人気舞台『エダニク』に出演、阿佐ヶ
谷スパイダースの看板俳優・中山祐一
朗インタビュー

阿佐ヶ谷スパイダースの看板俳優として同劇団を牽引する中山祐一朗。商業演劇から小劇場系舞台、音楽劇やダンス公演とオファーが絶えない存在だ。『サラリーマンNEO』や『深夜食堂』など話題の映像作品でも存在感を示す個性派俳優が6月に出演するのは、iaku(イアク)の横田拓也作、鄭義信演出の『エダニク』だ。キャストは男性3人のみで、食肉工場を舞台とする会話劇。どんな思いでこの作品に挑むのか、中山に話を聞いた。

◆大阪弁に「苦戦」しながら……
――『エダニク』は2009年に上演されて以来、さまざまなカンパニーで再演されています。中山さんは戯曲を読んで、どんな印象を得ましたか?
何より、むずかしい仕事だなというのが最初のイメージですね。内容もそうですけど、僕がやる玄田という人物は大阪弁を使うでしょ。読んでいると稲葉(友)くんの演じる沢村も僕も舞台上でガツガツ食べるシーンがあるし、おそらく匂いも客席に届けるんだろうし、キャストの3人はほぼ出ずっぱりだし。そして、関西弁はこれまで避けてきた道なんですよ。前に一度『小鹿物語』という舞台で、明石家さんまさんや生瀬勝久さんとご一緒したとき、僕も関西弁をしゃべる予定だったんですけど、初日の本読みで「やっぱり祐一朗は関西弁じゃなくていいや」となったし。それ以来僕にとって関西人を演じるのはハードルが高いんですよ。
八嶋智人とか山内圭哉とか、関西出身の友だちは多いけど、調子に乗って自分も関西弁で話すっていうタイプでもないし。英語の勉強と同じで、恥をかいてでもどんどん話すことが上達の条件だと思うけど……。結局それは実践できませんでした。
――岐阜に生まれて、ドイツと東京を転々とした少年時代でしたよね。となると、母語は標準語ですか?
標準語と、親戚としゃべっていた関弁(編注:岐阜県南部で使われる中部方言の一種)ですかね。前に茨城弁を話す舞台もあったけど、少し東北弁に近いのかなと思っていたら、似ているようで本当に微妙に違うというのがすごくむずかしかったです。関西弁も土地土地によって少しずつ違うのが、面白さでありむずかしさでもありますよね。
――『エダニク』の舞台は屠場です。
だいぶ前に、『日本の路地を旅する』という上原善広さんの本を読んだことがあります。最初は被差別部落の話と知らずに読み始めたんですよ。「路地」というのは中上健次の言葉ですけど、上原さんご自身、被差別部落がルーツであることを公表しているんですよね。そして、全国のそういう土地を巡って今はもうあまり残っていない「路地」の痕跡みたいなものをつづっているんですが、のんびりとした旅の本かなと思って手にとったので、まったく違っていて衝撃を受けました。
阿佐ヶ谷スパイダースの『少女とガソリン』という作品は、明確に被差別部落を扱ってはいないけど、そういうふうに思われる地域を舞台にしたので、かなりスレスレの作品だったと思います。僕ら役者陣は、とにかく芝居を面白くすることしか考えてなかったし、今思うと危なっかしい表現をしていましたね。
――中山さんはドイツで過ごした時期があり、差別はありましたか?
ドイツで暮らしていたのは子どもの頃ですけど、普通に差別があたりまえにある環境でしたよ。ずっと「チャイナ、チャイナ」と目をつり上げるしぐさでからかわれ続けられてました。あたりまえすぎて何にも気にしてませんでしたけど(笑)。移民事情もコンプライアンス整備も日本より進んでいる国だと思うので、今どうなっているのかすごく知りたいです。
中山祐一朗
◆初日で笑いをつかめる可能性
――演出の鄭義信さんは、社会派劇にせず、笑える舞台にしたいとおっしゃっていました。
そうですね。戯曲を読むと、若い作家が書いた印象があるんです。若者たちのコメディーのように思えるんだけど、淡々としているところもある。これをもっとにぎやかな芝居にできないかと鄭さんは楽しんでます。鄭さんは「この作品が差別のことを物語っているから受けた」と言いつつ、目指す方向はコメディーなんです。この戯曲から立ち上がる雰囲気やにおい、笑いの可能性を大事にしながら稽古しています。
――4月に博品館劇場で『hymns』(ヒムス)に出演され、間も空けずに『エダニク』の稽古に入りましたね。台詞を入れる作業はどのように?
といっても、少し準備期間はありました。今回は台詞覚えに倍の時間がかかっています。覚えながら大阪弁を入れる作業も加わるから。僕の場合、会話の流れそのものを追うように覚えていく作業に入りつつ、暗記みたいにも覚えます。単語帳を使うわけじゃないけど、この言葉の次はこう言うというふうに、脈略は考えずに丸暗記しながら。今回はそこに大阪弁のイントネーションのことも気になるから、余計ややこしい(笑)。
舞台上でどんなハプニングが起きるかわからないのも楽しみですが、僕の集中力が異常に散漫なので、何かが起きるとそっちに向いちゃう。それでも台詞は出てくる状態にしないとまずいから、とにかく入れるようにします。
『hymns』の場合、モノローグのように話すシーンがありました。この場合、自分のペースで進めることができるけど、『エダニク』は会話劇だから掛け合いが大切です。今度はそこが楽しみです。
――聞いた話ですけど、鄭さんはアジア一のしつこい演出家だとか。
アジア一かは知らないけどね(笑)。でも、鄭さんはみっちりやってくれます。こういう感じの稽古場は久しぶりだなあ。稽古の始まりと終わりで長く通すけど、だいたい気になる箇所は止めてくれますね。阿佐ヶ谷スパイダースの場合、(長塚)圭史はわりと止めないんです。芝居がグダグダになっても続けるのって、全体の流れを把握したいからなのかもしれないけど。鄭さんは気になったらすぐ止めて、すぐに指示が入る。いい演出のアイデアが浮かんだら、あとで言うのではなくて、その場で話してくれるんです。いつになったら最後まで通せるか、それが不安ではありますけどね(笑)。
――稲葉友さん、大鶴佐助さんとは初共演ですね。
そうです。会話のうえでは、佐助がボケで稲葉くんと僕が突っ込むという構図ですね。佐助が演じる伊舞という男がボケの立ち位置で、稽古ではひたすら面白いから佐助に目が行くんだけど、本番では稲葉くんの突っ込みで、さらに劇場が沸くと思いますね。前に『キサラギ』をやったときも、そういう雰囲気の会話劇でした。初日で笑いをつかめる可能性があると思うな。
稽古場にて。左から、中山祐一朗、稲葉友、大鶴佐助
◆仲間と過ごした大学時代と主戦場の劇団
――中山さんは、大学から本格的に活動をスタートされていますね。
大学から芝居をやろうとは思っていたけど、すぐに始めなかったんです。1年のときは写真技術研究会に入っていました。明治大学だけど、生田キャンパスだったから、芝居のサークルは身近じゃなかったんだよね。
僕が入った騒動舎は、和泉キャンパスのサークルに入っている友だちから教わったのがきっかけだったんじゃないかな。文化祭では教室を借りて、トマトの水煮缶で作った照明器具で上演するような集団で、「セックス、セックス、騒動舎」ってよくわからないことを叫んでました(笑)。水たまりがあれば泳ぐし、プロレス同好会のリングに上がってボコボコにされたりして(笑)。何かと暴れていた人たちという印象があったので、面白そうだから入ったのが騒動舎です。劇研も面白かったけど、なんか真面目そうだったんだよなあ。
中山祐一朗
――河原雅彦さんやジョビジョバ、動物電気など、当時の明治大学からは今も第一線で活躍する人たちがいますね。
そうですね。当時から仲間がいたというのは大きいと思うな。今もみんなとたまに会いますよ。(政岡)泰志の動物電気も明日観に行くし。活劇工房はアトリエをもらってやっていて、たまにヘルメット被ってデモ活動とかしなくちゃいけない。一方で騒動舎は不法占拠だった(笑)。河原さんは明治の劇研から活劇工房に移ったんです。そこが河原さんのちゃんとしてるところだよね。僕は芝居も観ずに噂だけで不法占拠の騒動舎に入っちゃったし(笑)。でも、騒動舎も活劇工房も関係なく、同時期にやっていた人たちと今も仕事できることがうれしいですね。
――これまで演劇ユニットだった阿佐ヶ谷スパイダースは、昨年に劇団化第1弾の『MAKOTO』を上演しました。
劇団になってから、めんどくさいことしかないんですよ(笑)。出演するだけじゃなくて、みんなでいろんなことを分担しているんだけど、劇団員のみんなが面白がっていろんなことをやりたがるから、また仕事が増えたりして……。でも、何かしらあれば、圭史に振るようにしています。ちょっとした書き物はもちろん、アフタートークにプレトーク、最終的には売り切れた缶バッヂの追加製作も圭史の担当になってたし(笑)。で、圭史も「もう売り切れでいいじゃん」と言えず夜なべして(笑)。そういうところはめんどくさいながらも、面白いことになったなーと思ってます。
撮影・取材・文/田中大介

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