小山登美夫ギャラリーで、菅 木志雄
展『測られた区体』 ものと人の思考
のエネルギー、流動性を考える

菅 木志雄展『測られた区体』が、2019年6月22日(土)〜7月20日(土)まで、東京・六本木の小山登美夫ギャラリーにて開催される。
菅は1968年の初個展以来、国内外約400回もの展覧会で作品を発表してきた。近年では2017年第57回ヴェネツィアビエンナーレ国際展『VIVA ARTE VIVA』で水上でのインスタレーションとして代表作「状況律」を再制作して大きな注目を浴び、同年長谷川祐子氏キュレーションによるフランスのポンピドゥ・センター・メッスで開催された『ジャパノラマ 1970年以降の新しい日本のアート』展にも出展。2018年はTHE CLUB(銀座)、小山登美夫ギャラリー(六本木)、8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery(渋谷)と都内3カ所で個展を同時開催し、今年2019年は横浜美術館での『横浜美術館開館30周年記念 Meet the Collection ―アートと人と、美術館』にて、ゲストアーティストとして自身の作品と収蔵作品をセレクトし、作品同士の出会いの場を創出した(~6月23日まで)。
作品は2018年ポンピドゥ・センターとDia: Chelseaにコレクションされた他、テート・モダン、ダラス美術館、M+、グッゲンハイム・アブダビ、スコットランド国立美術館や、東京国立近代美術館、東京都現代美術館をはじめ国内外多数の美術館に収蔵されている。
菅作品における「もの」の本質や存在性(リアリティ)
景間律 Law of Interstitial Scenery 2019 wood, acrylic h.180.7 x w.135.0 x d.37.3 cm (c)Kishio Suga
菅は、石や木、金属などの「もの」に対して、「石を『これはもしかして石ではないのかもしれない』とまで考える」(「もの派の成立をめぐって」菅木志雄トーク、シンポジウム「もの派とアーカイブー海外への発信をめざして」、多摩美術大学、2016年) と語るように、ものに対する既成概念を徹底的に問い直し、ものの本質や存在性(リアリティ)とは何かを再認識していく。
菅の考える「もの」とは、木や、石、金属、ガラスなどの物質のみでなく、空間や人間の思考、意識、概念などの眼に見えないもの、抽象的なものをも含んでいる。また、菅は「もの」を単なる「固体」、人間の主観によって意味を与えられた「客体」と見るのではなく、むしろ独自の論理と方向性と、人の反応さえ取り込んだ厚みのある、現在性をもつ存在として捉えており、アーティストの役割はそれを聞き最低限の働きかけで可視化することだと考えている。
2019年4月の神奈川新聞の取材に対し、菅は次のように述べています。
「これは木だ、石だ、と思う。それは頭に中にある記号性と結び付いているから。その結びつきを取払い、本当にこれは木なのかと思いながら見ていい。そうすると、それぞれが感じること以外にない。僕はそのきっかけづくりを作品によって行っている」
そして菅は思考を尽くし、通常見るものの在り方とは異なる方法で「もの」と「もの」、「もの」と「場」、「もの」と「人」をつなぎ、囲い、相互依存させ、まるでものが新たな形や状況まで立ち現わしているように感じさせる。それによって鑑賞者はものについての新たな認識がもたらされるのだ。主客二元論が主流であった70年代の欧米においては、菅の作品に対して「これはアートではない」とまで評されましたが、近年は菅の世界観が国際的に真に理解され、多くの影響を生むことになった。
ものと人の思考のエネルギー、流動性 ー 本展及び出展作に関して
空積 Stacked Voids 2019 wood, acrylic h.180.5 x w.135.0 x d.24.2 cm (c)Kishio Suga
本展「測られた区体」に際し、菅は次のように述べています。
「人が何かを手にすると、そこに特別の目的や意図がなくても、それらのものの存在性が確固たるものとして表にでてくるようである。人はある意味でものが発散するエネルギーの方向と動きを測って、<考え>を現場の空間に広げていく。ものの在様や動向に対応していくだけの状況を支える論理(実なるものを、さらに実なるものとしての)をつくっているように思われる。人の思考や意識はずっとつづくものではなく必要な場合に応じて選別し、改変して行くことが大事である。 菅 木志雄 2019.4」
菅は、もの同士や、空間、人など世の中のものに対するあらゆる関係性に加え、「もの」の「連続性」、「流動性」、「志向性」も示唆してきた。ものは一定に留まっているのではなく、時間経過とともに動き、変容する無常であると捉えており、それは人の思考も同様で、それは根源のリアリティとしてひとつの流れであると考える。
ものと人、空間の力が互いに影響を及ぼし合う場。それが菅の作品である。木や石が切られ、曲げられ、折られ、並べられ、重なり、繋がる。そんなさりげない行為ながら、作品からはまるで気配や周囲との関係、空気の流れ、温度といったエネルギーまでもが鑑賞者に伝わるようだ。そして、ものともの、ものと人の精神の、対立するのではなく、支え合う関係やむすびつきにより、それまで我々が認識できなかった世界観が表出されていることに気づかされる。
自続因 Cause of Self-Continuation 2018 wood, acrylic h.89.9 x w.125.0 x d.10.7 cm (c)Kishio Suga
近年の菅作品は、絵画のキャンバスを思わせる木枠が壁に架けられ、その中で穴が穿たれたり、格子状の枠組みが更につくられたり、枠を越えた突起や陥没、石と木、金属の異素材の組み合わせ、ペイントの塗りによる新たな視覚効果がほどこされている。それは一見平面的に見えつつも立体であるゆえに作品内部に空間が抱き込まれ、あたかも絵画平面の自立性を、彫刻の3次元性や周囲の空間との関係性において新たな構造を作り出していると言える。そして、鉄、木、石など、「生」のモノを自然な形で使用することで、現実にあることとつながりながら決して混じり合わない世界のあり方を、はっきり認識させようとしている。
「どういうものでもアートになるわけではない。現実認識を変えないと成立しない、という一点がアート足り得る点。」
(菅木志雄トーク「もの派の成立をめぐって」、シンポジウム「もの派とアーカイブー海外への発信をめざして」、多摩美術大学、2016年)
私たちは菅作品を鑑賞することで、普段の意識から解放された、もうひとつの新しい眼や活性化された精神を手に入れるきっかけを持つことができるだろう。

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