majikoとは何者か、どうありたいのか
――最新作『寂しい人が一番偉いんだ
』を完成させた今、改めて問う

majikoが6月19日、約3年ぶりのフルアルバム『寂しい人が一番偉いんだ』をリリースする。シングルCDや配信で既に世に出た曲に加え、新たに自身の書いた曲、ボカロ界隈からヴァイオリニストまで様々なシーンのクリエイター陣と制作した曲を含む、色とりどりの全12曲について、以下のテキスト冒頭でmajikoは「ピントを合わせた作品にしたいと思った」と語っている。それと同時に、今回のインタビューで語られる言葉の端々からは、majikoというアーティスト像や目指すべき姿についても、これまで以上に照準が定まってきている様子も窺えた。ぜひその音と想いに触れてみてほしい。
――久々のフルアルバムがリリースされますが、ボカロ的な音楽が好きで求めている人の需要と、もう少し間口の広いポピュラーソングとしての完成度が、不思議なバランスで両立されている作品だと思いました。
ああー、嬉しいです。今回はピントを合わせた作品にしたいと思っていて。自分のアーティスト性と、今までニコニコ動画でやってきて出会ったご縁みたいなものも取り入れた作品にしました。とみき(みきとP)とも、あれだけ色々とやらせてもらっていて、曲を書き下ろしてもらったのは初めてなんですよね。大事なときに書いてもらいたいと思っていたので。
――ピントを合わせるというのは、曲ごとに考えたことですか。それとも全体を?
全体ですね。『AUBE』(2018年3月リリースのミニアルバム)のときは手の内を明かしたというか、「こういう曲も歌えます、こういう曲も歌えます」っていう、シンガーとしてのmajikoという存在の表し方をできたなと思っているんですけど、そこからもう少し先に進んで、majikoの作る曲とは? アーティスト性とは?っていうところを突き詰めた作品にしたくて。前よりも、自作曲や編曲に関わった曲に自分の世界観みたいなものを出せたと思います。
――そう考えたときに想定するリスナー層ってどのあたりだったんでしょうか。
今までライブに来てくれたり追いかけてくれている方のファン層を、いろんな人と相談しながら私なりに定めていった結果、タイトルにあるような“寂しい人”に照準を当てて作っていこうと思いました。……すごくパリピではないっていう感じですね(笑)。
――ものすごく音楽を好きでハマっている人と、そうではなく日常の中で触れた音を好きになっていく人でいうと?
そこのバランスはすごく考えました。コアファンの、すごく音楽を好きな人に刺さってくれるっていうのは、ありがたいことに今まで経験してきているんですけど、もう少し聴きやすい、キャッチーさみたいな部分は課題だったので、今回はより高い目標を定めて自分の曲は作っていましたね。「ワンダーランド」「パラノイア」とか、「春、恋桜。」もそうですけど、あまり音楽は聴かないよっていう人の耳にふと入ってきても、自然と流れるような、でもちょっと「ん?」っていうフックがあるっていう。
――お願いして作ってもらった曲に関しても、そういう意図を伝えたんでしょうか。
カンザキイオリさんやharuka(nakamura)さんに関しては全然そういったことはなかったです。もともと彼らの作る曲がすごく力を持っているというか、私よりもはるかに経験値が高くて、私が目標とすることを自然にできちゃう人なので。
――その方向性で制作していく上で、今までと違ったことを具体的に試みたりはしました?
「ワンダーランド」が自分の中で顕著なんですけど、サビをすごくわかりやすくしてみました。「パラノイア」で得たキャッチーさ――<ちょっと待って>っていう部分で取っ掛かりのあるメロディと歌詞を作ることができたから、今度は聴きやすさや歌いやすさを目標にしてみようと思って。歌いやすいであろうメロディと、自分の中でカッコいいと思っているメロディの中間点というか、それを作ることができた感覚でしたね。他にも「グラマー」も編曲に携わってますし、色々と手応えはあります。
majiko 撮影=高田梓
――今のプロダクション、レーベルになってからコンスタントにリリースやライブを重ねてきた中で得たもの、感じたこともきっと生かされてますよね。
はい。組み込まれていると思います。反省点といったらあれですけど、次はこうしてみようねっていう課題は毎回あったので、それを一旦ここで出せたなって。まあ、また次の課題も出てきているんですけど、それは嬉しい課題というか、今後の制作意欲に大きく影響するであろうものなので、すごい楽しみです。
――前作で課題だったものが今作で変化した点でいうと、どのあたりでしたか。
サビとかアレンジですね。昔は本当にストイックな曲しか作っていなくて、『CLOUD 7』がその真骨頂で(笑)、(聴いてくれる)人をめちゃめちゃ選ぶみたいな。そこからわたしの課題は始まっていたので。
――サビに関しては、いわゆるサビ感、さっき言っていたわかりやすさ、キャッチーさということですよね。
そうですね。けっこう私はループの曲、同じコード進行の曲が好きなので、そうなっちゃってたんですけど、「ここは転調したほうがいいね」「ここはもう少し違うコード進行がいいね」っていう相談ができる環境になって、自分でもこのコードに行ったら次はこっちのコードがいいかな?っていう考えができるようになったのは、成長だなと思います。
――もともと洋楽とか好きですしね。
そうなんですよ(笑)。だから「これはサビなのか?」みたいな曲も大好きだし、そういう曲を作ってきたんですけど、でも日本人だしなっていう感覚もあって。だから言葉もちゃんと分かるほうがいいとか。まぁ、昔からポルノグラフィティとかも好きでしたし、どっちも好きなんですよね。だからいろんな音楽を聴いたもん勝ちだな、みたいな。
――そういう他の楽曲からのインプットって、今作でも活発にしてます?
無意識にしてると思うんですよね。ずっと音楽を流しているので、YouTubeの自動再生でも、洋楽でもインディーズの曲でも、本当にアイディアはそこら中に散らばっていて。それを自分なりに落とし込んで、作品に還元できたらなっていうことは思ってます。
――最近、海外は特にですけど、バンドサウンドじゃないものも多くて。
本当、そうなんですよね。サビももちろん無いし、ベースもドラムも生じゃない、みたいな。「これはライブで声聞こえるのか?」みたいなものもあって、でもそれがカッコいいし、すごく先に行ってるんだなっていう感覚ですけど、それは昔からそうですよね。そういう海外からのインプットも大事だなって思います。
でも、私はシンガーでもあるので、第一に“歌”。作曲はその次というか……本当は、個人的な目標としてはどっちも一番になりたくて努力しているんですけど、まずはちゃんと歌ものを歌えなきゃいけない、歌ものを作れなきゃいけないっていうのは第一関門だと思っていて。そうじゃない曲はいつでも作れるし、CDにしなくてもYouTubeにヒョイってあげたりもできるわけで。
――たしかに。
「売れる」っていうことにも繋がってきますけど、「売れる」のであればまずは、っていうことはみんな考えると思いますし、頑張ってることだと思うので。そういう歌ものと自分の好きなものの良い折り合い、間が取れればいい……って宇多田ヒカルさんが言っていたのが印象的で、「あ、そうだよな」「まさにそれだよ」と思って。それからですね。
――そういう意識も、冒頭に言ったバランス感につながっているのかもしれないですね。
嬉しいです。それは歌を軸としているからなのかなって思います。
majiko 撮影=高田梓
majiko 撮影=高田梓
――アレンジの部分にも関わってくるのでこの機会に聞いておきたいのが、そもそもmajikoさんはシンガーなのか、シンガーソングライターなのか、っていう根本的なスタンスについて。
そうなんですよね(笑)。私は、夢としてはシンガーソングライターがいいなと思ってるんです。人が書いてくださった曲をシンガーとして歌うのもすごく大事なんですけど、自分が曲を書きたいっていう。この間も「編曲にも作曲にもこだわりがあるし、何かと言えば作曲や編曲の話になる。majikoは、歌はもちろんだけど作曲も同時に認めてほしいんだと思う」みたいな話をされたんですよ。だから、私が宇多田ヒカルさんを「すごいな」と思うのは、作詞・作曲・編曲を自分で全部できちゃってるところです。
――ただシンガーソングライターというだけなら、メロディを弾き語っただけでもそうだけど――
そうそう。鼻歌でも作曲だからシンガーソングライターになるんですけど、ある程度アレンジまでしてデモとして完成したものと、鼻歌で「これで」っていうもの、そこには雲泥の差があるわけじゃないですか。それってズルいと思っていて。私はもっと突き詰めたいし、編曲家さんにも100は任せたくないというか、こういう音が聞こえちゃってる、この音を入れたいっていうのがまずあって、そこから始まっているので。ちゃんと自分が聞こえてる音やカッコいいと思うものは自分で作りたいし、DIYアーティストじゃないですけど、そういう方が楽しいんですよね。楽しいことをしたいんです。
――なるほど。今作にはセルフアレンジと編曲家さんを入れた曲とが混在していますけど、気になったのが「マッシュルーム」を編曲しているNAOTOさんって、ヴァイオリニストのNAOTOさんですか?
あのNAOTOさんです。『ROCKIN’ QUARTET』(ロックボーカリストと弦楽四重奏のコラボライブシリーズ/今年majikoがゲスト出演した)で仲良くさせてもらって、お願いしたら快諾してくれました。
――蝶々Pさんの歌詞、曲はご自分で、アレンジがNAOTOさんって、これはmajikoさんにしかできない組み合わせだなぁと。
カオス(笑)。この曲は本当は自分で歌詞を書こうと頑張ったんですけど。まずこの曲自体、「いわゆる王道の大バラードに挑戦してみて」っていうスタッフさんからの要望がありまして、私も「よし、やってやろう」と思って作ったはいいものの、自分が普段全然作らない曲調なのもあって、全然歌詞が浮かばないという状況になっちゃって。
ちょぴ(蝶々P)の歌詞が絶対似合うだろうなと思って……ちょぴの歌詞って「心倣し」とか「君に最後の口づけを」とかありますけど、個人的にすごく好きなんですよね。言い方はあれですけど、すごく女々しい男の歌というか。私、男の人が書く、そういう女々しい男の歌が大好きなんですよ。
――曲もいいですよね。「ひび割れた世界」とかのロックバラードとはまた違うバラード。
すごく難しかったです。ピアノとドラム、ベース、歌くらいの、コード感だけわかる簡単なデモしか作っていないんですけど、そこからNAOTOさんがあれだけのものにしてくれたので、「すごいな!」って思いました。
――他の収録曲のこともいくつか触れていきたいんですが、今作は既発曲もいくつかあって、それ以外の曲を作る際はアルバムに向けて足りないピースを埋めるような意識でしたか。
そうですね。それと私が作る場合はライブを想定しているので、アップテンポを作るよう心がけてました。カンザキさんやとみきがバラードになることはわかっていたので、そこのバランスも見て。
majiko 撮影=高田梓
――「ワンダーランド」「MONSTER PARTY」の流れは、まさにっていう感じですね。
「MONSTER PARTY」はサビでお客さんに歌ってほしい箇所を、意図的に作ったんですよ。私って「手拍子して」とか「歌って」とか、まだできないので――
――でもたまーにやってますよね?
テンション上がればですけど(笑)。
――だから後半にならないと出てこない。
そう!(笑) そういうライブでのお客さんとのコミュニケーションをもっとスムーズにすることを、まず心がけたのは「声」ですね。曲の中にもう手拍子を入れちゃうことで、お客さんもやりやすい環境にするのが見事に当たったというか。今回はサビで「Fu~」みたいなところがあるんですけど、そこで「みんな、次の曲の練習するよ」みたいなMCをするんだろうなとか思って……うわぁ、夢にも思ってなかったなぁ、みたいな(笑)。でもどんどん、お客さんとのコミュニケーションはもっと大事にしていきたいです。昔は多分、取っ付きにくい印象があったと思うんですけど。
――スススッと出てきて、エモく歌って。
ススッて去って、何者なんだ?みたいな。まぁ、しゃべることに対しても賛否両論あるんですけど(笑)。しゃべると、世界観を作っておいて自分で壊すみたいな感じで。でもまぁ良いんじゃね?みたいに最近は思ってきて。
――そういうもんだと思ってもらえれば、それは個性ですからね。
しかもワンマンだし、身内みたいなものだから、知ってるでしょ?みたいなテンションでいけたらと思います。だから、歌ってくれるといいなぁ。歌わなかったら、今度インタビューするときに笑ってください(笑)。
――大丈夫だと思いますよ。この曲は前も言っていた「世田谷ナイトサファリ」とか、最近だと「ロキ」とかに代わるような、同じ役割を負える曲だと思うので。
「世田谷ナイトサファリ」もみんなと盛り上がれる曲ですけど、「MONSTER PARTY」も「ワンダーランド」もみんなと楽しめる曲に、そういう役割になってほしいですね。
――昨年のWWWのワンマンでは、ラストの「WISH」を既に披露していましたよね。
『7SEEDS』のお話は少し前からもらっていたので、あそこで初出しということで出させていただきました。
――『7SEEDS』はスケールの大きな物語で。
すごく辛辣ですしね。でも本当に、自分の人生の中で3本の指に入る面白い漫画だと思っていて、あらすじからして興味しかない、みたいな。そこから歌詞を書かせていただいて、すごく光栄で悩んだんですけど、アニメ自体がどんどん悲しい話や残酷な話も増えてくると思うので、最後くらいはちょっと光が差せばと思って、こういう歌詞を書きました。登場人物の花と嵐の関係性にも触れつつ。
――歌い方に関しても今までとちょっと違った聞こえ方だなと思いました。
自分の中でこういう優しめな歌い方をしたいというのは随分前からあったんですけど、いつもは叫んだりするイメージがあるので、こういう形で公に出すことができてよかったですね。
――そこへ至るラスト3曲がすごく好きなんですよ。
あ、めっちゃ嬉しいです! エモゾーンですね(笑)。
――バラード、エモーショナル、バラード。この流れにmajikoというアーティストの魅力が出ていると思います。そこを含め、これまでの布石や歩みが結実した12曲を作り終えた感想としては。
いやぁ、頑張った!っていう感じですね。めっちゃ頑張ったし、今はその喜びに浸りつつ、ある程度したらちゃんと課題を見つめ直して、また制作っていう感じですね。
――作り終えたらわりとすぐ次に向かうタイプですか?
いや、浴びます(笑)。基本的に自分は自分の曲が大好きなので、多分曲を作ったり歌ったりする人はわかると思うんですけど、“私すごいタイム”みたいなの、あるんですよね。そういうタイムはあったほうがいいと思うので、ライブが終わるまではそこに浸ります。
――とはいえライブももう間もなくです。
(リリースから)3日? 3日で(初日の)東京ですね。徹夜でみんな聴き込んでもらわないと(笑)。ライブになるとCDで聴いていた曲がいろんな表情を見せるというか、自分の歌い方も新しい表情があったりするので、今回もこの曲たちがライブでどういうケミストリーを起こすんだろう?って楽しみです。
――単純にレパートリーも増えてきてますし。
それは本当に嬉しいです。最初はレパートリーが無さすぎたので、これだけ曲があると楽しいですね。
――今後に向けて課題に感じていることもあるということでしたけど、最後にそこを伺っていいですか。
最近友人と「もっと自分の世界観を確立していきたい」っていう話をしたときに、「世界観っていうのはmajikoが(曲を)作ればできるものなんだよ」「だからこの音を入れなきゃとか、こういう縛りで、とかじゃなくて、好きな曲を作ればいいと思う」って。「ノクチルカの夜」「パラノイア」「ワンダーランド」と来たから、次もそれと同じような感じで作らないといけないわけではなくて、自分の作った曲は自分のものになるからっていうことを人生の大先輩が言ってくれたことで、肩に力を入れなくていいんだなって思えました。そういう言葉って本当にありがたいですよね。もう今は次の曲を書いているんですけど、そうだ、視野を広げなければ!みたいな感じです。
――視野を広くするには、単純にいろんな人と出会っていくことが大きいと思うんですよ。この数年って、そういう出会いが増えた期間でもあったんじゃないですか。
ああ、たしかに。そうかもですね。いろんな人と話すべきだし、自分の気持ちをちゃんと言うべきだし、それは苦手だったんですけど。何かと隠しちゃうし自分を卑下しちゃうみたいな過去があって、もう少し器用に生きれないかな?と思っているから、ちゃんと言うときは言う、卑下をしないっていうのは、ずっと目標です。自信はあるはずなのに、なんで「私なんて……」って言っちゃったんだろう?みたいなことで後悔するのは無くしていきたいし、ちゃんと自信があることや「こういうことを伝えたい」っていうことは、前に出していきたいですね。

取材・文=風間大洋 撮影=高田梓
majiko 撮影=高田梓

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