【連載】「建物語り」by うらら(Sa
lley)第八回<最新で最後の団地>

■「最後の団地」と呼ばれている
■東雲キャナルコートシティへ

2019年3月、デジタル一眼レフカメラを購入した。Salleyとして
を運営しているため、動画をよい画質で撮ることができたら、という目的のために購入したのだが、しっかり写真のほうにもはまってしまい、カメラ購入から2週間経たないうちにレンズまで買い足してしまった。

そして、平成もそろそろ終わろうとしているとある春の日に、以前より興味のあった建築を見に行く時間が取れた。それは、「最後の団地」と呼ばれている「東雲キャナルコートシティ」だった。私は買いたてのカメラをうれしそうに首からぶら下げ、意気揚々と埼京線に乗り込んだ。

埋め立て地らしい整然とした広い通りを歩いてゆく。タワーマンションやオフィスビルが立ち並ぶこの新しい街に、「団地」という生活感あふれるワードが全く似つかわしくない。私の知っている団地とは、緑溢れる静かな丘陵に優しい色をして並んでいるもの。それは、生まれ育った街、吹田市にある千里ニュータウンのことなのだが。広い道路に響く車の音を聞きながら、「ほんまにこんなとこに団地があるんかいな……」と半信半疑で歩いていくと……。
大量の四角を持つ大きな建物が現れた。確かに変わっている。変わっているが、これが団地なのか? ただの変わった建物ではないのか?と思いきや、どうやら一つのエリアをぐるりと取り囲むように建てられているようで、その内側の様子はまだ見えない。

建物が途切れた入口らしきところに、看板を発見した。
「CODAN」……公団か! なにおしゃれに言うとんねん! オシャレ!!!

公団、とは、今は都市再生機構(URと呼ばれている)と名を変えた「日本住宅公団」のことで、その歴史は昭和30年にまでさかのぼる。日本住宅公団ができたころというのは、日本は高度経済成長期で、人口がどんどん増加し、「たくさんの人が住める住宅を」と次々に団地が建てられていた。しかし今、人口は減少しつつあり、さらに民間のマンションもたくさんあるため、これ以上「団地」を建てる必要はなくなってしまった。つまり「最後の団地」というのは、この先「団地」が建てられることはもうないということで、この「CODAN」は日本で最後の、そして最新の団地ということなのだ。

先ほど話した私の生まれた街「吹田市」には千里ニュータウンという巨大な団地群があるため、地元では「公団」という呼び名は未だに残っており、「○○ちゃんてあっこの公団の子ぉか」「△△さんどこぞの公団に引っ越しはったらしでぇ」などと普通に会話に登場するのだが、実は「公団」という名前を冠する組織はとっくになくなっており、それでも最後の団地であるこの東雲キャナルコートシティに「CODAN」という名前が残っていることは、公団生まれで団地好きの私にとっては、結構エモいことである。ありがとうCODAN。

話が長くなってしまったが、今回もいつも通り、「イイ……すごくイイよ!」という写真を載せていく。

まずこの東雲キャナルコートシティは6つのエリアにわかれており、それぞれを異なった建築家がデザインしている。しかし、これは誰それの設計でとか、それがどんな人でとかは、他にもっと詳しい人がいるので(いつものごとく)私は胸キュン写真をのせていくだけである。

CODAN、の看板のところから中へ入っていくと、1階部分は薬局などが並ぶマーケットエリア的な感じになっていたのだが、まっすぐ進まず、目に入った螺旋階段をのぼってみた。
のぼりきった私の目に飛び込んできたのは……
ドーーーーーーーン!
なんじゃこりゃーーーー!!!!!!
巨大なウッドデッキを、まるで方眼紙のような真四角だらけの四角いたてものがぐるりと取り囲んでいる。
小さい四角と大きい四角、なにこれかっこいい……。
私の中にある「団地と緑」のイメージとは全く異なるが、こんな無機質で近未来のような建物の中にもちゃんと花や草木が存在していた。懐かしさはないが、洗練されていてとてもおしゃれである。もちろん、ここで育った子どもたちは、この風景に懐かしさを感じるのだろう。

■形を変えても、変わることのない
■団地のもつぬくもり
こちらはまた別のエリアの建物。写真ではわかりにくいが、渡り廊下が不規則にかけられている。とても面白いが住んでみると不便を感じそうな気がしないでもない。それでもやっちゃうあたりが隈健吾。
上のほうあそこからしか渡られへんやん! しかもちょっと曲がってるし!
以前、こちらの連載で、千里ニュータウンの前に千里山団地というのがあって、千里山団地は遊び心があり面白いのだが、千里ニュータウンの建築時にはより実用的でシンプルになっている印象だという話を書いたことがある。昭和32年の千里山団地、そのあとに建てられた千里ニュータウン。そして、2000年代になり、「人が住む」ということに再び余裕ができ、また団地に遊び心が戻ってきたのだな、と感じた。
バルコニーが突き出ていたり(なんだか美味しそうって思うの私だけ?)。
部屋を詰めてもいいのに大きな空間が空いていたり。
この左側の建物は低層で、
こういう「抜け」も大好物。
外周を歩いているときはあまりわからなかったが、敷地内には住人たちの生活が溢れていて、学習塾へいったり、遊んでいる子どもたち、買い物帰りの親たち、端で話す人たち、それは私が地元の団地で見ていた光景と変わらないものだった。建物は近代的で、建っている場所は緑溢れる丘陵地帯ではなく都会の埋め立て地だが、ここもやはり「団地」なのだ。家族が集まり、親同士が立ち話をし、その近くで子ども同士が遊んでいる、そういう光景を見たのはとても久しぶりな気がした。一口では言えない様々な家族や家族同士の物語があるだろうが、私は自身の記憶とリンクするとても温かいものを感じ取った。

ところで、「東雲キャナルコートは夜がいい」という話を耳にしたので、帰り際、日が暮れはじめたころに一番最初にみたエリア、あの大きなウッドデッキのところへ戻ってみると
明るい時間帯とはまた別の美しい顔を見せてくれた。
無機質な灰色、規則的に並ぶ真四角の中に、ぬくもりを感じる橙色の灯りが灯される。私がボーカルを務めるSalleyの曲の中に「Home」という歌があり、「思い出せた 守られてた 懐かしい記憶 僕は今日だってひとりじゃない」という歌詞があるのだが、それをつい口ずさみたくなる風景だった。

私の家族は、今はみんなそれぞれ離れて暮らしているのだが、CODANを見に行ったすぐあとに母の家に遊びにいくことができた。そのときに撮ってきた動画を最新曲「サンライズ・アンド・サンセット」にのせてみたので、ぜひご覧になってほしい。


人が人と出会ったり別れたりしながら生きていく、そんな日常に寄り添う音楽をこれからも作ってゆきたい。形を変えても、変わることのない団地のもつぬくもりに触れて、改めてそう思えた。

Salley うらら

アーティスト

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