ケラリーノ・サンドロヴィッチの傑作
『フローズン・ビーチ』に挑むシルビ
ア・グラブに聞く

自作上演や翻訳劇演出など多彩に活躍する劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチの傑作戯曲群を、異なる演出家たちが手がける魅惑のシリーズ「KERA CROSS」がこの夏スタートする。第一弾として登場するのは、鈴木裕美が演出を担当する『フローズン・ビーチ』。KERAが主宰する劇団「ナイロン100℃」で1998年に初演され、KERAは本作で第43回岸田國士戯曲賞を受賞、2002年にも初演時と同じ配役で再演されている。1987年、1995年、2003年と8年ごとのある夏の一日を切り取り、“4人の女たち”が繰り広げる愛憎を描くブラック・ミステリー・コメディーだ。花乃まりあが一人二役で演じる一卵性双生児の愛と萌の義理の母で、盲目の咲恵を演じるシルビア・グラブが意気込みを語った。
ーーKERA作品初出演となります。
KERAさんの手がける舞台は、奇想天外というか、普通のリアルな話かなと思ったら、突然、絶対ありえないような物語、ファンタジーの部分も出てきたりして、そこがすごくおもしろいし、印象的です。「ナイロン100℃」のために創られた舞台を観ることが多かったので、『フローズン・ビーチ』にしても、どうしても、峯村リエさんや犬山イヌコさん、劇団の女優さんの顔が浮かんできてしまうところがあるんです。
だから私がKERA作品に出る日が来るとは思ってもいなくって。ただ、KERAさんは、自作以外の演出も多く手がけられるので、もしかしたらそちらでご一緒できるかなとは思っていたんです。が、まさかKERAさんの作品で鈴木裕美さんの演出という舞台に立つことになろうとは……。私自身、驚いています。現場においては、演出家さん、作家さんに自分の新しい部分を引き出してもらえたらと思っているので、今回は裕美さんがどう私を料理してくれるのか、楽しみで。あまり深く考えずに飛び込んでいこうと思っています。​
シルビア・グラブ
ーー何回かの本読みを経て配役を決定したとうかがいました。
最初に他のキャストの顔ぶれをうかがったとき、あれ、私、年齢大丈夫かなと思ったんですが、そこは義理の母親役ということで(笑)。作品に出演していた峯村さんと割と仲良くしていただいているので、ご連絡して、「『フローズン・ビーチ』やることになっちゃったんだけど、リエさんたちのイメージが強すぎて、ちょっとナーバスになっているんだ」と言ったら、「すごくぴったりだと思う」と言われて、そうなんだ、と。自分の中では、どこが当てはまるかがまったく想像もつかなかったので。リエさんの言葉に乗せられて、じゃあやるぞという感じなんですけどね。5人のキャラクターの中では、咲恵は、もしかしたらいろいろ出していないだけかもしれないけど、割と楽観主義。後半、彼女がどう変化していくのか、そこは自分なりに考えて演じていきたいと思いますね。彼女に起こるある状況の変化は、絶対にいろいろな意味での感情の変化もあると思うので、そこをどう追求していくかだと思います。
ーー鈴木裕美さんの演出作に出演されるのも初めてです。
長年すごく知っていて、裕美さんの演出作もいっぱい観ているし、彼女も私の出演作をよく観に来てくれたり、飲み会ではよく一緒になっているので、知ってはいたけれども仕事は初めてという。どうなるんでしょうね。飲み仲間だったのが突然仕事仲間になって、そのまま素直に入り込めるのか、構えてしまうのか……。彼女の演出作品はおもしろいな、と思って観ていました。今までは飲みながら、裕美さんの舞台に対しての愛情やエネルギーをすごく感じていました。いろいろな事情で折れそうになってしまうことってあると思うんですけど、裕美さんはぎりぎり最後まで、一ミリでもよくしたいと闘う人なんだなと思います。その器の中に飛び込めるのがとても楽しみです。人数が少ない作品なので、お互い、稽古しながらぶつかることもあると思いますが、そうなったとしても、絶対あきらめないで一番いい方向にもっていってくれるんだろうなという信頼がありますね。
シルビア・グラブ
ーー稽古前に本読みをして最終的に、鈴木杏さんが千津を、ブルゾンちえみさんが市子を演じることが決まったそうですね。
配役の決定は制作発表会見の場で初めて聞きました。ああ、なるほど、そう落ち着いたんだと思いました。稽古の前に本読みをやることってなかなかないし、しかも、役を決めるための本読みってホント初体験で。でも、いいものにしたいという思いがその時点ですごく伝わったし、裕美さん自身、悩んでいるということを正直に言ってくれたし。そこまで向こうがさらけ出すんだったら、こちらもさらけ出していこうかなという気持ちになりました。それに、違う配役での本読みを聞いていて、すごくおもしろかった。うわ、なるほど、こういう風になるんだというのは、その本読みでしかわからなかったことだから。
ーー初演時、再演時には、「最終場 2003年」は未来という設定でしたが、今となっては「第一場 1987年」も「第二場 1995年」も含め、全場、過去を扱っていることになります。私も世代的にそうなのですが、シルビアさんはドンピシャかと思うのです……。
ドンピシャです(笑)。

シルビア・グラブ

ーー出演者たちの世代間のギャップが、2019年の今、上演される上で興味深いなと思うのですが。
確かに、本読みをやっているときに、CMソングかな、何かのフレーズが、私たちの世代だったら絶対わかるんだけど、若い子はわからなかったから、知らないんだ~と、私とか裕美さんとかはそこで完全にジェネレーション・ギャップを感じましたね(笑)。そういう要素がいっぱいある戯曲なんです。私にとっては出てくるネタ、世代の流行がすごく懐かしいことばっかりなんですけれども。ボディコンとか(と、自分の着ている服を指差す)。
あとは、お客さんがどれだけ知ってるかだよね。まあ、半分以上は知ってるんじゃないかなと思うけど。当時の世相とかも、読んでいて最初はドキッとしましたし。そうか、書かれたころは未来の話なんだ……って。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)  撮影=敷地沙織

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