【全6回連載】“傷だらけの天才バッ
ター”西岡剛が今だから話せる『過去
・現在・そして僕の未来』《第6回》
「今を生きる!そして中田翔のこと」

野球ができることに感謝、それをBCリーグの若手に伝えていきたい

―BCリーグの話に戻させていただいて。試合に出てみてどう感じられていますか?​
「NPB目指している以上は慣れたくないですね。もちろん、レベルとかは比較するものじゃないと思っているので比較ではないですけれども。でも、ここですごい選手がいたら、すでにNPBで活躍していますよね」
―西岡さんは(圧倒的に)違うんだぞというのを見せたい?
「もちろんです。いや、見せたいとかではなく…。例えばプロ野球選手が高校野球に行って舐めてかかって『いつでも打てるわー』っていう気持ちで入ったら多分、打てないですよ。でも、NPBの集中力で試合したら確実に打てると思います。そういう意味ではメンタルですよね。自分のメンタルがそこに真剣に向かっているのか、『ああ、ここで取り敢えずやろう』と思っているのか。そこの違いはあると思うんです。僕は本気で(NPBを)目指しているんで、もし(結果的に)ダメだったとしても(今が)NPBを目指せる環境なわけです。少なくとも皆、選手は給料をいただいてまだ野球ができているわけですよ。まず給料が高い安いではなく、お金もらって野球をしている環境にいてることを(BCリーグ全選手に)分かってほしいなと思います。だから僕は今、すごく(野球ができるこの環境に)感謝しています」
―お客さんは自分ができないプロのすごさを観に来ているわけですよね?
「はい。結果っていうのは自ずと繋がってくると思うので、それは積み重ねですよね。あと、僕はNPB経験者としてここに来ている以上は、適当なことして『NPBってこんな感じでいいんや』ってまず、思わしたらダメですよね
―NPB、メジャー経験という、背負っているものが大きい
「もちろん、もちろんです! それは言動もそうだし、ウォーミングアップひとつにしてもそうだし。今日も体育館でひとり、ウォーミングアップをしてましたけれども、別に暖かいココ(取材部屋)でやってもいいわけですよ。でも、なんであそこでやるかっていうのは、こういうこと(地味なウォーミングアップなど)も取り入れてるっていうのを、言葉じゃなく行動でも伝える部分はあるかなと。伝えるって言葉だけじゃないわけじゃないですか。それに、どれだけ真剣になってやっているか。皆がいる体育館に行って笑って喋って仲良くしてるだけでは、この子たちのためにはならないですよね」
瞬間、時間で真剣に生きていれば、必ず次につながっていく

―自分のパフォーマンスをファンに見せるのはもちろん、BCリーグの若い子たちにも背中を見せている?
「もちろんです。ましてや、『(西岡さんでこんなにやっているなら)こんなもんでは、プロにはいけないな』とも思わしたいですよね(チームの)全員がNPBを目指してるって言っているんですよ。でも、何試合かしましたが、全員がNPBに入ることは不可能ですよね。でも全員、口に出してそれを言うんです。自分の感覚では(BCリーグからNPBに行けるのは)1チームに一人いるかいないかぐらいの本当に狭き門だと思うんですよね。このチーム見てても上に行けるギリギリな子、どう考えても無理そうな子、って僕が見てて分かるじゃないですか。でも、絶対プロ無理だろうと思うような子の方が一生懸命にやってるんですよ。見てて面白いな、と思いますね。自分も(才能に溺れて)そうだったんで。ああ、こういうことなんだなって。そういう子が独立リーグを辞めて社会人になったときに、逆転するよなって思うんですよね。だから、今この瞬間、この時間、どんだけ真剣に生きてるかなんですよね」
―言葉では何とでも言えるけど行動は嘘つけない
「僕は若い時、言葉の方が上手だったように思っていて、行動自体が伴っていないタイプだったんですよ。だから、最初はそういう自分を否定していく作業が本当にしんどかったですね。認めたくないんですよ。でも、その作業を一つひとつこなしていくと、案外楽になっていくんですよ」
―その最初を乗り越えるのが大変だったでしょ?
「はい。こういう会話も若い子じゃ経験がないから分からないと思うんですよ。それを伝えられることが勉強できているんで」
―今はすごい勉強させてもっらている感じですか?
「NPB目指すのはもちろんですけれども、自分自身は今まで『非現実的な世界』にいてたわけですよ。ロッカーにいて、のど渇いたな、と思ったらそこにペットボトルがあって、コーヒー飲みたいと思ったらすぐにコーヒー出てきて。でも、独立リーグで水飲みたいと思ったら、わざわざ自動販売機まで行って、コンビニまで行って百何円払って。その作業自体が現実じゃないですか。で、僕はその『現実の経験』をさせてもらえてるんですよ。ここにいながら社会人1年目の勉強をさせてもらっているんで、僕はここにいて『伝える』のはもちろんですけれども、僕自身勉強させてもらっている環境だな、と思っています」
―野球人としてだけでなく、社会人、人間としての厚みを作っている場になっている
「はい。作っていただいている感じです」
―一般人でも一度上に行った人がそこに気づき、謙虚になれることはなかなかできませんよ
「それも経験ですよね。プロ野球選手が40歳以上、この世界にいたとしても、いつか引退が来るわけですよ。その時に皆、初めて(一般でいう)社会人1年目になるわけですよ。解説者になれたとしても選手時代に(上から目線で)適当に『ああ、そうっすか』という対応を取っていたら、その時の取材記者が偉くなっていれば、頭を下げなくてはならない。若いうちからそのことに気づいておけば、野球を辞めてもすごく良い人生になっていくと思うんです。特に1軍に出ている選手はお金も多くもらっているし、自分でどうにかして生きていけるわ、という勘違いがまず生まれますよね。お金は大事だけど、それがすべてじゃない。でも、そういうところに気を張って、ちゃんと接することによって次の人生が生まれてくる。でも、そこに気づいていない人たちが結構いる世界なんです。もちろん、僕も若い時は気づいてなかったので、偉そうなことは言えないですけれども」
自分に似ている中田翔。だから自分と同じ轍は踏ませたくない

―中田翔選手や平田良介選手とかの面倒見てて、後輩に対する思いも強いと思いますが
「今でも中田翔には、とにかく厳しくやってますね。あの子はすごく優しくて、すごく真っすぐな子なんです。」
―西岡選手に似てますよね
「似てますね。あの子はガタイも風貌もあんなやから…。人間って第一印象が大きいじゃないですか。彼(中田翔選手)はああいう生まれ育ったままな感じなんで(笑)。だからこそ『もっと低姿勢になりなさい』『そのギャップでお前の評価が上がるよ』と」
―でも、昔の自分を見ている感じじゃないですか?(笑)
「そうですね。僕もスポーツカーや高級外車を乗ったりしてきたんですよ。彼も、僕と同じもの買ってくるんですよ。僕と同じバッグや財布まで買ってくるし(笑)。でもある時、僕はそこに無駄を感じたんです。スポーツカーに乗ったり高級外車に乗る。まず、野球選手に必要ないですよね。夢を売る仕事としても」
―成功者としては良いんじゃないですか?
「いやー、僕はもういいです。(翔には)乗りたいのなら取り敢えず1回乗りなさいと。でも、(乗っても)長く乗るもんじゃないと。1年なら1年乗って、そしたら欲が抑えられるから」
―(所有したという)達成感は、ありますからね​
「はい。今は僕も彼も、もう派手なクルマじゃなくなっていますよ。もし、ホンマにそういう車に乗りたいんであれば『野球選手辞めてから乗れるような人間になって乗りなさい』と言うています。その方がカッコいいと」
―サラリーマンからすると、才能ある人ばかりがいる厳しいプロの世界に飛び込んで、その中で結果を残してきたのなら(そのひとつの証として)良いんじゃないかなと?(笑)
「うーん…、僕はやってきた経験から言うとしたら、必要ないですね。イチローさんとか(のレベル)は別ですよ。例えば日本のプロ野球で3億円もらって、じゃあ1億5000万円は税金で払いましたと。そのうちクルマで3000万円使いましたと。そこで生活費、毎月200万円使いましたと。どれだけ残るんだと。皆、その現実を見てないわけですよ。それだったら貯蓄していって、野球辞めた後、なんぼでも好きな生活できるんですよ。野球選手の時に高級車で、辞めた後に小型車じゃ悲しくなるじゃないですか」
―今はNPBを目指し、そしてその先も見ている?
「はい。だから翔にも『俺も辞めた時にいいクルマを乗れるように頑張るから。今は我慢して(翔も)頑張れ』と。とにかく、どういう結果になろうと、NPB目指して頑張ります。4年前に気づいたことを続けてきて、今、ようやくその成果が出始めている気がしています。(NPBに戻れるか)結果はどうあれ、自分はもちろん、家族やファンのためにも(このBCリーグで)喜んでいただけるプレーを続けるだけです」
若かりし時の強がり、そしてケガに翻弄されてきた野球人生。そのケガによって気づかされたホンモノのアスリートの姿勢。そして、BCリーグで『実像の世界』に戻れた。でも、元NPB戦士として、メジャーリーガーとしての誇りも忘れない。今だから話せる西岡の赤裸々な思い。
そして、真剣に毎日を過ごしている西岡のプレーに私たちも注目しないわけにはいかない。恐らく今が、「過去最高の西岡剛」が見られるはずだ。BCリーグの選手たちだけに見せておくにはあまりにも勿体ない。もしかしたら今年、見納めになるかもしれない。いやNPBの一流投手との対戦によって「さらなる進化を遂げた西岡剛」が見られるに違いない。ビジネスの世界でも、スポーツ界でも、絶体絶命の苦境を乗り越えたものは強い。傷だらけの天才が、最強の天才に生まれ変わろうとしている。その成長過程を見られる僕らは幸せだ。将来は神のみぞ知る。だが、どうあれ「今を生きる」彼の背中をしっかりと目に焼き付けておきたい。
取材・文:青木秀道(SPICEスポーツ記者)

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