MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』
第十六回目のゲストはMAH(SiM)今、
フェスシーンは「スポーツマンシップ
」になってしまった

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』、記念すべき第十六回目のゲストはSiMのMAH。毎年、自らが主催するイベント『DEAD POP FESTiVAL』を行っているMAHは、今のフェスシーンについて「良くも悪くもスポーツマンシップになった」と話す。現在、国内フェスは音楽好きに留まらない、夏の風物詩となった。その証拠に、2018年には『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』で約27万6000人、『FUJI ROCK FESTIVAL』で約12万5000人を動員。上記以外のフェスも数・動員数ともに増える一方だ。MAHの感じている「スポーツマンシップ」の言葉には、どういう意味が込められているのか。そしてアフロが感じている、今後の音楽の在り方とは――。
●イチ人間として誰に対しても平等に向き合える奴が好き●
MAH:(机の上に置かれた飲み物を見て)タピオカ?
アフロ:俺が買ってきた、ウェルカムドリンクっす。
MAH:初のタピオカだ。(静かに飲んで)……お、悪くない。
アフロ:タピオカを口にしないで、どうやって今まで女の子と楽しんできたんですか。
MAH:俺、女子供の好きなものは口にしないんだ。あとは豆乳系とかも「そういうのは女子が楽しんでくれ」と思ってる。こういうのも毛嫌いしてたけど、意外と美味しいな。
アフロ:これでタピオカを見るたびに、俺のことを思い出しますよ。
MAH:ハハハ、そうだね。で、この企画っていつも何を話すの?
アフロ:特に何も決めてないんですよ。いつも居酒屋で対談をしているんですけど、今日はユニバーサルの会議室だからガヤガヤしてなくて調子が出ないっすね。
MAH:いつも居酒屋なのか。
アフロ:だけど俺、酒はほぼ飲めないんですけどね。
MAH:そうなの? 俺は酒ばっかり飲んでるな。
アフロ:酒を飲む人はタピオカにいかないっすよね。ちなみに新しく出来た商品とかトライしないですか?
MAH:全然しないね。マクドナルドに行っても毎回同じものを頼んでる。
アフロ:何を頼むんですか?
MAH:チキンタツタが大好きなんだけど、無くなっちゃったから今はダブルチーズバーガーかな。
アフロ:マックフルーリーは食べないっすか。
MAH:絶対に食べない。コンビニでも新しい商品を食べようとする人の気持ちが全然分からなくて。もう、「コレで良いじゃん!」って。そう考えたら、俺は意外と頑固なのかもな。
アフロ:それは音楽にも通じてます?
MAH:そうだね、あんまり新しい音楽は掘らないかも。高校生くらいに聴いていたのが未だにNO.1みたいな感じで、Spotifyでも「2000年代」と入力して昔から好きな音楽を変わらずに聴いてる。
アフロ:その感じだと、『DEAD POP FESTiVAL』(SiMが主催する野外フェスティバル)のブッキングは相当大変じゃないですか。
MAH:対バンする人たちとか、そういうのは別かな。
アフロ:ああ、確かに対バンはアーティストを否が応にも知っておかないと、1日の流れは分からないですもんね。
MAH:そうそう。対バンになってくると、音楽より人間性の方が気になるね。
アフロ:人間性はどこを見ているんですか。
MAH:嫌なのはランク付けをするような人というか、悪い意味で人を査定しているようなタイプは好きじゃない。それよりも、イチ人間として誰に対しても平等に向き合える奴が好きなのね。先輩でも頭ごなしに来る人よりも、対等に喋ってくれる人が好き。
アフロ:元々がそういうタイプだったんですか。
MAH:逆かな。学生時代は生徒会長をやってたし、ラグビー部の部長をやってたから、昔は「先輩、押忍!」みたいな感じだった。それが嫌で音楽に行ったのかもしれない。
アフロ:嫌だったんですね。俺は野球部出身で、割と縦社会に心地よさを感じていたんですよ。だけど、それが音楽を始めたら邪魔になったんですよね。やっぱり崇めれば崇めるほど、その人との距離はどんどん離れていくし「ああいう付き合い方は、狭い世界でしか通用しないんだ」と。そこに気付くまでは遅かったですね。
●自分の人間性とキャラクターが乖離した●
MAH:そうなんだ。(アフロは)殴り込んでいくタイプだから、元々がそうなのかと思ってた。
アフロ:ライブは別ですね。……あ、お水飲みます?
MAH:お、ありがとう。
アフロ:こういうところが野球部っぽいじゃないですか。だけど、これは野球部で得た知識じゃなくて、恋愛のマニュアル本で身につけました。
MAH:マニュアル本? それは本気で読んでるの?
アフロ:もちろん作詞作業の一環ですけど、あれには情緒がありますね。しかも、それが正解だと思って実行すると間違ってたりするじゃないですか。
MAH:え、実際にやるの!?
アフロ:それこそ『smart』とか『Samurai』の後ろのページに、恋愛のHOW TOが載ってたじゃないですか。あそこに「好きな子には頭ポンポンだ」とか書いてあって。
MAH:あるね。「頭くしゃくしゃだ」とか。
アフロ:中学生の俺はそれを真に受けるんだけど、ガチガチの童貞じゃないですか。それを怯えながらやると、逆に痴漢の触り方になっちゃってるという。そういうメンタリティをMOROHAでやりたいんですよね。
MAH:え、どういうこと?
アフロ:そこを愛おしいと思えるようになってきてるというか、そういうダサさが身にしみてる。ようやく今、周りに少なからず認めてもらえるようになったし、お客さんにも愛してもらえていると思うんですけど。自分の素質は、カリスマとか崇められる存在ではないと。
MAH:最初は崇められる方になりたいと思ったの?
アフロ:ハハハ、当たり前じゃないですか。バキバキに思いましたよ。だけど1回目の挫折は、レコーディングした自分の声を聴いた時に「何、これ?」って。言うなれば、俺はうっかり八兵衛の声じゃないですか。だからこそ、うっかり八兵衛が助さん角さんに張り合っていくストーリーを受け入れた上で戦っていく。どちらかと言ったら、世の中はうっかり八兵衛の方が多いはずだから、そっちの方が届く相手がいるはずだと思ってますね。
MAH:そうか、俺はひたすら崇められたいけどな。
アフロ:MAHさんは、見事にそっちの路線を行ってるじゃないですか。
MAH:だけど、音楽的に育ってきたシーンはメロコアなんだよね。俺らがライブに出始めた頃は、ハイスタの背中を追いかけているハイスタ・チルドレンのバンドがいっぱいて。そういう人たちってさ、髪の毛にワックスをつけないで、短パンにTシャツでキッズと同じ格好でステージに上がって、MCも言葉足らず。それがカッコ良かったし、そのカッコ良さを俺も分かっていたんだけど、自分はそうなりたいと思わなかった。だからひたすらカッコつけてライブしていた。
アフロ:そうなりたくなかったのか、本当はそっちで勝負できないと思ったのか、どっちですか?
MAH:後者の方だね。マリリン・マンソンとかKOЯNとか、そういう「人であって人でない」みたいなアーティストに憧れていたから、それが俺にとっては自然だったんだよ。だからラウドロックと言われてるバンドは「カッコつけてナンボだ。ダサい所は見せたくない」というスタンスなんだと思う。俺はプロレスが好きだから、そういうカッコよさだけじゃなくて、汗臭さとか時には涙とかを混ぜこぜにしたいなと思ったら今の形に行き着いた。
アフロ:そうなってくると、オフとオンはありますね。
MAH:そうそう。逆に、ステージから降りてもあのまんまだと、やっていけないんだよね。
アフロ:『DEAD POP』でGENちゃん(04 Limited Sazabys)に「ビジネス悪魔」と言われたじゃないですか。お客もそれを分かっている上で、滲み出ちゃう人の良さの出ているのがすごく良いんですよね。
MAH:「ヒールレスラーも根っからの悪じゃない」みたいな、そこが上手く伝わっていると思うね。
アフロ:キャラクターという言い方が正しいか分からないですけど、思い描いているMAH像は最初からあったんですか。
MAH:全然なかった。4、5年前までは全然違うキャラだったと思うし、ここ最近で周りが「悪魔」と言ってくれるようになって。自分でも「これが俺のやるべきライブだし、やりたいライブなのかもな」と思ってきた。やっと固まってきた感じかな。
アフロ:迷うこともありますか?
MAH:昔は迷うことばっかりだったね。それこそ4、5年前ってワンマンで武道館をやったり、横アリ(横浜アリーナ)をやったりした頃で。3000人から1万人を相手にすることになった時、ライブハウスでやってきたことが全然通用しないと思ったんだよね。熱量とかじゃなくて、やっぱり技術が必要だなって。一時はそういう壁にぶち当たってすごく迷ったけど、ようやくMAH像が固まったのは3年くらいかな。
アフロ:歌うことだけじゃなくて、MC1つにとっても「どう見えるか」が大事になりますよね。矢沢永吉の「俺は良いけど、矢沢がどう思うかな」という言葉があるじゃないですか。ああいう自分の本心とステージの自分が乖離することってないんですか?
MAH:もちろんあったし、そのギャップが嫌なこともあった。最初は気ままにやっていたんだけど、ちょっと売れたタイミングから自分の行動に責任感が生まれて。喋ることとか、やっていることに責任を持たないといけないと思った時に、どうしても自分の人間性とキャラクターが乖離した。それがすごい辛くて、どうにか1つに戻せないかなと思っていたんだけど「もう分けよう」と。それですごい楽になったかな、だから今は割り切っている。
●現在のロックに求められていることは、スポーツマンシップだと思う●
アフロ:ちなみに乖離しているのは、どんなところなんですか。
MAH:言葉を選ぶよね。SiMのMAHとして言っちゃいけない言葉が自分の中であって。
アフロ:それは優しい言葉なんですか? それともNGワードの方ですか?
MAH:後者の方だね。人を傷つける言葉は言いたくないから、そこが俺の「ビジネス悪魔っぽい」ところなんだと思う。でも、それで良いと思ってて。あとは求められていることが嫌になっちゃう人が、アーティストでもいるじゃない? バカ売れした曲をライブでやらないとか、そういうのが俺には全然なくて。求められていることをやって、その中で今日は何をするんだろう?というのが毎回あるようなライブを目指しているかな。
アフロ:HIPHOPというのは、「突き放す厳しさを信じる音楽」な気がしているんです。俺はそう思ってやってきたんですけど、そこを納得している部分と、俺はそれだけの人間じゃないと思っている部分に葛藤してました。「これはどうしたもんかな。だけど、それがラップだしな」と思っている時にメロコアのシーンと出会ったんです。
MAH:うんうん。
アフロ:メロコアは突き放すものではなくて、引き込む力じゃないですか。そこを見せられた時に「これも1つの正解なんだ」って。しかも「バックヤードもすごく空気が良いぞ」と。
MAH:ロックといっても、日本は独特だと思ってて。海外のバンドは、袖でみんなが他のバンドの演奏を観る習慣がないんだよね。「どうして日本のバンドは、みんながあんなに支えあっているんだ」みたいに言うんだってさ。俺らとしてはそれが普通だし、仲間のライブを観て気持ちが焚きつけられることもある。本当に日本のロックシーンは仲が良いんだろうね。
アフロ:そうっすね。
MAH:俺は先輩のディスソングを書いたこともあるし、HIPHOPのBEEFも好きで。そこに対してガチな人もいるだろうし、話し合った上でやっている人もいるだろうけど、どっちも面白いなと思ってて。それがロックでも出来るかなと思ったけど、やっぱりダメだったんだよね。お客さんが本気にしちゃうというか、こっちがいじるつもりでやっても「人の悪口を言うバンドなんて嫌です」みたいな。今のロックシーンはクリーンだから、そういう捻くれたことをしても空回りしちゃう。
アフロ:それは感じますね。北風と太陽じゃないですけど、人はもっと太陽の方へ寄って行ってる気がします。
MAH:これほどロックフェスがあるということは、それだけライトなお客さんも多いわけで。BEEFを理解してない人に「分からないのはダサいよ」という空気じゃないんだよね。俺らは分からない人を突き放すんじゃなくて「じゃあ手取り足取り教えよう」と。ロックシーンが大きくなりすぎてしまって、だからこそ俺らが飯食えている理由でもあるけど。ただ、今は俺らが憧れていたロックシーンとは違うかな。俺らはセックス・ドラッグ・ロックンロールの世界に憧れたけど、現在のロックに求められていることはスポーツマンシップだと思う。
アフロ:‪俺がとある現場で、ワーっとやっちゃった話は知ってますか。
MAH:うん、聞いた。
アフロ:俺は「HIPHOPの現場でしょ? これぐらいなら受け入れるだろう」と懐の深さを信じて行った結果、やっぱりスポーツだったんだと分かった。今、MAHさんが仰ったことに近いと思うんですけど。
MAH:うんうん。
アフロ:そのスポーツという現場に、ガチを持ち込んでたくさんの人に迷惑をかけてしまったことは、純粋に申し訳なかったと思うんです。ただ、俺の持っている精神性はそれだから、そこは好きなままでいようと。その一件から、そういうフェスには呼ばれなくなったタイミングで『DEAD POP』のオファーをもらったんですよ。それで俺は勝手に、「そういう風を入れて欲しいのかな」と思ったんです。
MAH:呼ばれなくなった件を知ったのは『DEAD POP』の後だけど、その意図は大体あってる。スポーツマンシップしか知らないお客さんはまだまだ多いから、俺がやっているプロレス感とは違うガチのアーティストがいて欲しいなと思った。そういう意図で呼んでいるのは、ジャンル違いの人が多いんだよね。アフロがお客さんに「お前らのことが嫌いだよ」と言ったけど、あれをガチで受け止めていた奴がどれだけいるのか、そこまでは分からないけど。ただ、すごく意味のあるライブだったなと思ってて。だから、MOROHAがイベントに出てくれてすごい良かったと思った。
●HIPHOPもレゲエも本当の意味で関係なくなるのかな●
アフロ:『DEAD POP』にラッパーって、結構出てるんですか?
MAH:今年はMOROHAとあっこゴリラだけかな。昔はレゲエのアーティストに出てもらってたけどね。
アフロ:句潤って知ってます? あの人すごいっすね。HIPHOPとレゲエ両方の要素があるような。‬
MAH:うんうん、そうなんだ。
アフロ:やっぱり新しい音楽となると、ミクスチャーなんだなと思うっすね。
MAH:そうだね。良い意味で古き良きを無視できる若い世代の人たちが現れたら、HIPHOPもレゲエも本当の意味で関係なくなるのかなって思う。
アフロ:若い世代か……「若い世代」という台詞に躊躇なくなってきました?
MAH:ない。だって、お互いに中堅でしょ。俺は全然知らない20代前半の子達がフェスで挨拶をしに来てくれるようになって、「そういう世代になったんだな」と自覚した。
アフロ:(挨拶に)来るからだ。俺らのとこには全然来ないから。
MAH:ハハハ、本当に?
アフロ:全く来ないっすよ。
MAH:なんでだろうね。
アフロ:‪んー……俺は夏フェスのバックヤードでMAHさんにCDを渡しましたよね。‬
MAH:そうだね。
アフロ:その前にも何度もすれ違っているんですよ。やっぱり初対面でタイミングを逃しちゃうと、そこから中々話しかけられないのはありますよね。
MAH:特に俺は人見知りで、相手から話しかけられるまで喋らないタイプだからね。
アフロ:生徒会長なのに。
MAH:そうそう。
アフロ:どういう生徒会長だったんですか。
MAH:えー……。
アフロ:ちなみに俺は生徒会の議長でした。
MAH:中学生の時は本当にパンク小僧で、学ランの下にシド・ヴィシャスみたいな南京錠のネックレスをして、それを隠しながら生徒会をやってた。
アフロ:生徒会では真面目な感じなんですか? それともパンクなことを言うんですか?
MAH:言ってたことはパンクだったのかもなぁ。「先輩の意志を受け継いで、この学校を~」みたいな感じで、演説とか熱いことを言ってた気がする。
アフロ:人前で何かすることは好きだったんですか。
MAH:好きだったみたい。小学校でもクラス委員みたいなことをやってた。
アフロ:俺も副会長をやってました。
MAH:やっぱさ、人前で喋ることに躊躇ないでしょ?
アフロ:あー、昔から好きでしたね。だけど怖いんですよ、怖いけど好きでしたね。
MAH:喋れちゃうよね。だからバンドだとさ「誰がMCをするか」みたいな話になるわけじゃない。でさ、そういうのが苦手な人を見ると「本当に無理なんだろうな」って可哀想になる。俺らは喋れるに決まってるんだよね。だって生徒会をやってたんだから。
アフロ:そうですよね。選挙やりました?
MAH:やった、やった。
アフロ:みんなはマイクを使って演説したんですけど、俺だけ生声でやりました。
MAH:アハハハハ。
アフロ:あの、MAHさんはイタイ時期ってありました?
MAH:中学の頃かな。湘南の中学なんだけど、ヤンキーとかいなくて真面目な学校だったんだよね。中3くらいで友達がヤンキーの真似事をし出して、仲良かったから俺も一緒に真似して。修学旅行でさ、「龍」って書いてあるリストバンドを買ってきてつけてたなぁ。あとは部活で膝にサポーターをつけないといけなくて。それを体育の時もつけているのがカッコイイ、みたいなそういう時期はあったよ。
アフロ:俺が一番イタかったのは、上京したての頃。俺にとっての東京は、『Ollie』で後ろのページに載っているようなパーティスナップの世界だったんですよ。長野県青木村にいた頃の俺は、村営グラウンドのベンチに腰掛けて山を眺めながら毎月『Ollie』やら『Samurai』をグワーと読んで「俺はこっち側の人間になる」と。
MAH:編集長が聞いたら泣いちゃうよ。
アフロ:上京した当時は、個性派なファッションが流行ってたんです。俺はストリートスナップをされたくて「とにかくぶっ飛んでりゃあ良い」と、左右の腰から竹ぼうきをぶら下げて渋谷のGAP前を闊歩してました。
MAH:なんか、ウシジマくん(『闇金融ウシジマくん』)に出てきそうなストーリーだな。結局、写真は撮られたの?
アフロ:撮られるわけないじゃないっすか。
アフロ・MAH:(顔を見合わせて)アハハハ!
アフロ:上京したとは言ってますけど、その頃は千葉の幕張方面に住んでまして。
MAH:じゃあ、わざわざ渋谷へ行ったんだ。
アフロ:そうなんすよ。1時間半くらいかけて渋谷へ行って。竹ぼうきをぶら下げながら1日歩き回ってもスナップされることなく、総武線に乗って家に着いた頃には、ほうきで肌がかぶれてるっていう。
MAH:エモいなぁ。
●肉体を伴う実感だけが本当だと思うんですよ●
アフロ:だから、今は夢のようですよ。原宿でラウドロックの雄である、SiMのMAHさんと対談っていう。
MAH:いやいやいや。だけど地元に帰ったらヒーローじゃないの? 『しゃべくり007』とかみんな見たでしょ。
アフロ:時代が変わってきましたね。SNSによってテレビへの憧れとか承認欲求の方向性が変わってきた気がします。もし俺らの学生時代にSNSがあれば、音楽をやってなかったかもしれない。俺なんか、教科書の隅に書いてたポエムが始まりですから。あれをSNSに投下してリツイートされたら、それでOKじゃないですか。
MAH:承認欲求を満たすために、わざわざ人前に立ってやることないもんね。
アフロ:だからSNS前後で変わってきた気がしますね。
MAH:俺らの時なんて、インターネットですら途中だったもんな。今、こんなにいろんなことが溢れてて、CDを持ってなくても好きな音楽がすぐに聴けるわけじゃん。みんな、ちゃんと聴いてくれてるのかなと不安になる時があるんだよ。SiMの曲だってタダで聴ける場所はたくさんあるのに、お客さんにマイクを向けて歌ってくれなかったりすると「アレ? 聴いてないの?」って。
アフロ:これだけ便利になったら、肉体を伴う実感だけが本当だと思うんですよ。俺ら「それいけ!フライヤーマン」という曲があって。これはSLANGのKOさんがCOUNTER ACTIONの外で未だにチラシを配っている話を聞いて、それにすごい感動したし、そのインスピレーションで作ったんです。この曲を書いたからには俺もフライヤーを配ろうって。だけど「ぶっちゃけツイート1発で良くない?」「フライヤーを1万枚刷るよりも、テレビに1発でた方が早くない?」って考えは、めちゃくちゃその通りだと思うんです。でも、やっぱりそこに立って、実感を伴ってチラシを渡して「あ、MOROHAだ」とか、受け取った時に「あ、こいつら嫌いなんだよな」とか。そういうのは、ものすごく肉体を伴う痛みと喜びと、いろんなものがグワーっとくる、あの感じ以外を俺は歌詞にできないだろうし、そういう体験以外にお客もお金を払わなくなるだろうなって。
MAH:そうだね。
アフロ:ビジネスとしては成立しないんですけど、本当に突き詰めていけば2度と行きたくないと思うくらいのライブをやることが正解なのかもしれない。今、俺は逆に良いなと思ってるんですよね。音源をタダで聴けるところはたくさんあるけど、生半可な感じだと聴いてもらえないというか、実感に届かない。俺たちは、1枚買ったCDを必死に手繰り寄せていったじゃないですか。そもそも3000円を払ってCDを買うこと自体がめちゃくちゃ実感だったし。
MAH:わかる、そうだね。よく言うことだけど、CDの封を開けるとかケースをパカっと開けるとか。そういう1個1個の面倒くせえなと、今では思われるようなことが実感だったと思うし。
アフロ:そういった過程みたいなところに、どれだけドキドキ・ワクワクのするかっていう。それを見つけられるライブっていうのが良いですよね。
(そして、話はライブから恋愛へ進む……)
●理解してほしいけど、俺のことを知った気になってんじゃねえぞ
アフロ:結婚することを急に発表したじゃないですか。あれって躊躇しなかったんですか?
MAH:隠すというか嘘をつけないタイプだから、俺はむしろ発表したくて。猪狩秀平 (HEY-SMITH)、Masato (coldrain)、Taka (ONE OK ROCK)っていう俺の親友3人を集めて婚約の報告をした時、それをファンに発表すべきかどうかという話になってさ。あいつらは「お前は悪魔キャラなんだから、ダメ!」って反対してきたんだよね。Masatoだけは「発表した方がいいよ」って言ってたかな。それで結局、結婚式の当日まで悩んだけど「俺は発表したいんだ」と、改めて3人に話したら「分かった、協力する」と言ってくれた。
アフロ:「言わない方が良い」というのは、女性のお客さんがショックを受けちゃうんじゃないかと。
MAH:じゃないかな? 俺はそんなの大丈夫だと思ってたんだけど、事務所の社長とかは「聞かれたら言えば良いけど、わざわざ言わなくても良いんじゃないか」と言ってて。そのグレーな感じが嫌だったから「俺は言います」って。だけど結果的には、それがめっちゃ正解だったと思うし、それから世間的にもみんなが割と公表するようになったしね。
アフロ:お客さんから「ショックだ」という声は届きましたか?
MAH:1人2人いたくらいで、お客さんも減ってないし全然大丈夫だった。
アフロ:そうなんですね。俺も彼女と住んでること言ってるんですけど、お客は一切動じないですよね。‬
MAH:フフフ、だけどMOROHAは彼女との曲を歌ってるわけじゃん。だから免疫がついているんじゃない?
アフロ:んー、ラブソングって彼女がいる最中で書きます?
MAH:俺ね、今まで一回もラブソングを書いたことないの。
アフロ:じゃあ怒りの曲を怒っている最中に書きます? 通り過ぎてからじゃないですか。
MAH:そうだね。
アフロ:俺も終わったことだから書けるんですよね。俯瞰して見えるようになってからじゃないと、歌詞は書けなくて。
MAH:そうか、そうだよね。
アフロ:歌詞を書く時って、まずは想いが先にあるんですか。
MAH:いや、基本的には鼻歌で「何の言葉が合うかな」と思って考えるから語感かな。英語だから余計にそうなると思うんだけど。
アフロ:日本語で歌うこともあるんですか?
MAH:あるし、本当はもっと日本語で歌いたいんだけど、俺的には日本語だと誤解されないから嫌なんだよね。
アフロ:「意味が定まってしまう」「想像力を奪ってしまう」ということですか。
MAH:そうだね。日本語の方が刺さるけど、刺さりすぎちゃうと言葉にしか耳がいかなくて「それはちょっとなぁ」と思う反面、それが羨ましくもなる。すげえ矛盾してるけど、「理解してほしいけど、俺のことを知った気になってんじゃねえぞ」という気持ちがあるんだよね。だから俺は英語がちょうど良くて。
アフロ:‪ラッパーでも具体性をあまり持たせず、更には自分の感情もみせず、ただ最後の最後に「愛してる」のド直球で締めることでドキッとさせるのも1つの手法なんですよ。それが上手いラッパーを見ると、めちゃくちゃ嫉妬するんですよね――。‬
スタッフ:あの……お話しの途中にすいません。撮影のお時間になります……。
アフロ:そんな時間か。MAHさん、ありがとうございました。
MAH:たくさん喋ったね。こちらこそ、楽しかったよ。
文=真貝聡 撮影=高田梓

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