パスピエ・大胡田なつきを開花させた
カルチャーたち2(Art編)
前回の「Book編」に続き、今回は「Art編」。大胡田なつきを開花させた4種類のアート作品(あるいは作家)について、それぞれの出会いや魅力などを語ってもらった。
Photography_Yuki Aizawa
Interview & Text_Sotaro Yamada
Edit_Alex Shu Nissen
1. 近藤聡乃『近藤聡乃作品集』
――これはすごい。かなり高価そう。
――この作品集はいつ手に入れたものですか?
大胡田 : 2018年のはじめ頃に、渋谷のHMVで開催されていた原画展に行った時に買いました。この本はなかなか売っていなくて、通販でもずっと品切れの状態が続いていたんです。だからまさか売っているとは思っていなくて、即買いでした。そこでは近藤さんがジャケットを描かれたCDも売っていたんです。
――誰のCDだったんでしょう。
大胡田 : 青葉市子さんとGEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーさんによるユニット・NUUAM(ぬうあむ)のアルバムでした。珍しいなと思って買ったけど、もったいなくて開封していないから、まだ音は聴いてません(笑)。
――青葉市子さんとマヒトゥ・ザ・ピーポーさんに嫉妬しましたか?
大胡田 : うやらましい!と思いました。パスピエでオファーしたらやってくれるかなあ? でも、そしたら2番目になっちゃうし……。
――あなたの2番目にはなりたくないと(笑)。
大胡田 : だってなんか悔しいじゃないですか! こんなに好きなのに、誰かがやった後なんて……。
――誰かがやった後って(笑)。これから1番になる、じゃダメなんですか?
大胡田 : え~~~(しばらく真剣に悩む)。もし、本当にオファーするとしたら、動画を頼むと思います。
――近藤聡乃さんは絵に漫画にエッセイにとさまざまなタイプの作品を発表しています。そのなかで大胡田さんがいちばん好きなジャンルは何でしょう。
大胡田 : 全部好きだけど、やっぱり絵がいちばん好きですね。世界観が強い絵が印象的だけど、わりと日常的な作品もたくさん描いているんです。
――近藤聡乃さんの絵には、意表をつく小道具同士を合わせた作品が多い気がします。そういうところは、大胡田さんの絵と共通していると思いました。たとえば、大胡田さんのこの絵とか。
大胡田 : そんな……共通点なんて……よ、喜びますよ?
――宣言してから喜ぶタイプだったんですね(笑)。
2. ジパング展カタログ『ジパング -
31人の気鋭作家が切り開く、現代日本の
アートシーン。』三潴末雄『手の国の鬼
才たちMIZUMA』
――この本を買って、あたらしく好きになった作家はいますか?
大胡田 : 全員です!! 「ジパング」と書いているだけあって、日本を感じる作品が多いんです。好きなものだらけ。
――5thフルアルバム『more humor』のジャケットを共作したグッチメイズさんも、こういった作品集で知ったんですか?
――どんなふうに進んでいったんでしょう?
大胡田 : 特に何も指示せずに、グッチさんが聴いて感じたままを描いてもらいました。文字の色も、グレーの枠も何も決まっていなかったんです。もう、丸投げみたいな感じになりましたね。曲から受けるイメージで自分なりにストーリーを考えてくれて。そうしたら、出てきたフォントがめちゃくちゃ良かったんです。そのフォントを受けて絵を描きました。
――グッチメイズさんにまるっきり全部お任せするという選択肢もありましたか?
大胡田 : うーん、それはどうだろう。やっぱり、これまで自分で絵を描いてきたし、それがパスピエのアイデンティティのひとつでもあるから、自分が関わらないという選択肢はなかったと思います。ただ、当初考えていたよりも自分が関わる範囲は狭くなりました。「これくらい任せてしまっても良いんだ」というのは、あらたな気付きでしたね。今までと違う雰囲気のジャケットができて、デザインがあがってくるたび「これ最高じゃないですか!」ってスタッフと言い合っていました。
――たしかに、これまでのパスピエのジャケットとはかなり雰囲気が違っていて、でもそのなかにしっかりパスピエらしさも残っています。そしてそれは、今回の楽曲たちと呼応している。本当に素晴らしいジャケットだと思いました。
大胡田 : 共作、クセになっちゃいそう。
3. 天野喜考(『ファイナルファンタジ
ーIX』)
大胡田 : 天野さんは『ファイナルファンタジー』のキャラを描いていた方です。わたし、ゲームがめちゃくちゃ好きなんです……。プレステ世代でした。プレステ2は買うタイミングを逃してしまったので、やり込んだのはIX(9)までなんですけど、IX(9)まではかなりやりました。
――「やり込む」というほどハマっていたんですね。
大胡田 : 結構、コンプ癖があって、ハマると全部揃えたくなってしまうんです。『ファイナルファンタジー』が好きすぎて、天野さんにも興味を持ちました。だいたいゲームって、説明書やパッケージにキャラクター紹介欄があるじゃないですか。それがグラフィックじゃなくて、天野さんの絵だったんです。日本画っぽさを感じるし、それでいてファンタジック。この繊細な線や細い目が好きなんです。天野さんしかり、前回お話した魚喃キリコさんしかり、細目の絵に惹かれるんですね。たぶん、フェチのようなものだと思います。
――繊細な線やファンタジックな感じは、やはり大胡田さんの絵にも見られるものですね。大胡田さんがゲームをやり込んでいるという事実自体も面白いです。
大胡田 : 小中学校の頃は、本当に物凄い時間を費やしていましたね……。
――ちなみに『ファイナルファンタジー』シリーズではどれがいちばん好きですか?
大胡田 : うーん……。結局、IX(9)かなあ。最高傑作だと思います。
――今もゲームはやっているんですか?
大胡田 : 昔ほどではないですね。でも、スマホゲームはやります。今はちょっとお休みしてるけど、MMO系ゲーム(大規模大人数型オンラインゲーム)にハマっていて、課金もしてます(笑)。
4. コズミック・デプリ『エミリー・ザ
・ストレンジ』
大胡田 : これはAmazonで見つけた絵本です。『エミリー・ザ・ストレンジ』は、アメリカのアーティスト集団コズミック・デプリのバズ・パーカーという方がつくったキャラクターです。以前は英語のものしかなかったけど、のちに宇多田ヒカルさんが翻訳して、日本でもすごく有名になりました。
――宇多田ヒカルさんって翻訳もしていたんですね。
大胡田 : そうなんです。絵本だから英語でもなんとなくわかるけど、ブラックな要素やユーモアがあって、すごく面白いんですよ。それから、この本はつくりがすごく凝っているんです。ツヤ部分とマット部分が分かれていたり、文字が隠れていたり、「こんなところに?」という場所に文字が書いてあったりする。
大胡田 : こういうのがシリーズでたくさん出ているんです。あまり日本の本屋さんに置いてないから買う時はもっぱらAmazonなんですけどね。エミリーとは髪型が似ていたこともあって、ずっと親近感を抱いていました。髪を切ってしまった今となっては、もう全然違うんですけどね(笑)。
――ちなみに、どうして髪を切ったんですか? かなりバッサリいきましたよね。
大胡田 : 今年でパスピエは結成10周年なので、節目ということで、ちょっと見た目を変えてみようかなと思ったんです。
――初披露したのは『ONE』のMVでしたよね。公開直後はSNSがざわついていました。「なっちゃん髪切った!」って、曲よりも大胡田さんの髪に注目してしまうという(笑)。
大胡田 : 長さを変えるのは20年ぶりですからねえ。
――20年ぶり!
大胡田 : でも以前から「髪を乾かす時間が短くなれば、もっといろいろできるのに」と思っていたんです。時短的な理由もありつつ、良いタイミングでした。
作品情報
2019.05.22
『more humor』
WPZL-31587/88 ¥3,241円+税
[収録曲]
01 グラフィティー
02 ONE
03 resonance
04 煙
05 R138
06 だ
07 waltz
08 ユモレスク
09 BTB
10 始まりはいつも
Amazonページはこちら。
パスピエ オフィシャルサイト
パスピエ Twtter
大胡田なつき Twitter
大胡田なつき Instagram
大胡田なつき オフィシャルブログ
パスピエ・大胡田なつきを開花させたカルチャーたち2(Art編)はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
関連ニュース
ミーティア
「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。