ミュージカル女優・濱田めぐみが語る
MET『アイーダ』の見どころ~METライ
ブビューイングアンコール上映

世界最高峰のメトロポリタン・オペラを映画館で楽しむMETライブビューイング。2019年8月に入り東劇をはじめ、大阪、神戸名古屋で恒例の夏のアンコール上映が始まっている。これを記念して、このほど東劇での『アイーダ』上映に際し、ミュージカル女優の濱田めぐみを招いてのスペシャルトークイベントが開催された。濱田は劇団四季在籍中に数々の作品のヒロインを演じ、とくにミュージカル『アイーダ』では日本初演のオリジナルキャストも務めている。今回のトークではオペラとミュージカルという、ジャンルは違えども、ともに「声」を使う女優としての視点ならではのトークが繰り広げられ、会場を訪れたファンも興味深げに耳を傾けていた。(文章中敬称略)
■「ミュージカルは短距離走、オペラは持久走」
濱田が出演したミュージカル『アイーダ』はオペラをベースに2000年につくられたもので、音楽を『ライオンキング』や『ビリー・エリオット』も手掛けたエルトン・ジョンが担当したことでも話題を呼んだ。濱田は日本初演時からこの作品に携わっており、「非常に思い出深い作品」だという。
今回オペラ版を目にして「同じ『アイーダ』でも、オペラとミュージカルは表現の仕方、作り方が全然違う。ミュージカルは作品のために曲を作り、台詞の延長上に歌があるが、オペラはやはり歌が主体」と感想を語った。またジャンルは違えど同じ声を使う仕事ではあるが「ミュージカルは日常をそのまま舞台に乗せるようなところもあり、歌に関しては瞬発力が大事。オペラはそもそも声に膨大なエネルギーがあり、大ホールの隅々に至るまで、音響マイクもなしに長時間にわたって聞かせなければならない。ミュージカルが短距離走なら、オペラは持久走」と、なるほど納得のコメントも飛び出した。
また今回タイトルロールを演じるネトレプコについて「キャリアを重ね、声が熟成されてきたところで挑むアイーダ役」と司会者が紹介すると、濱田は「声は消耗品だし、使えば使うほど筋肉がしっかりついてくる。キャリアを重ねた声は熟成されたワインのような感じ」と同意。実際、濱田もミュージカル『アイーダ』を1000回以上演じており、それにより「首の周りの筋肉と肋骨周りの筋肉が発達して、ワンピースが寸胴になった(笑)」と自身のエピソードを披露した。
MET『アイーダ』
■「幕間インタビューも含め、METの歌手はプロフェッショナル」
さらに濱田はミュージカルとオペラの『アイーダ』の違いについて、「オペラは自分が演じてきたミュージカル版とは全く違っていてとても斬新だった」とも。例えばミュージカルではバラードに乗せてしっとりと歌う場面が、オペラでは非常に情熱的に演じられていたり、またその逆もあるのだという。
しかし役作りについては、「幕間のインタビューでアイーダ役のネトレプコの話を聞き、アイーダがどう悩み、苦悩するかなど、役の捉え方は同じだった」とも。さらにこの『アイーダ』のストーリーは、アイーダ、アムネリス、ラダメスの三角関係が話の軸の一つとなるが、「三角関係は出演者のパワーバランスが大きく作用していて、実はとても絶妙で繊細な、駆け引きのような力学が働いている。そういうところも注意して見てみるとおもしろいかも」と演者ならではの観賞のヒントも。
ちなみにMETライブビューイングではお馴染みの幕間インタビューについて、「本番中の役者の精神状態は細いライン上をギリギリで歩いているようなものなので、その間にインタビューを入れるというのに驚いた。対応できる歌手の方々は本当にすごい。METの歌手の方々はそうした精神力の強さも含めたうえでこそ、METの歌手なんだなと思った」と、舞台人ならではの感想と賛辞を述べた。
MET『アイーダ』
■「オペラもミュージカルも、表現されるものは同じ」
今年のMETライブビューイングのアンコール上映は東劇では10月3日まで、過去最多の32作品が上映される。さらに兵庫・神戸国際松竹では9月26日まで25作品が、大阪・なんばパークスシネマと愛知・ミッドランドスクエアシネマでは8月23日から9月19日まで14作品が上映予定だ。
「どの作品を観てみたいか?」という問いに対し、濱田は「全部観てみたい。時代やお国柄を反映したセットや、民族衣装をはじめとする衣装などきらびやかで、どれも素晴らしい」。そして「ミュージカルもオペラも恋や妬み、嫉妬、苦しみなど、人間の根幹にあるものを表現している。表現方法が違うだけで、オペラはとにかく全てが豪華絢爛。見終わると口があんぐり、という感じになるので、ぜひ集中力をもって最後まで見てほしい。見終わったらぜひ本場で観てみたい!と思います」とも。
今回濱田が語った『アイーダ』は、東劇では9月17日~19日、9月22日、10月1日に上映予定だ。このほかにもMET新音楽監督のヤニック・ネゼ=セガン指揮による作品の特集やMETデビュー50周年を迎えたプラシド・ドミンゴの出演作も並び、オペラファンから初心者までが楽しめる内容となっている。ぜひこの機会に足を運んでみてはいかがだろう。
取材・文=西原朋未

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