サクソフォン・レジェンドが放つ新シ
リーズ『トルヴェール・ディスカヴァ
リーズ!』 サクソフォン四重奏の過
去・現在・未来を「発見」!

結成から30年経た今もなお、日本のサクソフォンアンサンブルを牽引する存在としてトップを走り続ける、トルヴェール・クヮルテット。2019年11月30日(土)東京文化会館小ホールにて、彼らの活動の新シリーズとして『トルヴェール・ディスカヴァリーズ​!Vol.1』の公演が決定。サクソフォン四重奏の過去・現在・未来を「発見」するというテーマについて、また、委嘱作品やこれからの展望など、お話を伺った。
ーー今回のシリーズは新しく『ディスカヴァリーズ』というタイトルでVol.1として始まります。はじめに、このタイトルで新しく始めようと考えられた背景について、お願いします。
須川:今までトルヴェールがやってきたことを一言でまとめると、「ディスカヴァリー(発見)」なんですよね。新たなものと出会い、新たな音楽を作り、「こんなのサックスでやっちゃうの?!」みたいな曲もやり……。結成して30年以上経つわけですが、改めてタイトルをつけたことで、トルヴェールが今まで何をやってきたのかが分かりやすくなったと思います。『ディスカヴァリーズ』としてシリーズ化することで、一般の方にも、カルテットでの新しい音楽の楽しみ方を提案したいという想いも込めています。
ーー今までのことを再構築した、というか、言葉として改めてテーマを持ったというイメージですね。
須川:そうですね。コンセプトを決めてやっていくという意思表示ですね。
ーー今回のコンサートプログラムにも、長生淳さん、石川亮太さんの日本人の作曲家への委嘱作品が含まれています。曲を依頼する際に「こういうイメージで」みたいにお伝えすることはあるのでしょうか?
須川:トルヴェールの結成以来のコンセプトは「個性と融合」。一人ひとりの個性的なプレーを見せつつもぴったり合わさって、一つの楽器のような響きを出せるというコンセプトで続けています。長生さんは我々プレーヤーのことをよく知っていて、コンセプトを生かした作品はもちろん、長生さん独特の、ちょっと他の曲が混ざるというかパラフレーズじゃないけど、コラージュみたいなスタイルが思っているものとぴったりなので、その路線で続けている感じです。石川さんは、若手の大活躍している作曲家で、美しい響きを持っている方。ユーモラスなところも上手く出してくる。コンセプト的には長生さん路線と近いですが、亮太君の美しさとかかっこよさとかも出したい。我々のキャラクターともすごく合っているので、こちらもずっとお願いしています。
ーー1999年委嘱作品に「デューク・エリントンの時代から」(長生淳)があります。デューク・エリントンといえば20世紀最大のジャズの音楽家と言われていますが、クラシックとジャズについてお聞かせください。
須川:クラシックとジャズは、スタイルの違いがわかりやすいと思います。僕は「ジャズは瞬間作曲であり、そこで創造していくもの」で、クラシックは「再現芸術」であると思っていて。昔から伝わって何回も演奏していくということは、ジャズの曲でもそれを譜面に書いて「ジャズの吹き方、ジャズのスタイル」で演奏すれば、ある意味クラシックの一部じゃないかなと。ジャンルというよりも「スタイル」じゃないかなと。バロックはバロックのスタイル、ロマン派のスタイル、ジャズのスタイルもあるみたいなことが、クラシック音楽をやるうえでのひとつのカテゴリーかな、ととらえています。
田中:長生さんには「トルヴェールの四季」という、ヴィヴァルディの「四季」を使った、ほとんど作曲に近い全シーズン(全楽章)を書いていただいたのですが、その時に我々にとってはかなり難しいことを書かれていて。「これはできるんだろうか?」と、初演の時にみんな本当に緊張したのを覚えています。でもその時に長生さんが書いていたことっていうのは回を重ねるごとに、だんだん出来るようになってきたんです。そうすると長生さんは「あ、出来るんですね」と思うわけです(笑)。長生さんによって私達も出来るようになったことがありますね。
ーー長生さんが「サックス界の技術の進歩が著しい」と書かれているのを拝見したことがありますが、この点はどのようにお考えですか?
須川:僕は先生をしていますけど、レッスンする時に「難しいよね」って言うと「このフレーズは難しい」って生徒が思ってしまい、吹けなくなる。「こんなの簡単だよねー」って本当は思ってなくても言い続けると、なんか吹けるようになってくるみたい。
彦坂:負け惜しみじゃないけど、技術的なことは進歩していると思いますが「中身の音楽」ということに関すると、どうだろう、というのはあります。やっぱり使える時間って限られている。そういうこと(技術的なこと)を一生懸命やっている時間に、もうっちょっと音楽に関してやったらいいのにな、っていう気もしないでもないです。…あ!余計なこと言っちゃったかな?(笑)でもやっぱり両方ないといけない。
ーー音楽的な解釈の部分や研究ということですか?
彦坂:もちろん一人ひとり違うことではあると思います。ただ「技術に走るスタンダード」みたいな流れを感じた時に、そっちばっかりじゃどうなんだろうな、っていうのは感じますね。
彦坂眞一郎
ーー技巧的なものに走りすぎていると?
彦坂:できたらすごいんですけどね、もちろん。ただ、「できたからといって別にすごくない」という時代になってきているわけだから。
須川:たぶん純粋に聞いてくれるお客さんに対して「すごい」と言わせるか「素敵」と言わせるか、だよね。「素敵だったね、かっこよかったね、心に来たね」というような、どちらを求めるかで変わるかなあと。僕たちは「楽しかった」とか、そっちにいけたらなと。
彦坂:やっぱり一晩のコンサートなら「ハラハラドキドキ」もあれば、「泣いて笑って」っていうのもありと、オールマイティにいきたい。
須川:やっぱり「ディスカヴァリー」ですよ。「みなさんの心を発見しましょう!」という。必ず笑いがあり、必ずぐっと聴き入ってしまうものもあり。
ーーコンサートのプログラムも、そうしたことを考えて組まれているのですね。
田中:どんな演奏家もそうだと思いますけど、楽しんでいただくことを一番に考えています。ちょっとこうストーリーを感じるような。終わってみると「笑ったな、泣いたな」とか。楽しかったなあとか。いろんな気持ちをそこで体験していただけることを大切にしています。
須川:神保君その辺、観客であった時代とメンバーに入ってからの違いと、上手に語れるんじゃない?
神保:高校時代から聴きに行かせていただいて、いつも楽しい気分になるというか、衝撃的な経験をさせてもらっていました。パワフルだし美しいし、「一個の感想じゃないもの」を毎回持ち帰れるコンサートだったなあと思っていて。自分もそう思ってもらえるように頑張りたいと思います。
神保佳祐
ーー小柳さんは「伴奏のイメージを覆すピアニスト」というのを拝見しましたが、小柳さんなしでは考えられない感じですか。
田中:「4人大きくうなずく」と書いておいてください(笑)。
小柳:(笑)。伴奏というより、バリトンの下のもう一つ大きなサックス、支えるサックスのような気持ちで私はいつも弾いています。
ーー小柳さんはご自身もグループを組んで活動をされていますが、トルヴェールと一緒に活動されているときとは違いがありますか?
小柳:みんなとは30年やっているので、自分の居場所的な感じです。とても大事な仲間で先ほども言いましたが、一対四ではなくて、支え役になってみんながそれぞれ、生き生きと自由にいろんなことができるという風になったらいいなと思って続けています。ちょっと私がうるさいですけどね。
田中:「大きくうなずく」(笑)
小柳:それを広い心で許してくれている人たちです(笑)。

小柳美奈子

ーー練習の時などは、どなたか指導者や演出家的立場の方はいらっしゃるのでしょうか?
小柳:基本的に「誰かが指導者」みたいなのはここには全くなくて、…ないよね?
一同:(笑)
彦坂:頭の中で作るんじゃなくて、現場で作っている感じだよね。こういうものが出たからこうしようかっていう、やるたびにちょっとずつ生き物みたいに変わっていくので。そこが楽しいところですかね。ある意味みんなが指導者だよね。
須川:つきあいが長いから、もしかしたらそういうことを自然にやってきていたのかもしれないけど。それが「あうん」になっているでしょうね。
田中:あと演奏していて、ちょっとふざけて真面目に演奏しない瞬間って時々あるんですよ。でもそういう時に意外といいアイディアが出て、それをステージでやっちゃったり。そういうことも「発見」っていうんですかね。
ーーそれぞれ個人でも活動をされていますが、個々の活動とトルヴェールとしての活動と、重なるものはありますか?
須川:個人は個人で、ここ(トルヴェール)にきたらもう、ここの会話ですね。
彦坂:その都度集まった時の、どんぶりの中に一緒に入った状態で何かが生まれるっていうのを「発見」する?(笑)。でもやっぱりたまに思うのは、4人、5人で集まる期間がちょっと空いてから集まると、少しずつみんな変わっていたりする。それも面白いですよね。「やっくんは今あれがブームなんだな」とか、そういうのをちょっと感じます。それぞれ、今、自分のことを高めるために、いろんな奏法のことを考えたりしてるわけだから、「須川さんは今、奏法のことであれ試しているんだな」とか。お互いにそういうのを感じて面白いなあと思う。
須川:ナムルみたいなものだよね。混ぜて混ぜて味わいが出る(笑)。
トルヴェール・クヮルテット
ーーその場その場で新しいものを作っていく感じですね。
須川:サクソフォンカルテットの歴史って今、世界中で作ってるみたいなものじゃないですか。その中で、お客さんたちと近くなる部分もありつつ、だけどステージに乗った以上、シリアスなところもとことんまで突き詰めているのも、見てほしい。ずっとシリアスなところで距離を持っているんじゃなくて、「いらっしゃい、いらっしゃい、こっち向いて」みたいな感じで。引きつけておいてちょっとスパイスみたいな。
彦坂:音楽の内容がちょっと分かりづらいというかハードだけど、それがスパイスになるという。
ーーサクソフォンという楽器の魅力についてお伺いします。
彦坂:サックスは昔からよく「人の声に近い」と評されていました。クラシックでもジャズでも使われるということは、それだけ音色の選べる幅が広いという特徴があると思うんです。アコースティック楽器の中では一番と言っていいくらい、いろんな音色が出せるんじゃないかと。それと、我々みたいなアンサンブルになった時の融け合い方が素晴らしい。(音の)高さが違うだけで一緒に鳴らすと、弦楽アンサンブルみたいに融け合うというか、融合することが出来る楽器。木管五重奏の反対みたいな感じかな。
ーーでは、各パートそれぞれはいかがでしょうか。
神保:弦楽四重奏に当てはめると、ソプラノは1stヴァイオリン、アルトが2ndヴァイオリン、バリトンがチェロで、僕が担当するテナーはヴィオラの音域です。基本的には内声のパートですが、意外とメロディーじゃない人が音楽を進めて行かなくちゃいけないところとか、それがあるから進んでいくというところがあって。そういうのをやっている時がとても幸せだなあと思います。
須川:ソプラノサックスは華やかなところがありますよね。柔らかな音楽の中に時々、スパイス的にソプラノが入ると色がキラキラする。そこがソプラノサックスの役目でもあり、魅力だと思います。あとは高い音にチャレンジするというのも楽しみかな、と思います。ただそういうことをやっていると自分で「あーあ」と虚しくなるというのもあります(笑)。それも自問自答できる、自問自答にいいパートであります(笑)。高いところ(音)の立場にいるんですけど、曲によってはさらに高い音を求められるので。テンションを高くするために、トライするところはあります。
左から 神保佳祐、須川展也
彦坂:僕(アルトサックス)はもう、みなさんさえ良ければそれでいいんです(笑)。位置的にもそういう感じで、たとえばソプラノが上手に聞こえるような、背景を描くというか。僕の存在はできるだけ消さないといけないシーンとか、出る時にはガツンと出るという、その吹き分けもある。あと僕自身の特徴としては割とホルンっぽい音がするのかな?いろんなサックス吹きと比べたら。だからそういう、ふわっと背景にいるけど気づかれないみたいなところがある。
田中:気が付いたらそこにいる(笑)。
彦坂:でもいないと喪失感がすごいみたいな。いなくなったらそう思ってくださいね(笑)。
田中:バリトンサックスはカルテットの中では一番低音なので、低音の役割ではあります。魅力というか特徴としては、ちょっと不便な感じですね。吹いていても音がふぞろいな感じとか、発音もちょっとざくっとしていて、裂け目の大きな感じ。それがバリトンの特徴であり魅力でもあるかなと。わざとぶりって吹いてみたり、破壊的な音を出したりというのも出来ますし、不便な感じを魅力にしてしまおうというのが、バリトンの面白いところです。
左から 彦坂眞一郎、田中靖人
小柳:ピアノは楽器としては一番低い音から一番高い音まで出る楽器で、あとは和音が一人で出せるので、まさに背景というか母体を作れる楽器なので、カルテットで一緒に出ている時こそ、ピアノの魅力かなと。
ーーみなさんの音を受け止めているわけですね。今回はアドリブ的なこともやりますか?
須川:その道のスペシャリストとも一緒に演奏する機会はありますが、チャレンジは僕たちは許されるかもしれないけど、そこは人生の「かけた時間」が違いすぎるのでね。でもアドリブで演奏する高揚感って学ぶべきものがあるので、その魅力を自分たちの中で表すことはできないかなと、常にトライしています。
ーー今回の公演について、来場される方へのメッセージをお願いします。
須川:演奏家の息づかいとかステージに立つ姿をみて、自分も一緒にステージに立ってみたいなとか、2時間という時間を一緒に共有、一緒に演奏しているみたいな気持ちになりたいなという、演奏に参加して楽しいなと思う人たちに来てもらいたいですね。
彦坂:いわゆるメディアで聞く音楽は、過去に演奏されたものですよね。やっぱり生のコンサートっていうのは「同時に今、一緒に出る」というのが一番の違いだと思いますから、その時にどんな音が出るのか、我々も分からない。それを一緒に聞いていただくということを楽しみに、お越しいただきたいと思います。
田中:小さなお子様から年配の方まで、昭和のアイドルってそうだったじゃないですか(笑)。ヒットしたアイドル、お子様からお年寄りまで愛されている。そんな存在だといいなと思います。みんなが楽しんできてくれるっていう。
小柳:神保君、平成としてどうぞ(笑)。
彦坂:そっか平成なんだ!
神保:(笑)。トルヴェールって僕らの世代だと、みんな知っていてそれこそサクソフォンじゃない人、吹奏楽をやっている人とか弦楽器の人とかでも知っていたんですけど、今の中高生とかだと、もしかしたら知らない人が多くなってきているのかもしれない。改めてそういう人にも聴きにきてほしいですね。
トルヴェール・クヮルテット
ーーさいごに、これからみなさんが目指していきたいトルヴェールの姿があれば、教えてください。
須川:目指すというより「続けること」。やっぱり難しいですよね。我々が本当にリタイアしなきゃいけなくなった時に、神保君だけ置き去りにするわけにいかない(笑)。どういう風にトルヴェールというスタイルで続けていくのかが大事だと思います。グレンミラーじゃないけど、メンバーが変わっても同じ名前が続いていくみたいなこととか。「続いていく」ということこそ、価値が出るのかなあと。
田中:若い神保君に相続するってことですね(笑)。
彦坂:ぼくらがいなくなる時の話は、またあとにして(笑)。「あの歳でよくやっているよね」って言われないようにしたいです(笑)。「あの人たちにはほんと敵わない」と言われ続けたいですね。
須川:僕はコンサートが終わると「終わったー」って思ってポケッとしてしまうので、終わる前には次のことを言い出します。そうするとみんな「えー」って言いますけど(笑)。例えば今度の11月の公演ですけど、そこに向けてテンションが上がっている時に、次のことを考えると、そのままのテンションで考えることができます。次のことも期待して、みなさん楽しみにしてください。
トルヴェール・クヮルテット
取材・文=Junko E. 撮影=福岡諒祠

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