ロックアーティストの
テクニック向上に
大きな役割を果たした
『スーパー・セッション』
本作『スーパー・セッション』について
バックを務めるのはエレクトリック・フラッグでブルームフィールドとともにプレイしたベースのハーヴェイ・ブルックスとキーボードのバリー・ゴールドバーグ、ドラムにはドノヴァンやモンキーズのバックを担当した名手エディー・ホーという面子。ギターがブルームフィールド一人だけならエレクトリック・フラッグの番外編としか捉えられなかっただろうが、普段あまり絡みのないスティルスが加わることで、ジャムセッション的な意味合いが一気に高まったのだ。
この時、スティルスはまだアトランティックレコードとの契約が残っており、コロンビアレコードで本名のまま録音するのは問題だというレーベル側からのクレームがあった。当時、レーベルが異なるレコーディングに参加する時は、名前を出さないか偽名で出るかのどちらかであった。これにはレーベル側として他のレコード会社所属アーティストの宣伝する必要はないという至極まっとうな理由があるのだが、クーパーはセッションだからとレコード会社側を説得、“Courtesy of Atlantic Records”という今ではよく使われるフレーズをジャケット裏に記すことにした。“Courtesy of 〜”とは“〜の好意で”という意味である。この“Courtesy of”という言葉が使われたのは『スーパー・セッション』が最初かもしれない。どちらにせよ、ブルームフィールドがギブアップしてくれたおかげで、このアルバムのセッション作としての存在感が圧倒的に増すことになった。
収録曲は全部で9曲。ブルームフィールド・サイドの5曲は、バタフィールド・ブルース・バンドやエレクトリック・フラッグを思わせるブルース+R&B的サウンドが中心で、やはり熱いギターが素晴らしい。彼のギターってミストーンも少なくないのだが、情感あふれる表現力がそれ以上なのだ。9分以上に及ぶ「His Holy Modal Majesty」はジャズ的なフレーズも飛び出すなど、まさにセッションにふさわしい仕上がりとなっている。
スティルス・サイドは4曲。ディランやドノヴァンの曲を取り上げ、スティルスのボーカルもたっぷり聴ける。11分強の「Seasons of the Witch」がスティルス・サイドの最高の成果だろう。スティルスはロック的な演奏がメインなので、ブルームフィールド・サイドとは違う魅力がある。
『スーパー・セッション』のライヴ版『フィルモアの奇蹟』もリズムセクション(ベース:ジョン・カーン、ドラム:スキップ・プロコップ)が良い仕事をしていたが、本作でリズムセクションを担当するベースのハーヴェイ・ブルックスとドラムのエディー・ホーも実に上手いプレーヤーなので、そのあたりもよく聴いてみてほしい。68年の時点で世界のロック界を牽引していたのは、クーパーとブルームフィールドのふたりであることは間違いないだろう。本作『スーパー・セッション』はロックの新時代の幕開けを感じさせる、まさにエポックメイキングな作品であった。
TEXT:河崎直人