キスエクことxoxo(Kiss&Hug) EXTREM
E セカンド・ワンマン「UNION」ライ
ヴレポート by 高木大地(金属恵比
須)

 「UNION」と聞けば即座にニヤリとしてしまうプログレ・ファンは多いだろう。1991年、イエスの発表したアルバム名だ。それに合わせ1992年に日本ツアーも行なわれており、世代的にはご覧になった方もいらっしゃるのではないか。
 大ヒット・アルバム『ロンリー・ハート』を発表した80年代イエスの面々と、彼らがいるために「イエス」と名乗れなかった70年代イエス在籍メンバーによるバンド「アンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウ(ABWH)」という新旧2つのバンドが大合併した夢のような大所帯バンドだった。通称「8人イエス」。ヴォーカル(ジョン・アンダーソン)、ベース(クリス・スクワイア)、ドラム2人(ビル・ブラッフォード、アラン・ホワイト)、ギター2人(スティーヴ・ハウ、トレヴァー・ラビン)、キーボード2人(トニー・ケイ、リック・ウェイクマン)。
イエス『UNION(結晶)』
 かくいう筆者は小学5年だったもののプログレにハマり始めたころ。ロック好きの父に「イエスを見に行きたいんだけど……」と相談したのだが、小遣いもすべてCDに使ってしまっているうえ、あいにくにイアン・ギラン・バンドのチケットを取っており、さすがに同時期に2つのライヴは連れて行けないということで見に行くことは叶わず。まだ「ロックは不良だ!」という教育委員会が存在したような時代。公序良俗的にも厳しかろう。プログレだけど。
 さて、お馴染みの我らがプログレ・アイドル、xoxo(Kiss&Hug) EXTREME(通称:キスエク)。彼女らが2019年7月25日に、約1年半ぶりのセカンド・ワンマン・ライヴを渋谷WWWで開催した。そのタイトルが、ズバリ「UNION」だった。しかも参加メンバーを見ると、2つのバンドが表記されている。Silent Of Nose Mischief(通称:サイノー)とAlsciaukat(アルシャウカット)。Alsciaukatは、キスエクのバックを務めることの多いQuiのメンバーと、新●月のメンバーによる混成部隊だ。かくして、サイノーとAlsciaukatという2つのバンドが一堂に会すから「UNION」なのか。合点が行った。これは豪華絢爛。見に行かずしてどうする。イエスの「UNION」が見られなかったのだから、キスエクにその怨念解消を託すことにし、渋谷WWWに向かった。
 なお、筆者はファースト・ワンマンのレポートも担当しているが、アイドルの専門ではない。2019年3月にキスエクが発表した、ANEKDOTEN『Nucleus』のカヴァーCDでお手伝いしたプログレ・バンド「金属恵比須」のリーダーである。よって、プログレ寄りのレポートになってしまうことをご容赦いただきたい。
xoxo(Kiss&Hug) EXTREME『Nucleus』
■“プログレ・アイドル”を一歩前進させた新機軸の新曲
 開演。暗転とともに流れてきたのは、意外にもナレーションだった。
「2019年7月25日、今この時、一つの生命が誕生した。そのもととなる細胞たちは集まり、離れ、時に傷つきながらも、次第に『アイドル』という形を成していった。そして、まさに今、それは白と黒、二つの動脈に押し出されるかのように。歩みはここから始まる」
 幻想的で柔和なシンセサイザー音をバックに、力強い声で公演の開始が宣言される。非常に魅力的なナレーションで、ナレーターでも起用したかと思いきや、声の主は楠芽瑠(通称:めるたん)。ナレーションの技術も素晴らしく、恐ろしく器用な人なんだと感心してしまった。
 1曲目は新曲「Birth」。サイノーのキーボーディスト諸田英慈のオルガンから幕を上げる。いかにもプログレらしい明るくて浮遊感のある和音進行。そこに根岸和貴の重低音の全音符が入ってくる。古くはJ.S.バッハのパイプ・オルガン曲でも使われている「通奏低音」という技法(高音部の和音は変わっても、ベース音は同じ音を鳴らし続ける)を、プログレでも多用されている。そのど真ん中の手法を採っており、プログレ・ファンにとっては耳馴染みの良いイントロだ。キスエクはダンスの振付もなく、淡々と歌う。新鮮な光景だ。そしてそのメロディが80年代のアイドル然とした雰囲気を醸し出し、耳にすんなりと入ってくる。プログレのアレンジに、歌謡曲的な耳馴染みのある旋律。これはキスエクにとって、新たなフラグシップとなる名曲の誕生ではないか。大いに期待できる方向性である。
 めるたんのナレーションを挟み、「初恋の通り道」。3拍子の私小説的で安心する曲調で1曲目とコントラスを成す。心なしかイタリアン・プログレを匂わすアレンジが心憎い。続いて「オレンジ」。一瞬、メローなアイドル・ソングかと思いきや、19世紀のオルゴールかのような曲展開を見せる面白い曲。研修生からメイン舞台に上がってきた浅水るり(通称:るりちゃん)の歌唱が目立つ。演劇的なけだるげな振り付けもいい雰囲気。
楠芽瑠(通称:めるたん)
一色萌(通称:萌ちゃん、萌氏)
小嶋りん(通称:りんりん)
浅水るり(通称:るりちゃん)
■金属恵比須のフレーズ、使われてる!
 続いて一色萌(通称:萌ちゃん、または、萌氏)のナレーションの後、ふたたび新曲が披露される。「Salty Sky」。バンドは、サイノーに続いて向かって左側(しもて側)に布陣しているAlsciaukat。普段はQuiのメンバーでもある吉田和夫のフルートの裏メロディが印象的だ。モノクロの照明で“Salty Sky”が表現される。
 そして「Nucleus」。スウェーデンのプログレ界の重鎮「Anekdoten」のカヴァーで、3月に発売されたCDに収録されている。前述とおり、我が金属恵比須がアレンジとレコーディングを担当したのだ。レコーディングでのプロデュースを担った金属恵比須キーボードの宮嶋健一も一緒に見ていたが、本人が作り出したフレーズを自分以外のメンバーが奏でていることに興奮していた。
「実は、Quiの吉田さんが吹くだろうということを想定して、メロトロンのフルートでアレンジしていたのですが、まさかそれを本当に生フルートで再現してくれるとは。自分のフレーズを他のアーティストにカヴァーされるというのは感慨深いものですね!」
 しかも実力派Qui。頭が上がらない。そしてタイトなベースは新●月の桜井良行氏。これもまた贅沢すぎる。
Alsciaukat
Alsciaukat
 萌ちゃんのナレーションの後に続くのは、変拍子のキメが印象的な「Time and tide wait for no man」。バンドは戻ってサイノー。稲葉敬のキレの良いストラトキャスターのリフが会場を切り刻む。変則的な拍子にもかかわらずリフに合わせ機敏に踊りぬける小嶋りん(通称:りんりん)の笑顔が光っていた。観客も、徐々に舞台のテンションについていき、最後のサビでは拳を上げる風景も見られる。
Silent Of Nose Mischief
 そして大人気曲「鬱。」バンドはまた替わり、Alsciaukat。大沼あいによるパイプ・オルガンの音色が、クリス・スクワイアのソロアルバム『未知への飛翔』を彷彿とさせ、なんとなくほっとさせる。観客のテンションも“未知”に“飛翔”しそうだ。かけ声の野太い声も“未知”へ届きそう。
 第一部の最後は、昨年地下アイドルを卒業した姫乃たま作詞による「アイドルの冥界下り」。STELLA LEE JONES、新●月プロジェクトのドラマー・谷本朋翼のツーバスに合わせ暴れるキスエクたち。第一部の終わりに相応しいエンディングとなった。
Alsciaukat
■第二部はキスエクの“革命”
 めるたんのナレーションからなだれ込むのは大曲「組曲『革命』」。エレクトリック・ピアノのカンタベリー系なイントロを経て、キスエク登場。演奏はAlsciaukatだ。変拍子とキメがスパイスとして随所に使用されているが、メロディはいたってポップ。むしろ「革命」を表現するコンセプチュアルな流れこそがプログレッシヴなのかもしれない。さらに4声のハモリの和声もプログレッシヴ。アイドルでこの和音は初めて聞いた。大変そうだ。
 最終楽章「誓い~勝利のファンファーレ~」では、念願の“UNION”が成就。つまり、Silent Of Nose MischiefとAlsciaukatの2つのバンドが同時に演奏するのだ。音圧は一気に上がり大轟音に。音の塊に負けじと対抗するのがオーディエンスの掛け声。アイドル、バンド2つ、観客席が一体となった凄まじい光景を見た。これこそがロックだと体感するひと時だった。アイドルにもかかわらず。……そして、研修生るりちゃんの働きが素晴らしかった。機敏な動きで拳を上げる姿が愛らしかった。
Silent Of Nose Mischief
 1時間以上のステージを経てここで初めてMC。それまでは決まったセリフを流していただけだったのでフリートークは初となる。
「第一部は、アイドルの人生をテーマにお送りしたみたいで、アイドルの人生が、終わった、終わったみたいです」とめるたん。あくまで「みたいで」と通す客観的な姿勢を貫く“他人”気質の発言で会場爆笑。これがキスエクのお約束である。
「一人の人生が終わりました」と、あくまで別人目線。
 ここでコンセプトの再確認をし始める。「Birth」でアイドルが誕生して、「鬱。」で病む。「食べたいけど痩せたい。カワイイっていわれたい――めっちゃアイドルの人生ですね!」と、無理矢理総括する、というかこじつけようとするめるたん。
 ここでりんりんが手を挙げる。「この続き、いいですか? 『凛音』」……人生が終わったとしても、生まれ変わる(輪廻)ということでこの曲名を出してくる。次の曲のフリかと思いきや、めるたんと萌に「その曲、今日やらないけどねー」と一蹴されるりんりん。彼女一流の、安定の天然ボケであった。
 そして特筆すべき話題をもう1つ。衣装に関して。ファンからの「新衣装じゃないの?」的なツッコミを受け、ここで新衣装を披露することに。白と黒のモノトーンで、シックな大人に変身したような気がする。それぞれメンバーごとにデザインが変わっているというのもポイントだ。
 続いて人気曲「キグルミ惑星」。語りも入ることによってドラマチックで壮大に仕上がった叙事詩的大曲。演奏はサイノーで、マニピュレーター細井総司によるシーケンスが音の厚さを支える。
Silent Of Nose Mischief
 本編最後はキスエクの名をプログレ界に一気に知らしめた「The Last Seven Minutes」。今年(2019年)9月下旬に来日公演をおこなうフランスの悪魔的なバンド「マグマ」の名曲を可愛くポップにまとめた佳曲である。会場の掛け声も怒号と化してクライマックスに。演奏はAlsciaukatで、プログレ界の重鎮たちによるマグマのカヴァーを見られるというだけでレアな機会だ。演奏のキレは極めて良好で、ドラム谷本のハイハットの刻みが実に気持ち良い。複雑で高音が目立つメロディを踊りながら歌い上げるキスエクは、やはり唯一無比の「プログレ・アイドル」だ。
 大きな拍手に支えられ、二部構成の本編が終了した。
■シリアス! めるたんの卒業
「きっすえくぅ! オイ! きっすえくぅ! オイ!」
 オーディエンスの掛け声が会場に響き渡り、このライヴ限定の黒いTシャツで揃えられたキスエクが再入場。
「『きっすえくぅ!』って何回いった?」との、めるたんの一声で会場爆笑。「リズム感良かったね」と萌がオーディエンスを褒める。「さすがプログレ・オタク」とめるたんの合いの手。そして爆笑。プログレ・ファンに対する客イジリも実にうまい。
 短めのMCから「悪魔の子守唄」。中間部のメリーゴーランド的ワルツでは、オーディエンスが3拍子の手拍子を合わせる。急な曲展開にも臨機応変に対応できるファン、やはり「プログレ・オタク」だ。演奏は再びサイノー。仁科希世彦の手数の多いドラミングがひときわ光るアレンジで、軽快なスネア・ドラムが特徴的だ。「♪人間っていいな」というフレーズで全員が肩を組み合い、会場は一体となる。
Silent Of Nose Mischief
 MC。お知らせで、9月8日、大阪北堀江 club visionにて現体制の最後のワンマン・ライヴが告知された。――そう、残念なことにリーダー楠芽瑠は9月16日に卒業することが決まっているのである。
「私が叶えられなかった夢をみんなで叶えてほしい」と涙ぐみながら訴えるめるたん。常にトボけたMCが絶妙な彼女にしては珍しくシリアスな場面となり、会場もしんみりとなる。りんりんは顔を押さえて泣き出す。
「今日のこの会場での思い出はずっと忘れない」の言葉で拍手喝采となる。
「じゃあ、みんなしゃべって」と、いきなりメンバーに無茶ブリするめるたん。会場は一気に和やかな雰囲気に戻る。慌てふためくりんりんは、マイクを握りしめるも言葉が絞り出すことができず、「じゃあ、ないということで」と無理矢理閉めてしまうめるたん。再び爆笑となり、ああ、これがキスエクだよな――と勝手に安堵する。
 なお、9月6日には、めるたんの念願の夢だった初のソロ・ワンマン「Re: MERU-RiZM ~夢の架け橋~」の開催も決定。アイドル人生にラスト・スパートをかけた。
■8人イエスと14人キスエクを比較する
 最後の最後の曲は「鬱。」を再び。今回はNose MischiefとAlsciaukatの2バンドによる“UNION”な演奏で超豪華版。すべてがツイン編成の中、光っていたのがベースの根岸。6弦ベースの一種であるバリトン・ギターで、カッティングなどでベース高音部を埋め、音域の隙間を埋め、大所帯の音の接着剤となっていた。また、QuiのギタリストでもあるAlsciaukat林隆史のソロはアラン・ホールズワースを彷彿とさせながらもエモーショナルでアグレッシヴなロック・テイストのギターを聞かせてくれた。
Silent Of Nose Mischief
Alsciaukat
 楽器部門が高度な演奏をする中、感極まったのか、キスエクの感動的な場面がいくつも見受けられた。めるたんと萌がぎゅっと抱き合いなかなか離れないシーン。そしてめるたんが涙をこらえながら熱唱するシーン。今までのアイドル人生が走馬灯のように頭を駆け巡っていたのだろう。楽器メンバー10名の壮大なソロ回しの後、大団円。大きく手を振りながらキスエクは退場した。

 イエス「UNION」になぞらえたキスエクの「UNION」の幕が閉じた。イエスは8人だったが、キスエクは14人。イエスをはるかに凌駕するメンバー数で圧倒的なステージングをキスエクが見せつけてくれた。
 そして8人イエスはメンバー不仲による一触即発状態である意味スリリングな場面が多かったが、今のキスエクに関しては皆無。終始和やかで、演奏者もキスエクも心からステージを楽しんでいる様子がうかがえた。イエスは「UNION」といいながらも直後に分裂してしまったわけだが、キスエクの今回のステージは――「悪魔の子守唄」の一場面に象徴されていたように――ファンも演者も肩を組み合うことにより、さらに強固なつながりの場となったのではないか。
 渋谷WWWを去るころには、27年前の「イエス『UNION』未遂」の個人的怨みはすっかり雲散霧消した自分に気づいたのだった。
文=高木大地(金属恵比須)  写真=池上夢貢
本記事で紹介されたライブを収録したキスエクの映像DVD「xoxo(Kiss&Hug)-EXTREME 2nd ワンマンライブ ~UNION~2019.7.25 渋谷WWW」および、ライブで全曲が歌われた1stアルバム「The Both Sides Of The Bloom」が2019年9月9日に発売されます。詳細は下記リリース情報をご参照ください。

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