koboreインタビュー 最新EPが映す等
身大の現在地、そしてkoboreの行方は

音楽とは何なのか?――そこに答えを出すことはできないけれど、音楽がない生活は絶対にイヤだし、聴いてくれる“あなた”がいることで、初めて音楽が価値を持つことだけは知っている。東京・府中発の4人組ギターロックバンド・koboreが8月21日にリリースした最新EP『音楽の行方』で歌っているのは、そんな音楽への純粋な想いだ。年明けに開催されたキャリア初のフルアルバム『零になって』を携えたレコ発ツアーでは、渋谷CLUB QUATTRO公演をソールドアウトさせるなど、いま2019年ブレイクバンドの1組として急成長を遂げているkobore。彼らはロックバンドに何を求め、ひたすらに走り続けるのか。最新作『音楽の行方』を軸にしながら、佐藤赳(Gt/Vo)と田中そら(Ba)に話を聞いた。
――ここ最近はライブ三昧ですね。ライブハウスの対バンも多いですけど、今年は夏フェスとかサーキットにも引っ張りだこじゃないですか。
佐藤:そうなんですよ。むしろライブがないと、生活が変になっちゃうんです。
田中:ライブがないと、ヒマだしね(笑)。
――夏フェスでは、しっかり爪痕を残せている手応えはありますか?
佐藤:毎回、必死ですね。そこでお客さんをつけたいっていうよりも、“自分たちが好きなことをやってきた結果がこれだぜ”っていうのを表現してるので。この客層を狙おうっていうことも考えてないんですね。それが正しいのかはわからないですけど。
――これまで、たくさんライブの経験を積んできた自負もあるから、いまさら特別なことをやる必要もないという感じ?
佐藤:そう、いつもどおり。いつもどおりなんだけど、いつもどおりじゃないことが起きればいいなっていう意識ですね。
田中:koboreの基盤はライブですからね。周りのバンドよりも年間のライブ本数にしても多くやってる自信はあるから、大きいフェスに出ても緊張しないんですよ。
佐藤:イキってるなあ(笑)。
田中:いやいや。フェスでは、お客さんが見にきてくれるか?っていう不安もあるんですよ。でも、ちゃんと来てくれるのは、積み重ねてきたものが出てるんだなと思います。
――ちょっと時間を巻き戻しますけど、今年の年明けには初のフルアルバム『雫になって』をリリースしたじゃないですか。そのレコ発ツアーは全国22ヵ所のうち、バンド最大キャパの渋谷クアトロもソールドアウトして、かなり喜びが多いツアーだったんじゃないですか?
佐藤:喜びもありましたけど、とにかく変わらないようにっていう気持ちが大きかったですね。お客さんが増えることによって、これが当たり前だと思ってしまったら、自分たちの思ってるライブとはかけ離れてしまうから。どの会場もいままでよりお客さんが増えてたけど、お客さんのエネルギーに負けたら、終わりだなっていうか。そのエネルギーをどこまで自分たちのちからに変えて越えられるかを考えてましたね。
――“変わらないように”っていうのは、それこそお客さんが全然いなかった時代のハングリー精神とか、そういうものが失わないようにっていうこと?
佐藤:そうですね。僕らは東京って言っても、府中っていうかなり田舎のハコ出身なんです。その場所でやってた気持ちを忘れずに、みたいなのはありますね。
田中:そもそも僕らは集客はそんなに意識してないんですよ。ツアーファイナルがソールドしたとか、パンパンのライブハウスでライブをできるのは嬉しいですけど、自分たちがどれだけかっこよくなれるかのほうが大事なんです。それが、いまの集客につながってるのかなと思ってるので。これからも、そういうふうに進んでいきたいんです。
kobore 撮影=風間大洋
――ここ2年ぐらいで「次にブレイクするのはkoboreだ」みたいなムードも加速してますけど、そのあたりはどう受け止めてますか?
佐藤:あんまり受け止めてないです(笑)。ブレイクしそうなバンドって、いっぱいいるじゃないですか。だから気にしない。周りの評判とかじゃなくて、自分の好きなことをどんどんやっていきたいんです。ブレイクしそうだから、そういうバンドになるっていうことじゃなくて、逆に自分らの「好き」をいっぱい表現したいっていう気持ちになりましたね。
けっこう言われるんですよ。「ブレイクしてるよね」とか。その状況を自分のなかでどうやって消化しようかと思ったときに、あえて受け止めずに、こういうライブが好き、こういうバンドが好きっていうのを突き詰めていきたいと思ったんです。
――koboreが思い描いている「こういうバンドが好き」「こういうライブをやれたら」っていうのを、言葉で説明することはできますか?
佐藤:うーん……最前の男の人が大号泣してるライブとかは憧れますよね。感情に身を任せてお客さんが動いてるライブっていうか。「手を上げろ!」とかじゃなくて。「俺が上げてえから、手を上げてる」っていうのが良いと思うんですよ。
――それは男の人のほうがいい?
佐藤:うん。やっぱり男ですね。自分が男だから。もちろん女の子が盛り上がってくれてるのも嬉しいんですよ。嬉しいんですけど、やっぱり男のお客さんが、ウォー!みたいになってると、テンション上がりますね。
――実際います? そうやって号泣してる男性のお客さんは。
田中:たまにいます。
佐藤:最近、男のお客さんも増えたよね。
――話を聞いてるけど、koboreは自分たちのことを客観的に見てますね。好きなことをやるっていう衝動的な部分もあるけど、変わらないようにいようっていう冷静さもあって。
佐藤:そうなんですかね。自分ではわからないな。
田中:お客さんは増えたし、初めてロッキン(『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』)に出られたのも誇りですけど、結局、僕たちの周りの状況は変わってないですからね。
佐藤:“変わらないようにいよう”みたいなことって、メンバー同士で話したことはないんですけど、言わなくても共有してる感じはあるんですよ。結成当時から、ずっと一緒にライブをしてるから。セレナに機材を積んで、車内泊して、スーパー銭湯に行くお金もなくて、公園で体を洗って、ライブも4連チャン、1日オフで、5連チャンとか、結成直後のまだ誰も助けてくれる人がいないときから、そういう生活をしながら、全国でライブして。年間130本を超えるライブをやってましたからね。
田中:でも、年間130人もお客さんは来てくれてなかったよね。
佐藤:そういうのを潜り抜けてるから、あの日々が無かったことになっちゃうのは、マジで悔しいし、忘れないようにしてますね。誰に何を言われても、俺らはこうしてきたからっていうのは譲れない、そういうバンドでいたいんです。
kobore・佐藤赳 撮影=風間大洋
――どうして、koboreはそこまでライブにこだわるんですか?
佐藤:生まれた場所がそうなんですよ。府中Flightっていうライブハウスなんですけど。僕たちをバンドに引き入れてくれた人が、そこの店長なんです。
田中:これが普通だと思ってたんですよね。
――なるほど。ここからは最新EP『音楽の行方』のことを聞かせてください。特に1曲目の「音楽の行方」が良いですね。この曲がアルバム制作の肝だったんですか?
佐藤:この曲はいちばん最後にできたんですよ。
――「音楽の行方」ができたきっかけは何だったんですか?
佐藤:たまに“音楽って何だろう?”って疑心暗鬼になるというか、自分に問いただしちゃう日があるんですよね。“なんで、俺、音楽をやってるんだろう?”とか。そういうときに、この「音楽の行方」っていうコンセプトができたんです。あえて“音楽はこれだ”って言い切ってなくて。音楽は何なのかわからないから、「行方」って名付けたんです。
――じゃあ、この曲は、佐藤くんの中では自分に向けて歌ってるんですか? <好きなもんを選んで行け>って、聴き手に向かって歌ってるのかと思ってたんだけど。
佐藤:完全に自分に対してですね。誰に届くかわからないから、自分に向けて歌うしかないっていうイメージが強いんです。
――最後の<少年少女よ、鳴らして行け>っていうフレーズもいいなと思いました。音楽だけじゃなくて、<それぞれの人生を鳴らせ>っていう意味にもとれるし。
佐藤:そこは思いのまま書いてたら、自然にこうなったんですよ。この曲のタイトルは「音楽の行方」じゃなくてもいいんです。僕がたまたま音楽だっただけで、聴いた人それぞれの「人生の行方」だったり、「夢の行方」だったり、それぞれのかたちで届けばいいし、そこに対して、がんばれって言えたらいいなっていう感じですかね。
田中:僕はこのタイミングで、赳がこの曲を書いてきたことには意味があるなと思うんです。今年は情況も良くなってるし、自分たちのなかでは分岐点だと思ってて。「行かなきゃ!」っていう時期だから、改めて音楽について歌うのは意味がありますよね。
――曲作りで、自分のなかでテーマにしていたことはありますか? たとえば、前回はバラエティ豊かな挑戦作だったけど、今回はとても解放的な作品だと思いましたけど。
佐藤:そうだなあ、ちゃんと詞を聴かせたいなとは思ってました。メロディとかサウンドもこだわってるんですけど、今回は詞を歌いたいというより、詞を読むっていう感覚で作ったんですよ。ストーリー性がある曲もあるし、季節感のある歌詞をまぜたり……。
――ああ、「ミッドナイトブルー」は四季がめぐりますね。
佐藤:そう、あと「ミディオーカー」では、ミディアムテンポでベランダにいる時間が過ぎていくような感じを出したかったんですよね。詞を聴いたときに、どういう景色が思い浮かぶかみたいなのを意識して作ったんです。
kobore・田中そら 撮影=風間大洋
――いままでよりも景色を入れたいと思ったのは、どうしてだったんですか?
佐藤:ジャケットのとおり、僕がベランダで曲を作るようになったからですね。
――ベランダで?
佐藤:そう、前作はツアー中だったから、ずっとスタジオで作ってたんですよ。抜けの良くない、小じんまりとしたところで作ってたんですけど。今回、ベランダに出た瞬間、パっと開けたんですよね。それが、さっき言ってくれた開放感につながってるのかもしれないです。なんとなく頭の中がリフレッシュできたんですよ。無になって新しい景色を取り込めたから、それをそのまま歌詞にしたんです。
田中:ベランダで作るようになって、ポンポン曲ができてたから、それだけで良いCDになりそうだなっていう予感はあって。毎回、koboreは自分たちの前作を越えてると思うんですけど、今回は、いわゆる超名曲みたいなものはないなと思ってるんです。
――名曲がない?
田中:そう、「ヨルノカタスミ」みたいな曲がないんですよね。
佐藤:あー、それ、めっちゃわかる。
田中:それが良いと思うんですよ。10年後に、いまkoboreの曲を聴いてくれてるリスナーが聴き続けてるのは、このCDなのかなっていう自信がある。一生聴けるかなって。
佐藤:「今日聴く音楽ないなあ」って、なんとなくスクロールしてるときに、最終的に決まらないから、これでいいやっていうぐらいの気持ちでいいっていうかね。
田中:たぶん、全部が2位か3位ぐらいなんだよね。
佐藤:そうそう。「ミディオーカー」とかは、それを表現できたんです。
――たしかに「ミディオーカー」は“平凡な日々が好きです”っていう肩の力が抜けた曲ですね。
佐藤:特別じゃなくていいし、嫌いでもいい、でも、俺はこれが好きだよっていうのをナチュラルに表現できたんですよ。っていうふうに、今回は全体にコテコテというよりも、ふわっとしたやわらかい1枚なんですよね。「名曲」っていう仰々しい言い方じゃなくて、1曲目、2曲目、3曲目って、ただ並んでるだけなんです。
――なるほど。それにしても、ソングライティングを手がける本人が「名曲がない」っていうならまだしも、田中くんがそれを言えちゃうあたりに、ふたりの関係が見えた気がします。
田中:ははは、たしかにふつうは遠慮して言えないかもしれないですよね。
佐藤:でも、それが正しいですから。「わかってるじゃん」っていう感じですよ。
――田中くん、ベーシストとしては、今回の作品にどんなふうに向き合いましたか?
田中:前の作品だと、いかに自分のベースがかっこよく聞こえるかっていうことだったんですけど、今回、僕の気持ちは1/4でいいかなと思うようになりましたね。これは出るべき、出ないべきっていう見極めができてきたんですよ。それも、「ミディオーカー」にはよく出てると思いますけど。意識したのはそれぐらいですかね。
佐藤:メンバーと曲を作っていくときは、「そこ弾きすぎじゃない?」とか、「叩きすぎじゃない?」っていうことをよく話しますね。増やす作業じゃなくて、減らす作業をしていければ、良い曲になると思ってるので。自ずとメンバーも引き際をわかってるんです。
――たしかに。koboreの音楽って必要なところに必要なことしか入ってないですよね。メロディも、アレンジも、音色も、歌詞も。
佐藤:無駄なものを音楽に入れるのが好きじゃないんですよ。カラフルな音色とか使ってないし、テクいこともやってないですから。いまは4人の持ち味を出すっていうことに尽きますね。
kobore 撮影=風間大洋
――最後の「拝啓」は、アルバム制作のどのタイミングでできたんですか?
佐藤:これは「音楽の行方」と同じタイミングだったんですよ。最後にすべてをまとめる曲を作りたいなと思ったんです。「音楽は何だろう?」っていう自問自答とか、「ダイヤモンド」で<何をやりたい?何をやりたい?>って問いかけてることへのアンサーになるものとして、自分の言いたいことを言って終わろうと思ったんですよね。
――最初はコンセプトがなくはじまった作品だけど、実際に作り終えてみたら、音楽に対する自問自答と、それに対する自分なりの答えがまとまったわけですね。
佐藤:そうですね。自分の歌いたいことを歌ってたら、絶対に(言いたいことが変わって)折れ曲がる日もくるけど、ぐねぐねでもいいから、なんとなく進むのが音楽の楽しみだと思うんですよ。結果的に行き着く場所が同じだったらいいっていうチャレンジというか。どう転んでもいい、たぶん音楽がなんとかしてくれるっしょって思うんですよね。
――それが今作を作り終えて感じたこと?
佐藤:うん。あとは、やっぱり音楽って、すごいなって思いましたね。僕らの歌を良いって言ってくれる人とか、ライブでお客さんがそこにいることで意味が生まれるし。
――田中くんは、今回のアルバムを作り終えて、どんな作品になったと思いましたか?
田中:いまの僕たちを表してる1枚かなと思いますね。この先、どうなるかはわからないけど、ちゃんと同じ目標を共有できてるなら、そこに辿り着けると思うんですよ。もともと僕らは高校が同じだっただけ、年が近かっただけで、好きな音楽はバラバラだけど、それでも、ここまでやって来れたなら、これからもやっていけると思う。自分の個性を大事にしながら、この4人で進んでいきたいって思わせてくれる1枚ですね。
――正直、今日のインタビューでは、バンドの状況から推測して、お客さんの存在を意識して曲を書いたっていう話になるかと思ったら、全然違って面白かったです。
田中:ふつうはそうなのかもしれないですけどね。
佐藤:まず、僕らのなかで「売れた」っていう認識がないからでしょうね。純粋にこの世からなくなったら嫌なものは何か?っていうのが音楽なので。それは誰かに言うべきことでもなく、自分だけの考えなので。100%自分のために音楽をやってますね。
――田中くんも音楽に対する想いは同じですか?
田中:僕は、最初は誰かのためにやろうと思ってたんですけど、音楽を続ければ、続けるほど、だんだん自分のためになっていくんですよ。赳は自分のためにやってるって言ってるけど、結果、誰かを救ってるとも思うので。僕たちが楽しかったら、見てる人も楽しいと思ってくれる。だから、僕らがいちばん楽しいのが大事だと思ってますね、
――わかりました。今作を携えた『ダイヤモンドTOUR 2019』が10月から始まります。ツアータイトルは『音楽の行方TOUR』ではないんですね。
佐藤:カタカナが好きなんですよ。
――ダイヤモンドには、みんなで輝けるように、みたいな意味を込めて?
佐藤:いや、そこはもう「カタカナ、かっけえ!」っていうだけです。
――なるほど(笑)。どんなツアーをしたいと思っていますか?
田中:前回のツアーよりは、面白いものが見えることは約束できると思います。最近、ステージの上でやっちゃいけないことはないと思ってるんです。
佐藤:そのうち怒られそうだよね(笑)。
田中:テンションがあがると、ベースが折れたりするかもしれないんですけど(笑)。これがライブなんだよっていうのを見せたいですね。
――佐藤くんは?
佐藤:今回のツアーで、一生、koboreを好きでいてくれるお客さんを増やしたいです。
――そのためには、どういうライブをするべきだと思いますか?
佐藤:とことんお客さんと向き合うしかないですよね。表現したいものをできるだけ全力で出し尽くして、好きになってもらうしかないと思ってます。
――今日、話を聞いてて、たぶんkoboreは「広さ」より「深さ」なんだなって思いました。薄く好きな人がたくさんいるよりも、ちゃんと深いところで愛し合いたい。
佐藤:すぐいなくなっちゃうじゃないですか、そういう人って。熱しやすく冷めやすい彼女って、2ヵ月間はめっちゃ好きなんだけど、すぐにいなくなっちゃう(笑)。やっぱりいるんですよ。3ヵ月ぐらいで、「来なくなったな」っていうお客さんも。でも、それは僕らの責任だから、「ごめんなさい、がんばります」みたいな感じですけど。

取材・文=秦理絵 撮影=風間大洋
kobore 撮影=風間大洋

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