これは、新たな「出陣」の形 ミュー
ジカル『刀剣乱舞』 髭切膝丸 双騎
出陣2019 ~SOGA~ ゲネプロレポー

“刀ミュ”シリーズの刀剣男士にフォーカスした形態の公演『加州清光 単騎出陣』に続く『髭切膝丸 双騎出陣』は、源氏の重宝・髭切と膝丸によるステージ。これまでの公演でもコンビネーションを際立たせていた二振りが、彼らだけの世界をどのように表現してくれるのか。決戦の場は品川プリンスホテル ステラボール。初日を前にした前日の公開ゲネプロ、“期待のみ”に包まれた空間で目撃したモノとは……。
「僕はこれまで10年以上 2.5 次元ミュージカルに携わって来て、2.5 次元にはもっと表現の可能性がある、それに挑戦したいとずっと考えてきました。ミュージカル『刀剣乱舞』の公演を積み重ねる中で、その思いはますます大きくなっていきました。今作では“髭切と膝丸の二振りだからこそ出来ること”、“髭切と膝丸にしか出来ないこと”を突き詰めていったところ、このような全く新しい形となりました」──初日開幕直後、演出の茅野イサムから出された公式コメントを読んだとき、観劇中に抱いたいくつかの謎が解けたと同時に、とても清々しい気持ちがした。またそこには「もう1つ、僕にとってとても大切なのは、2.5 次元ミュージカルが“演劇”であるにも関わらず、演劇界と分断された特殊な世界になっている現状を打破したい、という思いです」と、2.5 次元ミュージカルと一般の演劇との隔たりを打ち壊したいという想いもあった。これはいわば2.5 次元ミュージカルを長く観てきた観客ならば誰もが……そして私自身もそっと胸に抱いてきた“願い”でもある。それをジャンルのトップランナーである茅野自身がアナウンスしたというのはかなりの大事件! それくらいこの『髭切膝丸 双騎出陣2019 ~SOGA~』は茅野と刀ミュにとって非常にチャレンジングな舞台であり、2.5次元舞台全体にとってもエポックメイキングな作品となったのは間違いないだろう。
場内に足を踏み入れ最初に驚いたのは、廃寺だろうか、丁寧に作り込まれた舞台セットの佇まい。『加州清光 単騎出陣』のイメージと髭切・膝丸を演じる三浦宏規と高野洸のエンターテイナーぶりから、勝手に今回も全編現代的なライブステージになると思い込んでいた頭には、目の前に押し寄せてくる重厚な和の空間は完全に予想外だった。
静かな驚きが鎮まらないまま始まった1部は副題「~SOGA~」に則り、曽我兄弟の仇討ちを描く『曽我物語』の上演。瞽女の語りに導かれ、兄の一万を髭切が、弟の筥王を膝丸が演じるという趣向である。これもまた「モノが物語る故“物語”」。大空を仲良く飛ぶ雁の親子を自分たちになぞらえ家族の大切さ、互いの愛おしさを噛みしめる曽我兄弟。そんな二人がほぼ出ずっぱりで、じゃれ合う童の無邪気さから、剣の腕を磨きつつ精悍な若者へと成長、父の仇に天晴止めを刺すまでをオリジナルの劇中歌とともに小気味よく魅せていく。どの場面も非常に印象的で、これまでの自分たちの引き出しとはまた趣向の違う演劇へ真摯に向き合っている三浦と高野の真っ直ぐさが、強く大きく心を打つ。
撮影:宮内勝 (c)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
撮影:宮内勝 (c)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
茅野たっての思いで出演が実現した花組芝居・加納幸和は、瞽女・母・箱根権現の別当を鮮やかに演じ分け。その確固たる存在感は、いわば本作のもうひとりの主役だ。芝居はもちろん歌に舞にとこの仇討ち物語の世界観を形作る肝の部分を一手に担い、本物の説得力で観客を凌駕した(演劇の大先輩として稽古〜本番と、裏に表に兄弟の心強い支えとなったことも想像に難くない)。ここで生まれた表現者同士の出会い、さらにそこから生まれたオリジナル演劇『髭切膝丸 双騎出陣2019 ~SOGA~』と刀ミュファンとの出会いが未来の演劇界にどんな形で広がっていくのか。悲劇の結末とともに“この先”へも想いを馳せさせてくれる、良質なお芝居だった。
撮影:宮内勝 (c)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
撮影:宮内勝 (c)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
撮影:宮内勝 (c)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
2部はお待ちかね、ペンライトやコール&レスポンスもOKのライブ! モノトーンの衣裳に身を包んだ兄弟が新曲に乗って登場すれば、場内の温度も一気に急上昇していく。
撮影:宮内勝 (c)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
撮影:宮内勝 (c)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
バレエの美しさを生かしたターンやジャンプが華麗な髭切役の三浦、アクロバティックで豪快な身のこなしがクールな膝丸役の高野。各々の特性を存分に披露しつつ、でも二人揃えばバツグンの調和を見せる。二人の間にだけある確かな絆、共にいるからこそより輝く関係は眩しいほどに可憐で、目が合えばすかさずニコリと笑い合い、髭切が兄者らしく膝丸の頭をクシャッと撫でる仕草もとてもナチュラルだ。ステージ前方が少し客席にせり出しているので、客席からは思ったよりも間近に感じられるのも贅沢な気分。新曲と刀ミュではおなじみのナンバーを織り交ぜつつ、アップテンポからスローまで。全10曲を全力で届けてくれた。
撮影:宮内勝 (c)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
撮影:宮内勝 (c)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
映像効果はナシ。初めから終わりまで二振りの存在そのもので観客の心を引っ張り、平安時代から令和までを一気に駆け抜けた『髭切膝丸 双騎出陣2019 ~SOGA~』。新しいカタチの感動を与えてくれた刀ミュの最新型がここにある。
取材・文=横澤 由香 写真=オフィシャル提供

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