センチミリメンタルが語る、デビュー
曲「キヅアト」と『ギヴン』

作詞、作曲、編曲、歌唱、ピアノ、ギター、プログラミングのすべてを担う温詞(あつし)によるソロプロジェクト、センチミリメンタルが9月11日にCDデビューを果たした。配信では先行してリリースされているシングル「キヅアト」は、ノイタミナ初となるBLコミックのアニメ化として大きな反響を呼んでいる『ギヴン』のオープニングテーマとして話題沸騰中の楽曲。また、センチミリメンタルはバンドストーリーでもある同アニメの劇中バンド、ギヴンのサウンドプロデュースも手掛けており、9月18日にはギヴンもシングル「まるつけ/冬のはなし」でメジャーデビューを予定している。

クラシックを学んだ幼少期からポップミュージックとの出会い、アニメ『ギヴン』との深い関わりの中で生まれた「キヅアト」「まるつけ」などの誕生秘話、楽曲に込めた想いについて、温詞本人に話を聞いた。
(センチミリメンタル 『キヅアト』MV)

クラシックピアノを学んだ幼少期から、
挫折を味わったバンド時代まで

――温詞さんの原体験はクラシックにあるそうですね。ピアノを始めたきっかけは何でしたか?

温詞 : 小学校の低学年くらいからピアノを習っていて、当時はピアニストになるのが将来の夢でした。母が保育士をやっていて、子供にリトミック遊びを教える中で、自分の勉強も兼ねて僕を体験教室に連れて行ったそうで、その時に僕が「ピアノやりたい」って言い出したみたいです。それからずっと続けていました。

――ピアノの練習が負担になったり嫌になったりすることはなかったですか?

温詞 : ピアノを弾くこと自体はずっと楽しんでやってました。ただ、クラシックって譜面通りに曲を演奏することを習うじゃないですか。そういった完成されたものをなぞってコピーするような弾き方が苦手だったんです。コンクールにも出ていたんですけど、年々自我が強くなっていって、譜面に関係なく強弱をつけたり、自分なりのアレンジを加えてるようになってしまって(笑)。そうすると、審査員の票割れが起きるようになってきて、次第にピアニストには向いてないんだなって思い始めました。もともと曲を作ることが好きだったので、それからは曲作りの方にシフトしていきましたね。

――ポップスとして初めて衝撃を受けたのは、小学5年の時に聴いたレミオロメンの「粉雪」だそうですね。あの曲のどんな部分に衝撃を受けましたか?

温詞 : クラシックの曲を聴くのは好きだったんですけど、衝撃を受けるという感じではなかったんですね。メロディは覚えていても曲とタイトルが一致しなかったりとか、そこまで強烈に頭に残る感じではなかった。でも、「粉雪」を聴いて、歌声が音楽に乗っかるとこんなにも強烈なインパクトが生まれるんだと初めて感じたんです。「♪粉雪~」って声を張り上げる瞬間の、言葉では言い表せないようなパワーに圧倒されたんだと思いますね。

――それをきっかけに、自分で歌うことにも興味を持ったんですか?

温詞 : 「粉雪」を知ってから、クラシックではない歌の作曲にも興味を持ったんですけど、決してボーカリストになりたいわけではなかったんです。歌うことは好きだったので歌ってはいたんですが、中学校の時に好きな歌をカバーしてYouTubeに上げたことがあって。その時に悪口みたいなコメントがついたこともあり、「自分は歌に向いてないんだ」という苦手意識が芽生えてしまったんですね。だから、その頃はむしろ良いボーカルがいないかと探してました。歌を作る以上は歌ってくれる人が必要なわけで、自分のボーカルは仮の状態で入れているような意識でしたね。

――18歳の時に組んだ最初のバンドがセンチミリメンタルという名前で、バンド時代には挫折もあったそうですね。当時を振り返って、バンドにはどのような思いがありますか?

温詞 : 人が集まって何かを成し遂げるということは、こんなにも難しいんだなって思いましたね。自分が一人きりではいかに無力か、ということも思い知らされました。バンドメンバーが抜けるたびに、「あぁ、これであの曲やれなくなっちゃったな」とか思うのが毎回悲しくて。自分の音楽をどれだけ自分で守ってあげられるのかという、音楽をやっていく上での責任感みたいなものはバンド時代の経験から学びましたね。あとは、自分の音楽を支えてくれる人、好きでいてくれる人がいかに貴重で素晴らしいものなのか、ということ。それに、音楽を人と合わせる喜びも知りました。今は一人になったとはいえ、血の通った人と人の音が重なるバンドサウンドは今でも大事にしたいと思っています。
(TVアニメ「ギヴン」PV)

サウンドプロデュースに深く携わったア
ニメ『ギヴン』について

――『ギヴン』はバンドにまつわるアニメですが、あの作品を見てバンド時代の自分と重なる部分はありますか?

温詞 : 実は、僕がやっていたバンドと、ギヴンのバンド像には結構ズレがあるんですね。僕は割と「ワンマン」なバンドスタイルだったので、デモテープをほぼ一人で仕上げて、その通りに弾いてもらうようなタイプだったんです。だから、逆に僕が経験できなかったバンド像を『ギヴン』を通して追体験しているような感覚が大きいです。でも、ライブハウスの描き方とか、細かい部分で共感できるところもたくさんあるので、自分の経験したことと経験できなかったこと、どちらの部分でも楽しませてもらっています。

――ギヴンはメンバー全員の趣味がバラバラで、セッションしながら曲を作るというシーンもありましたね。

温詞 : セッションしながら曲を作るという作曲法は経験がないので、あれも羨ましいなと思いながら見てました。

――ただ、あのシーンに使われた曲もセンチミリメンタルで作ったものなんですよね?

温詞 : そうです。バンドのインスト曲自体、作ったことがなかったんですよね。今までずっと歌と言葉に重きを置いた楽曲を作ってきたので、その両方を抜きにして演奏だけでカッコよく成立するものを作るというのは初めての体験で、結構悩みました。でも、音楽的には素人の状態の真冬くんが「なんかカッコいい、よく分からないけど凄い!」って感じられるようなものにしたいと思ってました。

――あのセッション曲とオープニングテーマになっている「キヅアト」、それにギヴンの楽曲と、センチミリメンタルは多数の楽曲で『ギヴン』に深く関わっています。それらの楽曲提供の経緯について教えてください。

温詞 : 最初に話を頂いたのは、9話でギヴンの楽曲として使われた「ふゆのはなし」の制作依頼だけだったんです。それを踏まえて、オープニングとエンディングにも関わらせてもらえることになったんですね。

――「ふゆのはなし」は、作中では真冬くんが作詞した曲ということになりますよね。それにエンディングテーマになっている「まるつけ」もギヴンの名義です。原作者のキヅナツキ先生やアニメの制作チームとは、どういった話し合いが行われたのでしょうか?

温詞 : キヅ先生と監督の山口さんから、レファレンスだったりイメージだったりを頂いて、それをすり合わせながら作りました。その中で一番苦労したのは、作詞作曲というよりもサウンドメイキングですね。お二人からそれぞれに字詰めでこんな感じにして欲しいという要望をいただいたんですけど、お二人のイメージの間にも少しズレがあったりして。例えば、レファレンスとして上がったバンドの中には、凛として時雨とエルレガーデンの名前があったんですが、その二組もかなり音楽性が違う。そういう難しさはありつつも、そのズレこそがリアルだって思ったんです。

――ズレこそがリアル、というのは?

温詞 : 読み手によって、こういう音が鳴って、こういう音楽を作って……というのは一人ひとり変わってくる。だから、「これだ!」って一つのモノに決めてしまうだけでは、何か違うなって思われてしまうだろうって気付いたんです。むしろ、色んなバンドの特徴をレファレンスとして入れつつ、何よりもキャラクター達が持つ性格上の問題とか演奏力とか、特徴を反映させてバランスを整えていくことがギヴンのリアリティになる。そこを一番大事に考えて作りました。

ギヴンとの出会いで、自分自身の世界観
も広がった

――「まるつけ」はどういう経緯で作られた楽曲ですか?

温詞 : 実は、「まるつけ」は2015年頃に僕が弾き語りで作った曲なんです。書下ろしの曲も何曲か用意して、エンディングにする曲をどうするか決める中で、最終的に古くからある曲に決まりました。歌詞などに関しても特に手を加えなかったにも関わらず、作中に出てくるワードと重なる言葉が多くて、なぜだかとても相性が良かった。自分が過去に作った曲と相性の良い作品に出会えたことは、とても嬉しかったですし驚きもありましたね。

――「まるつけ」はかなりシンプルなバンドサウンドになっていて、ギヴンというバンドの最初の楽曲というイメージにはピッタリのアレンジだと思いました。

温詞 : アレンジはスタッフとも何度も話し合って、かなり試行錯誤を繰り返して作りましたね。すごくテクニカルに寄せたアレンジもしましたし、逆にかなり省いたモノも作りましたし。いろいろと試す中で、『ギヴン』という作品自体が言葉にすごく真摯に向き合っている作品だと思ったので、どこまでシンプルにやれば言葉を大事に表現できるのか、そのバランスを大事にしました。逆にシンプルにし過ぎても、ちゃんとテクニックを持ったメンバーだということが表現できないと思ったので、削ぎ落しつつ残しつつ、何よりも言葉が前に出るように作っていきました。

――あの曲は真冬役の矢野奨吾さんがボーカルを務めています。矢野さんの歌にはどのような印象を抱きましたか?

温詞 : 自分のボーカルスタイルとの違いはすごく面白いなと思いました。僕の世界観だけで完結していた「まるつけ」という楽曲を真冬くん役の矢野さんの声が歌うことで、解釈が広がるというか、より『ギヴン』の世界観に近付くというか。そうして楽曲の可能性が広がっていく喜びはありましたね。ただ、バンドのボーカルという設定なので、声優さんとバンドボーカルの歌い方の違いがあって、ディレクションではそこのバランスにも気を使いました。

――声優とバンドボーカルの歌い方の違いとは、具体的にどういったものですか?

温詞 : 一番の違いは、滑舌の処理ですね。声優さんは、やっぱり滑舌がむちゃくちゃ良いなって思ったんですね。一文字一文字のインパクトとか歯切れがとても良くて、それが良くもあり悪くもありという。バンドボーカルって、人によっては歌詞が分からないくらい、メロディラインに対する横の流れやニュアンスを大事にするんですけど、声優さんの歌い方は縦のラインがハッキリしている。そこをもう少し横の流れを意識して、山を作っていくイメージで歌っていただいたという感じです。

『ギヴン』とセンチミリメンタル両方の
100点を目指した「キヅアト」

――センチミリメンタルとしての楽曲「キヅアト」は、どういう思いで作られましたか?

温詞 : 「キヅアト」はオープニング楽曲なので、『ギヴン』への扉になるというか、作品の中で最初に訪れる音楽になる。『ギヴン』には原作もありますから、原作のファンが聴いても「これだよね」って思ってもらえるようなモノを凝縮したかったんです。だから、自分の思う『ギヴン』という作品の魅力や要素を一曲に詰め込みたいなという思いがありました。

――「まるつけ」とは対照的に、この曲はバンドサウンド主体ではありつつ、かなり激しく凝ったアレンジになっていますね。

温詞 : そうですね。「キヅアト」はセンチミリメンタルのデビューシングルなので、『ギヴン』の看板であると同時に、僕にとっての看板でもある。だからこそ、50:50ではなく、『ギヴン』とセンチミリメンタルのお互いの100じゃないといけないと思ったんです。どっちかに寄せるのではなく両立させるには、あれくらい凝ったことをしないと収集がつかなかったんですね。

――特に、二番のAメロでピアノ主体のサウンドに切り替わるアレンジが印象的です。

温詞 : 最初に作ったアニメサイズの段階では『ギヴン』の世界観にうまく収まるよう、ギターサウンド主体にしたんですが、二番以降に曲が進む段階でそこからはセンチミリメンタルの世界観が広がるようにしないといけないと思ったんです。そこで、自分の一番の魅力は何だろうと思った時に、小さい頃から弾き続けてきたピアノという楽器を使いたいと考えました。

――ピアノの旋律は、バラード調に展開するCメロでもかなり印象的に使われていて、傷が少しずつ癒えていく過程が見事に表現されているように感じました。

温詞 : 自分はバラード楽曲が割と得意な方だったので、どうにかしてそういった要素も「キヅアト」に落とし込めないかと思って。もともと、あの部分は全く別の曲として作っていたんですけど、それを当てはめたんです。センチミリメンタルとして、楽曲に嘘があってはいけないと思ったので、自分でも大事な人と離れ離れになって辛い思いをした体験に向き合ってみた時に、その思い出がつらい瞬間もあれば幸せに感じる瞬間もあった。同じ別れでも、日によって思い出す出来事や感情は違って、思い出を思い出す瞬間ってとてもカオスだなって思ったんです。どこかに苦しみと喜びが入り混じる瞬間は絶対にあると思っていて、それを同時に表現するためにはああいったアレンジがもしかしたら一番リアルなのかもしれない、って自分でも腑に落ちたというか。幸福感と喪失感の両面を出せた方が、本当に大事な人だったんだなっていうリアルさに繋がるんじゃないかと思いながら作りましたね。

――一つの感情にフォーカスするのではなく、大切な人との別れにフォーカスしたということでしょうか。

温詞 : 感情って流動的なので、深い関係にある人ほどいろんな感情を抱くものだと思うんです。例えば、恋人に対してだからこそ言ってしまうひどい言葉だったりとか、逆に恋人にしか言えない恥ずかしいくらいの愛の言葉があったりとか。一つの感情にフォーカスしてしまうと、深いようで浅くなってしまう。真冬くんが亡くしてしまった大事な人に対して言葉を送るとしたら、そういうことじゃないと思いましたし、『ギヴン』という作品自体がそうしたことにちゃんと向き合った作品だった。寂しいのに寂しくないと言ってしまったりとか、感情に矛盾があったり、どちらの感情もはらんでいる。そういうリアルな場所を描いてくれていたので、せっかく『ギヴン』の看板にしてもらえるのなら、自分も感情の流動性とか矛盾をしっかりと描き切りたいと思いました。

――最後に、リスナーにとってセンチミリメンタルの音楽がどういった存在になればいいと思いますか?

温詞 : 僕はすごく音楽に助けられているんです。つらかった体験を歌にして、形に残すことで慰められてきたことがすごく多い。だから自分が音楽を作る人間で本当に良かったなと思うんですが、ファンの中には自分で音楽を作らない方もたくさんいて、むしろそういう人の方が大半。そこで大事なのは、自分の気持ちを一緒に共感してくれる場所だと思うんです。こういう時にこの曲・このアーティストを聴きたくなるよね、という中の一つに選ばれたい。自分の感情の変化に合わせて曲が選ばれるような、人生のタイアップになるような存在になっていければいいなと思います。人生の中で大きく気持ちが動いた瞬間って、人はセンチメンタルな感情になるもので、そうしたターニングポイントで支えになれるようなアーティストになりたいと思いながら曲を作っていますね。

作品情報

センチミリメンタル New Single
2019.9.11
『キヅアト』

初回生産限定盤(CD+BD)¥1,852(税別)
通常盤(CD)¥926(税別)

<CD収録曲>
1.キヅアト
2.まるつけ
3.session / the seasons
4.キヅアト-Instrumental-
5.まるつけ-Instrumental-

<BD収録内容>
1.キヅアト-Music Video-
2.TVアニメ「ギヴン」ノンクレジットオープニングムービー
3.TVアニメ「ギヴン」プロモーションムービー
4.「session」-TVアニメ「ギヴン」劇中映像-


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センチミリメンタルが語る、デビュー曲「キヅアト」と『ギヴン』はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

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