【インタビュー】オリンポス16闘神「
バンド名はバンドの魂ですからね。魂
を売る覚悟があるのかね?と問いたい

2019年7月2日、オリンポス16闘神のニューアルバム『闘神道』が発売となる。バンド名のネーミングライツを2ヶ月間だけ企業に譲渡するという奇天烈な施策をうち、オリンポス16闘神改め“古河気合筋肉16闘神”として活動していた彼らだが、古河気合筋肉16闘神としてレコーディングを着々と遂行していたにもかかわらず、リリース時にはライツ期間が過ぎバンド名がオリンポス16闘神に戻ってしまうという、ちょっぴりおもろい状況にある。

しかしながら、アルバム『闘神道』にスキはない。徹頭徹尾コアなメタルで押しつつも、自らのステートメントらしき演説トラックも混入され、そして古河気合筋肉16闘神として華々しく世に放たれた「Power&Passion ~古河機械金属応援歌~by古河気合筋肉16闘神」もしっかり収録されている。あわせてこれまで彼らが発表してきた各社歌や応援歌もずらりと軒を連ねている。
珍獣のような十数人のメンバーを擁し「BtoBtoC戦略に特化した世界初のインディーズバンド」を標榜するオリンポス16闘神だが、そんな彼らが掲げる価値観は「練習したら負け」「音楽で勝負しない」「一番のファンサービスはライブをしないで打ち上げをすること」「努力しない。それが俺のジャスティス。」「面倒な事はお金で解決」「嫌な事は酒で逃げる」「処世術と経済力で勝負する」「私共はバンドですか?それともゴミですか?」…と、一般的なロックバンドの精神性とはまるで異とするものである。つまりは、世界初となった「バンド名のネーミングライツ」が実現してしまったのも、オリンポス16闘神というバンドの特異性があってのことであり、同時に「バンド名のネーミングライツ」を本当に取得してしまうという、古河機械金属株式会社の広報・IR課のクレイジーさが掛け合わされてのケミストリーでもあったわけだ。

「古河機械金属が、メタルバンド・オリンポス16闘神のバンド名のネーミングライツを取得」というニュースは、4月1日というエイプリルフールの日にリリースされ世間をざわつかせたが、創業144年を迎える日本有数の非鉄金属/産業機械関連の一部上場企業、古河機械金属株式会社と、実のところメンバーのほとんどが経営者/弁護士/医師…といった社会的立場を有するオリンポス16闘神の両者は、どんな会話を交わしどんなシンパシーを感じ得たのか?

いい大人たちがほくそ笑みながら仕掛けた「バンド名のネーミングライツ」施策の裏側の話を紐解くべく、ニューアルバム『闘神道』のリリースを機に、オリンポス16闘神の8弦ギター&きったない怒声担当の長山衛と古河機械金属株式会社 経営企画部 広報・IR課長 芥川良平氏を招集、話を聞いた。

   ◆   ◆   ◆
▲左:長山衛(オリンポス16闘神/元古河気合筋肉16闘神:8弦G、きったない怒声)、右:芥川良平(古河機械金属株式会社 経営企画部 広報・IR課長)

──そもそもこの「古河気合筋肉」というのは、何なのでしょうか。

芥川良平(古河機械金属株式会社 経営企画部 広報・IR課長):もともとは、社名の「古河機械金属」をもじった広告で生まれたコピーですね。電車のドアに貼る広告ステッカーで、左に「古河機械金属」、右に「古河気合筋肉」のロゴを目立つようにして「創業1875年の機械と素材メーカーはどっち?」というクイズにしたのが最初です。
──なぜまたそんなことを?

芥川:弊社のことを知らない人に「古河機械金属」という会社があることを知ってもらいたかったんです。うちは産業機械や素材を扱っているBtoB企業ですが、旧社名の「古河鉱業」で知っているシニア層はいても、社名変更後の「古河機械金属」は一般の方…特に若い人にはあまり知られていない。そこで全般的に社名の認知度を上げようとして行った施策が電車広告なんです。「古河気合筋肉」の強烈なワードで目を引き、「古河機械金属って聞いたことがないけど、どんな会社?」って思って欲しかった。
長山衛(オリンポス16闘神/元古河気合筋肉16闘神:8弦G、きったない怒声):社名をもじったりクイズにしたりすること自体、社内で反対はなかったんですか?

芥川:それはありましたよ(笑)。「気合筋肉」なんて、堅くて真面目な社風では絶対ありえないものでしたから。でも、紆余曲折を経てなんとか実施にこぎつけ、今ではこの電車広告のおかげで一般にも広く認知されるようになりました。そうなると次は「社名認知」のフェーズからもうひとつ上の「会社への興味・関心」のフェーズに行く必要があります。それで始めたのが古河気合筋肉オフィシャルサイトの立ち上げであり、ユニークな動画制作であるんです。古河大好き怪力「カナコシリーズ」はその代表作ですね(笑)。
──古河気合筋肉サイトやYouTubeで公開されている動画ですね。

長山:僕もシリーズ最新作の「カナコのお仕事」は観ましたよ。でっかい重機や工場も映り込んでて萌えますが、「カナコ」のモデル社員がいるんですか?

芥川:ナイショです(笑)。でもいろいろストーリーの中に意味を持たせているんです。「好きなだけじゃダメ」とか「思いを形にする」「行動に移して成し遂げる」とか、「気合筋肉」に通ずる「Power&Passion」の熱が込められてるんです。
──その延長に応援歌「Power&Passion ~古河機械金属応援歌~by古河気合筋肉16闘神」の誕生があると思うのですが、この施策はオリンポス16闘神というバンドの特異性があってこその企画ですよね。やたら社歌を作ったり、メンバー各自が音楽以外の本業を持っていたりと、バンドとしてはかなり変わった形のようですが。

長山:もともとは普通のバンドをやっていたんです。活動を開始した2002年の頃は普通に月1でライブをやったり練習をするバンドでした。…が、大して特徴もありませんでしたし、動員もイマイチで、周りからは泡沫バンドと呼ばれてましたね(笑)。そして多くのバンドが20代後半から30代ぐらいで「このままバンドをやり続けるか、それとも…」という岐路に立つでしょう? 結果として仲の良かったバンドの多くは解散しました。言うまでもなく僕らより遥かに優れた楽曲と動員数、素敵なビジュアルをお持ちのバンドでしたけどね。でも、僕らのような値がつかないクズは、むしろ廃棄物が金を搾取する家電リサイクルのような生存戦略を考えるわけです。

──それはどういうことですか?

長山:多くのバンドは2つの選択肢を取ります。ひとつは初期衝動のまま陽の目を浴びる事を目指して活動を続けるという方法。そしてもうひとつが解散するという方法。僕らはそのような極論的トレードオフではなく、その中間地点で存続する事はできないかと考えました。その答えが「音楽にこだわらない音楽活動」なんです。僕らは全力で音楽を軽視します。音楽よりも目先の欲に率先して惑わされ、モテそうな事に努力を一切惜しまず、醜くだらしなく太りたいのです。ブクブクと人数ばかり肥大した脅威のバンド体脂肪率を誇示し、目指すのは自然主義の頂点です。愛だの夢だのロマン主義はうんざりです。ロマンティックは全力で阻止します。…と、このように音楽敗北宣言をして、平たく言えば「負け様で勝つ」という狂気の生存戦略を掲げたわけですよ。

芥川:音楽を軽視(笑)。
長山:そのあたりから既存のバンド活動にこだわらない戦略が増えてきたのですが、例えば僕らは大した集客力がありません。そんな状況で僕らの思想を伝えるには、従来のように一般個人を対象とした音楽活動ではなく、一定の顧客層を保持する法人をターゲットにし、その法人経由で一般個人にアプローチするBtoBtoC(企業が消費者に対して行うサービスをサポートする施策)だったんです。

──それが社歌制作に発展したわけですね。

芥川:最初に作った社歌は?

長山:さくら水産の「まぐろのあら煮は80円」です。練習が終わったあと、いつも打ち上げでさくら水産に行っていたんです。さくら水産って素晴らしいコストパフォーマンスで、メンバーも「もう、住みたいね」って言ってて(笑)、この感謝を表現しなきゃいけませんねってことで作った曲なんです。

芥川:え?勝手に作ったってことですか?

長山:ざっくり言うとそうです。そしたらそれがテレビに採り上げられちゃいまして(笑)、さくら水産から電話がきたんです。こりゃ「怒られる」と思ったら、すごく好意的に公認してもらったのが最初ですね。

芥川:そこで味をしめて次から次に社歌を(笑)。

長山:いやいや(笑)、勝手に作ったのはそのときだけ。あとは最初から取り組んだものばかりです。

──今回の応援歌はどのような経緯で実現したんですか?
芥川:BARKSのスタッフが弊社電車広告を見て「なんだこの会社、おもしろいことやってるな」と、連絡をくれたところからです。最初は音楽フェスの協賛の話を頂いていたのですが、「機械?金属?これはもうヘヴィメタルしかないでしょ」「メタルで社歌を作ろう」って、私の知らないうちに話が進んでいったらしいです(笑)。

長山:そうなんです(笑)。

芥川:古河機械金属とメタルの親和性はわかりますが、だからってヘヴィメタルで社歌を作るのはあまりに突拍子がない(笑)。そもそも今までやってきた広報展開のストーリーもあり、第一ステップ:社名認知、第二ステップ:興味・関心という流れから逸脱すると広報活動がブレてしまうので、その流れに沿う必要があります。そこで社歌ではなく、「古河気合筋肉」というコンテンツに絡める形で、古河機械金属を応援する歌を作ってもらいました。それでも応援歌企画を会社に認めてもらうのは大変でしたけどね(笑)。

──オリンポス16闘神として、古河機械金属の応援歌を作る上で苦労した点はどういうところですか?

長山:数々の社歌をメタルジャンルで提供してきた経緯はあるんですが、当然ながらそれぞれの会社のレギュレーションや程度問題があるんです。「メタルで作ってください」と言われても、「これぐらいのメタル…だな」というしきい値がある。

芥川:これぐらいのメタル(笑)。
長山:なので「どのくらいのメタルにするのか」に迷うわけですが、今回は社名に「金属」とあるわけですから、ここはもうフルスイングでゴリゴリ高純度なメタルでいこう、と振り切りました。あとはやはり歌詞です。そこはマインドですから、お互い納得いくまでやり取りさせてもらいました。

芥川:企画段階では散々意見を言い合いますが、これがベストと詰め切った後は、アーティストの方やクリエイターの方が作られたのを尊重し「ああしてくれこうしてくれ」と言わないようにします。そうしないと、せっかくその道のプロがこれがベストと作ってくれたものなのに、段々と企業寄りに修正されていき、企業側に寄り添った中途半端なものができあがることになってしまいます。作ってくれたものを尊重し、会社として絶対的なNGがなければ、それをベースにさらにより良く見せていくことを一緒に考えるようにしたいんです。だから楽曲も一発OK。歌詞に関しては、弊社グループの経営理念と行動指針、長期ビジョンを歌っているので、文字制限があるなかでベストを探る作業となりました。遊び心も少し入れて(笑)。

長山:歌はデスヴォイスなので、通常の発声じゃないんですが、総じて振り切れた高純度メタルができたと思います。

芥川:テロップで歌詞が流れないと、何言ってるかわかんないんですけどね(笑)。

長山:「想像以上に何言ってるかわかんない」ってメールをもらいました。

芥川:最終的にはテロップが入るので、あまり心配はしてなかったんですけど、完成動画を社長に見せたら「何言ってるかわかんない」って(笑)。

長山:レコーディングも楽しかったですよ。「指針実践」という歌詞がありまして1秒にも満たない部分なんですが、そこだけ30回ぐらい歌い直したり。我々は合議制なので、ボーカルの周りに他のメンバーがずらっと立ち「そんなんじゃ実践してない!」ってジャッジされながら(笑)。

──完成した「Power&Passion ~古河機械金属応援歌~by古河気合筋肉16闘神」が公開されたときの反響はいかがでしたか?

芥川:「また古河さん、奇抜なことやって。ヘヴィメタルの応援歌って」っていう声をたくさんいただきました。同時に古河機械金属と接点のなかった音楽ファンからは「このメタルすげえ!」って感じの反応でした。新たな顧客層発見というか、古河機械金属を知ってもらう導線を音楽からつくれたと思いました。「カナコシリーズが好き」っていう人もいれば「今回の応援歌が好き」っていう人もいて、人によって好きなポイントが全然違うと改めて思いました。…まぁ、ふざけ方が違いますからね。

──そしてその後に、ネーミングライツを譲渡し、バンド名がオリンポス16闘神から古河気合筋肉16闘神になるという大ふざけが発動したわけで。
長山:バンドとしての命名権は「どっかでやってみるのはありだね」っていう話は、前々からあったんです。これまでのバンド活動にはないことをやろうという発想ですから。バンド名はバンドにおける「魂」なので、実際に「ネーミングライツをやりましょう」って話した時はバンド内でも結構ざわつきましたけど(笑)、誰もやったことがないという点でも実行する価値は大いにあるので、結局メンバー間では全員一致で「やろう」と。で、やったらやったでファンの中でもだいぶざわつきました(笑)。まず「呼び方がわからない」と(笑)。これまでは略して「オリンポス」って言っていたけど、古河気合筋肉16闘神って「フルカワ」って呼ぶんですか?みたいな(笑)。

──期間限定とはいえ、バンドの魂をも手放す決断とは、いったいどういうことなんでしょう。

長山:これまでのアーティスト活動が「曲を作って売る」「グッズを作って売る」だったところに対し、これこそバンドの新しい活動だと言えるのかもしれません。バンドの多様性…バンド2.0ですね(笑)。粗利100%ですし(笑)。ただそれを受けてくれる企業なんて、まずもってないと思っていたんですけど、意外にも古河機械金属株式会社が受けてくれたという。

芥川:動画を作っても、いかに興味を持ってもらうかが大事ですから、期間限定でバンド名ネーミングライツを行って、さらに興味を喚起させたかったんです。発表した4月1日は新元号発表で持ち切りになりますから、日程をずらそうかという話もあったんですが、やっぱりエイプリルフールにそれを発表したかった。ウソっぽいことを本気でやるんですから、その他大勢のやるエイプリールフールイベントとは差別化できますよね。

長山:しかもその日は、会社の入社式の日ではありませんか?

──古河機械金属の新入社員からしたら「?」ですね(笑)。

芥川:「バンド名のネーミングライツ取得」という誰もやったことないことをやったわけですから、今後もどこもやったことないことをやりたいですよね。

──今後、バンド命名権を譲渡するバンドが出てきたら面白いですね。

長山:バンド名はバンドの魂ですからね。「魂を売る覚悟があるのかね」と問いたい。それだけです(笑)。

取材・文:はせがわちぇりー
編集:BARKS編集部
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現在、オリンポス16闘神はオリンポス十六闘神(元古河気合筋肉十六闘神)との表記をもってアルバムのリリースを迎えている。自主企画ライブなどでは、オリンポス十六闘神と古河気合筋肉十六闘神が対バンを張るという妙案もあるとかないとか。

ニューアルバム『闘神道』において、彼らは「ロックバンドの究極の形はM&A(合併と買収)にある」と声高に主張する。アーティストを中心に360度ビジネスを加速させてきた平成の音楽業界だが、おふざけのようでピンポイントに的を射たオリンポス16闘神のバンド戦略は、令和という新時代でどのような進化をとげるのか、注目しておく必要がありそうだ。

オリンポス16闘神『闘神道』

2019年7月2日発売
¥3,024
1.闘神演舞
2.闘神道
3.汗と泪と男とサウナ
4.おれがガツンと言ってやる
5.岡惚れ治外法権
6.エリートクズ
7.から揚げセラピー
8.デブとかババアのいない店
9.小松菜伐採 ~株式会社ベジフルファーム社歌~
10.売却不動産 ~株式会社伍代社歌~
11.チンチロリンハイボォォォル! ~大衆鳥酒場鳥椿 公式テーマソング~
12.迷宮アクアス ~代々木アクアス公認テーマソング~
13.HAMAORI ~茅ヶ崎活性メタル~
14.殻を破る歌 ~NEXTスタッフサービス社歌~
15.DeathWaterfall ~オルタナティブアーキテクチャー道場テーマソング~
16.Power&Passion ~古河機械金属応援歌~by古河気合筋肉16闘神
17.おれがガツンと言ってやる ~プロローグ演説MIX~
18.デブとかババアのいない店 ~プロローグ演説MIX~
19.闘神道 ~プロローグ演説MIX~
◆古河気合筋肉オフィシャルサイト

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