2.5次元ミュージカルに挑戦? ラッ
パ屋第45回公演『2.8次元』初日レポ
ート!

1983年の結成以来、味わい深い人情喜劇の傑作を数多く世に送り出してきたラッパ屋が、現在新作『2.8次元』を上演中だ(紀伊國屋ホールは6月19日まで)。会場はいつもながらのホームグラウンド・紀伊國屋ホール。老舗の劇団の稽古場を舞台に繰り広げられる、歌と踊りが詰まった大人のコメディーだ。興奮のうちに終演した初日の様子を主宰・鈴木聡のコメントとともにお届けする。
◆笑いとペーソスの絶妙なブレンド
2019年6月9日。連日の暑さを忘れさせるような気温の低下は、梅雨の始まりを意味していた。半袖だと少し肌寒いほど新宿の街はひんやりとしていたのに、紀伊國屋ホールは異様な熱気に包まれている。劇団ラッパ屋の新作『2.8次元』の初日を迎えたこの日、開場を待ち構えた観客はエントランスで長蛇の列をつくっていた。
劇場ロビーにも観客が溢れている。日曜日の昼公演が初日だったこともあるかもしれないが、これだけの人が集まるのは、やはり固定ファンをしっかりつかんでいるからだろう。ラッパ屋のオリジナルTシャツを着ていた観客を散見するにつけ、35年に及ぶ劇団活動の積み重ねを思い知るのだった。初日祝いの熨斗が貼り出され、スタンド花が5基ほど並んでいる。東日本大震災以降、非常時の動線確保を理由に、スタンド花は劇場ロビーに掲げられないことが多かった。時間がすべてを解決するとは言わないが、それにしても、花には劇場をなごませる力があると思う。
実に第45回公演となる『2.8次元』は、タイトルからして想像がつくと思うが、2.5次元ミュージカルを題材にしている。経営難に苦しむ老舗の新劇系劇団「雑草座」が起死回生の一発として2.5次元ミュージカルの上演に向けて奮起するストーリー。笑いとペーソスがオリジナルの配合でブレンドされており、いつもながらのラッパ屋らしさは健在だ。冒頭、圧巻のピアノ演奏からして心を奪われる。そこから「夢かお金か愛か」の歌詞で続くナンバー。役者として生きていく劇団員たちの姿をオーバーラップするような歌に、ラッパ屋の面々の実情も溶け込んでいるような気がした。
ラッパ屋第45回公演『2.8次元』(撮影:木村洋一)
◆演劇におけるひとつの可能性とは
初日の2日前、劇場入りしたばかりの慌ただしいタイミングで、主宰の鈴木聡に話を聞くことができた。新劇系の劇団が2.5次元ミュージカルを上演するという、これまた「異次元」のアイデアをいかに着想したのか、興味をそそられたからだ。
「ラッパ屋でお願いしているスタッフさんにも、2.5次元ミュージカルに関わっている人がいて、以前から話を聞いていました。たとえばヘアメイクさんにしても、普通の芝居ではやらないようなメイクが求められるため、スタッフワーク全体の技術向上に一役買っているということを知りました。僕たちがやっている舞台とは違うけど、元気のいいジャンルだし、今後の演劇においてひとつの可能性を感じたことがモチーフにしたきっかけです」
ラッパ屋第45回公演『2.8次元』(撮影:木村洋一)
◆演劇界の現実問題をモチーフに
2.5次元ミュージカルとラッパ屋の組み合わせに違和感があったか? そう自分に問うと、「あった」というのが正直なところだが、ラッパ屋には異文化を取り込む力があり、それは過去の公演からも明らかだ。第38回公演『おじクロ』では、劇中でおじさんたち(失礼)が、ももいろクローバーZの音楽に合わせて全力で踊るという力業をやってのけたのだ。これはどうやら主宰の鈴木がももクロのファンになったことが発端らしいが、同作でも傾きかけた工場経営者たちの悲哀が描かれており、『2.8次元』に横たわるペーソスと地続きなのである。ところで、雑草座は老舗の新劇系劇団となっているが、台所事情としてラッパ屋の実情と重なる部分はあるのだろうか。
「見えないところで、いろんなことが反映されています。当事者の気持ちだとか、制作事情だとか……。つまりは、演劇ではなかなか食っていけないという現実があって、そこから新劇の劇団が2.5次元ミュージカルに挑戦するという話になったんです。2.5次元ミュージカルには小劇場系の役者も呼ばれているし、スタッフも行き来しています。だけど、お客さんが混ざり合うことが少ないんです。30年以上演劇を続けても、まだ一般に浸透していなくて、それがちょっと淋しい。そんな気持ちがあって『2.8次元』を書いてみようと思いました。ただ、稲垣吾郎くんとは長く一緒に舞台をやってきて、最近吾郎くんのお客さんがラッパ屋を観に来てくれるようになってすごく嬉しい。10年近く時間がかかりましたけど(笑)」
鈴木聡
『2.8次元』は演劇界をとりまく現実問題が題材となっているが、いわゆる「バックステージもの」の舞台とは少し様子が異なると思う。演劇を扱い、キャストの多くは役者やスタッフを演じているけれど、「人生に疲弊しながらも軟着陸しながら生きていく人」を描いているから、いつだってラッパ屋の舞台は我が事のように受け入れられるのだ。
そしてまた、人生に疲弊する自分自身を肯定したい気持ちにしてくれるから、定期的にラッパ屋の舞台を観たくなる。言い換えれば、ラッパ屋はビターチョコレートだ。ちょっぴり苦い大人のお菓子。ときどき、ハイボールと一緒に頬張りたくなる。だからなのか、ラッパ屋を観たあとは、無性に酒が飲みたくなるのだ。
文/田中大介

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