首藤康之×中村恩恵×郷古廉に聞く~
画家の鴨居玲、彫刻家のカミーユ・ク
ローデルを題材に新作を連続上演

SAYATEI PRODUCE『Rey Camoy 鴨居玲という画家がいた』『Cammille カミーユ・クローデル』が、2019年8月9日(金)~12日(月)東京・スパイラルホールで行われる。『Rey Camoy』では伝説的な画家・鴨居玲(1928-1985年)を取り上げ、演出をシライケイタ、構成・台本を広田淳一、ステージングを中村恩恵が務める。『Cammille』は不世出の彫刻家カミーユ・クロ―デル(1864-1943年)を題材に中村が演出・振付を手がけ、新国立劇場バレエ団から小野絢子、中島瑞生も出演する。二人の芸術家の人生を「音楽にのせ、ダンスと語りを通して舞台化」する2つの作品の企画段階から関わる首藤康之(出演)、中村(『Cammille』には出演も)、両作で演奏する世界的ヴァイオリニスト郷古廉に意気込みを聞いた。
■芸術家として“追求している人”たちの出会い
――首藤さん、中村さんが所属されているサヤテイが夏のスパイラルホールで公演するのは今年で3年目です。一昨年はマイムパフォーマンスグループCAVA(サバ)と組んだ『レニングラード・ホテル』、昨年は再び『レニングラード・ホテル』と首藤さん、中村さん、近藤良平さんらが共演した『トリプレット・イン・スパイラル』でした。今年は、語りと音楽『Rey Comoy 鴨居玲という画家がいた』、ダンスと音楽『Cammille カミーユ・クローデル』を上演します。この2作品を上演するに至った経緯をお話しください。
中村 鴨居のプロジェクトが先行していましたね。
首藤 2015年に東京ステーションギャラリーで行われた展覧会で鴨居の作品を見て感銘を受けました。そこで鴨居を扱った作品をやろうと考えて恩恵さんに相談すると、もう一つダンスのプログラムとしてカミーユ・クローデルはどうかと提案されました。ダンスは抽象的な表現なので何か主題があって作品を構築していくのがいいのではないか、鴨居を扱うのであれば同じ芸術家のクローデルはどうかと。
――首藤さんは鴨居の何に惹かれたのですか?
首藤 鴨居の著書名で展覧会の題名でもあった「踊り候へ」という言葉にまず惹かれました。鴨居の作品は暗く、悲しみとか苦しみしか見えないようなものが大半です。でも悲しみの中にも光や美しい価値観を見出していて生の躍動のように見える。それが「踊り候へ」という言葉につながって、「踊りなさい」というメッセージをもらった気がしました。
首藤康之
――ヴァイオリンの郷古廉さんが首藤さんと同様に『Rey Comoy』『Cammille』の両方に出演します。
首藤 郷古さんとは2014年に「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」の『兵士の物語』で初めてご一緒しました。その翌年に鴨居の作品を見て、郷古さんと鴨居が芸術家として凄く似ている気がしたのです。絵でも音楽でも舞踊でもそうですが、合理的ではない芸術の中で追求している姿が通じるなと。それは恩恵さんにも共通しています。素晴らしい芸術家はたくさんいますが、いろいろなタイミングで出会ったり、お仕事させていただいたりする中で、共通の価値観を持つ人たちと作品を創っていきたいという思いがあります。
――郷古さんは首藤さんにどのような印象をお持ちですか?
郷古 一言では言い表せませんが“追求している人” です。舞踊家は自分の身体に対して凄くシビアな感覚を求められるはずで、首藤さんは若い僕からは想像もつかないようないろいろな問題も抱えているだろうと思います。音楽家もそういう感覚は必要だけれど全然違う。首藤さんは、もっと大きく繊細な感覚を持っています。
■自分に正しく生きた鴨居玲
――『Rey Comoy』は「語りと音楽」となっていますが、演出がシライケイタさん、脚本が広田淳一さんで、出演は首藤さん、シライさん、山口馬木也さんです。
首藤 広田さんとは寺山修司と脚本家の山田太一さんの交友を朗読劇にした舞台でご一緒し、その時の印象がよかったので今回お願いしました。朗読劇的なところへ音楽がバンと入る感じになります。
――『Rey Comoy』の音楽は郷古さんのヴァイオリンだけですね?
郷古 どのようになるのか見えていない部分もあるのですが即興ではありません。イザイ、ラヴェルそれにバッハのソナタかパルティータからいくつかを弾こうと考えています。
――中村さんは『Rey Comoy』ではステージングとして関わります。
中村 普段私が演出家でもあるので、全ての作品を自分の中から生み出していくのですが、今回は白紙状態です。即興的というか瞬発力が求められるのかなと。
郷古 先日、広田さんから聞いたのですが、鴨居は作品を創るのに凄く時間をかけたけれども描き始めたらもの凄く早かったそうです。それでシライさんが「そういう感じ、いいかもしれないね」と。時間をかけながらも、その瞬間に生まれるエネルギーを大切にしながら創っていくのがいいのではないかと。カミーユ・クロ―デルとは対照的です。カミーユの彫刻はじっくりじっくり創っていかなければいけないし、細部にこだわります。鴨居の絵の方も繊細な作業が求められることは確かだけれど、火が付いた瞬間の美しさみたいな即興性があります。
――鴨居の最後は自殺でした。首藤さんは彼の生涯をどう感じますか?
首藤 こんな言い方をするのもどうかと思うのですが、自分に対してあまりにも正しい生き方をしたような気がします。
郷古廉
■クロ―デルの人生は、誰にでも起こり得る
――中村さんが創作される『Cammille』の話を伺います。カミーユ・クローデルは若くして活躍しますが、師匠であり愛し合うロダンに妻がいて三角関係で葛藤しました。そして後半生は精神を病んで病院に送られます。
中村 鴨居とは対照的に創作ができなくなってからもずっとずっと生きました。でもカミーユの死は決して穏やかではく、死んだ方が楽なくらいの苦しい生き方をしていました。カミーユが幽閉されたのは今の私くらいの年齢です。彼女の創り手として活動できない気持ちや孤独と向かい合っていく絶望感も分かりますが、人生は最終的には相対で見られたりする。彼女の人生は悲惨だったかもしれないけれど作品や言葉が遺って、見たり読んだりした人が美しいものを感じ取ったりします。
――中村さんは出演もされますがカミーユ役ですか? ロダンは首藤さん、中島瑞生さん(新国立劇場バレエ団)はカミーユの弟のポールですね。小野絢子さん(新国立劇場バレエ団プリンシパル)は?
中村 私と小野さんの二人がカミーユです。カミーユは自分をモデルにたくさん彫刻を創っています。私がカミーユの晩年を、小野さんがカミーユの人生の歓びの部分を表したりといったことや、小野さんをモデルに作るイメージが浮かんできたりすることもあるのですが、それが逆転した時に感じる違和感に面白さがあります。妄想の世界では、創っている私よりも作られた像の方がより現実的で、そっちの方が自分より幸せそうに見えたりする。そういうふうに現実と虚構が入れ替わったりすることが起こるんじゃないかなと。カミーユ自体がパラノイアで妄想癖が強かったので、何が現実か分からなくなってくる。そういう感じを盛り込みます。
――首藤さんはカミーユ・クローデルの人生についてどう考えていますか?
首藤 これもまた正しい生き方のような気がします。
中村 首藤さんと話しているのは「誰にでも起こりうる普遍的な物語」だということです。カミーユがある瞬間に残した言葉とか、ロダンによって見出された彼女の姿とか、そういうものから私たちが受ける印象を紡いで抽象的に引き寄せています。
首藤 伝記的な作品ではないですね。
中村恩恵
■緊張感ある音楽からドラマが生まれる
――『Cammille』で用いる音楽はイザイとラヴェルとバッハだそうですね。
郷古 以前首藤さんにラヴェルの「ヴァイオリンとチェロためのソナタ」が踊りに合うと思うと話していました。弾くのは初めてで、チェリストの伊東裕さんとの初共演も楽しみです。ただラヴェルだけでは20分くらいしかないのでどうするかとなった時、ラヴェルはフランスだからフランスっぽいもので統一した方がいいだろうという話になりました。そこでベルギーのイザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」を取り上げます。通常演奏会でイザイのソナタを弾くとしたら第1楽章から通して弾くことが一般的です。でも今回は順番通りではなく、普段の演奏会とは違った聴き方ができます。ヴァイオリン一本だと音も少ないし、聴く方も緊張されるかもしれませんが、緊張感の高い音楽に踊りが入った時、聴いている方がもっといろいろな感覚を働かせるのではないかと。イザイとラヴェル、バッハという組み合わせもしっくりきます。
中村 ラヴェルの音楽を聴いた時、波に飲み込まれるようで、その隙間に舞踊が音楽を個に分かつというか、そういう感じの舞台ができないかなと思いました。またイザイがバッハの無伴奏を聴いた時に衝撃を受けて創ったという話を聞いて、ロダンの影響を多大に受けているカミーユが、自分のアイデンティティというものを築くために闘いながら壊れていったことを思い出しました。
郷古 イザイはバッハの全く同じフレーズみたいなものを壊すように引用していたりもします。完全にバッハを意識していますね。
中村 この三人でいる時に郷古さんがバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番ロ短調」を弾いてくださって、天上のものが降りてきたようで感動しました。その感覚を作品の中心部に持ってきたいという明確な思いが生まれましたが、その直後にカミーユの弟ポールの本を読んでいて、その中のエッセイに突然バッハという言葉が出てきて…。いろいろなものがつながって怖いくらいです。
公演フライヤー
■誰もが経験したことのない舞台に
――最後にあらためて抱負をお願いします。
首藤 凄く楽しみです。郷古さんとご一緒できるとは思っていませんでした。普段ソリストとして出ていらっしゃる演奏家の方が、こういう場に出てくれるとは。
中村 本当に!
――サヤテイならではですね。インデペンデントで独自に発信する企画でなければ難しい。
首藤 最初にお話したように、素晴らしいアーティストの方はたくさんいらっしゃいますが、心から一緒にやりたい方は数少ないです。今回は密度が濃いですね。
中村 『Rey Comoy』で関わる言葉の世界は同じ舞台芸術といっても舞踊と真逆のアプローチなので学ばせていただきます。『Cammille』では、小野さんの今までに見たことのない側面を出したい。何度かご一緒し創作もしてきましたが、彼女は美しいバレリーナなので、そこを尊重してきました。今回は郷古さんの音楽からも感じ取れる綺麗なだけじゃない破壊的なパワーとか、見えないほどの暗闇とか、そこに入ってくる光とかを助けに、彼女から今まで見たことのないものを引っ張り出したいですね。それと衣裳を串野真也さん(Masaya Kushino)にダメ元でお願いすると引き受けてくださり、『Rey Comoy』の方も含めて担当していただけることになりました。そちらも楽しみです。
郷古 経験したことのない舞台になるのは間違いありません。踊りが付く舞台でずっと弾くことは通常あり得ないので、弦が切れたらどうしよう…とか緊張感があってリスキーです。自分の音楽に対しても、一緒に舞台に立つ首藤さんや中村さんに対しても、お客様に対しても、何か新しい視野・視点をあたえてくれると確信しています。確信が正しいものになるために、できるだけのことをやって創り込んでいきたいです。
取材・文・撮影=高橋森彦

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