大ヒット曲「真夜中のオアシス」を
収録した
マリア・マルダーの初ソロ作
『オールド・タイム・レイディ』

本作『オールド・タイム・レイディ』
について

これまでの彼女の音楽経験の集大成が、この初ソロで聴ける。本作はアメリカのポピュラー音楽史に残る名盤中の名盤である。

まずは、このアルバムに参加したバックミュージシャンの豪華なこと。ギターに、スライドギターの名手であるライ・クーダー、後期バーズのメンバーでブルーグラスギターの一時代を築いたクラレンス・ホワイト、ジェフ&マリア時代からの付き合いで、人間離れしたテクニックで知られるエイモス・ギャレット、本作収録の『真夜中のオアシス』を書いたソングライター兼ギタリストのデビッド・ニクターンらが参加。ベースにはボニー・レイットのバックを務めるフレットレスベースとチューバをこなすフリーボ、ビートルズ・ファミリーのクラウス・フォアマン、フライング・ブリトー・ブラザーズの創立メンバーで数多くのセッションもこなすクリス・エスリッジ、ジャズベースの名手レイ・ブラウンも参加。ドラムにはアメリカが誇るジム・ケルトナーとデレク・アンド・ザ・ドミノスのジム・ゴードンが、キーボードには先日亡くなったドクター・ジョンをはじめ、スプーナー・オールダム、マーク・ジョーダン(同名異人は多いが、本作に参加しているのはデイブ・メイソンのバックを務めていた人)が参加している。他にもクウェスキン・ジャグ・バンドからの盟友、ビル・キースとリチャード・グリーン、イーヴン・ダズン・ジャグバンドで一緒だったデビッド・グリスマンなどが参加し、彼女のソロデビューを祝福している。

収録曲は全部で11曲。大ヒットした「真夜中のオアシス」はデビッド・ニクターンの手になる名曲で、エイモス・ギャレットの名演も含め多くの模倣を生んだ。特に日本のニューミュージック界に与えた影響は大きい。他にもヘレン・レディがヒットさせたロン・デイヴィーズの名曲「長くつらい登り道(原題:Long Hard Climb)」、ブルーグラス風にアレンジしたドリー・パートンの初期の代表曲「マイ・テネシー・マウンテン・ホーム」、ドクター・ジョン作で彼のピアノが冴え渡る「スリー・ダラー・ビル」など、非の打ち所のない名演揃いである。また、当時はまだ知られていなかったウェンディ・ウォルドマン(デビューは73年)やケイト&アンナ(デビューは76年)の曲も新人とは思えない深さを持つ曲で、彼女(ボイドかもしれない)の音楽センスには脱帽するばかりだ。

彼女のヴォーカルの強みは、洗練されたジャズ感覚とブルージーな泥臭さが違和感なく同居しているところにあり、スパイスとしてのレトロ感覚がノスタルジーを呼び起こしてくれる。彼女の登場以降、古き良きアメリカを歌う歌手が一挙に増えたが、マリア・マルダーの艶のある色っぽさには及ばない。恐らくそれは、彼女がジャグバンド出身であることに関係するのではないかと僕は考えている。

いずれにしても、本作はずっとそばに置いておくべき名作である。

TEXT:河崎直人

アルバム『Maria Muldaur』1973年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. エニー・オールド・タイム/Any Old Time
    • 2. 真夜中のオアシス/Midnight At The Oasis
    • 3. マイ・テネシー・マウンテン・ホーム/My Tennessee Mountain Home
    • 4. ラヴ・ソングは歌わない/I Never Did Sing You A Love Song
    • 5. ザ・ワーク・ソング/The Work Song
    • 6. ドント・ユー・フィール・マイ・レッグ/Don't You Feel My Leg(Don't You Get Me High)
    • 7. ウォーキン・ワン&オンリー/Walkin' One & Only
    • 8. ロング・ハード・クライム/Long Hard Climb
    • 9. スリー・ダラー・ビル/Three Dollar Bill
    • 10. ヴォードヴィル・マン/Vaudeville Man
    • 11. マッド・マッド・ミー/Mad Mad Me
『Maria Muldaur』(’73)/Maria Muldaur

OKMusic編集部

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