【インタビュー】ゆいにしお、スマー
トな感性とほろ苦さを含んだたおやか
な歌声の1stミニアルバム『角部屋シ
ティ』

最初の一音を聴いただけで、“あぁ、もうこの人のこと好きだな”と思えてしまう。今「ゆいにしお」の音楽に心を奪われている人はきっと、そんな風に恋に落ちたのではないだろうか。はっぴいえんど山下達郎ピチカート・ファイヴCymbalsといった上質かつスマートな音楽遺伝子を受け継いだ感性と、少しだけほろ苦さを含んだ、たおやかな歌声。5月15日にリリースされたゆいにしおの1stミニアルバム『角部屋シティ』が高く評価されているのも納得だ。1997年生まれ、現在は大学に通いながら音楽活動を続けているアーティスト・ゆいにしおの、豊かすぎる才能(の一端)を掘り下げてみた。

■今まで演奏してきた曲の中から自分の好きなものを4曲
■「マスカラ」と「小夜なら花折り」は書き下ろしました

――お名前はゆいにしおさんですが、“ゆいにし”さんとお呼びしていいんですよね。

ゆいにしお:はい、“ゆいにし”で(笑)。

――MVやジャケットなどで拝見するたびに素敵だなと思っていたんですが、ゆいにしさんのファッションは、いつも雰囲気ありますね。

ゆいにしお:ありがとうございます。古着が好きなんですけど、自分の好みははっきりしてるほうかもしれないですね。今日のイヤリングは、友達がハンドメイドで作っているものを買いました。

――髪も随分短くなりましたよね。

ゆいにしお:そうですね。一度短くするとやめられないです。楽チンだし(笑)。(1stシングルの)「タッチミー」の頃は胸のあたりまで伸ばしていて、去年の今頃に「帰路」のMVくらいまで切って、今はさらに短くなりました。

――じゃあ、今が人生で一番ショート?

ゆいにしお:いえ、高2の時はモンチッチみたいな髪型でした(笑)。女子校だったんですが、当時はいかにウケるかっていうのが大事だったので(笑)。

――ゆいにしさん、そんな一面もお持ちなんですね(笑)。でも今のファッションや髪型など、すごく“らしさ”が伝わってきます。

ゆいにしお:やっぱりファッションには気を使うようになりましたね。以前は“可愛いワンピースを着ていればいいかな”って感じでしたが、音楽性を表すファッションってすごく大事だなと思うようになったので。見た目からもムードを出そうと思って、最近は古着屋さんに行って買ったりしているんです。
――ビジュアルからも、素敵な音楽が聴こえてきますよ!では、すでに発売になっている1stミニアルバム『角部屋シティ』について伺ってみたいのですが、各方面から大絶賛ですね。

ゆいにしお:嬉しいです。ありがとうございます。発売されるまでは、眠れない日々が続いていたんですよ。自信はあるんだけど、どんな風に聴こえるのかなっていう不安な気持ちもあって。でも家族や友達やお客さんなどいろんな人が“めっちゃいいよ!”って言ってくれるので、だんだん自信を取り戻してきた感じです。

――選曲に関しては、現時点での集大成みたいなものになっているんですか?

ゆいにしお:今まで演奏してきた曲の中から自分の好きなものを4曲。「マスカラ」と「小夜なら花折り」は、このアルバムのコンセプトが固まってきたところで新たに書き下ろしました。

――「マスカラ」で号泣している女子はたくさんいると思います。

ゆいにしお:<君の19歳が欲しい>という歌詞があるんですが、19歳を本当に思い出す人もいるみたいで、すごく嬉しいです。やっぱり、共感してもらいたいっていうのが一番にあるので。

――「小夜なら花折り」はどんなきっかけで?

ゆいにしお:今回のジャケットをデザインしてくださったカネコさんという方の絵がもともと大好きだったんですが、この「小夜なら花折り」というタイトルの絵がTwitterに上がっていたんです。いい絵だなと思って、そこからインスピレーションを受けて曲を作り、その流れで今回のジャケットもお願いすることになりました。カネコさんもそうなんですが、私も言葉遊びが好きで。「小夜なら」は「さよなら」、そしてカネコさんは「花折り」を「かおり」と読ませたかったらしく、受け取る人によって色々イメージしてもらえたらと思って付けたとおっしゃっていました。

――ゆいにしさんの楽曲は「はなおり」と読むわけですが、確かにイメージがまた膨らみますね。ちなみに曲はいつもどんな風に作り始めるんですか?

ゆいにしお:私はほとんど歌詞から作ります。ストーリーとかコンセプトを決めてから、こういうメロディーにしようとか考えていくんです。歌詞を読むことが昔から好きだったので、歌詞は一番大事にしていますね。今回の曲の中だと「DAITAI」はかなり歌詞にこだわりました。

――例えばどういうところですか?

ゆいにしお:<代替><大体><再会><采配>のように母音を合わせながら、聴いていても気持ちよく、歌詞を読んでも「なるほど」って思えるように作っていきました。そうやって歌詞を書いた後にギターを持ってメロディーをつけるんですが、ストロークしながら「こういうリズムだったら気持ちいいな」っていうのが生まれてくる感じです。

――「DAITAI」はMVも公開されています。歌っているのは実際のライブシーンのようでしたが、ものすごいアップの映像でしたよね(笑)。

ゆいにしお:そうなんです(笑)。ライブの本番も撮影するっていうのは聞いていたんですが、まさか監督さんがステージに上がってきて、私の真横でカメラを回すなんて聞いてなくて(笑)。

――それだけ寄りたくなる表情だったということですよ。

ゆいにしお:これはお客さんが困っちゃうんじゃないかなと思い、弁解するためにMCで「ON CAMERA!」って紹介をしておきました(笑)。

――流石です!さて、レコーディングはいかがでしたか?

ゆいにしお:以前作ったシングル(「タッチミー」)は、自分で曲を作って音源も打ち込んで、自分でレコーディングしたんですね。完全にDIYで(笑)。でも今回はプロデューサーさんのフルアレンジで、自分はそこに歌をのせることのみ。歌に専念できる環境でした。

――実際、アレンジされたものを歌ってみてどうでした?

ゆいにしお:自分の気持ちだけじゃなく、楽曲を聴いて、アレンジャーさんの思いを感じ取った上で歌うというのは、誰かと会話しながら作っているような感じがしてすごく楽しかったです。どの曲も本当にいいアレンジをしていただいて、すごく感謝しています。

――自分で打ち込んでというお話もありましたが、それは以前から?

ゆいにしお:趣味程度ではあるんですが、自分で打ち込みで作ったものをSoundCloudにアップしていました。細々と(笑)。大学1年生の頃からですね。

――つい最近の話じゃないですか(笑)。では改めて、ゆいにしさんの音楽歴を伺ってみたいのですが。

ゆいにしお:ピアノは小さい頃から習っていて、ギターは高校の時に兄から教わっていましたが、ゆいにしおとして活動を始めたのは大学1年の時です。

――それは何かきっかけがあったんですか?

ゆいにしお:大学で軽音楽のサークルに入部したんですが、周りの先輩はオリジナルでバンドを組んでいる人が多かったんですね。“曲って、自分で作って活動できるんだ。かっこいいな”と思って、自分もやり始めたのがきっかけです。
――それまでは、歌う人になろうとは思っていなかった?

ゆいにしお:はい。もう本当に、趣味でやっていこうっていう感じでしたね。

――趣味ということは、何か他に進みたい道があったということですか?

ゆいにしお:美術館に行って絵を見たりするのが好きなので、資格を取って学芸員になろうと思っていました。その夢は変わってしまったけど、大学では今もその資格のための授業は受けています。

――音楽という道が出来たからですね。そう考えると、そのサークルで受けた影響は大きかったんですね。

ゆいにしお:はい。先輩達が作っていたのはロックとかオルタナティブだったけど、私はその頃アコースティックが好きだったので、もう少し大人しい音楽とかないのかなって思っていて(笑)。隙間産業じゃないですが、そういうものを探していく中でだんだんと自分の音楽になっていったんです。

――ちなみにどんな音楽を好んで聴いていたんですか?

ゆいにしお:はっぴいえんどをよく聴いていました。父が家でよくかけていたので、聴いて育ったって感じですね。はっぴいえんどに影響を受けたアーティスト──例えばくるりなどは聴いていたので、そのルーツになっているのはこの人達なんだって、すごく感動したのを覚えています。最初は「風をあつめて」という曲しか知らなかったんですが、ギター2本とオルガンっていうすごくシンプルな構成で、“こんなに情報量が少なくても伝わるものがあるんだな”って、音楽のすごさみたいなものもそこで感じました。

――なるほど。

ゆいにしお:あとは自分のルーツでいうと、山下達郎さんとか、いわゆる渋谷系のピチカート・ファイヴとか、そういうところにあるのかなって思いますね。くるりや、土岐麻子さんがボーカルだったCymbals、カジヒデキさんも聴いていました。好きになったら一直線みたいな聴き方なので、意識していたわけではないけど、自然とその辺りを聴いてきたんだと思います。

――確かに、今のゆいにしさんに通じる雰囲気ありますね。

ゆいにしお:本当は、バンドも組んでみたいなと思っていたんですよ。でもその時はバンド仲間というか友達がいなかったので(笑)、1人でやっていこうってことになるんですけど。

――間違ってなかったですね(笑)。

ゆいにしお:(笑)。結局はバンドも組むことにはなるんですが、1人でここまで来られたのは間違いじゃなかったんだなと思います。バンドは、ガールズバンド、アコースティックの3人組、もうちょっとシティポップ寄りのバンドなど、たくさんのオリジナルバンドをやっていました。

――今は、POSAKEというガールズバンドもありますよね?

ゆいにしお:POSAKEもサークルから生まれたバンドで、“もうちょっとバンドサウンドに近い音楽を書きたい!”と思った時に声をかけたんです。ボーカルも私じゃなくて他の子が歌っているんですが、その子をプロデュースするような気持ちで曲を書いているバンドです。自分とは違う歌い方で、また別の伝わり方になっていくのはすごく面白い。ゆくゆくは他の方にも書いてみたいなとは思っています。
■今はチームで音楽を作ることの楽しさをすごく感じている
■ゆくゆくはセルフプロデュースもしてみたいと考えています

――なるほど、そういう楽しさも見出しているわけですね。少し話を戻しますが、ゆいにしさんの初ステージはどんな感じだったんですか?

ゆいにしお:大学に入ってからでしたが、とにかく緊張して“今すぐ逃げたい!”という思いでいっぱいでした。でもステージに立ったら、お客さんが結構温かく見守ってくれて、初めてなのに手拍子もくれて。それが嬉しくて“また出てみよう”って思いました。その時は1人で弾き語りで「スピーチレス」を歌いました。

――今作の1曲めに収録されている曲ですね。

ゆいにしお:はい。ピアノの発表会などは小さい頃から出ていたからステージには慣れていたんですが、お客さんのほうを向いて歌うという経験はその時が初めてだったから、頭の中は真っ白でしたけど(笑)。

――ちなみにカラオケで歌うのは大丈夫だったんですか?

ゆいにしお:カラオケは大好きです!私、1人だとミュージカルを歌うんです。劇団四季の曲とか。誰も見ていないのをいいことに、自分を解放しています(笑)。

――今作の「帰路」はカラオケに入るそうですね。

ゆいにしお:歌いたい。友達と一緒に行くと絶対そういう流れになりますからね(笑)。せっかくなので、楽しんで歌ってみようと思います。

――人前で歌うと言ってもいろんなパターンがありますが、ゆいにしさんはこれまでオーディションなども経験していらっしゃいますよね。

ゆいにしお:力試しのような感覚で、それによってプロになれるとは全然考えていなかったんです。10代しか出られない「未確認フェスティバル」というのがあったんですが、“今の自分の実力はどんなものなのかな?”と思っていたし、当時19歳で10代最後だから出てみようと思って応募しました。特に評価みたいなものがあったわけではないんですが、見にきてくれた10代の子達がTwitterなどで“ゆいにしお、良かった”とか“ゆいにしおってこんな感じだったよ”ってツイートしてくれているのを見て、ようやく自分の評価が分かったような感じでしたね。

――その先へ進むエネルギーになりましたか。

ゆいにしお:はい。そこからオーディションをいろいろ受けて、もっと上がっていきたいという気持ちが強くなったと思います。
――そして去年、現在の所属先でもある日本コロムビア主催の「半熟オーディション2018」でグランプリを獲得されましたが、その時のお気持ちは?

ゆいにしお:最終審査はライブ形式だったんですけど、正直言うと手応えがなかったんです。だから「グランプリです」ってメールが来た時は、本当に驚きました。

――ちょっと話が脱線するようで申し訳ないのですが、そうやってオーディションなどを受けつつ、IDENTITYというwebサイトのライターとしても活動されていますよね。これはどういった経緯なんですか?

ゆいにしお:日本コロムビアさんに所属する前からなんですが、音楽1本で進むことはあまり考えていなかったので、就職のことも考えなきゃなと思っていた時期にライターのインターン募集っていうのを見て応募したんです。書くことはずっと好きだったので、ちょっとやってみようかなと。

――歌詞を書くのとはまた違った頭を使いそうですね。

ゆいにしお:グルメサイトのライターなんですが、今まで歌詞を書いてきているので、言葉選びなどには結構自信があるほうだったんです。でも、いざステーキの記事を書こうとすると「ジューシー」「肉汁」以外の単語が出てこない(笑)。食べ物を美味しそうに書くのは難しいんだなって思いました。今も続けているんですが、ボキャブラリーを増やす訓練にもなっていると思います。機会があれば、音楽系の記事も書いてみたいなと思っているんですけど。

――私の仕事が減りそうなので、それはあまり賛成したくないですね(笑)。

ゆいにしお:(笑)。でも自分の好きな音楽を語ったり、みんなはまだ知らないけど自分が知っているすごくいい音楽のことを発信してみたいなとは思っています。機会があれば、ですけど(笑)。
――本当に書くことが好きなんですね。

ゆいにしお:言葉はとても大事にしていますし、書くことはやっぱり楽しいですね。今大学のゼミでは小説も書いています。

――小説まで…!その才能の果てしなさが恐ろしくなってきたので話を音楽に戻したいと思うのですが(笑)、音楽の面で今後挑戦してみたいことはありますか?

ゆいにしお:今はチームで音楽を作ることの楽しさをすごく感じているので、それは続けていきたいと思っています。だけどゆくゆくは、セルフプロデュースという形で音源を出してみたいとも考えています。

――この先も楽しみです!でもまずは今回の『角部屋シティ』を聴いていただいて、7月に東京と地元・愛知で行われるレコ発企画「1LDK Music」に足を運んでいただきたいですね。

ゆいにしお:この2本は、初めてのバンドセットになります。バンドメンバーは、軽音楽サークルの仲間。今までオリジナルのバンドを組んだことがある方達と演奏することができるので、私もすごく楽しみなんです。アルバムの音源は結構打ち込み色が強いので、それをバンドでやるとなるとまたちょっと違うアレンジになると思うし、バンドならではの空気感を感じに来てもらえたらなと思っています。

――では最後に、今後の抱負などを聞かせていただけますか?

ゆいにしお:ゆいにしおとしてのライブや音源発表は続けながら、もっと他の人を巻き込んでいけたらなと思っています。楽曲提供もそうですが、とにかく自分の興味があることは片っ端からやっていきたいっていう気持ちが大きいんですよ。

――期待しています。

ゆいにしお:そしてぜひ、この『角部屋シティ』をたくさん聴いてください。今回のアルバムのジャケットは、開いて立てて置くと角部屋になるんですよ。今はサブスクで聴かれる方も多いと思いますが、そういう“物”としての面白さにも気付いてほしいなと思うので、ぜひCDを手に取っていただきたいなと思っています。

取材・文●山田邦子
リリース情報

1st Mini Album『角部屋シティ』
2019.05.15 RELEASE
GUPC-0001 | \1,836 (Tax in)
01. スピーチレス
02. DAITAI
03. パワーワーズ
04. マスカラ
05. 小夜なら花折り
06. 帰路

ライブ・イベント情報

<1st Mini Album『角部屋シティ』リリース記念イベント>
2019.06.08[土] 愛知 タワーレコード名古屋パルコ西館1Fイベントスペース
【CONTENTS】アコースティックライブ&サイン会■ 問い合わせ TOWER RECORDS名古屋パルコ店 052-264-8545
2019.06.15[土] 神奈川 川崎ラチッタデッラ噴水広場
【CONTENTS】アコースティックライブ&サイン会
■ 問い合わせ: タワーレコード川崎店 044-245-9522

<さとうもか×君島大空 W-Release Live>
2019.06.29[土]  愛知 喫茶モノコト~空き地~

<ゆいにしお1stミニアルバムレコ発企画“1LDK Music”>
2019.07.19[金] 東京 下北沢BREATH
【ACT】ゆいにしお / abenie /恋は魔物 /アライヨウコ
2019.07.27[土] 愛知 鶴舞KDハポン
【ACT】ゆいにしお / こいけみほ /PPKing

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