Saucy Dogが先輩バンドに挑んだツア
ー、SUPER BEAVERとの最終公演で残し
た確かな"一歩"

One-Step Tour 2019.7.25 Zepp DiverCity(TOKYO)
ライブは誤魔化しがきかない。嘘はバレる。そのステージの上では先輩も後輩も関係なく、お客さんの心に残る音楽を届けることができたアーティストだけに価値がある。Saucy Dogが7月25日にSUPER BEAVERを迎えて開催した全国ツアー『One-Step Tour』のファイナル公演は、そういうロックバンドの世界で、飛び級も近道もせず、ひたすらステージに立ち続けることでのし上がってきたバンド同士が作り上げた、泥臭い対バンだった。
SUPER BEAVER 撮影=青木カズロー
今回のツアーは、大阪に04 Limited Sazabys、名古屋にクリープハイプ、東京にSUPER BEAVERという人気と実力を兼ね備えた3組の先輩バンドを迎えた東名阪。その経験値の差で言えば、下手をすれば、主催であるSaucy Dogのほうが容赦なく食われてしまう可能性すらある挑戦的なツアーだ。タイトルの『One-Step Tour』とは、「一歩も二歩も前を走る先輩に追いつけたら」という意味でつけたという。昨年5月にリリースした『サラダデイズ』以降、渋谷TSUTAYA O-Crest、渋谷WWW、恵比寿リキッドルーム、赤坂ブリッツ、東阪の野音へと、会場の規模感を上げながら、イベントやフェス、対バン、ワンマンなど、様々な形態でライブを重ねてきたサウシーにとって、その成長が試されるラスボス戦が今回の対バンなのだと思う。
SUPER BEAVER 撮影=青木カズロー
先攻はSUPER BEAVER。2組のバンド名が大きく書かれたバッグドロップの前に、渋谷龍太(Vo)、柳沢亮太(Gt)、上杉研太(Ba)、藤原“31才”広明(Dr)の4人が登場すると、「27」からライブがはじまった。抑制の効いたタフなバンドサウンド。そのうえでメロディを紡ぐ渋谷は、このステージから伝えるべき事柄には一切の齟齬があってはいけないとでも言うように、歌詞の一語一句の歌詞を噛み締めながら、そこに込めた想いを言葉で補いながら、メロディを紡いでゆく。最初のMCでは、「先輩後輩とか言うのは好きじゃないけど……」と前置きをして、「あんまり後輩のバンドに呼ばれることがないから嬉しい」と伝えた渋谷。この日の対バンに先立って、サウシーのメンバーと飲みに行ったとき、石原から「俺ね、バチバチにやりたいんすよ」と言われたことを明かすと、その心意気に全力で応えるべく「受けて立つ!」と勢いよく宣言した。
SUPER BEAVER 撮影=青木カズロー
藤原が高くスティックを突き上げながら繰り出すビートが疾走感を加速してゆく「青い春」から、スタンドマイクで歌う渋谷の後ろで、柳沢、上杉、藤原のトライアングルがしっかりと目を合わせながら演奏していた「閃光」へ。先輩だとか後輩だとかは関係なく、尊敬すべき対等のロックバンドとして、サウシーへの敬意を込めたビーバーらしい全力のステージに、フロアもまた、これがサウシー主催のライブであることを忘れるほどの熱狂的な歓声で応えた。
SUPER BEAVER 撮影=青木カズロー
ピンボーカルの渋谷が「実は俺も楽器ができるのさ」と、軽やかにタンバリンを叩き、心地好いグルーヴを生んだミディアムテンポ「赤を塗って」のあと、再びMCでは、渋谷がサウシーについて熱く語った。「やつらの歌にはとっても力があります」「あいつらは愚直だと思います。自分たちの音楽が大好きで」。その言葉は、奇を衒わず、シーンの潮流にもひるまず、ひたすら石原の歌の力を信じ続けたサウシーへの最大の賛辞だったが、そのままビーバーにも当てはまる形容詞だ。誰のために、何ために音楽を鳴らすか。その命題にSUPER BEAVERもまた愚直なほど真っ直ぐに向き合うバンドだからだ。
SUPER BEAVER 撮影=青木カズロー
終盤は、そんなビーバーがメジャー時代にリリースし、唯一いまも歌うバラード曲「シアワセ」を披露。嘘をつかず、その瞬間ごとに心を燃やして生み出してきた歌は、バンドが歴史を積み重ねてゆくことで、意味を変え、新しい価値を帯びながら、歌い継ぐことができるということを、ビーバーは言葉ではなく、この曲でサウシーに伝えたかったのかもしれない。クライマックスにかけて大きなシンガロングを巻き起こした「秘密」では、渋谷が「サウシーに届かないと、これやってる意味がないんだよ!」と激しくフロアを煽り、「予感」でフィニッシュ。「俺たちの大事な後輩をよろしくお願いします!」と言い残した最後の言葉まで、兄貴肌を貫き、先輩バンドの役を引き受けたSUPER BEAVERのかっこよさに痺れた。
SUPER BEAVER 撮影=青木カズロー
ステージに現れた石原慎也(Vo)、秋澤和貴(Ba)、せとゆいか(Dr)の3人がこぶしを突き合わせて気合いを入れると、「真昼の月」からSaucy Dogのライブはスタートした。短めのストラップでベースを構える秋澤がアグレッシブに動きながら奏でる流麗なベースライン、歌に寄り添い、ドラマチックな起伏を描くせとのドラム。表情豊かなスリーピースのバンドサウンドにのせて、圧倒的な声量を誇る石原のボーカルが力強く響きわたる。淡い光がステージを照らすなかで届けたのは「ゴーストバスター」。君が希望を見失った亡霊に“なり腐ってしまう前に”と、(愛情ゆえに)乱暴な口調で叱咤激励するナンバーは、「いつか」や「煙」のような恋愛ソングだけが武器ではない、サウシーの新機軸となるエールソングだ。
Saucy Dog 撮影=白石達也
「私がビーバーの好きなところは、見ているお客さんと同じ熱量になって、全員でライブしているように感じるところです」と、この日のビーバーとの対バンに寄せる喜びを伝えたせとのMCには、石原が「泣きそうやん」とからかうように言葉を添えた。歌い出しのワンフレーズで聴き手の心を揺さぶる「煙」、苛立ちや不安を抱えながら旅をするバンドマンの歌「メトロノウム」のあと、温まったフロアの熱を冷ますようにたっぷりと間を置いてから、結末のわからないラブストーリーを描いた初期曲「マザーロード」へ。3人が呼吸を合わせ、テンポを変えながら、緊張と緩和を繰り返すSaucy Dogのライブは、鳴らす音だけでなく、静寂も味方にして進んでゆく。その行間や隙に言いようのない味があるのだ。
Saucy Dog 撮影=白石達也
二度目のMCでは、石原が渋谷に言ったという「バチバチでやりたい」という言葉に触れ、「虚勢でもつよがりでも、自分に自信を持ってないと、観に来てくれる人とかメンバーにも申し訳が立たないなと思って。(いまは)ただのつよがりでもいいから、これから自信を持ちたいです」と、飾らない言葉で伝えると、続けて6月に配信リリースされたばかりの最新ナンバー「雀ノ欠伸」を披露。開放感あふれるバンドサウンドにのせて、“嘘のない今を生きよう”と、自分自身のアイデンティティを模索しながら歌うナンバーは、対バン相手であるビーバーが、たとえば「らしさ」や「予感」といった楽曲で扱うテーマにも近いものがあり、サウシーが先輩の胸を借りて、ひとまわり成長するための今回のツアーで、その1組にビーバーを選び、声をかけた必然にも想いを馳せたくなる瞬間だった。
Saucy Dog 撮影=白石達也
サウシー流のロックンロールにバンドのロマンを目一杯に詰め込んだ「バンドワゴンに乗って」のあとは、「コンタクトケース」と「いつか」という真骨頂のバラードナンバーを続けて披露。「いつか」では、足を大きく振りあげた石原がダン!ダン!と地面を強く叩いて歌い出す。その始まり方がZeppのような大きな会場でも変わらないことも嬉しい。
Saucy Dog 撮影=白石達也
ラスト1曲を残して、石原は「龍くん(渋谷)に“バチバチでやりたい”って言ったけど、みんなの表情を見ていると、ここにいる一人ひとりに伝えるライブをやりたいなと思いました」と話し出した。かつては本心を曝け出せず、ひとりよがりになってしまうこともあったこと、お客さんの顔を見られない日もあったこと、だからこそ、この会場を埋められた嬉しさ、音楽をやれる幸せ、そういうことを伝えると、最後に渾身のちからを込めた「グッバイ」で、フロアに大合唱を巻き起こした。昨日までの弱い自分に別れを告げて、目の前の壁を越えてゆく。そんな想いを込めた「グッバイ」が、サウシーの大切なライブで必ず最後のほうに歌われるのは、壁は越えるたびに高くなり、弱さを克服するたびに完璧ではない自分に気づかされるからだと思う。いまや「グッバイ」は、そういう日々を重ねて、がむしゃらに成長を続けるSaucy Dogというバンドのテーマソングのように聴こえた。
Saucy Dog 撮影=白石達也
全12曲を終えたあと、アンコールはなし。最後にサウシーとビーバーで写真撮影を終えると、「ワンステップできたかな?」という石原に言葉に、フロアから「できたよー!」というお客さんの温かい声が飛んだ。この日、SUPER BEAVERという強靭なバンドを前にして、揺るぎない自分たちを貫いたことは、間違いなく彼らの成長の証だった。

取材・文=秦理絵 撮影=青木カズロー(SUPER BEAVER)、白石達也(Saucy Dog)
Saucy Dog 撮影=白石達也
Saucy Dog / SUPER BEAVER 撮影=白石達也

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