金属恵比須・高木大地の<青少年のた
めのプログレ入門> 第16回~桜桃忌
の舌打ち2019――ルシファー・ストー

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 美容院に行った。
 「忙しいですか?」
 美容師は訊く。
 「死ぬほど」
 美容師は微笑む。何と返していいのかわからないのかもしれない。微笑みながら耳の上あたりの白髪をバサリバサリと切っていく。床に落ちた白髪が溜まるにつれ、心なしか疲れが癒え、若返った気がする。
 金属恵比須のライヴの準備に、幾ばくかの連載記事(これもそうだ)、そして、ありがたいことにレビュー記事などの原稿を依頼されたりもしてきた。先日発表された『人間椅子/新青年』のレビューもタワーレコードのサイト『Mikiki』で発表され、お蔭様で5日連続アクセス回数1位を記録した。憧れの人間椅子へのラブレターと思い、800字に1か月半を要した。遅筆も甚だしい。
 思えば、高校1年の春。
 人間椅子の『人間失格』を聴いた影響で、太宰治『人間失格・桜桃』(角川書店)にハマり、将来の夢は太宰治となった。要は作家である。30代で三鷹に棲み、38歳の終わるころに玉川上水に飛び込み、39歳で生涯を終えたい――こんなライフプランを立ててみた。
角川文庫『人間失格・桜桃』の表紙裏に「高木」と入れた高2の頃のイタズラ
 かくして32歳。晴れて三鷹に引っ越してきた。太宰のご加護か、原稿の依頼も来るようになった。が、一向に1冊の本すら発表できていない。「ライター」とは名乗れるようになったかもしれないが「作家」ではない。
 そして、2019年4月、いたずらに太宰の享年である39歳の誕生日を迎えてしまう。太宰治よりも年上になってしまった。あのアンニュイな憂え顔の彼よりも歳を食ってしまったのである。
 毎日、玉川上水のほとりを歩いている。まさか10代じゃあるまいし、太宰が入水自殺を遂げた玉川上水を見たところで、吸い込まれて飛び込んでしまおうとは露とも思わない。虚栄心からの破滅願望は、もはや、ない。それに、憧れの人より年上なのに、後追いするなんぞ格好がつかないではないか。
桜桃忌当日(6月19日)の玉川上水未開発地帯
 そういえば、玉川上水沿いにとうとう大きな道ができた。2019年6月8日、東八道路が玉川上水を伝って、三鷹市~杉並区を繋げた。鬱蒼とした森に囲まれていた寂寞たる川が一挙に公衆の面前に現れ、無数の商用車、無邪気な通学者に晒されることとなった。ひっそりと飛び込むことすらできない。
開通前の東八道路
開通前の東八道路
 その日は金属恵比須のリハーサルだった。午後3時、東八道路は開通だったのだが、4時には高円寺のスタジオに着いていなければならない。時間が微妙に合わず、新・東八道路の1番乗りを逃す。道マニアが集ったのか、信号が初めて青色に変わる瞬間を期待していた車が意外にも多く列をなしており、やむなく約30番目の走破者となった(前にいた、青信号となる瞬間にアクセルを踏む車の数を必死に数えた)。
開通直後の東八道路
 なにゆえ1番乗りを目指したかといえば――誤解を恐れずいうならば――「過去の蹂躙」である。厳密にいえば「1番乗り」を目指していた訳ではなく、いち早く10代からの太宰に対する怨念を地中に埋めて葬り去りたかっただけだ。ハイエースのタイヤでアスファルトをさらに固めて、「もう出てくれるな」と念じる一種の「踏み絵」だったのかもしれない。
 高円寺のスタジオに着き、早速新曲を合わせる。
 「ルシファー・ストーン」。
 金属恵比須23年の歴史で初めて、本格的なメタル調であり、西洋キリスト教文化の影響を堂々と謳い、横文字のタイトルを冠した曲である。
宮嶋健一(key)と栗谷秀貴(b)、スタジオにて
 この曲の原作は、飛ぶ鳥も落とす勢いの作家・伊東潤氏の短編小説である。吉川英治文学新人賞を獲得した後、直木賞には5度も候補となる歴史小説の大家である伊東氏が、KADOKAWAから6月28日に『家康謀殺』という短編集を発刊する。その電子版のボーナストラック小説が「ルシファー・ストーン」であり、それを読んだ瞬間、「こういう手もありか!」と目からウロコ状態となった。
〈短編「ルシファー・ストーン」あらすじ〉
教皇庁に呼び出された異端審問官のヨハン・デル・パーロは、枢機卿からある捜査を依頼される。ヴァティカン内局の神父が、宝物庫に秘蔵してあったルシファーの石を盗み出したというのだ。石を取り戻すべく、デル・パーロは日本へと向かう。そこで待っていたものは――。
(角川書店ブックチャンネルより転載)
 舞台は戦国時代の日本。織田信長の“治世”。そこにはカトリック社会の秘蔵物が“到達”していた……。
 これは――今まで金属恵比須としては禁じ手だった――西洋キリスト教文化の影響をモロに受けたヘヴィ・メタル路線の曲をつくれるチャンスかもしれない。金属恵比須内ではそのような曲を「正義感が強い曲」と形容し、あえて踏み入れることはしていなかったが、日本の土壌で西洋文化、これならコンセプトにできる。 ということでつくられたのが「ルシファー・ストーン」。作詞は原作者である伊東潤氏にお願いをした。2018年8月に発表した『武田家滅亡』以来のコラボレーションである。心なしかレインボーやメタリカを意識し、見事に往年のサウンドが再現できたと自負を持っている。
伊東潤『家康謀殺』小説テーマソング「ルシファー・ストーン」by金属恵比須

 そしてこの曲が、伊東氏の最新刊『家康謀殺』のテーマソングとなった。出版社のお墨付きをもらったこととなった。
 2019年7月6日(土)には吉祥寺シルバーエレファントにおいて金属恵比須のワンマンライヴを催す。『家康謀殺』の発刊を記念して、伊東氏をお呼びし、プチ講演並びに、ライヴ後にサイン会を行なう。出版社のご協力も得て、ライヴご来場者全員に短編「ルシファー・ストーン」の小冊子を伊東氏のサイン付きでお配りする予定だ。
 さらに、ライヴ直前に「ルシファー・ストーンを探せ!」というキャンペーンも行なう予定。小説では、ヴァティカンから日本まで訪れルシファー・ストーンを探し出す物語。それになぞらえ、東京のどこかにルシファー・ストーンを隠し、それをみんなで見つけよう――という企画を画策中だ。
 1982年、角川書店ではかつて映画『化石の荒野』で「金塊を探せ」キャンペーンを行なっていた。東京全土を使ったキャンペーンで、町のどこかに金塊は隠されており、ヒントが一つずつ与えられ、警察も対応したほどの大騒動となった伝説のイベントだ。それになぞらえた「宝探し」である。
 きわめつけは、当日、ライヴ会場において伊東潤氏の最新刊『家康謀殺』を購入された方のみ、「ルシファー・ストーン」を収録したCD-Rがついてくる。この日のみに配布される音源なので非常にレアだ。
 もはや作家にならなくとも、大作家先生とタッグを組みコラボレーションを行なうことで、太宰治を超えられるのではないか――そんな気がしてきた。別に「作家」にこだわらなくたっていいではないか。 玉川上水のほとりを東八道路がアスファルトによってガチガチに固め、そこを否応なく蹂躙したことによって、若気の至りのあの思いは、アスファルトの下に葬り去った。39歳の6月19日。やっと太宰の怨念から脱せられたのかもしれない。
桜桃忌その日の玉川上水と東八道路
 そういえば美容師にはこうもいわれた。
 「そんなに疲れて忙しくても、楽しいでしょ?」
 筆者はこう答えた。
 「死ぬほど」
 はっきりいって玉川上水に飛び込む暇すらない。
  太宰はこういう。
「一個の創作家たるものが、いつまでもお手本の匂いから脱する事が出来ぬというのは、まことに腑甲斐ない話であります。はっきり言うと、君は未だに誰かの調子を真似しています。そこに目標を置いているようです」
「雰囲気の醸成を企図する事は、やはり自涜であります。〈チェホフ的に〉などと少しでも意識したならば、必ず無慙に失敗します」(同)
 36歳の太宰は「芸術ぎらい」においてそう書いている。
〈太宰的に〉などと意識していては失敗するばかり、ということだ。東八道路のアスファルトの下に捨て、新たな人生を歩む決心である。 ただし、「ルシファー・ストーン」が〈レインボー的〉であったり、ライヴの企画が〈角川映画的〉も失敗するのだろうか。白髪がまた増えそうだ。
『太宰 治 酒場ルパンで、銀座』(1946年)の真似をして悦に入る高木大地
文=高木大地(金属恵比須)

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