ヨーロッパ企画『ギョエー! 旧校舎
の77不思議』プレビュー公演レポート
~怖がらせつつもやっぱり笑える学園
コメディ!

全国10ヶ所での公演が控えている、2019年度のヨーロッパ企画の新作『ギョエー! 旧校舎の77不思議』。毎年恒例となっているプレビュー公演が、今年も滋賀県・栗東の「栗東芸術文化会館さきら」で上演され、「オカルト青春コメディ」と銘打った今回の劇の全貌が明らかになった。

舞台となるのは、いかにも昭和の校舎という感じの、高校のエントランス。現在の校舎に問題が発生したため、ずっと閉鎖されていた旧校舎に、一部のクラスが移動することに。しかしそこは「学校の七不思議」の11倍となる「77不思議」があると噂される、いわくつきの場所だった……!
大阪の会見で「ちゃんと77個の不思議を舞台上でやって、しかもそれらを全部カウントする」と宣言した、作・演出の上田誠。77個がいかにボリューミーかというのは、本番の140分(実際の上演は、10分の休憩が入って150分)中、2分弱以内に1個は不思議を出さないと、上演時間内に入りきれないレベル……と言えばおわかりいただけるだろう。

旧校舎を割り当てられた3年F組は、問題児だらけのクラスだが……。

そして実際の舞台は、本当に次から次へと「不思議」が起こる起こる! 学校の怪談の鉄板ネタはもちろん、「いや、それって不思議に入る?」というグレーなものもあれば、もはや「学校」の枠を超えた怪異もありで、特に冒頭のたたみ掛け具合は圧巻だ。そしてもう一つの課題である「不思議のカウント」も、ある仕掛けによってキチンとクリア。しかもそれがただ数えるだけでなく、先ほど起こった怪異を即座に笑いに変えたり、笑いをさらに上乗せするような効果まである。そのためか全体的には、昔の手作り感あふれるお化け屋敷のように「うわっ、ビックリしたー。ハハハ」という感じで受け止められるような雰囲気だ。
旧校舎で過ごす心得を生徒たちにレクチャーする教師たち。
とはいえ怪異のバラエティ性のみならず、意外とまっとうな学園青春ものっぽいストーリーも見どころだろう。学級崩壊で生徒が4人しか登校しないというどん底のような状況のクラスが、本多力が演じる担任教師の熱意もあって、ポジティブに関係を変えていく……とは、学園ドラマのド定番のような話だが、その変化がことごとく「不思議」きっかけというのが本作ならでは。数ヶ月に渡る時間が流れる物語の中で、大小様々な伏線が回収されていく辺りも、ヨーロッパ企画らしさ全開だ。5人のゲストたちも、それぞれの個性や特技(特に日下七海のアレは驚愕!)を大いに活かし、スクールライフのリアリティを作り上げていく。
生徒たちが安心して学べるよう、教師たちは担当の分野を生かして、怪異の対抗手段を考える。
そしてやはり上田が会見で「群像会話ではなく、個々の役者のぶつかり合いみたいなことができたら」と語っていた通り、「ほぼ全員が一致団結して1つの難題に当たる様子を、絶妙なパスワークの会話で見せる」というパターンが多かったヨーロッパ企画には珍しく、それぞれが「驚かせる側」「驚かされる側」に分かれ、ガチンコでぶつかるという構図になっていた。しかも「驚かされる側」に付いてた役者が、ふいに「驚かせる側」に回ったりもするから油断できない。この辺りの関係性やキャラクターの変化も、怪異の表現に負けずに注目してほしい。
少し影のある女子高生・ハマノ(左/祷キララ)は、本作のナレーションも担当。
「怪談って怖いだけじゃなく、笑えたり優しかったりするんですよ」というのは、かの怪談の語り部・稲川淳二先生のお言葉だが、この“学校の怪談”は、個人的には「怖さ2:優しさ1:笑い7」というところ。要は「怖いものは苦手だから、今回はパスしようかなあ」と悩んでいた人は、安心して観に来てOKですよ。むしろ「怖さ」というバネがある分、いつもより笑いの跳躍加減が大きいですよ……とささやいてあげたい、ということだ。ヨーロッパ企画が強者ゲストたちと共に、本気で驚かせ+笑わせにかかる『ギョエー! 旧校舎の77不思議』。足を運ぶ気になった(あるいはチケットゲット済みの)皆様には、この芝居にふさわしく、謎めいた言葉を最後に残しておこう。
「客席が完全に明るくなるまでは、絶対に席を立ってはなりません……」。
ヨーロッパ企画 第39回公演 『ギョエー! 旧校舎の77不思議』 CM

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