そうめん研究家・ソーメン二郎に訊く
、『SUMMER SONIC』挑戦への想い

あなたはどれほど“素麺”のことをご存じだろうか。

素麺=ソーメンとは、小麦から作られた細い麺のことで、1、2分茹でた麺にめんつゆを添えればできあがりという手軽さと、つるんとした喉ごしが魅力の日本人なら誰もが知っている麺料理だ。しかしながら、そのポピュラーさとは裏腹に、どこで、どのように作られ、めんつゆをつける以外でどう食べることができるのかなどはあまり知られておらず、夏がくればなんとなく思い出されて食卓にのぼる。それが多くの人が抱いているソーメン像だろう。そんな私たちに「もともとソーメンは天皇や貴族の食べ物で、江戸時代からようやく庶民の食べ物になった」と教えてくれるのは、今回の主人公“ソーメン二郎”氏だ。そうめん研究家である彼が日本最大級の音楽フェス『SUMMER SONIC』(以下、サマソニ)の誇る“ソニ飯”に今年2019年も参戦するという情報を聞きつけ、なぜソーメンなのか? なぜ『サマソニ』なのか? など、ソーメンにかける想いやソーメン業界の現状について本人に直撃取材した。
■ソーメンへの想い
――ソーメンというと日本の夏を代表する食べ物ですよね。
そうですね。ラーメンや蕎麦、うどんは個食ですが、ソーメンは家族やみんなで食べるもの。夏はお中元として贈ったり流しソーメンをやってみんなでワイワイやるような、人と人との間にある食べ物です。だから僕はコミュニケーション・ツールでもあると思っていて。
――なぜ“ソーメン二郎”の名で活動を始めたのですか?
ソーメンは唐の時代に奈良に伝わってきたもので、僕の生まれ故郷の奈良県桜井市がそうめんの発祥の地と言われています。平安時代に都があったそこでソーメンが生まれ、相撲や歌舞伎も生まれた。三輪素麺は天皇陛下の献上品でもあって、歴史ある食べ物で、12月~2月の冬の間に製麺をして、夏の間はお中元などの発送で忙しいのですが、僕は幼い頃から夏休みにはお中元の伝票を書いたり、箱を運んだりして手伝っていました。1200年もの間、三輪素麺を作ってきた家系の生まれですから、ソーメン文化を絶やすことはできないのです。20年後は手延べ素麺の製麺所が全滅するかもわからないんですよ。今作っている人たちは70代、80代で、ほとんど後継者がいないんです。夏しか食べないし、儲からないから。30年前はお中元で潤っていた業界ですが、今はスーパードライに取って代わられていますよね。うちの三輪そうめん製麺所も姉夫婦の子どもたちは他へ働きに行っていて後継がいないですから。
――なるほど。
ソーメンは揖保乃糸などが有名ですが、あれはひとつの会社ではなく、兵庫県にある400くらいの製麺所が揖保乃糸という同じブランドを作っている組合方式の商品で、それは揖保乃糸に限らず全国的にそうなんです。ですから需要が少なくなると翌年の発注が少なくなる。それでは家族を食わせていけないですし、爺さん婆さんが一人、二人で作っていたらたくさん作れない。朝も早いし、冬が終わると仕事もない。だから生産量を伸ばすために、年中ソーメンを食べて欲しくて、僕がこのレシピを作って「皆さん、夏だけじゃなくて通年召し上がってください」と発信するようになったのが今から5年前ですね。
■売れないソーメン。ソーメン業界への憂い
ソーメン革命を起こさないと、もう僕ら死んでしまいます。既存の百貨店のお中元戦略で買ってくれているのは、建築業界と歌舞伎役者くらいで、一般的にはもうほとんど買われない。他のことをやって目に触れるようにしないと、ソーメン自体を思い出して食べてもらえない。だから、流通を変える必要があるので、今まではお中元だけだったのが東急ハンズに売り場を作ったり、絵本を作ったり、歌を作ったり、レシピ本を作ってテレビに出たり。今まで誰もやっていなかったチャンネルに行って、紹介をしていって“ソーメン二郎っていう変なおじさん出てるな”でも何でもいいので、ソーメンを思い出してもらって食べてもらう。ソーメンは揖保乃糸だけじゃなく、三輪そうめん、島原素麺、小豆島そうめん、半田素麺など全国15カ所くらいの地域で作られていて美味しいものがたくさんありますし、食材としての多様性もあるので、お好きなものを選んで、作って、食べてください、と。
『SUMMER SONIC 2019』でも行列ができ……
14:00過ぎには完売に
■もっとソーメンを! 音楽フェス『サマソニ』に出店した狙い
――なぜ音楽フェスの『サマソニ』でソーメンを出そうと?
話すと長いので簡単に言うと、『サマソニ』にずっと出店している蕎麦屋(『サマソニ』出店名/東京肉そば幕天)さんから“今年はソーメンでいきたいんですけど、ご相談させてもらっていいですか?”っていう話がきたんですよ。それで一緒にメニューを考えて「ソーメン二郎の鬼すだちソーメン」というのを去年(2018年)から出していて、今年も出店します。その蕎麦屋さんを紹介してくれたレコード会社の方とはずっと昔からつながっていて、いろいろあってそうなったんですけどね。
――今年の『サマソニ』ではソーメンを扱う店が多い印象がありますが。
ここ数年、ソーメンブームみたいなものが起こってきていて、東京都内にはソーメン専門店が僕の店を入れて9店舗くらいあります。『サマソニ』には、僕もよく取材や食べに行く、店長も懇意にさせて頂いている恵比寿にある「そそそ」という人気店と、富山の方がされているらしいイタリアンのお店がパスタじゃなくてソーメンを出すと聞いています。うちのお店を入れて3店舗が出店するそうですが、僕はソーメン業界全体の啓蒙や後押しをしているので、たくさん出たほうがいいと思っていますし、ソーメンの盛り上がりをすごく感じています。(※取材は『サマソニ』開催前に実施)
――昨年、初めて『サマソニ』に出店されてどうでしたか?
すだちが途中でなくなって、幕張のすだちを全部買い占めたくらい好評でした(笑)。朝10時から19時までずっと人が並んでいる状態で、合計600杯くらい出てましたね。やはりライブ後には冷たいソーメンがいいというお客さんが多くいて並んでくださっていました。多分、冷たい食べ物を出していたのがうちしかなかったんじゃないかな。去年はかなり注目をいただいて、スタッフの方に依頼されて『サマソニ』の公式の打ち上げでも振る舞ったんですよ。
――「ソーメン二郎の鬼すだちソーメン」とはどんな商品なのでしょう?
大きめの器で薄いすだちが全面に乗っていて800円です。
ソーメン二郎の鬼すだちソーメン
――『サマソニ』のような、所謂屋台のスタイルで提供する料理として、ソーメンは難しいアイテムなのでしょうか。
早くできる料理ではありますが、ソーメンは家庭料理であって外で食べる用のレシピを誰も作っていなかった。外食として成立していなかったんですよね。冷やし中華とかと違って、ソーメンは麺とめんつゆだけっていうイメージじゃないですか。それで800円、1,000円は取れないですよね。その価格に見合うメニューを作りたかったというのはあったので2年前にレシピ本を出したり、その頃から外食専門店が出てきたりもしていたので、『サマソニ』で食べてもらうっていうのはいい流れなんじゃないかなって。
――『サマソニ』で食べられるのは三輪素麺ですか?
奈良県桜井市のソーメン(三輪山勝製麺「一筋縄」)​ですだちとの組み合わせでいこうかなと。イタリアンのお店さんはイタリアンな感じでくると思いますが「そそそ」さんは何でくるのか。人気メニューの明太子クリームでくるのかなあ。お互い並んで『サマソニ』で素麺を売るってことは今までなかったから嬉しいですよね。本気の遊びの一環として。レッチリにもソーメンをぶっかけに行こうかなって。それくらいやらないとダメですよね(笑)。
ソーメン二郎の鬼すだちソーメン
■レシピ本、絵本、こども食堂、週末はゴールデン街に出店などジャンルレスに活動中
――レシピ本も出されているんですよね?
4年前、クックパッドさんと一緒に今年の夏のソーメンの動向をみてレシピを選んで僕が審査するというのがあったんですけど、そこでお伝えしたのがソーメンをオリーブオイルと天然塩で食べること。ソーメン自体の甘みとかのど越し、ツヤがわかってめちゃめちゃ美味しいんです。
――でもそれは美味しいソーメンじゃないと難しいですよね?
ソーメンには2種類あって、機械で製麺しているものと手で製麺しているものがあって、パッケージを見て「手延べそうめん」と書いてあるものが人力で作られたものです。機械のほうは熟成もあまりしていないし、切れてボソボソになってしまう。珈琲でいうと缶コーヒーか豆のドリップ珈琲かの違いくらいあると思いますね。ソーメンの小麦の香りと甘さを楽しんで欲しいから、産地の手延べそうめんを買っていただいたほうが美味しいと思うし、業界も潤います。
――食べ方を知ればもっと楽しめそうですね。
家でなんとなく温いのをワンパターンで食べるのは苦行じゃないですか。どうせだったら楽しくいろいろ食べてほしいなと思っています。この前、NHKの情報番組「おはよう日本」に出演して室町時代にどうやってソーメンが食べられていたかを僕が再現したんです。醤油は元禄時代からなので、当時、醤油はなかったんですよ。何を付けて食べてたと思います? お酢とからしなんです。そこにゴマと味噌を入れていて、貴族はそれに最高級の贅沢品としてクルミをまぶして入れていたんですよ。それが応仁の乱や足利さん時代に食べられていたというのが文献に残っていて。だから僕は、お酢、からし、ゴマドレッシングでミックスして、梅肉、梅干し、ニンニクを少し入れて再現して。夏に元気がなくなったらお酢を食べればいいというのがありますが、お酢とからしって冷やし中華なんですよね。だから室町時代のそのソーメンの味付けを冷やし中華に転用したんだと思うんですよ。レシピは時代によって変わる。昔のレシピが令和には新しいということでやるのは面白いかなと、それで需要が増えたらいいなと思っています。
――今後の活動は?
ソーメンを盛り上げるために、食でコミュニケーションするツールとして活用して毎年いろいろやっていますが、もともとイベントプロデューサーとしてコミュニケーションを作る環境を整えるのが僕の仕事だと思っているので、これまで得たノウハウを使って同じことをしていると思っています。そのうちのひとつが『サマソニ』だったり、絵本だったり。今年はローソンさんでソーメン二郎のギフトセットも作らせていただいたりして、今までなかったチャンネルを増やす活動をしています。それは三輪素麺に限らず、いろんなソーメンがありますよというPRをして全体が盛り上がればいいなと。もともと僕は音楽が好きなので、そのジャンルの中にある『サマソニ』にソーメンが入っていくとか、僕の好きなゴールデン街で週末に店を出すとか、僕なりのクロスオーバーをやれることは自力でやっています。それでも、新しいことをやってもまだまだちゃんと伝わってないと実感しているので、地道な作業をするしかない。だから絵本を作って幼稚園や保育園へ読み聞かせに入り、ソーメンを食べてもらったりしています。
――子どもたちの反応は?
いろんな薬味やスパイス、ドレッシング、めんつゆを用意するんですけど、めんつゆを使わずにずっとイタリアン・ドレッシングで食べている子がいたりするんですよ。“それはちょっと美味しくないんじゃないの?”って言って、もらって食べるとそれが美味しいんです。フルーツポンチソーメンを作ると大人はこんなのダメって言うけれど、子どもは完食してくれる。“なんだ、俺は間違っていたのか”と固定観念を持っていたことを知らされたりして。それに子どもは嘘つかないから、まずければ“まずい”とはっきり言うし、美味しくなければ食べません。めんつゆも強いのだと食べなかったりしますし。だから僕は子どもたちから教えてもらっています。
――ゴールデン街では子ども食堂もやられていますよね?
あそこに集まる子どもたちはゴールデン街のお店のマスターたちのお子さんや近くの保育園の子どもたちで、50人くらいいるんです。僕はゴールデン街にずっと呑みにいっていて、会長さんとも友達なので仲良しの人が集まってみんなでやっています。僕はソーメン、スパイスなどをメーカーさんにご協力を募って全部送ってもらったりして、みんな手弁当でやっている活動です。子どもと親に伝えていくというのが一番ベースの活動なので。美味しいソーメンを最初に食べていたら、ずっと食べ続けますから。ゴールデン街では土日の昼間(12時〜17時)に間借りしてそうめんBAR(ゴールデン街1番街「奥亭」)を出していますのでぜひ遊びにきてください。

取材・文=早乙女‘dorami’ ゆうこ 撮影=鈴木 恵
■テリー植田/プロフィール
ソーメン二郎
奈良県出身。日本のイベントプロデューサー。iTSCOMが運営するイベントハウス「東京カルチャーカルチャー」勤務。サブカルから水族館、自治体イベントまで幅広くプロデュースしている。日本全国21都市で開催されている本の交換会「ブクブク交換」の創案者・主宰者でもある。ソーメン二郎というペンネームで、日本のそうめん文化の継承発展のための活動も行なっている。
・ソーメン二郎 オフィシャルTwitterhttps://twitter.com/somenjiro

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