Earth,Wind & Fire『宇宙のファンタジー』にみる未来のアフロとは!

Earth,Wind & Fire『宇宙のファンタジー』にみる未来のアフロとは!

Earth,Wind & Fire『宇宙のファンタ
ジー』にみる未来のアフロとは!

画像引用元 (Amazon)
映画のヒットで注目される「アフロフューチャリズム」
マーベル・コミックが原作の同映画で特に話題を集めるのは、その舞台。
アフリカの奥地にあるという架空の超文明国家ワカンダは、民族やその歴史、宗教から産業にいたるまで徹底的にデザインすることで、黒人主導の未来都市というかつてないビジュアルイメージを作り上げました。
このワカンダのような、アフロアメリカンによるアフリカ回帰志向、古代エジプト文明や最先端テクノロジーなどのモチーフを融合させたコンセプトを「アフロフューチャリズム」と呼んだりします。
そして「ブラックパンサー」に先んじること約40年前、そのアフロフューチャリズムなイメージをふんだんに盛り込んで一世風靡したのがアース・ウィンド・アンド・ファイア(以下EW&F)でした。
ビジュアルから歌詞までに溢れるEW&FのSF的世界観
EW&Fの選んだビジュアルイメージはアフリカフューチャリズム的な意匠にあふれています。
ピラミッドや宇宙をあしらったアルバムジャケットのグラフィックアート、それにラメとフリンジをあしらった全身タイツのような衣装はまるで異星人。
そして、その一見奇妙なSF趣味は歌詞の中に見ることもできます。
Fantasy 歌詞 「Earth,Wind & Fire」
https://utaten.com/lyric/eb80902026
【和訳】
どんな人も心の場所がある
それは宇宙
世界はその空想をかき消すことなどできない
空想の船で空へ行こう
たちまちどんな夢も叶うだろう

ちなみに、厳密に言えばアフロフューチャリズムという言葉自体は当時にはありませんでしたが、Pファンクやアフリカ・バンバータなど、70年代のブラックカルチャーにはそうしたモチーフを好む風潮がたしかに存在していました。
またその後に発展を遂げたヒップホップ、そのフォーマットは、ブラックミュージックとテクノロジーとの融合という意味でアフロフューチャリズム的な試みと言えなくもありません。
「ニューエイジ思想」とEW&F
アフロフューチャリズムの源泉は、占星術やグノーシス主義を取り込み60年代以降世界中のサブカルチャーに影響を与えた、"ニューエイジ思想"にさかのぼります。
ミュージックシーンにおいてもその影響は無視できないものでした。
すぐに思いつくものとしては、サン・ラーやジョン・コルトレーンなどのジャズ界隈の活動、それにロック周辺で流行したインド来訪やフラワームーブメントなどが挙げられるでしょう。
ちなみに映画『ブラックパンサー』の原作コミックの初出も1966年でした。
そしてラムゼイ・ルイス・トリオのメンバーだったジャズ・ドラマーのモーリス・ホワイトという男が、1970年に占星術を由来とした名前のグループを結成します。
それがアース・ウィンド・アンド・ファイア(土、風と火)でした。
ニューエイジ思想をエンターテインメントに仕立てたEW&F
ニューエイジ思想のイメージは70年代、オカルトブー厶として大衆化しました。
ロックミュージックの世界では、レッド・ツェッペリンやブラック・サバス、そしてデヴィッド・ボウイなどのオカルティックなテイストが大きな支持を得ています。
EW&Fもまた、ニューエイジ思想の影響を色濃く感じさせつつも、そのモチーフを大衆に受け入れやすいエンターテインメントへと昇華させました。
ただそうした中にありながらも、EW&Fのコンセプトがユニークなのは、ロック勢とは異質なメッセージを含んでいることは、『宇宙のファンタジー』の歌詞から読み取ることができます。
『宇宙のファンタジー』にみる、根深い問題
ヨガの導師に教えを乞うべくはるばるインドまで足を運んだり、アルバムジャケットにエクトプラズムを写し込んだり、オカルティックな傾向のあったジョン・レノンの代表曲『イマジン』と比較してみましょう。
この曲では「国境なんてないと想像してみよう」とジョン・レノンは提案しますが、EW&Fはimagine(想像)ではなく、fantasy(空想)こそが大事なのだと説きます。
Fantasy 歌詞 「Earth,Wind & Fire」
https://utaten.com/lyric/eb80902026
【和訳】
ファンタジーという名の地、その勝利を見よ
愛の人生、新しい判決
永遠の自由を心にいざなえ

『宇宙のファンタジー』のメッセージは『イマジン』の、今ある世界をよりよくしようというような穏やかなものではありません。
今ある世界とは全く異なる、新しい社会を「空想」してしまおうと言うのです。
現状に希望を見出せないのであれば、全く新しい自分たちのルールによる社会を創造すればいい、という考えが、当時のブラックコミュニティにあったことは歴史でも確認できます。
60年代、黒人公民権運動が活発化する中で、イスラムという異質な価値観を信奉し、ブラックコミュニティの意識を変革しようとしたブラックパンサー党やマルコムXらの台頭は、現状に対する黒人達の諦観を反映した運動とも言えました。
『宇宙のファンタジー』が、そうした根の深いブラックコミュニティの問題意識を背景にしていると考えれば、ノーテンキにすら見えるEW&Fのアフロフューチャリズムがより興味深く感じられます。
今だからこそ聴き直したいEW&Fのメッセージ
排斥主義的とも言えるトランプ政権の誕生やブラック・ライブズ・マターなどの社会運動など、人種問題が再び注目を集める昨今、31歳の若い監督による映画『ブラックパンサー』はそれらに対するブラックカルチャーからの最新解答とも評されています。
その一方で、自分だけの宇宙を空想せよと世界に呼びかけたEW&Fの40年前の歌は、歴史に埋もれることなく今も聴き継がれているのです。
今こそ、彼らのエンターテインメントを再考する時に来たのではないでしょうか。
TEXT quenjiro

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