草刈民代×高嶋政宏が挑む、男女二人
の濃密な会話劇『プルガトリオ―あな
たと私がいる部屋―』

『死と乙女』『谷間の女たち』などの名作を生み出した劇作家、アリエル・ドーフマンによる二人芝居が、アーツ・カウンシル・ロンドンの総監督や英国王立演劇アカデミーの校長などを務めてきたニコラス・バーターによる演出と、映画監督の周防正行による脚色で『プルガトリオーあなたと私がいる部屋ー』として、2019年10月に東京劇場シアターウエストで上演される。
ギリシャ悲劇の『王女メディア』をモチーフとした濃密な男女の会話劇に挑むのは、草刈民代と高嶋政宏だ。一体どのような舞台になるのか、出演の二人に話を聞いた。
「挑戦がない」という言葉に深く感銘を受けた
――まずは草刈さんにおうかがいします。演出のニコラス・バーター氏とは2年前にお会いになったそうですが、どのようなきっかけで出会われたのでしょうか。
草刈:アレキサンダー・テクニックというボディワークのレッスンを受けたときに、バーター先生の奥様と知り合ったのがきっかけです。奥様が、ぜひバーター先生のワークショップを受けてみて、と言ってくださって、それでお目にかかりました。お会いしてバーター先生の知識の深さ、造詣の深さ、謙虚な姿勢、人間的な深みといったところを知るにつれ、機会があればぜひ一緒に芝居を創ってみたいなと思いました。
ーーその出会いから、今公演の上演が決まるまで、どのようなやり取りがあったのでしょうか。
草刈:私が企画して芝居を作るとなると、二人芝居のようなコンパクトな座組みがいいと思って、バーター先生にも相談していろいろ作品を探しました。観に来てくださるお客様のことを考えると面白い作品がいいのかな、と思ってコメディ作品も提案してみたのですが、先生が「いい作品だし、誰もが面白く見られるのはわかるんだけど、挑戦がない」とおっしゃったんです。その言葉に深く感銘を受けました。何に挑戦するかという目的がしっかり持てる作品じゃないと、なんとなく面白そうだということだけで作品を選んでも成立しない、ということを教えていただきました。
草刈民代
ーーそうやって探していく中で『プルガトリオ』にたどり着いたんですね。
草刈:バーター先生がドーフマンの作品がお好きで、最初は『死と乙女』はどうだろうか、と提案されたのですが、『プルガトリオ』は二人芝居だし、日本でまだ上演されていない作品ということもあって。英語の台本をざっと読んでみたらとても面白そうだと感じて、まず下訳に出し、その下訳を元に主人(脚色担当の周防正行)にも入ってもらい、バーター先生とじっくり台本を読みディスカッションをする機会を設けました。それを土台に周防が日本語の台本を書きました。
「面白い」と思った最初の直感が大切
ーー二人芝居ということで相手役が非常に重要になりますが、なぜ高嶋さんをキャスティングされたのでしょうか。
草刈:相手役は誰がいいかな、と思っていた時に、たまたまシルビア・グラブさん(高嶋政宏の妻)が出演している舞台を観たんです。シルビアさんが舞台に出てきた瞬間に「あ、高嶋さんがいた」と思って(笑) それですぐに電話したら快い返事をいただけました。2017年に高嶋さんが出演した舞台『クラウドナイン』を観たときに、とても技術の高い方だということが印象に残りましたし、映画『舞妓はレディ』(周防正行監督、2014年)でご一緒したときにはいろいろお話しして、役の作り方とかリサーチの仕方とかが徹底していらっしゃるなと感じていました。
ーー高嶋さんは今作のお話しを聞いた時、まずどう思われましたか。
高嶋:突然電話がかかってきたときはびっくりしましたが、話を聞いた瞬間に「これは面白いんじゃないか」と直感が働きました。舞台のときはいつもそうなんですが、直感的に「面白い」と思った物は、実際にやってみるとやっぱり面白いんです。だから「この作品を好きにならなきゃいけない」と思いながらやるのではなくて、最初の直感が大切なんだな、と思っています。

高嶋政宏

俳優として試されているような作品
ーーこの作品は『王女メディア』をモチーフにしているということですが、実際に台本を読んでみていかがでしたか。
高嶋:まず『王女メディア』を読んで、その後にこの台本を読みましたが、『プルガトリオ』がいかに抑制のきいた凄まじい作品であるかがよくわかりました。絶対に許してくれない相手との永久に終わらない話し合いに向き合っていくという話なのですが、人間はここまで我慢できるものなのか、と。それでいて、周防監督の脚色が面白いので随所で笑えるんです。
草刈:そもそも「プルガトリオ」というのは「煉獄」という意味で、この作品は、『王女メディア』のメディアとイアソンが死んだ後に煉獄で向かい合ったらどうなるのか、という閃きが発端となって創られた作品のようです。「煉獄」とは天国と地獄の間に位置するようなところ。でも台本には精神病院の病棟や刑務所の面会室に見える無機質な部屋としか書かれていませんし、役名もなく、「男」「女」としかありません。その中で「女」が「男」に尋問されているところから始まり、次のシーンは「男」が「女」を尋問し・・・その繰り返しから2人の関係性が明らかにされていきます。
初めのうちは尋問される側が逃げたり、言い訳したりするけれど、でも自分のしたことと向き合わなければならないところまで追い込まれていくんです。人間誰しも、決定的な失敗とか、心の中に傷として残っているけれども、時間と共に忘れちゃったり、思い出したくなくて封じ込めてしまったりしている出来事ってあると思うんですよね。この作品は、あえてその深い部分に目を向けて追い込んでいくことで、人の本質を晒していくような、スリルやショックがあるけれど、同時に誰にでも当てはまるような普遍性もあると思うんです。
草刈民代
高嶋:演じる側としては、読めば読むほど「あなたは今まで俳優としてどれだけのことをしてきたんですか、さあ見せてください」と突きつけられるような、俳優として試されているような作品です。台本を読んで、「前にこんなシーンあったな」とか「同じような役やったな」とか既視感があると、なんとなく充実感がそがれてしまうことがあるんですが、それがこの作品には一切ないですね。
草刈:これは元々はスペイン語で書かれています。今回の脚本の元にしているのは英語版ですが、日本語ではない言語で書かれた戯曲でも、そのセリフをちゃんと解釈して演じることができれば、戯曲の中にある言葉の壁を超えた共通項を見出すことができると思っています。そうやって、作品のテイストをそのまま日本語にしていく工夫をすれば、海外戯曲と日本の観客との間を繋ぐ“橋渡し”ができるんじゃないかな、という気がしていて、踊っていた時も意識していたことですが、表現者の役割はそういうところにもあると思っています。
演劇は時間をかけないとできない
高嶋:僕はずっと、今回みたいに脚本家だけに任せておかないシステムでやってみたいと思っていました。翻訳ものになかなか面白い上演作品がないのは、脚本家は脚本家、演出家は演出家、ときっちり分かれてしまっているからではないか、と思っていたんです。日本の、例えば三島由紀夫作品でも、読み解く人がいて創っていかないと作品として成り立たないんですよね。
高嶋政宏
草刈:本当に難しい脚本なので、バーター先生の解釈を聞いて、それを反映させるというやり方をしないとできないと思いました。正直、言葉の壁、文化の壁のハードルを越すのは簡単なことではありません。それを克服していくことも、今回の上演のテーマにしたいと思っているんです。まず、演出なさるバーター先生と共に戯曲を読み、それを元に周防が日本語台本を作る、ということでやってみようと。
結局は、「何が書いてあるのか」というところがきちんと理解できれば、日本語で表現するための工夫はいくらでもできると思うからです。やっぱり演劇は時間をかけないとできないですね。
高嶋:そこまで時間をかけて準備した台本だということに、感動しています。難しい作品だからこそ難解で終わらせないで、面白くしないとダメなんです、絶対に。
草刈:難しい作品を面白く見せることができて初めて上演した意味があると思うので、これから私達がどこまで行けるのか。挑戦ですね。
左から 草刈民代、高嶋政宏
取材・文=久田絢子 撮影=岩間辰徳

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