DVD)
VAA88-006/¥3,300+税


▲『Alice』初回限定盤

通常盤(CD)
VAA88-007/¥2,500+税


▲『Alice』通常盤

【CD収録曲】
1.Stockholm
2.時鳴りの街
3.火花
4.硝子の国
5.UP TO DATE
6.あの子はきっとインベーダー
7.クローバー
8.青とゲート
9.ホリデーバード
10.夜はモーション
11.プレイアデス

【初回限定盤DVD】
1.夜はモーション
2.青とゲート
3.火花
4.時鳴りの街
5.プレイアデス

▼配信情報
1st Album『Alice』
ストリーミングサービスおよびiTunes Store、レコチョク、moraなど主要ダウンロードサービスにて9月18日(水)より配信スタート。
※音楽ストリーミングサービス:Apple Music、LINE MUSIC、Amazon Music Unlimited、AWA、KKBOX、Rakuten Music、RecMusic、Spotify、YouTube Music

また、9月4日(水)より、iTunesにて予約注文受付がスタート。iTunesでアルバムをご予約頂くと、「プレイアデス」をいち早くダウンロードいただけます。

▼「プレイアデス」先行配信
ストリーミングサービスおよびiTunes Store、レコチョク、moraなど主要ダウンロードサービスにて9月4日(水)より先行配信スタート。
※音楽ストリーミングサービス:Apple Music、LINE MUSIC、Amazon Music Unlimited、AWA、KKBOX、Rakuten Music、RecMusic、Spotify、YouTube Music

■<LELLE live tour 2019 “Alice”>

日程:2019年11月1日(金) 開場18:15/開演19:00
会場:東京・渋谷WWW

日程:2019年11月8日(金) 開場18:15/開演19:00
会場:大阪・心斎橋Music Club JANUS

料金:¥3,000
※未就学児童入場不可(保護者同伴の場合可)
オフィシャルHP先行:8月13日(火) 18:00~
一般発売日:10月5日(土) 10:00~

[問]HANDS ON ENTERTAINMENT info@handson.gr.jp

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