1年ぶりの新作公演が開幕 ミュージ
カル『刀剣乱舞』 ~葵咲本紀~ ゲネ
プロレポート

ミュージカル『刀剣乱舞』待望の新作は、戦乱の時代に記された“もうひとつの物語”。前作『三百年の子守唄』で徳川家康の一生を支えるという壮大な任務にあたった刀剣男士。あのとき無事エンドマークを迎えた大河ドラマの裏側にあったのは、刀剣男士と人間とが歴史の網の目をかいくぐる様に大切に育んだ、真の絆だった──。
「刀ミュに初々しさが戻ってきた!」……と言っては語弊があるだろうか。初演よりここまで、一作ごとに刀ミュカンパニーが積み上げてきた信頼と実績に甘えることなく、これまでの思いを受け継ぐ2振りに加え、新刀剣男士を4振り登場させての新作公演。物語こそ前作『三百年の子守唄』から派生させてはいるが、あらゆる部分で新機軸にチャレンジしている本作から感じたのは“真新しさ”。「すごくよく知ってるけれど全てが新鮮」なこの攻めの姿勢には“信頼できる裏切り”という潔さがある。また、初参加のキャラクターたちのフレッシュな存在とも相まって、ここへ来て再びミュージカル『刀剣乱舞』の世界をとても初々しい感触で味あわせてくれているのだ。
今回、刀剣男士たちが派遣されたのは慶長五年。本丸の仲間がそれぞれに家臣としての任を終えていく中、千子村正は井伊直政として、蜻蛉切は本多忠勝として、引き続き徳川家康の元にとどまり“正しい歴史”を守っていた。そこへ徳川家康の次男・結城秀康が時間遡行軍のターゲットになっていると知った主が明石国行、鶴丸国永、御手杵、篭手切江を派遣。6振りが集合し、敵に立ち向かっていくが……。
(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
冒頭から驚かされたのが、千子村正の“人間臭さ”。妖刀と呼ばれギミックの効いた言動も魅力だった彼が、真っ直ぐに己の中に込み上げる怒りを表し刀を振るっていくのだ。それは、演じる太田基裕が『三百年〜』の初演・再演と、板の上に立つたびに千子村正のキャラクターの存在意義をブラッシュアップし続けてきたからこそ到達できた境地。まさに“深化”である。同じく『三百年〜』の初演・再演と蜻蛉切を演じてきたSpiも、おおらかな人の良さで場を和ませてくれていた蜻蛉切に思慮深さとさらなる強さを添え、ひと回りもふた回りも幹を太くした大樹のように存在してくれる。2振りの間で交わされる戦う者ならではの友情もとても愛おしい。
いつか“すていじ”に立つため歌や踊りの“れっすん”を欠かさないという変わり種の刀剣男士・篭手切江を演じる田村升吾は、体全部を使った溌剌とした姿で“夢見る少年”を体現。ミュージカルならではの登場シーンはちょっとしたサプライズだ。篭手切江のひたむきさは時に仲間の心を揺さぶり、ヤル気がないのが売りのはずの明石国行の“保護者気質”も度々くすぐっている様子。演じる仲田博喜は独特のお国訛りの特徴を生かしたセリフのニュアンスとキザな仕草で、ON/OFFモードを巧みに使い分けていく。
御手杵役の田中涼星は長い手足を生かして槍さばきも見事にこなし、御手杵特有のニュートラルな空気感でほっこりとしたシーンを担うことも多い印象。この編成ならではの見どころとも言える天下三名槍同士の蜻蛉切との共闘も、釘付け必至だ。
初登場ではあるがこの本丸では古株という鶴丸国永を演じる岡宮来夢は、本作が2作目の舞台とは思えない安定感。まさに白づくめの鶴のような軽やかな身のこなしと歌声も素晴らしく、“先輩の余裕”で敵に向かっていく頼れる男士である。
詳しいストーリー展開はネタバレ故にここではまだ控えさせてもらうが、人間役の徳川家康(鷲尾 昇)、松平信康(大野瑞生)、結城秀康(二葉 要)、永見貞愛(二葉 勇)、徳川秀忠(原嶋元久)もみな情に溢れる熱い芝居でぶつかり合い、それぞれに信念を持って生きるが故の葛藤、家族に寄せる不器用な愛情を伝えてくれた──そう、この物語を動かしていくのは、人間たちと刀剣男士たちの情と魂の呼応。そこに在る誠実さと慈愛、気高く生きることの尊さは、見守る観客自身の“生きていく力”にもなってくれることだろう。
東京から始まり大阪・兵庫・福岡、そして東京凱旋公演と2ヶ月半の長期公演(内容は見てのお楽しみ、2部のライブもこの6振りならではの構成で盛大に出陣!)。その間、最初に感じたカンパニーの初々しさは、いつしか別のモノへと変わっていくかもしれない。しかしその変容ぶりもまた、作品が育っていく上での大きな大きな楽しみ。役者も観客も『葵咲本紀』から生まれ出づるたくさんの“知っているけど新しい”を分かち合いながら、さらなる刀ミュの歴史の駒を共に進めていこう。
(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
キャスト・演出家コメント
明石国行役 仲田博喜:明石国行はやる気ないキャラクターなんですが、会見はやる気満々でいかせていただければと思います! 今笑うところです!(会場笑)。たくさんの方の期待を背負っている作品だと思いますが、稽古を約2か月くらいやってきて、キャスト、スタッフ、関係者で作ってきたものを、最高の状態で届ける準備ができたと思っています。全74公演、カンパニー一丸となって最後まで戦い抜きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
千子村正役 太田基裕:今回は新作公演ということで、また千子村正の新たな一面に出会えると思うと僕自身も非常に楽しみで仕方ないです。お客様にとって心に残る素敵な作品になるように頑張っていきますので、長い公演になりますが、応援のほどよろしくお願いいたします。
蜻蛉切役 spi:僕自身、個人的にいち『刀ミュ』ファンとして、新作公演に、新しく刀剣男士が出てくるのが本当にうれしくて、稽古場でみんなの稽古も見て、わくわくしています。毎日みんなをご飯に連れて行ったりして、わくわくが溢れちゃっています。早くお披露目したいという気持ちで、この作品を観ていただけるのを、そして皆さまの前に4振りが出ていくのを非常に楽しみにしています。
鶴丸国永役 岡宮来夢:稽古期間の2 か月は、僕にとって初めてのことが多く、自分にとってたくさんの挑戦になる舞台だと思っています。いろんな不安やプレッシャーをたくさん感じながら、それも全部楽しみながら、74 公演頑張っていきたいと思います。応援よろしくお願いします!
御手杵役 田中涼星:今回4振りが初出陣ということで、太田さんや spi さんからいろいろアドバイスをいただきながら、新しい4人で、お互いを助け合い、鼓舞し合いながら稽古に臨んだ2か月でした。この作品をお客様のもとに届けられるのが楽しみであり、ドキドキしています。74 公演最後まで精いっぱい頑張りますので、宜しくお願いいたします。
篭手切江役 田村升吾:この作品、『葵咲本紀』は時間をかけて作ってきた作品なので、やっと幕が上がるのかと思うと素直に嬉しいです。僕個人としての見どころは篭手切江が初めて登場するシーンなんですけれども、今までのミュー ジカル『刀剣乱舞』にない新たな試み、挑戦だなと思うので、ぜひそこを観ていただけたらと思います。彼が作品の中でたくさん成長していくと思うので、ぜひ劇場で観ていただければ嬉しいです。
演出 茅野イサム:約1年半ぶりに、ミュージカル『刀剣乱舞』の新作が開幕します。今回は新たに明石国行、御手杵、篭手切江、鶴丸国永の4振りが刀ミュに加わります。この新しい刀剣男士たちと出会えることに心を躍らせ、とても楽しみながら作りました。
明石国行役の仲田博喜は、生まれが関西ということもあって、明石国行の話す独特の方言もとてもよく馴染んでいますし、掴みどころのないこの役を体現出来る役者です。鶴丸国永を演じる岡宮来夢はこれまで殆ど舞台経験がなく、何ものにも染まっていない真っ白な彼は、鶴丸国永の無垢 な姿と重なります。その見た目と中身のギャップで皆様を驚かせたいです。御手杵役の田中涼星は、頭のてっぺんから爪先まで正に御手杵。肉体だけでなく、御手杵の気さくでおおらかな雰囲気を持ち合わせた俳優で、非常に頼もしい存在です。篭手切江を演じる田村升吾は、過酷な稽古場で“れっすん”に取り組む姿が、”すていじ”に立つことを夢見る篭手切江と重なって見えました。我々にどのような夢を見せてくれるのか楽しみです。
ミュージカル『刀剣乱舞』は役者さんが取り組まなければならないことがとても多く、また求められるレベルも高いので、皆それぞれに大変な思いをしていると思います。
そんな中で、蜻蛉切役の spi と千子村正役の太田基裕は、この座組にとって柱のような存在です。彼らのスキルと情熱、そして芝居に対する取り組み方。これはすべての出演者の強烈な刺激となっています。太く揺るぎない柱としなやかに強い柱のように、全く違うふたつの個性でこの座組、そして『葵咲本紀』という作品を支えてくれています。さらに歴史上人物を演じる個性際立つ俳優たち、そして我らが誇る百戦錬磨のアンサンブル。彼らの活躍にも期待してく ださい。
物語に関しては、お客様それぞれに受け止めていただきたいので多くは語りませんが、今回は冒頭からとても驚きのある始まり方で、最初に脚本を読んだ時からこの物語に強く惹き込まれました。これまで、「阿津賀志山異聞」には「つはものどもがゆめのあと」、「幕末天狼傳」には「結びの響、始まりの音」と、物語に繋 がりがあったように、今作「葵咲本紀」は「三百年の子守唄」と対になる作品です。ただ、演劇的構造はこれまでのものとは全く異なります。ご覧になるお客様には、「なるほどそう来たか」と思っていただける のでは、と思います。
脚本の御笠ノさんがよく言っていることですが、僕らは演劇人として、毒にも薬にもならないようなものを作りたいとは思いません。「刀剣乱舞-ONLINE-」に描かれていることや、更にその根底にあるものをもっと抉っていきたいという気持ちで、今回の脚本も色々なことに果敢に挑戦しています。
今作は、今後の刀ミュの様々な可能性を提示したという意味で、岐路に立つ作品といえるかもしれません。この作品を生み出したことによって、ますますミュージカル『刀剣乱舞』の物語が広がっていくと思います。枝分かれした道のどれを選んでも、今までとは違うものが生まれるでしょうし、1つ発掘するとまた新しい鉱脈が見つかって尽きることがない。ミュージカル『刀剣乱舞』とはそういう作品なのだ、と感じながら演出をしております。この思いをより多くのお客様と共有できることを願っています。

西暦 2205 年、歴史修正主義者による過去への攻撃が始まった。 物に眠る〝想い〟を目覚めさせる力を持つ「審神者」と、審神者によって励起された「刀剣男士」たち。 彼らは歴史を守る戦いへと身を投じていく――。
慶長五年七月、下野国小山。徳川家康は家臣を伴い、会津征伐のためこの地に在った。服部半蔵、酒井忠次は既に没し、それぞれの役割を終えたが、井伊直政と本多忠勝…つまり、千子村正と蜻蛉切の任務は続いていた。一方、本丸では審神者の命により刀剣男士たちが集められていた。鶴丸国永を隊長として、明石国行、御手杵、篭手切江が編成される。敵の狙いは、徳川家康の次男である結城秀康。そして、下野国小山で合流した刀剣男士たちの前に現れたのは……

本公演は8月18日(日)まで、天王洲 銀河劇場で上演。その後、大阪・兵庫・福岡をまわり、東京凱旋公演が10月27日(日)まで行われる。
取材・文=横澤 由香 写真=オフィシャル提供

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