和気あいあいの本広学級!? 『転校
生』公開舞台稽古をレポート

PARCO Produce公演『転校生』が2019年8月17日(土)から、新宿・紀伊國屋ホールで上演される。それに先立ち、公開稽古が行われた。
平田オリザの戯曲「転校生」は、1994年に青山演劇フェスティバルで初演された、高校演劇のバイブル的戯曲。高校生たちがとりとめのない話を交わしている教室に「朝起きたらこの学校の生徒になっていた」という転校生がやってくる。身近に起こる出来事の会話を通して「生」と「死」が語られ、人間の存在の不確かさが浮かび上がるという作品だ。
同公演は2015年に、本広克行の演出で新たな才能を発掘するプロジェクトとして行われ、前回に引き続きフルキャストオーディションで行われる。
高校生たちのある夏の一日を描いた同公演。今回、オリジナルの女子校バージョンの改定版として平田が新たに翻案した男子校バージョンも上演される。稽古場の様子をレポートする。
まずは発声練習から。42人が輪になって声を出していく。真剣な眼差しが眩しい。
声出しをして体がほぐれたところで、女子の稽古がスタートした。公開されたのは、作品の4場となる。平田オリザの戯曲特有の同時多発会話が繰り広げられて、教室のあちこちで会話が聞こえる。このザワザワとした賑やかな空間を前にすると、誰もが経験してきた高校時代の懐かしい感覚が呼び起こされるのだ。
女子校バージョンでは風鈴を演出として用いるようだ。軽やかな音色が舞台上に夏の情景を立ち上げる。
キャストは自分が演じていないとき、舞台上で演技するキャストを見つめている。この作品を通じて42人が出逢い、いずれ公演終了を迎えるという現実が作品世界にリンクした瞬間に彼女たちが見せる表情は、観客の心にスッと入り込む。見つめるキャストも作品の重要なエッセンスの一つなのだ。
4場には特に印象的なシーンがある。クラスメートが帰った教室に転校生が一人、佇んでいる。転校生を演じる天野はなが何とも言えない表情で自身の席の前に立つ。そこへ藤谷理子演じる同級生が入ってきた。
「明日もこの学校来れるかなと思って」
透明感のある天野の演技に、場の空気を包み込むような演技で藤谷理子が応えていた。
続けて、男子校版の通し稽古が公開された。誰もいない教室。「開演10分前!」の合図に中嶋海央が入ってきた。舞台が始まる前の教室に、命を吹き込むような存在感を放つ。
教室に次々に生徒たちが入ってくると、あちこちで会話が始まった。少しヤンチャで躍動感のある男子のやり取りを眺めるのは楽しい。
4場の、転校生が1人教室で自分の机を眺めるシーンでは、松本翔太郎が実直で不器用な男子高校生を演じる。田中俊介(BOYS AND MEN)が温かみのある演技でそれに応えていた。
男子の通し稽古の後、本広による演技指導が行われた。公演に向け、おのずと熱のこもった指導になる。キャストがそれぞれ席に着くと、まるで本広学級が始まったかのようだ。
「このセリフ中はあまり動かないで。お客さんと一緒に理解しようとしながら、ちゃんと伝えよう」
丁寧な指導が入る。
平田の同時多発会話劇は舞台上で複数の会話が繰り広げられるが、物語の重要なセリフや演技は、客席にしっかり届ける必要がある。指摘されなかったキャストも被りがないか、タイミングや位置を本広と演出助手の大久保遼に確認していった。
キャストは積極的に本広と演出助手の大久保に疑問を投げかけ、意見を出している。受け止める本広から、彼らのポテンシャルを最大限に引き出そうする思いが伺える。
また本広はダメ出しだけでなく、良かったと思う演技はしっかりと評価していく。
場の転換でキャストが楽器を演奏するのだが、ピアノを止めるタイミングについてこんなやり取りが始まった。
「デクレッシェンド(だんだん弱く)ですか」
「それ。デクレッシェンドで。1と2の時に弾き始めるのは、もうちょい早い方がいいね」
「クロスオーバーしましょう」
「クロスオーバーでデクレッシェンドですね」
「そうそう。クロスオーバーでデクレッシェンド」
笑いを交えながら進めているのが印象的だ。
オーディションで集まったメンバーが、男女2つのクラスとしてまとまっている。高校生のような繊細な心の揺らぎを見せるフレッシュなキャストに、経験豊富な若手俳優たちが場を引き締め、各21人の大所帯に一体感を持たせている。
不思議な転校生が現れる以外は、何か特別なことが起こるわけでもない平田の戯曲。当たり前の出来事に新たな視点を投げかける深みのある作品に、本広の演出が加わり、高校生時代に感じた心のざわめきが想起させられる。次世代を担う役者42人が集い、さらなる成長を目指し切磋琢磨する様子を目の当たりにして、彼らの状況に共感せずにはいられない。これから初日まで、どれだけブラッシュアップされた作品に仕上がるか、期待が高まる。
取材・文・撮影=石水典子

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