NODA・MAP『Q』で20年ぶりに野田作品
に出演する羽野晶紀に聞く「50歳にな
った自分に、ここで何ができるのか楽
しみです」

Queenの傑作アルバム『オペラ座の夜』の全楽曲を使って、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の後日談を見せる──これだけでも驚きのアイディアなのに、それを手がけるのがあの野田秀樹ということで、情報が解禁されるや否や日本中の演劇ファン(+Queenファン)を震撼とさせた、NODA・MAPの新作『Q:A Night At The Kabuki』。出演者の方も、実は野田作品初出演の上川隆也や、舞台自体が初挑戦の広瀬すずなど、トピックに事欠かないラインアップとなっているが、羽野晶紀の出演も注目すべき所だろう。80年代に「劇団☆新感線」で演劇活動を始め、チャーミングな声と容姿+硬軟自在の演技力で、たちまち人気女優に。結婚&子育てでしばらく活動をセーブしていたが、2017年に『髑髏城の七人~Season月《下弦の月》』で、17年ぶりに新感線作品に出演し、衰えぬ存在感を見せつけた。そこから続けてNODA・MAPに出演することで、舞台活動本格復帰にグッと弾みが付くだろう。地元の大阪で会見を行った羽野に、久々の野田作品出演の意気込みや、現時点で判明している新作の内容について直撃。会見での発言も交えつつ、紹介する。
■27年前と同じ役をやって、年を取るのも悪くないなと思いました
──NODA・MAPの出演は、何と21年ぶりとなりますが、今の心境は。
結婚と出産を経て、舞台から遠ざかっていたんですけど、こうやってもう一度NODA・MAPに出られるのは夢のようです。一昨年にリハビリを兼ねて(笑)、劇団(☆新感線)の公演に出て。大きな舞台だったので、体力的に戻すのが大変だったんですけど、それも面白かったですね。NODA・MAPも結構体力勝負なのでどうなるか? と思いますけど、今は楽しみで仕方がないって感じです。
──『《下弦の月》』を拝見しましたが、すごく母性の強さを感じる、他の方たちとはまた違う極楽太夫像だと思いました。
極楽は(1990年の)初演で演じて、そこから27年開いてたんですけど、案外すんなりできたのが、自分でも驚きました。若い時の記憶って、結構残ってるんですね(笑)。でも、何が昔と違っていたかっていうと、当時の極楽は私への当て書きだったというのもあって、その時の感覚でやれた役だったんです。でもこの年齢になって改めてやると、その時気づかなかったものに気づいたり、周りのこともいろいろ見られるようになっていて。自分がある程度、歳を重ねてから、もう一度昔やった役を演じられるのはすごくありがたかったですし、歳を取るのも悪くないなと思いました。
羽野晶紀
──今回は野田さんから、直接「出てほしい」とオファーがあったんでしょうか?
そうですね、マネージャーにね。過去にも野田さんからは「すごく良い話で、ちょうどいい役があるんだよー」って感じで、結構軽く声をかけていただいたなと(笑)。『キル』(94年)、『TABOO』(96年)、『ローリング・ストーン』(98年)に出させていただいたんですけど、全部本当に「やってよかった」と思える舞台だったので、今回もまったく信頼し切って参加を決めました。その時点で、Queenの曲を使うことは聞いてましたけど、内容はまったくわかってなかったです。まずはこの芝居に向けてのワークショップに参加したんですけど、12世紀の日本が舞台の話なのに内容は『ロミオとジュリエット』で、さらにQueenの曲を使ってと、本当にいろいろミックスしながらのワークショップでした。
──要素が多すぎて混乱しそうですね。
混乱しますよー。だってジュリエットが2人いるし、ロミオも2人いるし(笑)。私もジュリエットをやったり乳母やったりお母さん役をやったり、名もない一兵士をやったりと、本当にいろいろやったので。
──それって一体、どんなワークショップだったんですか?
野田さんが数シーンをザックリ書いた台本を持ってきて、「このシーンをどう作るのか?」というのをグループに分かれて考えて、発表し合うという。ふと気がつくと、周りは私より若いメンバーばかりだったんですけど(笑)、みんなで一緒に「どんなふうに動こうか」「何を使って表現しようか」と考えました。その中でいろんなキャラクターを演じるだけじゃなくて、景色……たとえば波ね。波になって、それが突然風になって、そこから兵士になってお母さんになる、みたいな演技もやりました。
──舞台初出演ということで注目されている広瀬すずさんを始め、共演者の皆さんの印象はいかがですか?
すずちゃんはねえ、本当に「天才か?!」って感じ。すっごく柔軟で頼りになるし、運動神経もすごいし。たまたま稽古場にフラフープがあったんですけど、誰よりもすごく回せるの、すずちゃんが。私もコツを教えてもらって、ちょっと回せるようになりました。ほかの皆さんも、とっても素敵な仲間ばかりで。私は長いこと舞台を休んでいたので「演劇界には、こんなに素敵な人たちが、いっぱい育ってるんだなあ」と思ったし刺激を受けましたね。若くても頼りになる人ばかりなので、逆にしばらく舞台に出てなかった、私の方が心配されるんじゃないかな(笑)。
■Queenは何か異彩を放ってて、そのインパクトが面白かったです。
羽野晶紀
──今回の芝居のキーとなるのが『ロミオとジュリエット』ですが、羽野さんはジュリエットを演じたことがありましたね。(ちなみにロミオ役は、後に夫となる和泉元彌
あの時は28歳だったのかな? そんな年齢の自分が、14歳の役をやるって、めっちゃ恥ずかしかったです。当時は「なんでこんなに世界中で長い間『ロミジュリ』が上演されてるの?」と思ってたんですけど、実際にやってみたら「13・4歳ぐらいのめちゃくちゃ純粋な女子」を演じるのと演じていないのでは、女優として全然違ってくるだろうなって。
──当時羽野さんにインタビューをした時、ジュリエット役について「死んでもいいと思うほど人を愛する役を演じたのは、すごく貴重な経験だった」という話をされていたのが、今も印象に残ってるんです。
そうですか。「この恋が終わったら人生終わり」ってぐらいに人を好きになることってなかなかないけど、やっぱり初めての恋愛で純粋な2人だからこそ、それができたんだなって。ジュリエットってやれる年齢の限界があって、歳を取るとなかなかできないので、自分が若いうちにやれたのは本当に良かったと思いますし「やれる機会があるなら、絶対やった方がいい」って、若い人には言ってます。今回まだ配役は決まってないので、自分の今の年齢だと『ロミジュリ』をやるならどの役だろう? って、ときどき考えますね。え、乳母? え、キャピュレット夫人? って……どっちが面白いと思います?(笑)
──いやあ、どっちも見てみたいです。さらに今回、もう一つ大きな要素となるのがQueenのサウンドですが、Queenには思い入れはありますか?
私が高校生の時は、ちょうどMTV(注:洋楽PVの専門チャンネル。1980年代には日本でも、一部が地上波で放映されていた)が大ブームで、ビデオに撮った番組をカセットテープに起こして、本当にすり切れるまで聴くという時代でした。私はBon Joviが大好きだったんですけど(笑)、Queenも好きでしたね。ワークショップでも曲を聴いて「懐かしいなあ」って思ってました。だけどやっぱり、あの時代でもQueenだけちょっと特別っていうか、何かめちゃくちゃロックって感じじゃなかったですよね?
──映画『ボヘミアン・ラプソディ』で、メンバーたちが「Queenは定義できない」みたいなことを言ってましたけど、まさにそんな存在でした。
そうそう。「何なんだろう? この人たちは」っていうような、何か異彩を放ってて。そのインパクトが高校生にとってはすごかったし、面白いなあと思ってました。
羽野晶紀
──ワークショップを通じて、野田さんの世界とQueenの音楽の化学反応を、何か感じたりしましたか?
うーん……そこはまだ私も「どうするんだろう?」って感じです。『オペラ座の夜』の中にはたくさんの曲があるから、どんなシーンでどの曲を使うのかも分からないですし。というか、歌詞の世界とお話が同じような感じになるのかのも分からないですね。多分違うんじゃないかなあ? だからその辺りは逆に、私もお客さんと同じように楽しみにしている所があります。
──Queenファンもまた、そこは大変楽しみにしているでしょうし。
そうですよね。『ボヘミアン・ラプソディ』も「自分は懐かしいけれど、どうなのかな?」と思いながら、高校と中学の子ども2人を連れて観に行ったんですけど、私以上に子どもが泣いて、私以上にQueenにハマって、それからずっとQueen聴いてるんです(笑)。だから案外、80年代に聴いてた人たちが懐かしがるというよりは、新しい音楽としてすごくQueenにハマってる若い人たちがいるんでしょうね、今は。だからこの舞台も、そういう若い人が増えるんじゃないかと思いますし、私と同じように青春時代にQueenを聞いて過ごした人、昔舞台を見に来られていた方々のお顔も拝見できるといいなあと思います。
──最後に、今の羽野晶紀をどのようにNODA・MAPで活かしていくかという、野望みたいなものはありますか?
今まで出た3作品は、全部20代の独身の時に携われたんですけど、もう一回20年の時を経てのNODA・MAPということで、50歳になった自分がどんな風に動けるのか? 表現できるのか? ということに、結構ワクワクしています。今回ワークショップをやりながら、20代の時に周りで支えてくださっていた、当時50代の方たちのことを思い浮かべてたんです。「あ、このぐらいの体力のしんどさだったのか。じゃあどんな風に、この隙間を埋めてみようか」とか……この年令だからこそ、何ができるのかな? というのを考えてやっていく。そこは本当に、自分でも楽しみです。
ヘアメイク=長船 恵子 スタイリスト=吉田真規子
取材・文=吉永美和子 撮影=田浦ボン

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